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クールジャパン機構、見えない黒字化への道筋

8月22日(木)5時10分配信 東洋経済オンライン

過去1年間、官民ファンドのクールジャパン機構が投資を加速させている(撮影:尾形文繁)
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過去1年間、官民ファンドのクールジャパン機構が投資を加速させている(撮影:尾形文繁)
 官民ファンドの1つであるクールジャパン機構(海外需要開拓支援機構)が、ここにきて矢継ぎ早に投資を加速させている。

 「寄付を寄せてくれた世界中のアニメファンに感謝を伝えたい」

 8月にクールジャパン機構が投資を決めたアメリカの日本製アニメ配信・販売会社「Sentai」のジョン・レッドフォードCEOは、こう言って犠牲者に哀悼の意を表した。

 機構が投資を決める直前の7月、京都アニメーションの放火事件が発生し、35人が死亡した。レッドフォード氏はニッチ市場向け日本製アニメのライセンス事業を手がけるSentaiを2008年に設立。京アニを支援するクラウドファンディングサイトを立ち上げて寄付を呼びかけていた。
■「過去の反省を現在に生かしている」

 2013年に設立されたクールジャパン機構の経営陣が一新されてから、ちょうど1年が経過した。

 三菱商事出身でサンケイビル社長の飯島一暢会長、イッセイミヤケ社長や松屋常務執行役員などを務めた太田伸之社長に代わり、2018年6月に社長に就任したのがソニー・ミュージックエンタテインメント出身の北川直樹氏だ。北川氏を支えるCOO兼CIOには、投資ファンドのペルミラ・アドバイザーズ社長を務めていた加藤有治氏が就いた。
 この2人が引っ張る形で、昨年10月以降、Sentaiを含む国内外の企業9社への投資を決定するなど、ハイペースで投資を実行している。

 北川社長は「(旧経営陣が)5年間、何もないところから、相当苦労して案件を立ち上げた。その反省も含めて、現在に生かしている」と振り返る。

 旧体制との違いは、「キャッシュフロー投資重視」「現地パートナー重視」「グローバルシナジー追求」など5つの投資ルールを掲げ、投資領域としてメディア・コンテンツ、ファッション・ライフスタイル、食・サービス、インバウンドの4分野を掲げたことだ。
 加藤氏は「政策性という観点からは以前とまったく同じものを追求しているが、(収益性の観点では)事業基盤がすでに確立したもの、しかも海外で確立しているものを比較的重視している」と話す。

■「決別」を印象づけた動画コンテンツ企業への出資

 中でも旧体制との“決別”を印象づけたのが、新体制として第1号案件となる、アメリカの動画コンテンツ制作・配信企業「Tastemade」(テイストメイド)への投資だ。ゴールドマン・サックスやアマゾンなど、著名な大手投資家を割当先とする3500万ドルの増資の一角に食い込むという「幸運」も重なった。
 クールジャパン機構は約14億円を投じるが、その後三井物産がテイストメイドへの追加出資を決めるなど、クールジャパン機構が理想とする“呼び水効果”も発揮している。

 新体制以降の9件の投資内訳は、メディアが5件に対し、インバウンドの投資はまだ0件。国内企業が4件、海外企業5件と海外企業への投資が目立ち、後述するEMW社のように、マジョリティ(過半数)出資の案件も登場した。

 ビジネスを一から立ち上げる「ラフアンドピースマザー」と人工糸開発を行うベンチャー企業「Spiber」を除き、事業基盤が固まってキャッシュフローが出ている、手堅い企業への投資が増えている印象だ。
 今年6月と7月には、日本酒関連のビジネスに立て続けに投資した。

 「ワインと日本酒は消費者のプロファイルがよく似ている。クールジャパン機構とは共通のビジョンを持っており、お互いの強みを持ち寄って販売プラットフォームを強化していく」

 中国・香港のワイン卸売「EMW」のエドワード・デュヴァル氏は、クールジャパン機構から約22億円の出資(実際の出資先はEMW社の持株会社であるTrio社)を受け入れた理由についてそう語った。
■アメリカのミレニアル世代に日本酒を売り込む

 2003年設立の同社は上海や北京などの主要都市に6拠点を展開。機構としては、同社の販売ネットワークを生かし、2018年現在で220億円程度にとどまっている日本酒の輸出を大きく伸ばしていくことを狙っている。

 7月に11億円の投資を決めたアメリカの「Winc」への出資も、現地における日本酒ブランドの確立を狙ったものだ。

 日本酒輸出のうち、アメリカ向けは約3割。同社が販売するワインのメインターゲットは、1ボトル当たり15~20ドルを支払うジェネレーションXないしはミレニアル世代で、そうした人たちに高品質な日本酒を売り込んでいくという。
 同社のジェフ・マクファーレン氏は「今年末か来年初めに複数商品を用意し、3~4年かけて500万ドルの売り上げを目指していく」と期待する。

