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ウィーワーク「シェアオフィス」黒字化へ遠い道

8月26日(月)5時10分配信 東洋経済オンライン

「ユニコーン」ともてはやされる一方、一等地のオフィスビルを転貸するビジネスモデルには「既存の不動産賃貸業と変わらない」という声も(撮影:今井康一)
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「ユニコーン」ともてはやされる一方、一等地のオフィスビルを転貸するビジネスモデルには「既存の不動産賃貸業と変わらない」という声も(撮影:今井康一)
 オフィス界の巨人が、ついにベールを脱いだ。

 アメリカのシェアオフィス大手「ウィーワーク」の親会社ウィーカンパニーは8月14日、新規株式公開(IPO)に向けた目論見書をアメリカ証券取引委員会に提出した。早ければ9月にも株式上場を果たすもようだ。

■重視する価値は会員同士の「コミュニティ」

 ウィーワークのビジネスモデルは、不特定多数の利用客にオフィス環境を貸し出す、いわゆる「シェアオフィス」が柱だ。ビルのワンフロアや1棟を丸ごと借り、それを利用者に転貸することで利用料を得る。目論見書によると、2010年にニューヨークで創業した同社は現在、世界29カ国に528拠点を構え、会員数は52万人以上にのぼる。日本では2018年に東京・六本木に第1号拠点を設けて以来、都内を中心に6都市で約30拠点を展開している。
 「われわれは違った目でスペース(空間)を見ている。人々が出会い、コミュニティを形成し、生産性を高めあう場所としてだ」(目論見書より)

 ウィーワークのシェアオフィスが他のオフィスと異なるのは、会社や業種の垣根を越えた会員同士の交流機会を重視している点だ。会員同士が緩くつながりつつ、新しい発想を生み出す「コミュニティ」こそ、シェアオフィスが持つ最大の価値だとする。そのために、オフィスフロアの仕切りをガラス張りにして会員間の風通しをよくしたり、交流を促進するイベントを定期的に開催したりしている。
 高尚な理念を掲げる一方で、直近の業績は芳しくない。2018年12月期は売上高約18億ドルに対して、最終損益は約16億ドルの赤字。直近の2019年上半期(1~6月)も、売上高約15億ドルに対して赤字幅は約7億ドルとなった。

 「われわれはまだ始まったばかりだ」

 ウィーカンパニーは、赤字の理由を成長のための新規出店にかかる費用が先行しているためだと強調する。オフィス開業には内装工事費や広告宣伝費がかさむうえ、開業時のシェアオフィスの稼働率は52%にとどまる(2018年実績)。一般的なオフィスビルなら損益分岐点を下回りかねない数字だ。
 それでも、6カ月が経過すると稼働率は84%にまで上昇し、損益分岐点を超え、開業から2年後には安定的に収益を生み出すようになるという。ただ、黒字化した拠点は今年6月時点で全体の3割にとどまり、残る7割は開業からまだ日が浅く、十分な収益がまだ生み出せていないようだ。

 2018年は、売上高から施設運営にかかる費用と販売管理費を差し引いただけで1.6億ドルの赤字。出店にかかる先行投資負担が軽くなっても、黒字転換への道のりは険しい。債務超過状態が続く中、現状はソフトバンクなど投資家からの出資で補填しているのが実態だ。
■レンタルオフィスとウィーワークは競合しない

 ウィーワークをはじめとするシェアオフィスには一般的に、決められたフロアのどこに座ってもいい「コワーキングスペース」と、一区画ごとを貸し出す「占有スペース」の2種類がある。このうち、収益が出ているのは後者だ。

 今年4月に貸会議室大手のTKPが日本法人を買収したレンタルオフィス「リージャス」はその典型だ。一部のコワーキングスペースを除けば、フロアの大部分は1~数人用の占有スペースで占められている。場所にもよるが、都心部のとある拠点の月額料金は坪単価で約7万円と、周辺相場の2倍かかる。それでも、入居工事や原状回復、保証金といった初期費用が抑えられることが評価され、ほぼ満室稼働だという。
 TKPの河野貴輝社長は、「リージャスとウィーワークは競合しない」と言い切る。リージャスの運営母体であるIWGの2018年12月期決算は、売上高約25億イギリスポンド(約3250億円)に対して営業利益は約1.5億ポンド(約195億円)だった。

