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私が「イクメン」という言葉にモヤモヤする理由

8月24日(土)6時10分配信 東洋経済オンライン

大事なことはイクメンアピールじゃない(写真:kohei_hara/iStock)
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大事なことはイクメンアピールじゃない(写真:kohei_hara/iStock)
 「イクメン」という言葉を聞いてモヤモヤするのはなぜだろう? 

 私は子どもを授かる前から、そして育児に没頭する今も、この言葉に疑問を持っている。

 「イクメン」だと呼ばれると少しだけうれしい。ただ、「イクメン」という言葉があること自体、男性が育児に参加することがそもそも「普通ではない」「普通ではなかった」ことを物語っている。「イクメン」になったからと言って、仕事の量を減らしてもらえるとは限らない。出産・育児を経てから、以前ほどバリバリと働くことができなくなった女性と同じような悩みを抱える。
 共働きで子どもを産んで育てながら働いている女性からすれば、当たり前の話かもしれないが、私の目線から見えたことを論じていきたい。

拙著『僕たちは育児のモヤモヤをもっと語っていいと思う』にも詳しく書いたが、私は5年間の妊活を経て2年前に43歳で父となった。今では1日6時間、育児・家事に没頭している。妻からは感謝されるし、私の作った料理で娘が喜んでくれるとうれしい。ただ、「普通の“男子”に戻りたい」と思う瞬間は正直ある。もっと自由に思う存分働きたい、と。
■育休の誤解 会社は休めても育児は休めない

 男性の育児休暇取得の義務化が検討されている。まだ法案化されたわけでも、それが成立したわけでもない。「義務」がどれほどの拘束力を持つのかもわからない。

 育児休暇を取りやすくする社会と会社にするための変化がもたらされるなら賛成だが、これまで男性が育児休暇を取得しない根本的な原因に踏み込まないままでの義務化、あるいはうまくいかなかったから義務化するという安易な論理だとしたら反対だ。
 現在の育児休暇取得状況を確認してみよう。厚生労働省の「平成30年度雇用均等基本調査(速報版)」によると、男性の育児休業の取得率は6.16%で、前年度より1.02ポイント上昇した。上昇は6年連続だ。とはいえ、まだ10%にも達していない。それに対して女性の育児休業取得率は1.0ポイント低下の82.2%だった。ここ数年、80%台前半で推移している。

 「イクメン」が新語・流行語大賞を受賞したのは2010年だ。「育児に積極的に参加する父親」のことと定義されている。ただ、育休がすべてではないが、現実はこうだ。
 三菱UFJリサーチ&コンサルティングによる「平成29年度仕事と育児の両立に関する実態把握のための調査研究事業」によると、男性が育児休業を取得しなかった理由として「職場が育児休業を取得しづらい雰囲気だった」(37.0%)や「業務が繁忙で職場の人手が不足していた」(19.0%)などが上位を占めた。

 これらは日本の「人に仕事をつける」、つまりマルチタスクで、仕事の範囲が明確ではない雇用システムに起因するものでもあり、解決は簡単ではないことを確認しておきたい。
 「働き方改革」は「早く帰れ運動」に矮小化されてしまった。しかし、根本的な雇用システムの問題から、「早く帰れ」だけでは労働者が疲弊してしまうのと同じ状態がここには見て取れる。「働き方改革推進企業」「育児応援企業」なるブランドを手に入れるために、1週間程度の休みを「取得させる」企業が増えることを是とするのか、疑問も残る。

■仕事は休めても育児は休めない

 ここで確認しておきたいのは、「育児休暇」というが、これは「休む」ことができる期間なのかということである。「育休」という言葉に「休」という文字が入っているからか、当事者以外は「休んでいるのだから、家事も子育てもできるでしょう」と考えがちだ。決してそうではない。仕事はサボっても死なないが(たまに致命的なミスというものはあるが)、育児はサボると子どもの命に関わるのである。
 育休を取得しているママに休んでいる時間はまったくない。赤ちゃんが家にいて、ママがお世話をしている状況では、ママはつねに気が張っていて心身共に余裕がない状態に置かれている。日中、仕事に出かけているパパは、その姿を見ずに済んでいるだけなのだ。

