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「高齢ドライバー」が危険だとわかる統計的根拠

8月24日(土)14時45分配信 東洋経済オンライン

高齢ドライバーの事故の割合を、統計学の視点から読み解きます(写真:fabphoto/iStock)
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高齢ドライバーの事故の割合を、統計学の視点から読み解きます(写真:fabphoto/iStock)
客観的な統計データをもとに社会問題を比較分析する「データで読み解く」シリーズ、第5回は「高齢ドライバーは本当に危険な存在なのか?」というテーマで語っていきます。
 2019年4月19日、東京・池袋で起きた交通死傷事故では、80歳代のドライバーがブレーキを踏んだ痕跡がなかったという報道もあり、テレビのワイドショーなどでも大きく取り上げられました。その直後の神戸バス事故(4月21日)をはじめ、このところ高齢者の交通事故のニュースがよく話題になります。そして、死傷者が多数出る悲惨な事故も多いことから「高齢者から運転免許を剥奪せよ」といった声も上がっています。
■高齢者の交通事故は増えているのか? 

 一方、「高齢者自体が増えているんだから、高齢者の交通事故が増えるのも当たり前だ」という声も聞かれます。それではいったい、高齢者がどのくらい増えて、事故はどのくらい増えているのでしょうか?  基本となるデータを調べてみました。

今回、参考にしたのは交通事故分析センターの交通統計です。ここでは1993(平成5)年から2016(平成28)年までの交通事故のデータが無料で公開されています。
 一口に「高齢者の交通事故」といいますが、よく報道されているような高齢者が運転手として引き起こした事故も、歩道を歩いていた高齢者が巻き込まれる事故も同じ「交通事故」になります。しかし後者が混じっていては高齢者が引き起こす交通事故の変化を知ることはできません。

 そこで、ここでは「第一当事者」となった交通事故数を年代別に調べてみました。交通事故の当事者には、

1)過失の軽重
2)人身損傷の程度
 の2つの基準によって当事者の順位が決められます。例えば信号無視の運転者Aと青信号の運転者Bによる交通事故があった場合、過失が重いAの方が第一当事者となります。たとえAのほうがBよりも重傷であってもAが第一当事者であることには変わりません。
 一方、センターラインのない見通しのよい道での正面衝突のように、2人の運転者の過失割合が等しい場合は、ケガの軽い方が第一当事者、重い方が第二当事者とされます。片方が死亡した事故の場合、死亡しなかったほうが第一当事者になります。

 この第一当事者の推移を見ることで、歩行中の高齢者の事故などの影響を取り除くことができます。ただし、運転を誤って電柱に衝突して運転者自らが死亡した場合も、歩行者をはねて死亡させた場合も、同じように「第一当事者としての死亡事故」としてカウントされるので、「死亡事故イコール他人を死なせた事故」とはならないことに注意しましょう。
 交通統計には上記のような対物事故、対人事故を区別した統計も掲載されていますが、これらはその総数のみで年齢別のデータはないため、ここでは取り上げません。またここでは、自動車、自動二輪、原動機付自転車(原付バイク)を運転中の事故のみを比較しており、自転車の運転中や歩行中に第一当事者となった事故は含んでいないことにも留意してください。

■高齢者の交通事故は「右肩上がり」

 [図表1 交通事故数]

 まずは基本となる交通事故数を見てみましょう。若年層(16~24歳)、壮年層(25~64歳)、高齢層(65歳以上)でまったく異なる推移となっているのが特徴的です。壮年層は2000年代をピークとする山型、若年層は右肩下がり、高齢者は右肩上がりとなっていて、高齢者の交通事故が増えているのが明確にわかります。
 [図表2 死亡事故数]

 続いて第一当事者となった死亡事故数を見てみると、若年層、壮年層とも右肩下がりなのに対し、高齢層は横ばいとなっており、相対的に高齢層の死亡事故が増えている印象を与えます。

 [図表3 交通事故に占める死亡事故の割合]

