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左傾化する米民主党「トランプ再選阻止」なるか

8月20日(火)16時00分配信 東洋経済オンライン

民主党テレビ討論会で、ジョー・バイデン前副大統領(左)の言動が人種差別的だと詰め寄るカマラ・ハリス上院議員。中央はバーニー・サンダース上院議員(写真:ロイター/アフロ) 
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民主党テレビ討論会で、ジョー・バイデン前副大統領(左)の言動が人種差別的だと詰め寄るカマラ・ハリス上院議員。中央はバーニー・サンダース上院議員(写真:ロイター/アフロ) 
2020年の大統領選をめざして民主党の候補者レースが始まった。本命の中道派バイデン氏にハリス氏ら左派の論客が切り込む。党内にはペローシ下院議長も手を焼く左派若手が台頭し、1つの政治潮流をつくりつつある。
 来年11月のアメリカ大統領選でトランプ大統領の再選阻止を狙う民主党の候補者指名争いが本格化した。今回初めてとなるテレビ討論会が6月26~27日に激戦州の1つ、フロリダ州で開かれ、20人が参加した。候補らの経歴はさまざまで、民主党の多様性を印象づけた。一方で、アメリカ社会をどう改革するかについては急進的な発言が相次ぎ、全体として左傾化の傾向を明確に示した。トランプ氏にどう挑むかという党の再選阻止戦略はまだ見えてこない。
■波乱含みで始まった指名争い

 NBCテレビなどが主催した討論会は参加者が多いため、2日間に分かれて10人ずつが登場した。ハイライトは、2日目のジョー・バイデン前副大統領(76)とカマラ・ハリス上院議員(54)の応酬だった。

 ハリス氏はジャマイカ系黒人の父とインド系の母を持ち、自らはアフリカ系アメリカ人(黒人)と名乗っている。ハリス氏は「バイデン氏に言いたいことがある」と切り出し、「人種差別政策で有名になった上院議員2人をほめたのを聞いて心が痛んだ」と語気を強めて批判した。バイデン氏はこの10日ほど前の政治献金集会で、政敵とも話し合って政策を進めることができると主張した際、人種差別者だった南部の上院議員2人と仕事をしたことを例に挙げていた。
 さらに、1970年代に人種の融合を進めるためにバスで白人の児童を黒人居住区の学校に、黒人の子どもを白人居住区に運んだ「バッシング」という政策にバイデン氏が反対していたことも批判した。ハリス氏は、まさに、こうしたバスに乗って白人居住区の学校に通った1人だった。バイデン氏は「(批判は)私の立場を正確に表現していない」と語り、30年以上の議員生活で公民権運動に尽力してきたと反論した。

 バイデン氏は討論会の翌日も自らの立場を釈明。だが、風向きが悪いことを察知し、黒人の多いサウスカロライナ州で演説した際に、人種差別者を例に挙げたことを謝罪したが、討論会からすでに9日が経っていた。問題はバイデン氏の政治思想や立場ではなく、速やかに反論する柔軟性や即応性がなかったことだ。黒人初の大統領だったオバマ大統領の副大統領を務めたバイデン氏は、黒人の間で支持率が高い。黒人であるハリス氏がトップに躍り出るためには、バイデン氏から黒人の支持を奪う必要があるのは火を見るより明らかで、こうした展開は予想できたはずだった。
 元検事のハリス氏が、被疑者を相手に戦うかのようにバイデン氏に詰め寄った際の迫力は、テレビを通じて視聴者に伝わった。それまで十分な注目を集めていなかったが、一気に有力候補とみられるようになった。支持率でトップの座を維持してきたバイデン氏が失墜したわけではない。世論調査によっては討論会後に10ポイント程度急落したものもあるが、それほど落ちていない調査もある。ただ、バイデン氏が安定した「本命」との見方は薄れ、情勢はかなり流動的になった。
■勢いを増す左派

