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イタリア連立政権崩壊でまたも欧州の火種に

8月21日(水)12時00分配信 東洋経済オンライン

コンテ首相(右)は辞任を表明。左は辞任に追い込んだ右派「同盟」の党首で副首相のサルビーニ氏(写真:ロイター/YARA NARDI)
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コンテ首相(右)は辞任を表明。左は辞任に追い込んだ右派「同盟」の党首で副首相のサルビーニ氏(写真:ロイター/YARA NARDI)
 イタリアで政権がまたも崩壊した。ポピュリスト政権を率いるジュセッペ・コンテ首相は20日、連立政権内からの内閣不信任と前倒し総選挙の要求を受けて下院で演説し、辞任の意向を伝えた。昨年6月に誕生した左派寄りの反エスタブリッシュメント政党である「五つ星運動」と、右派系ポピュリスト政党の「同盟」による連立政権はわずか1年足らずで幕を下ろすことになる。

 五つ星運動は貧しい南部を主な支持基盤とし、政治刷新や環境重視を訴えている。一方、同盟は豊かな北部を支持基盤とし、移民の受け入れや欧州連合(EU)に懐疑的な主張を繰り返す。両党の間では財政運営や欧州委員会の次期委員長選出などをめぐって、これまでもたびたび意見衝突が見られた。
 難民対策の強化やマッテオ・サルビーニ党首の個人的な人気も相俟って、同盟の支持率は昨年3月の総選挙後に倍増し、30%台後半に達している。他方、議会の最大勢力である五つ星運動の支持率は、目玉政策の最低所得保障制度(ベーシック・インカム)が骨抜きとなったことや目立った成果が挙げられなかったこともあり、10%台後半に半減している。

 政権内では、支持率の逆転とともに、同盟の発言力や政策への影響力が日増しに高まっていた。
■「五つ星」を外し、右派政権を目指す「同盟」

 政権崩壊の直接的なきっかけは、同盟が推進するトリノ=リヨン間の高速道路計画の是非を問う7日の議会採決で、五つ星運動が反対票を投じたことだった。だが、支持率逆転と度重なる政策対立を受け、サルビーニ党首は自身の首相就任と右派政権を誕生させる機会をうかがってきた。連立内の意見衝突や政策の停滞を打破するには、総選挙を通じて国民に審判を委ねる以外にないとし、自らも閣僚を務めるコンテ政権への不信任を表明していた。
 コンテ首相は20日の議会演説で、個人と政党の利益のために政権と国を危機にさらしたとしてサルビーニ氏を糾弾した。五つ星運動のルイジ・ディマイオ党首もサルビーニ氏への不信感をあらわにしている。同盟は昨日の議会でコンテ首相の辞意表明を受け、最終的に内閣不信任案を取り下げたが、両党間の関係はもはや修復不可能な状況にある。

 今後の政局展開はセルジオ・マッタレッラ大統領の仲裁に委ねられよう。議会の解散権を持つ大統領は、21・22日にかけて上下両院の議長や各党党首と会談する予定で、秋の予算審議を優先し、議会の過半数を確保できる新たな政権の枠組みがないかを模索する模様だ。
 財政不安を抱えるイタリアは、予算審議と重なる秋に総選挙を行ったことは第2次大戦後で一度もない。

 連立組み換えの試みが失敗に終わった場合、大統領は議会を解散する決断をしよう。イタリアでは議会の解散から総選挙の実施までに45~70日空けることが法律で求められている。実際には60日程度の準備期間を設けるのが一般的で、今週中に議会を解散した場合、総選挙は最短で10月27日に行われると、予想される(同国では日曜日の総選挙が一般的)。
 過去の例では、総選挙から政権発足までには最短で20日余り、最長で3カ月余りを要しており、この場合、政権発足は最短でも11月中旬にずれ込みそうだ。12月末までに財政運営をめぐるEUとの難しい協議を終え、来年度予算案を議会で可決するのは非常にタイトだ。イタリアは財政運営をめぐるEUとの過去の取り決めに基づき、約束した財政措置を来年度予算に盛り込まなかった場合、来年初から付加価値税(VAT)が自動的に引き上げられる。増税回避に残された時間は少ない。
 今後のシナリオは3つある。第1は、予算審議を優先し、ひとまず暫定政権を発足し、予算成立後の来年春に改めて総選挙を行う。第2は、議会任期が満了する2023年春まで続く新たな連立政権を発足する。第3は、連立組み換えの試みが失敗し、秋に総選挙を行う。

