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「10代の望まない妊娠」をどうすれば防げるか

8月25日(日)5時20分配信 東洋経済オンライン

NGOトーゴ家族福祉協会(ATBEF)のアクティビスト/ピア・エデュケーターとして活動するシェリタさん(写真:IPPF提供)
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NGOトーゴ家族福祉協会(ATBEF)のアクティビスト/ピア・エデュケーターとして活動するシェリタさん(写真:IPPF提供)
 羽田から飛行機で30時間、うち12時間はパリの空港ホテルで待機。とにかく遠い西アフリカ・トーゴだが、目の前の女性はとても身近に思えることを話すのだった。

 この女性はシェリタさん(25歳)。国内の大学英文科を卒業した後、NGOトーゴ家族福祉協会(ATBEF)のアクティビスト/ピア・エデュケーターとしてボランティアで活動している。

■ピア・エデュケーターとは? 

 役割は同世代向けに“性と生殖に関する健康と権利”の教育をすること。英語ではSexual and Reproductive Health and Rights(SRHR)と呼ばれる。高校や大学を訪問してコンドームの使い方を教え、漫画を活用して啓蒙する。
 彼女が訪れたトーゴ中部にあるソトゥブアという街に2つある中高一貫校(10~19歳が在籍)では、2年間に128人の女生徒が妊娠していた。その街では8~12歳の小学生の妊娠も珍しくないそうだ。

 「学校できちんと性教育をしないから、妊娠して中退する女子学生が少なくない」とシェリタさんは言う。住民の多くはイスラム教徒だ。「保守的な土地柄だからセックスや避妊について話しづらい雰囲気がある。そういう地域ほど、10代の妊娠が多くなりがち」。
 サハラ砂漠より南のアフリカでは、10代の妊娠や早すぎる結婚が大きな社会問題だ。子どもが出来る仕組みを知らないまま、若年でセックスして妊娠してしまう。どうしたらいいかわからず、女の子が退学し出産する事例は数えきれない。

 「首都に住む女性は知識がありますが、多くの若年妊娠は農村部で起きています」。話を聞くうち、日本でも似たようなことがあるのを思い出した。

 かつて、学校での性教育に反対する政治家と話をしたことがある。中学校における性教育に抗議したこともある人物で、男女平等政策に関わる行政関係者はこの人に批判されるのではないか、及び腰だった。
 実際には日本国内にも10代の妊娠が少なくない地域が存在する。教育が必要なのに、古い考えのリーダーがそれを阻む。日本も課題が大きい分野だから、シェリタさんの話にうなずくところが多かった。

 SRHRは男女平等政策の中でもとくに重要なテーマの1つだ。望まないセックスや妊娠をしない権利が女性の基本的人権であることは、国際的によく知られている。日本でも最近、「性的同意」について関心が高まっている。いつ、誰とセックスするのか、本人の同意が大事という考え方だ。たとえ付き合っているカップルであっても「今日はしたくない」ということはありうる。また「ノー」を言っているのに無理強いするのは当然いけない。
 シェリタさんは、まさにこうした内容をトーゴの10代20代向けに伝えている。手にした漫画には、付き合い始めたばかりの10代男女が描かれていた。男の子はセックスしたいが、女の子はしたくないという設定で、女の子が妊娠してしまったとき、男の子は知らん顔で逃げてしまう。女の子が両親に相談できずに悩んでいると、叔母がいいアドバイスをしてくれる。

 身近で起こりそうなお話を通じて、若い世代に性的合意、避妊の重要性と共に、望まない妊娠をしてしまった場合に備えた安全な中絶方法の存在を伝えている。こういう漫画を手にする機会が日本の10代にもあったらいいと思う。
 トーゴにはシェリタさんのように性と生殖に関する健康と権利について伝える「ピア・エデュケーター」がほかにも大勢いる。2017年4月だけでも、首都にあるロメ大学の学生125人が、トーゴ家族福祉協会が提供する講座を受講してピア・エデュケーターになった。また、2016年のバレンタインデーには、性的同意などの重要性を伝えるイベントを国内の二都市で開催した。