 【2019年8月26日12時11分注記】初出時の記事でリージャスの運営母体を「IWP」としていましたが、表記のように修正いたします。

 他方、ブランド名であるウィーワークよろしく、他人と同じ空間で仕事をするコワーキングスペースには、原価管理が難しいという難点がある。「席が6割以上埋まってくると、混雑しているという印象を与え、会員の満足度が下がる。そのため会員数は席数の3倍程度が限界だ」(都内でシェアオフィスを展開するデベロッパー幹部)と言う。
 ちなみに、このデベロッパーはある拠点で席数の5倍の会員を集めたところ、「いつ来ても埋まっていて仕事ができない」などというクレームを受けた。目論見書の中で、ウィーカンパニー会員数の増加を成長の証左としているが、やみくもに会員数だけを追えば満足度の低下につながりかねない。

 同社は当初、単にシェアオフィス会員からの利用料を積み上げるだけでなく、オフィス内のコミュニティそのものをマネタイズできないかと考えていたようだ。「ウィーワークはシェアオフィスの会員向けに、自社の製品やサービスを売り込みたい企業から紹介料を徴収することを収益源に考えていた」(大手デベロッパー)。法人から徴収した広告料や紹介料で、シェアオフィスのサービスを賄うというプラットフォーマーを目指していた。
 だが、「コミュニティプラットフォーム」とも言うべきビジネスは軌道に乗らず、いつしか出店攻勢をかけて“規模の経済”を追求する道へ舵を切った。目論見書を読み進めていくと、ウィーワークがフリーランスやベンチャー企業よりも、効率的に会員を獲得できる大企業に視線を送っていることが見て取れる。

■企業向けオフィス設計サービスを新展開

 法人会員は主に500人以上のフルタイム社員を雇用する事業者を想定している。目論見書の中でウィーカンパニーは、「われわれのビジネスにとって、収益の安定する長期契約の法人会員は重要な存在だ」と認め、法人会員による料金未払いを経営上のリスクとして挙げるほどに存在感が高まっている。法人会員の割合は今や4割にも達し、拠点によっては会員の大部分が法人であったり、1つの法人だけで埋まっていたりするという。
 シェアオフィス事業に黒字化の見通しが立たない中、ウィーワークは新たな事業展開も模索している。2016年に開始した企業向けオフィス設計サービス「Powered by We」だ。500人以上のデザイナーや建築家を有する同社が、シェアオフィスで培ったノウハウを生かしてオフィスの内装やデザインを手がける。企業は工事やデザインにかかった費用のほか、その後の運営費を支払う。

 国内ではすでに、2020年度に本社を移転するソフトバンクの移転先をウィーワークが設計する。ソフトバンクは「ウィーワークがデザインする新たなオフィスで、部署をまたいだオープンイノベーションの創出を目指す」としている。
 Powered by Weについて、ウィーカンパニーは「デザイン料や工事費は企業側が負担するほか、その後の運営収入も得られるなど資本効率が高い。ビルを賃貸することなく企業にサービスを提供できる効率的な手法だ。より多くの企業がわれわれのオフィス設計を評価するようになれば、利益率も高まっていくだろう」と目論見書の中で評している。ただ、詳細は未公表だが、Powered by Weの売上高は今年1~6月の累計で約6000万ドルにとどまるようだ。
 希代のユニコーン企業か、それとも巨額赤字を垂れ流す不動産会社か。欧米のメディアからは早くも「単なるサブリース事業者ではないか」などと揶揄されている。

 自らを「コミュニティカンパニー」と称するウィーカンパニーの目論見書には、「Community」という単語が150回も登場する。だが、「コミュニティづくり」という雲をつかむような構想に無尽蔵の資金を投じるほど、投資家は甘くはないはずだ。
一井 純 :東洋経済 記者

最終更新:8月26日(月)12時12分

東洋経済オンライン

 

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