 さらに、交通事故に占める死亡交通事故の割合を見てみましょう。交通事故のうち何%が死亡事故になったかの割合です。どの年齢層も2010年ごろまで比率が下がり、それ以降はゆるやかに上がっていることがわかります。
 これを年齢層で比較すると、高齢者のほうがそれ以下の年代よりも、交通事故に占める死亡事故の割合が高くなっています。つまり高齢者が事故を起こすと、重大な事故につながりやすいといえます。

■事故を起こしやすい若年層

 ここまでは事故そのものに目を向けてきましたが、ここで視点を変えて、運転免許保持者1万人当たりの事故件数を見てみましょう。

 [図表4 免許1万人当たりの事故件数]

 各年代とも2000年代をピークに事故数が減っていますが、こちらも年齢層による違いがはっきりと表れています。グラフを見ると若年層にくらべて壮年層、高齢層の事故率が低くなっており、若者は事故を起こしやすいが壮年層や高齢層は事故を起こしにくいといえます。
 今度は、運転免許保持者1万人当たりの死亡事故件数を見てみましょう。

 [図表5 免許1万人あたりの死亡事故数]

 こちらは平成に入って一貫して下がり続けており、死亡事故を起こすドライバーは減っていることがわかります。

 年齢層別に見ると若年層、高齢層、壮年層の順に低くなっており、若者は交通事故のみならず、死亡事故も起こしやすいといえます。つまり、最も死亡事故を起こしやすいのは若年層ということになります。
■高齢層の事故が増えている理由

 ここまでをまとめると、

・高齢者の事故件数は増えている
・死亡事故を起こす割合は若者が高い
 ということがわかりました。

 では、はたして高齢者の人口を加味しても高齢者の事故は増えているといえるのでしょうか。そこで交通事故件数、死亡事故件数、人口に占める高齢層の割合を比較してみたのが次のグラフです。

 [図表6 高齢層率]

 これを見ると、交通事故件数、死亡事故件数、人口に占める高齢層率は右肩上がりになっていますが、その傾きはどれも同じであり、高齢者が増えるに従って高齢者による交通事故や死亡事故が増えています。つまり、「高齢者の交通事故や死亡事故が増えたのは、高齢ドライバーが増えているから」と言えそうです。
 実際に高齢者のドライバーは増えているのでしょうか?  最後に各年代別の免許保有率を見てみましょう。

 [図表7 年代別の免許保有率]

 壮年層と高齢層の保有率が上がり、若年層の保有率が下がっています。最新のデータでは若者と高齢者の保有率がほぼ同じになっており、今後は高齢層の保有率が上回ることが予想されます。若者の車離れが進む一方、高齢者は逆に車に乗る人が増えているといえます。

■高齢者の交通事故の実態
 以上のことから、高齢者の交通事故の現状についてまとめてみました。

 1)高齢者の事故が増えているのは、高齢ドライバーが増えているため。
 2)免許保有者あたりの事故数は、各年代とも下がり続けている。
 3)交通事故や死亡事故を起こす確率は、高齢層よりも若年層が高い。
 4)高齢層は、交通事故を起こしたときに重大な事故になりやすい。
 ここから見えてくる高齢ドライバーの特徴として、1つには「高齢ドライバーは安全運転を心がけている」ということが言えるでしょう。免許1万人あたり事故数が若年層よりも低いことからも、高齢ドライバーが事故を起こさないよう安全運転に努めていることは明らかです。
 もう1つは、「高齢ドライバーはいざというときの判断力、運転技術が衰えている」ということでしょう。事故に占める死亡事故の割合が年代別で高いのは、危険な状況になったときに被害を最小限に抑える能力が劣っていることを示しています。

 高齢者の事故で報道されることが多いアクセルとブレーキの踏み間違いも、まさにこのケースでしょう。パニックに陥ったときに適切に運転することができず、被害を広げていることがうかがえます。
 これからも増えていく高齢ドライバー対策として、免許返納を促すことももちろんですが、上記のような緊急事態に陥ったときに、自動車がドライバーに頼らず適切に停止できる技術の開発も急務といえるでしょう。

 (編集協力:株式会社バーネット)
久保 哲朗 :統計ジャーナリスト

最終更新:8月24日(土)14時45分

東洋経済オンライン

 

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