■課題の多いトーゴの医療設備や治療方法

 このように啓蒙や意識の面では日本とトーゴで共通する部分も大きい。その一方で、婦人科系の病気やその治療法については、経済状況の違いを感じることがたくさんあった。トーゴの医療設備は日本と比べるとかなり厳しい状況にあるからだ。
 トーゴの医科大学病院で非感染症部門トップを務めるベロー教授は「わが国の保健大臣はがん対策の重要性を強調していますが、現状は予算・情報・人材すべてが不足しています」と話す。

 7月25日の午前中、ベロー教授が勤務する大学病院のラボ(検査室)を見学させてもらった。

 検査室には若いスタッフ3名が作業していたが「彼らは研修中。検査の基礎的な研修を受けている段階で、まだ複雑なことはできません」と話す。ラボにエアコンは入っておらず、壁の時計は1時頃を指して止まっていた。
 隣の部屋には大小さまざまなサイズのバケツが積んであった。各バケツには国内の病院や診療所で採取された検査用の人体組織が入っている。ここも冷蔵設備が不足しており、組織はホルマリン漬けにされて検査を待つため、組織の性質が変わってしまうこともあるという。

 検査結果が出るまで1カ月以上待つ間に病状が悪化してしまう人もいる。それでも国内唯一の公立の検査設備は貴重な存在だ。

 トーゴの人にとって、病院や診療所で検査を受け、その結果に沿って治療を受ける、という日本では当たり前の方法は今のところ現実的ではない。そのため、先進国なら検査で見つけられる初期のがんが見過ごされてしまい命を落とすこともある。
■日本信託基金(JTF)が15万ドルの助成金を拠出

 ガニさん(46歳)は助産師で4人の子どもの母だ。ゲランクッカという村の医療センターで働いている。中学校卒業後、職業訓練校に3年間通い、助産師になった。「若い女性を助けられるのは嬉しい」と話す。大学の薬学部で学ぶ17歳の長女と、よく家族計画などについて話すという。実はガニさんの母は子宮頸がんで今年1月に亡くなった。数年前に不正出血が続いたため病院へ行くと、がんが見つかり手術をした。しかし再発してしまい、帰らぬ人となった。
 ガニさんの母に子宮頸がん再発が判明して治療を受けている頃、これまでなかった検査と治療方法がトーゴで受けられるようになった。医師が目視で前がん病変を見つける「ビジュアル・インスペクション」。子宮頸がんの検査結果がその場で判明し、予防目的の凍結治療も受けられる。これなら検査結果を何カ月も待たなくていい。

 ガニさん自身は検査を受けた結果、前がん病変が見つかり、凍結治療を受けることができた。今も元気で働いている。「もっと前に、この検査と治療方法があったら母は今でも生きていたと思います」と話した時、それまで落ち着いた話ぶりだったガニさんはしばらく涙が止まらなくなった。
 トーゴ家族福祉協会が、この子宮頸がん予防プロジェクトを始めたのは2年前のこと。ロンドンに本部を置く国際家族連盟(IPPF)が革新的なプロジェクトに拠出する、日本信託基金(JTF)から15万ドルの助成を取り付けた。2年間に国内1万2000人以上の女性が検査を、361人が治療を受けた。

 子宮頸がんは予防が可能であり、初期に発見・治療できれば生存率も高い。医療設備があまりない途上国のトーゴで始まったその場で結論が出る検査と治療は、国内の女性たちのニーズを捉えている
日本は、妊産婦や乳幼児死亡率の低さでは世界トップだ。強みを持つ母子保健の分野で政府とNGOが連携し現地の役に立つことができる。また、前半に記したように性教育については、日本に必要なことをアフリカから学ぶことも少なくない。シェリタさんは8月末に横浜で開催される第7回アフリカ開発会議(TICAD7)に合わせて来日し、日本の若い女性たちと意見交換する予定だ。
治部 れんげ :ジャーナリスト

最終更新:8月25日(日)5時20分

東洋経済オンライン

 

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