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「不当な扱いを受けたら即転職」の時代は来るか

8月23日(金)9時00分配信 東洋経済オンライン

「ジョブ型正社員」が増えた場合、個人の働き方はどのように変わるのか。鶴光太郎教授(左)とともに探っていきます((撮影:尾形文繁)  
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「ジョブ型正社員」が増えた場合、個人の働き方はどのように変わるのか。鶴光太郎教授(左)とともに探っていきます((撮影:尾形文繁)  
東洋経済オンラインでの連載「育休世代VS.専業主婦前提社会」に大幅加筆した書籍、『なぜ共働きも専業もしんどいのか~主婦がいないと回らない構造』。これに合わせて、有識者らにインタビューをして本著の議論をもう一段進める。お話を聞くのは前回に続き、慶應義塾大学大学院商学研究科の鶴光太郎教授。

前回記事:「全員出世を目指す」日本の働き方は無理すぎる

■「ジョブ型正社員」が増えた場合の働き方の変化は? 

中野:今年5月に規制改革推進会議で、「ジョブ型正社員」の法整備が提言されています。前回記事で、企業内の昇進ルートなどがどのように変わっていくかイメージが湧いてきましたが、「ジョブ型正社員」が増えていった場合、個人の働き方としてはどのように変わっていくでしょうか。
 鶴:ジョブ型というのはその領域のプロを自任するわけで、自分の市場価値を明確化することもしやすいです。どのような貢献をすることによりどれくらいの処遇を受けられるかが無限定の総合職より明らかなので、適切な処遇を受けられないのであればいつでも転職しますというふうになる。

 この緊張感があることは企業にとってもプラスだと思います。ジョブ型にしたらどんどん人が抜けるということではなく、いつ抜けてもいいとなれば処遇をそれなりにする。働き手も処遇に見合った貢献をしないと、となる。流動性も高まれば生産性向上にもつながる。本人もどれくらい貢献しているかを意識するし、企業も評価する。
 中野:これまでの無限定社員の問題の1つが、その企業にしか通用しないスキルだけが磨かれて、他社で通用する専門性がないから転職ができないということでしたね。日本は転職がしにくいというけれど、転職市場がないわけではなく、転職に踏み切れる人が少ない。

 鶴:ジョブ型になっていけばその人の使用価値って何なのかを本人も企業も意識せざるをえない。40歳を過ぎて平社員でも賃金が自然に上がっていくというのは実際のパフォーマンスを反映しているのではなく、生活保障的な側面が強かったわけです。
 転職すると賃金は下がるから、移動が妨げられてしまう。そうして企業は社員を囲い込んできたわけです。でも中高年になって、「追い出し部屋」に追いやられたというような話がありますが、そういうものがあること自体が日本特有の奇異な現象。不当な扱いをされたら辞めればいいわけですよね。

■ジョブ型にするなら、共働きがデフォルト

 中野:男性で育休取得後に転勤が命じられ、退職したという事例がSNSで話題になりました。一方で企業側は配置をいくつか提案したけれどそれが不服で訴訟しているという事例もありますね。でも拠点がなくなるなどで配置転換は致し方なく、それに応じられないならそのエリアで別の仕事を探す、ジョブ型にするしかない。
 鶴:欧米企業では30代後半から賃金は上がりにくいですよ。生産性が上がっていくわけではないので、ジョブ型賃金はそのようなカーブになる。ただそこが、中野さんが新刊で書かれているような家族システムの話とリンクしてしまっているわけですよね。

 ジョブ型にするなら、共働きをデフォルトにしていかないと厳しい。これまで無限定正社員と主婦の組み合わせだから成り立ってきたわけだけれど、ジョブ型の片働きで住宅ローンを組んで子どもの教育費もかかってとなると、経済的に難しくなる。非正規社員はやはり安定しないので、夫婦共に正社員になって、どちらかあるいは両方がジョブ型というのが安定的な形だと思います。
 中野:総合職の働き方自体も、例えば転勤について、今までのように辞令が出たら問答無用で行くという形から、企業が配慮する事例も出てきていると感じます。

 鶴先生の論文でも「転勤可否の希望が聞かれる」「配偶者の転勤などを理由に本人の希望による勤務地転換の制度がある」場合、適職感、仕事満足度、幸福度などが高まると指摘されています。同列意識が強く、まだまだ配慮があると「ずるい」という声が上がってきてしまうのが日本企業の現状ではありますが……。
 鶴:共働きがデフォルトになっていく中で、一緒に行かせてくれる、転勤先でも配偶者もフレキシブルにまた働けるということが大事になっていますね。

 配慮することによって力を発揮してもらう、貢献してもらう。配慮してもらった側も、だから頑張ろうとなる。それは直接関係ない人にも、企業に対するエンゲージメントや企業のリピテーションを高めることで跳ね返ってくる。

 日本経済新聞社のプロジェクトの一環「スマートワーク経営研究会」の調査で、「職務限定正社員」と「フレックスタイム」の導入が、時間当たり労働生産性の向上に寄与しているという結果もでています。従業員にきめ細かく配慮することが企業側に業績として返ってくる。子育て中の人とか特定の人を配慮するというのではなく、ジョブ型であれば全員が配慮される。配慮しなければ辞めてしまう。
■無限定のものが限定されてきている

 中野:今までのメンバーシップ型では、いかに自己犠牲を払って会社にコミットメントするか、忠誠心の高い人が出世するという形でした。それが変わっていかないといけないし、変わってきているということですね。

 鶴:そういう意味では、ジョブ型という別の枠をつくるのではなく、今の無限定がジョブ型に近づいてきているという側面もあります。長時間労働もそれが当たり前という世界から上限規制をかけて縛りがかかってきています。まずは時間の面でまったくフリーな無限定は、なくなってきているわけですよね。
 次は場所の限定性で、転勤については厚生労働省は、転勤に関する雇用管理のヒントと手法を公開しているのですが、もう一歩進めてしっかりしたガイドラインをつくっていくべきではないでしょうか。

 先ほどの話とはまた違う方向性ではありますが、無限定のものが少しずつ限定されてきているので、ジョブ型に近づけていくうえではそういう進め方もあるかもしれないですね。
中野 円佳 :ジャーナリスト

最終更新:8月23日(金)9時00分

東洋経済オンライン

 

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