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「スパイダーマン」巡るSONYとディズニーの確執

8月23日(金)15時45分配信 東洋経済オンライン

スパイダーマンを巡るソニーとディズニーの対立とは?(写真:Jason Kempin/Getty Images)
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スパイダーマンを巡るソニーとディズニーの対立とは?(写真:Jason Kempin/Getty Images)
 モテすぎるのも、時には困りもの。『スパイダーマン』の主人公ピーター・パーカーは、今、そんな贅沢な悩みに真剣に頭を抱えているだろう。トム・ホランドの代になって以来、映画『スパイダーマン』はソニー・ピクチャーズとマーベル・スタジオズが協力して製作してきたのだが、両社の話し合いが決裂し、今後、マーベルは手を引くことになりそうだ。

 となると、これから作られるマーベル映画にスパイダーマンはもう登場せず、また『スパイダーマン』の映画では、アイアンマンやニック・フューリーなどマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)について、一切触れなくなる可能性が高い。
 もともと人気の高いキャラクターであるうえ、ホランドのスパイダーマンは、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』で初登場した時からMCUの話に深く絡んできたため、このニュースに、ファンたちは動揺を隠せないでいる。

 だが、スパイダーマンを愛してやまないのは、ソニーもマーベルも同じことだ。だからこそ、こんな奪い合いドラマが起きてしまったのである。

■スパイダーマン巡る大手2社の対立

 これまでホランドの代に始まった契約で、『スパイダーマン』映画の製作資本はソニーが完全出資し、マーベルを傘下に抱えるディズニーは、興行成績の5%を受け取っていた。ディズニー帝国にとっては、はした金だが、彼らにも、今後スパイダーマンを自分たちのユニバースに入れていけるというメリットがあった。また、関連商品の権利はマーベルが所有しており、映画がヒットすれば、おもちゃが売れる。何より、マーベルのトップ、ケヴィン・ファイギは、スパイダーマンが大好きなのだ。
 しかし、想像以上にヒットしたことで(この夏の『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』は、ソニーにとって史上最高の全世界興収を上げている)、マーベルはそれでは物足りなくなった。作品が評価されたのはファイギのおかげというのが明らかなだけに、余計にそう感じるのだ。

 それでディズニーは、今後の『スパイダーマン』に自分たちも50%出資し、収益を折半したいと言い出し、ソニーは断った。その結果が、これなのである。
 ソニーにしてみたら、長い間、手塩をかけて育ててきた大事な子供。今さら半分返せと言われても、そうしましょうとは言えないのである。

 マーベルが独自のスタジオを立ち上げ、自分たちのコミックを自らの手で映画化するようになったのは、2008年のこと。それまでマーベル作品は、ライセンス契約のもと、違ったスタジオで映画化されていた。ソニーも、その形で『スパイダーマン』の映画化権を獲得し、2002年にサム・ライミ監督、トビー・マグワイア主演で製作された最初の作品を公開している。
 製作開始前に大規模な発表記者会見を行うなど、ソニーは早くからこの映画に意気込みを見せていたが、結果は期待以上の大成功。北米興収4億ドルというのは、現在に至るまで歴代『スパイダーマン』映画のトップで、やはりマーベルのライセンス映画である20世紀フォックスの『X-MEN』『ファンタスティック・フォー』の倍以上である。

■ソニーにとっては「打ち出の小槌」

 そんな美味しい思いをしただけに、この3部作が2007年の『スパイダーマン3』で華やかに完結すると、ソニーはすぐにもまたこの打ち出の小槌を振ろうした。それが、2012年の『アメイジング・スパイダーマン』だ。
 だが、アンドリュー・ガーフィールドが主演するこのシリーズは、ストーリーが基本的に同じだったこともあってか、サム・ライミ版ほどの興奮は引き起こさず、2014年の2作目で打ち止めとなる。ただし、終わりにしたのはあくまでそのシリーズで、ソニーは、スパイダーマンの悪役を集めた「シニスター・シックス」の映画を考えるなど、別の形でこのお宝を使えないかと模索を続けた。

 そんな中、出てきたアイデアが、当時から飛ぶ鳥を落とす勢いだったマーベルとのコラボレーションだ。苦肉の策、妥協案ではあるが、それはまた、最高の名案だった。
 これによって、MCUにスパイダーマンが出てこないことにフラストレーションを感じていたファンを満足させることができ、さらに巧みにデザインされたMCUのストーリーの一部になることで、新たなファンを呼び込むこともできたのである。

 最新作『ファー・フロム・ホーム』がシリーズ最高の世界興収を上げるにおいて、史上最高の世界興収を誇る『アベンジャーズ/エンドゲーム』が大きく貢献したことを、否定する人はいないだろう。それでも、MCUのキャラクターの中で、スパイダーマンだけが自分が主人公の映画をほかのスタジオで作っているというのは、やはり、奇妙な状況で、無理が出てくる可能性は潜んでいたのである。
 さて、再び一人占めできるようになった今、ソニーは『スパイダーマン』をどう育てていくのだろうか。もちろん苦労はあるだろうが、一方で希望もある。

 その根拠は、『スパイダーマン:スパイダーバース』と『ヴェノム』の成功だ。マーベルの関わり一切なしで製作した『スパイダーマン:スパイダーバース』は、主人公を黒人にするなど斬新なアプローチも評価され、ディズニー、ピクサーを制し、長編アニメ部門でアカデミー賞を獲得した。
 勢いを受け、今作のクリエーター、フィル・ロードとクリス・ミラーのコンビは、今、『スパイダーマン』のキャラクターを使った新たなテレビ番組を手がけているところである。

 また、批評家受けはしなかったものの、『ヴェノム』は、全世界で8億ドル以上を売り上げ、来年にはもう続編の公開が決まっている。『ヴェノム』も、『スパイダーマン』に属するキャラクターのひとりを主人公にしたもの。こうしたキャラクターは900人ほどもいるらしく、ソニーは、これから独自のスパイダーマン・シネマティック・ユニバースを作っていくことが可能なのだ。
 しかも、それを自分たちのペースでやることができるのである。MCUだと重要なキャラクターが多すぎて、『スパイダーマン』ですらそのうちのひとつになってしまう。ディズニーの20世紀フォックス買収で、『X-MEN』『ファンタスティック・フォー』も手に入った後だけに、なおさらだ。自分たちでやるなら、順番待ちはない。

■スパイダーマンの未来はいかに

 とはいえ、マーベルのファイギは、現代のハリウッドで右に出る者がいないすご腕プロデューサーだ。彼のまねをするのは、決して容易ではないだろう。逆に、ファイギがこれからどのようにあのユニバースを進めていくのかも、気になるところである。
 MCUにおけるスパイダーマンの存在は、どうなるのか。この先、どこかで、彼がどうなったのかを言及するシーンを作るのか、あるいは、このまま何も言わずに、彼なしの世界を展開していくのか。

 どちらの前にも、乗り越えるべき試練は待ち受けている。しかし、この件はいわば生みの親と育ての親の親権争いで、結果が出た以上、受け入れて進んでいくしかない。大事なのは、子供の健康と、未来だ。その子供、つまりスパイダーマンにとって最高の環境が作られるのであれば、これからも観客はきっと応援してくれるはずである。
猿渡 由紀 :L.A.在住映画ジャーナリスト

最終更新:8月25日(日)12時15分

東洋経済オンライン

 

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