 夫婦で対応したところで、さまざまな事件が起こる。私は仕事柄、柔軟な働き方が比較的可能なことに加えて、子どもが生まれたときは、長めの夏休みだったので、可能な限り家にいることにした。
 妻は育休を取っていたのだが、書斎にこもって仕事をしている私に、妻からは何度もヘルプの声がかかった。「ミルクのふたを開けてほしい」「空になったティッシュを入れ替えてほしい」「オムツを持ってきてほしい」「買い物に行ってほしい」などなど。人間リモコン状態だった。

 私が書斎にいなければ、妻はなんとか1人で乗り切ったことかもしれない。でもそれは、小さないのちを守るために、乗り切らなければならないから妻が1人で頑張るだけであって、難なく乗り切れているわけではない。自宅で仕事しているとはいえ、手の届くところに夫がいたら、妻がその夫に頼みたいことは山のようにある。それが、赤ちゃんのいる生活だ。
 私は人間リモコンであることを受け入れた。台所から水やお湯を運んだり、オムツを運んだり、食器を片づけたりと、家事とも雑用ともつかないことを、毎日繰り返してやり続けた。子どもが生まれる前から担当していた料理や、ごみ捨て、買い出しはもちろん、これまでどおり取り組んだ。大事なことは、リモコンが押されたときに、電波の届く場所にいること。そしてバグらないことだ。

 産後のママはいろいろコントロールの難しい体で、待ったなしの家事と子育てをしている。
 私が困ったことは、仕事ができなくなったこと。とくに、自宅の書斎で集中力を要する仕事はやりにくくなった。これは、物書きにはかなりつらいことだ。まさに、育児のための休業、自主的な育休状態に陥った。「仕事ができないのは、能力がないからだろう」と言われたらそれまで。しかし、24時間赤ちゃんがそばにいる状況で、仕事も子育ても家事もやり切るのは至難の業だ。

 仕事をする時間がとれない。それが妻が育休を取っていたときの私の悩みだった。
■行政を使い倒す

 「保育園落ちた、日本死ね」が「ユーキャン新語・流行語大賞」でトップ10入りしてから3年。都市部を中心にまだまだ待機児童問題は解決したとは言い難い。とはいえ、行政による育児支援は充実しつつある。これらを使い倒さない手はない。

 私は独身時代から14年にわたり、東京都墨田区に住んでいる。墨田区は東京スカイツリーや江戸東京博物館、両国国技館、向島、隅田川沿いの隅田公園など、観光名所がたくさんある下町情緒あふれる地域だ。独身の頃や夫婦2人の世帯だった頃、私と行政の付き合いは、住民票を取りに行く程度のものだった。
 一方、娘が生まれてからは、さまざまな制度や施設、サービス、地域の催し物などにも目がいくようになった。

 子どもが生まれてから、墨田区に対する見え方が変わったのだ。実は子育て環境は充実しているということに気づいた。その手厚い育児支援に驚かされたのだ。

 最近、助かったのは、家族全員で目の感染症にかかったときである。まずは娘がかかり、次に妻、僕にもうつった。伝染するので、娘が1週間の登園禁止。その後、妻も出勤停止になった。妻は、自分も病院に行かなければならないし、在宅で仕事もしなければならない。そこで、墨田区の制度を使って、ベビーシッターさんを頼んだ。
 国の施策であるファミリーサポートとは別に、墨田区では訪問型保育支援事業“すみだ子育て支援ネット「はぐ(Hug)」”という取り組みがある。条件によるが、1時間500円からという利用しやすい価格帯。自宅に来て子どもをみてくれるので助かった。

 保育園に入るときにも、墨田区のスタッフにはお世話になった。墨田区には保育コンシェルジュという人がいて、入園前にさまざまな相談にのってくれる。

 各自治体には、保育園に入るうえでの選考ロジックがある。わが家の場合は、2人ともフルタイム勤務で、区内に15年近く住んでいたため、保育コンシェルジュからかなり有利なのではないかとアドバイスをいただいた。まず、この相談ができるだけ有益だった。
 「保育園落ちた、日本死ね」という言葉に恐怖を感じ、保育園に入れるかどうかだけが気になっていたが、実際は入ることができそうで安心した。どんな保育園に入れるべきか。それが問題だ。

 ただ、娘が通うのから、どこでもいいというわけにはいかない。それぞれの園の雰囲気や育児の方針、家からの近さなどを考慮しつつ、12園ほど下見をした。

 家から遠くない地区センターの隣に保育園が新しくできるというので説明会に行った。ここは、話を聞いているうちに保育方針などが「うちには合わないな」と感じ、申し込みもしなかった。
 雑然としていて衛生面で不安を感じる園、運営事業者が変わって「合理的に回すこと」を優先していると感じる園もあった。アクセスのよさと保育方針、さらには保育士さんが元気に働いているか、という点に気をつけつつ選んだ。第2志望の保育園に入り、娘は楽しく通っている。