■「五つ星」と民主党の溝を埋めるのは難しい

 イタリアでは政治危機に際して非政治家(テクノクラート)を首班とする暫定政権を発足させることが多い。ただ、暫定政権であっても、政権発足には上下両院の過半数の信任が必要となる。
 五つ星運動と同盟のポピュリスト2党による現政権以外に政権発足が可能な組み合わせは、五つ星運動にかつての政権与党で中道左派の民主党と一部少数政党が協力する以外にはない。民主党政権を率いたマッテオ・レンツィ元首相は五つ星運動に対して暫定政権の発足を呼び掛けている。

 ただ、反エスタブリッシュメント政党であった五つ星運動にとって、民主党やレンツィ元首相はこれまで攻撃対象としてきた政敵だ。民主党内も、復権の機会をうかがうレンツィ元首相に近いグループと、ニコラ・ジンガレッティ現党首に近いグループとの間に主導権争いがあり、一枚岩ではない。
 予算成立を主たる目的とする暫定政権を発足する場合、近い将来の総選挙実施が避けられない。しかも、EUの財政規律違反の是正措置発動とVAT増税を回避するためには、緊縮的な予算を組む必要がある。両党の関係者の間には、EUの財政規律を批判し、減税や歳出拡大を主張する同盟に有権者の支持が一段と流れることを不安視する声もある。

 そのため、議会任期が満了する2023年まで続くことを前提とした本格的な連立政権の発足を模索する動きもある。
 この場合、各政策分野で詳細な連立綱領を合意する必要がある。左派寄りの有権者を主な支持基盤とする両党は、最低賃金の引き上げ、労働市場改革、環境対策の強化などで合意できる可能性がある。一方、議員定数削減、汚職対策、移民政策などでは意見に隔たりがある。特に議員定数削減は政治刷新を求める五つ星運動の主要公約の1つで、すでに関連法案の審議が最終投票段階にあるが、民主党内には抵抗が多い。

 秋の総選挙実施と同盟の政権奪取を阻止できるか、まずは五つ星運動と民主党による連立組み換えに向けた協議の行方が注目される。
■解散総選挙なら「同盟」による右派政権成立

 両党間の協議に加えて、シルビオ・ベルルスコーニ元首相が率いる中道右派政党フォルツァ・イタリアの動きも鍵を握りそうだ。支持率のうえでは1桁台で低迷するかつての政権与党は、解散・総選挙で同盟が右派政権を発足する際に連立に加わり、キング・メーカーとして、影響力を奪還する機会をうかがっている。

 同盟はフォルツァ・イタリア抜きの右派政権誕生を目指しており、両党間の協議が決裂した場合、フォルツァ・イタリアは五つ星運動と民主党による暫定政権発足に協力し(例えば投票を棄権して政権発足を可能にする)、政治復権の足掛かりにする可能性がある。
 連立組み換え協議に時間を要した挙句、協議が決裂し、解散・総選挙となるのが最悪のシナリオと考えられよう。その場合、総選挙は11月以降にずれ込み、政権発足はさらに後ずれする。世論調査での同盟の圧倒的なリードを考えれば、同党を中心とする右派政権が誕生することはほぼ間違いない。

 EUとの財政協議は難航が避けられず、財政規律違反を問われる恐れが高まる。EUの財政規律見直しを求める同盟は、必要な財政措置が採られなかった場合のVAT増税の約束を反故にすることも考えられ、EUとの関係は一段と悪化しそうだ。金融市場では世界的な金利低下が進み、財政不安を抱えるイタリアの国債利回りも歴史的な低水準にある。
 欧州中央銀行(ECB)による金融緩和観測も支えとなり、過去に比べて金利は上昇しにくくなっている。だが、イタリアをめぐる緊張が金融市場を揺さぶる日が再来するのもそう遠くはなさそうだ。
田中 理 :第一生命経済研究所 主席エコノミスト

最終更新:8月21日(水)12時00分

東洋経済オンライン

 

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