 討論会の発言時間は60秒以内に制限された。複雑な政策を説明する時間は与えられていない。主張のインパクトで「勝負」が決まってしまう印象戦にならざるをえない。その結果、わかりやすく過激な発言で注目を集めようという場面が目立ち、左傾化の傾向がより顕著になった。

 全体を若干乱暴に整理すると、これまでも大企業批判を繰り広げ、前回もヒラリー・クリントン元国務長官と指名を争ったバーニー・サンダース上院議員(77)と、公立大学無償化などリベラルな政策を次々と発表しているエリザベス・ウォーレン上院議員(70)が所得格差是正を求める左派の代表格。サンダース氏は、自らを「民主的社会主義者」と名乗り、ウォーレン氏はアメリカ社会の「大規模な構造変革」を掲げている。現状の支持率では2人に大差はなく、10%台で推移しているが、サンダース氏が下降気味であるのに対し、ウォーレン氏は討論会前から支持率が徐々に上昇傾向を示している。
 討論会では、サンダース氏が提唱している「メディケア・フォー・オール」に賛成するかしないか、踏み絵を迫るような場面があった。高齢者対象のメディケアを拡充し、連邦政府が一元管理する公的医療保険制度の導入案だ。事実上民間保険会社を医療保険の中核部から追い出すことを意味するもので、昨年の中間選挙でも左派が提唱した。サンダース氏やウォーレン氏は、民間保険会社を公的保険から追い出すことにも積極姿勢を示した。
 社会の変革を求めるウォーレン氏ら左派は近年、「プログレッシブ」と呼ばれる。元検事で黒人のコーリー・ブッカー上院議員(50)もこうしたグループに位置づけられ、黒人の生活向上のための改革の必要性を訴えた。黒人が過剰に刑務所に収監されているとして、刑事司法制度の改革を公約に掲げている。移民政策で急進的な主張を展開したのはテキサス州サンアントニオ市長も経験したメキシコ系のフリアン・カストロ元住宅都市開発長官(44)だ。包括的な移民政策についていち早く発表。査証なしで外国人がアメリカに入国する行為について、刑事罰の対象から外すよう訴えた。先述のハリス氏もこのグループに入るが、「検事時代の立場は必ずしもプログレッシブではなかった」という指摘も出ている。政策にも曖昧な点が多く、議論の推移を見ながら軸足を中道寄りに移す余地を残している。
 中道左派(「モデレート」)の代表格はバイデン氏で、オバマ政権で社会の変革が進んでいたと考えている層に重点的に支持を訴えている。医療保険もオバマ・ケアを維持して改善するよう求めている。エイミー・クロブチャー上院議員(59)は中西部ミネソタ州選出で、共和党の支持者の多い地域でも票を獲得できるモデレートの次世代ホープとみられてきた。ただ、派手さがなく、政策を細かく説明しようとする姿勢が60秒制限のフォーマットにはそぐわず、初回の討論会では見せ場がなかった。
 インディアナ州サウスベンド市のピート・ブティジェッジ市長(37)は最年少ということもあり、未来志向の姿勢を強調。ハーバード大学を卒業し、ローズ奨学生として英オックスフォード大でも学んだ秀才で、討論会でも頭脳の明晰さをみせた。アフガニスタンでの従軍経験があり、しかもゲイであることを公言しており、独特な存在感を示している。政策的には、モデレートとプログレッシブの領域が重なっているような印象だ。

 外交・安全保障は主要な議題となっていないが、党内で最もリベラルな主張を展開しているのはハワイ選出でイラク戦争に参加したトゥルシー・ギャバード下院議員(38)で、アフガニスタンからのアメリカ軍の即時撤退を求めている。
■中間選挙勝利が「足かせ」