 2018年度から、東京都では待機児童対策として、ベビーシッター利用料の補助を始めた。1年間の育休後、保育園に入園できないまま復職しなければならなくなった場合、月額28万円を上限にベビーシッター利用料を補助するというものだ。東京都内でベビーシッターを1日8時間で20日間利用する場合、月平均で約32万円かかると言われている。この補助を利用すれば、自己負担額は最大4万円程度。保育園の利用料に近くなる。
 2019年10月からは、幼児教育・保育の無償化が全面実施される。「保育園の定員を増やさなければ、待機児童解消にはならない」「すでに生まれた子どもへの補助は、少子化対策にはならない」など問題点も指摘されている。

 それでも行政はなんとかして子育てをアシストしようとしている。使えるものは使い倒したほうがいい。

■見えなかった社会が見えてきた 

 行政の育児支援をはじめ、娘が生まれたことで見えてきた社会がある。今までもそこに普通にあったのに、まったく見えていなかったものがある。幼児が遊べる小さな公園、近所の小児科医院、土日に開いている病院、車の往来が多く道幅の狭い道路、テーブルの角、エレベーターの設置場所などがいちいち気になるようになった。
 娘が生まれるまで、小児科がどこにあるか知らなかった。妊活を始めるまで、婦人科の病院があることにも気づいていなかった。毎日通っているはずの道なのに、視界にも入っていなかった。

 娘と一緒に街に出ると、駅舎が障害者や子どもに配慮したつくりになっていることに気づいたり、逆に未整備のところが見えたりする。以前は「公園」として、ひとくくりに見ていたものが、子連れで遊ぶのに適した公園と適さない公園に分けて見られるようにもなる。
 ショッピングモールは多数あるが、子どもと一緒に行くのに適したモールはどこかがわかるようになった。国産のワンボックスカーや3列シート7人乗りの車が、いかに子育て世帯に合理的なのかもわかった。

 明るい発見だけでなく、暗い発見もある。

 例えば、児童の虐待だ。児童虐待のニュースがあるたびに胸が痛む。「ひどい!」「許さない!」と思うだけでは問題は解決されない。私が始めた小さくても確実なアクションは、都議などに相談することだ。都議会の厚生委員会のメンバーを調べ、その中から地元選出の議員のウェブサイトを見つけてメールアドレスを調べ、政治家として動いてほしいと、直接お願いのメールを出した。
 児童虐待は「誰かが起こした事件」や「論ずべき対象」ではなく、「自分に関係あること」として捉えた。

■大事なのはイクメンアピールより子どもの命を守ること

 虐待した親は、子どもが生まれた瞬間から虐待親だったとは限らない。なにが彼や彼女を児童虐待へ向かわせたのか。親がなにかに追い詰められた結果、暴力の矛先が弱い子どもに向かったと考えるのが自然ではないだろうか。「なにか」は、もしかしたら「社会」と言い換えられるかもしれない。
 そして、悪状況が重なったとき、私自身が加害者になる可能性は、「絶対にない」と言い切れるのだろうか、とも考えた。

 2017年3月、離乳食にハチミツを使用していた6カ月の赤ちゃんが、死亡する事故があった。1歳未満の赤ちゃんは、ハチミツを食べることで乳児ボツリヌス症にかかる可能性がある。ハチミツを食べさせるなら1歳を過ぎてからにするということは、母子手帳にも記載されている。ところが、私は父親になるまで知らなかった。
 初めての子育ては、知らないことばかりだ。少しずつ学んでいくしかない。しかも、子どもが生まれた瞬間から子育てレースは待ったなしで進んでいく。親になったからには、子どもを保護し育てながら、仕事も家事も回していかなければならない。

 乳幼児は、ちょっとしたことで、すぐに傷ついてしまう。場合によっては、いのちを落としてしまうこともある。

 新聞記事の裏側がより実体を持って見えるようになってきた今、言いたいことは、「大事なことはイクメンアピールじゃない。いのちを守ることなんだ!」ということだ。
常見 陽平 :千葉商科大学 専任講師、働き方評論家

最終更新:8月24日(土)6時10分

東洋経済オンライン

 

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