 加藤氏ら企業投資の「プロ」が参画し、投資手法は洗練されてきたものの、クールジャパン機構を取り巻く周囲の視線は厳しい。

 「今後新たな産投(産業投資)出資を行う場合には、産業投資と産投機関との間で、あらかじめ出資時に、明確な出資条件を定めることが必要である」

 財務省の財政制度等審議会は今年6月、官民ファンドの運営資金の原資を供給している産業投資特別会計に関連し、こんな提言を行った。
■「収益性に課題が生じたファンド」

 クールジャパン機構や農林漁業成長産業化支援機構(通称A-FIVE)などの4つの官民ファンドは、「収益性に課題が生じたファンド」と位置付けられ、今年4月には収支計画を提出。今後も今年秋と2020年度、2021年度にそれぞれ計画と実績が検証されることになっている。

 財務省理財局の山本大輔・財政投融資企画官は「官民ファンドの解散・清算時に出資元本と資本コスト以上を回収するというゴールが危ういようであれば、改善計画をつくってもらうことになる。解散までゴールを達成できるかどうかわからないのでは困るので、今後も定期的、かつ継続的に早め早めの手を打っていくことが求められる」と語る。
 投資ファンドはそのビジネスの性格上、最初に赤字が膨らみ、徐々に利益に転じていく「Jカーブ」と呼ばれる収益曲線を描く。たしかにクールジャパン機構は設立してまだ6年弱で、収益化の途上にあるとも言える。しかし問題は、2033年に解散する機構の清算時に、本当に黒字で閉じることができるのか、その道筋が今のところ見えていないことだ。

 官民ファンドは安倍政権が発足した2013年から2015年にかけて、相次いで設立された比較的新しい政策ツールだ。政策的必要性が高く、民間だけでは十分に資金が供給されない分野への資金供給はこれまで、日本政策投資銀行や国際協力銀行などの政府系金融機関が担っていたが、2019年3月末現在で5兆6968億円の産業投資残高のうち、官民ファンドは13%を占めるまで存在感を増している。
 しかし、日本政策投資銀行など向けの出資は融資業務のリスクバッファーとして使われるのに対し、官民ファンド向け資金は投資の直接の原資となるなど、リスクが大きい。それなのに、新しい政策ツールということもあって、監視の目が十分行き届いていないという問題があった。

■これまでの収支決算は179億円の繰越損失

 クールジャパン機構がこうした外部の厳しい目を払拭するには、何よりも収益をあげるしかないだろう。

 機構は2013年の設立以降、合計38件の投資を行い、業績不振が批判されたマレーシアの商業施設など、3件のイグジット(投資回収)を果たした。その2019年3月末時点での収支決算は179億円の繰越損失だ。
 この繰越損失は、約100億円の経費、約80億円の減損損失と引き当て処理からなる。これまで実現した3件のエグジットの収支は「トントン」で、肝心の投資に伴う利益を実現できていない。

 カギを握るのは、主に旧体制下で進めた26件(29件投資し、3件は売却)のゆくえだが、エグジットのイメージはまだ見えない。

 例えば、110億円を上限に出資するという中国・寧波での大規模商業施設「ジャパンモール事業」(2014年9月決定、110億円を上限に出資)は当初予定を延期し、2019年秋に開業予定という。機構の北川社長は「少なからずの額を投資しているものの、われわれが直接インボルブして(関わって)いないということが、初期案件での1つの形だった」と話す。
 今年4月に公表された、クールジャパン機構の2033年度までの投資計画によると、単年度赤字は2023年度まで続き、累積損益が黒字化するのは2031年度。2028年度まで毎年181億円を投資する計画だ。

 これだけの投資をこなすには投資に精通した人材を増やしていく必要がある。民間の投資ファンドと比べて決して待遇面で厚遇と言えない機構にどれだけ有為な人材を集められるか。

■「政策性」と「収益性」の二兎を追う難しさ
 最大の問題は、クールジャパン政策の推進という「政策性」と、機構解散時に純資産がゼロを上回らなければならないという「収益性」の二兎を追う難しさだ。

 クールジャパン機構を所管する経済産業省クールジャパン政策課の三牧純一郎課長は「機構ができる以前のクールジャパン政策は、補助金をつけてPRやプロモーションを行う情報発信系イベントが中心だった。ビジネス的な観点は強くなかったが、機構ができてビジネスにつなげるようになった。その差は大きい」と振り返る。
 もちろん、何でも「クールジャパン」に仕立て上げればいいというものではないが、本当に政策性が重要なら、補助金という形式で、投じた公金が返ってくることを期待せずに、政策性をひたすら追求すればいい。しかし、官民ファンドでは収益性という「タガ」がわざわざはめられている。

 それは、ビジネスとしてゴーイングコンサーンでないと、安定的に政策性を追求できないからだ。これまでの機構はその収益性さえクリアできなかったため、従来の補助金行政との違いを示せなかった。
 なぜ公的資金を元手に日本企業ではなく、海外企業に出資して、日本酒や日本製アニメを売ってもらうのか。従来の公的資金の使い方と何が違うのか。まだ十分に理解されているとは言えない「官民ファンド」という新しい政策ツールの意義とリスクを、しっかりと説明していくことが求められている。
山田 徹也 :東洋経済 記者

最終更新:8月22日(木)5時10分

東洋経済オンライン

 

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