 昨年11月の中間選挙では民主党が下院を奪還し、ナンシー・ペローシ氏が再び下院議長に就任した。その後、注目されていた2016年大統領選におけるトランプ陣営とロシアとの癒着疑惑(ロシア・ゲート)の報告書が今年4月に公表された。ロシアが大統領選に介入したことを認める一方で、トランプ陣営との癒着(コルージョン)の事実は確認できなかったと結論づけた。ただ、トランプ大統領が捜査当局を妨害しようとした司法妨害については、白黒の判定を避けた。下院を奪還し勢いに乗る若手議員らは、癒着の事実認定がなくても大統領弾劾の手続きに入るべきだと主張。その数は徐々に広がり80人強に達した。大統領の弾劾裁判を開くかどうかの判断は下院が行い、弾劾裁判自体は上院が行う仕組みであり、癒着の事実認定がないまま弾劾の手続きに入れば、共和党が多数派の上院で「無罪」判決が出てトランプ氏が勢いづくのは明らか。弾劾手続きに入ることを求める若手議員に対し、「弾劾ではなく来年の大統領選でトランプ氏を引きずり下ろすべきだ」と説得して回ったのがペローシ氏だった。そもそも、若手はペローシ氏の議長再就任にも反対し、議決の際に反対する構えも見せた。多くの議員は造反しなかったが、ペローシ氏と民主党若手の緊張状態は続いてきた。
 左派若手の中で最も目立って活動しているのが、アレキサンドリア・オカシオコルテス氏だ。彼女とイルハン・オマール、ラシーダ・タイーブ、アヤナ・プレスリーの、非白人4人の新人女性議員は「スクワッド(分隊)」と呼ばれ、民主下院指導部に反抗する姿勢を見せている。特にメキシコとの国境近くの移民収容施設のあり方をめぐっては、抜本的な改革が必要だと訴え、共和党と妥協して予算措置を取ったペローシ氏に反旗を翻した。中間選挙で民主党に勢いをもたらした左派の新人らは、もはや制御が難しくなっているのが実態だ。オカシオコルテス氏はもともとサンダース氏に近いが、ウォーレン氏が急速に接近。さらに、ハリス氏も接触していると報じられており、大統領選の候補者選びを左右するほど影響力を持つようになった。スクワッドが支持を表明した候補が、左派の代表候補との「お墨付き」を得る可能性がある。
 こうした左派の勢い(モメンタム)を利用したほうがトランプ氏に勝利しやすいという主張が一定程度信憑性を持つ背景には、「本選では勝てない」と言われていた共和党のトランプ氏が実際に勝ってしまったという事情がある。それにならって、過激でわかりやすい左派の主張を掲げ「左のトランプ」を目指すという戦略だ。だが、今のところ、こうした考え方が民主党に浸透しているというわけではない。無党派層も狙えるモデレートな候補のほうが本選で勝利しやすいという「エレクタビリティ」を重視する考え方が一般的だ。バイデン氏の支持率が比較的高いのも、こうした事情からで、世論調査(ワシントン・ポスト紙などが6月28日~7月1日に実施)でも「きょう大統領選があったらトランプ氏とバイデン氏とどちらに投票するか」との質問に、有権者の43%がトランプ氏、53%がバイデン氏と回答した。他のどの民主党候補よりバイデン氏のほうが「対トランプ」で有利な数字が出る。過去30年の下院議員選挙を調査したスタンフォード大学のアンドリュー・ホール准教授(政治学)らの研究では、予備選で過激な主張を掲げた候補が選ばれた場合、本戦で勝利する確率は明確に低くなっていたという。一方で、ボイズ州立大学のスティーブン・ユーティック助教授(政治学)は、「右と左のイデオロギーの分断が激化した近年だけでみると、モデレートな候補が勝利する優位性は失われている」との論文を発表している。
 結局のところ、候補者の個性や直接対決での討論の印象など、一般論では予測不可能な要素があり、モデレートな候補のエレクタビリティがどこまで有効かは実際には「やってみないとわからない」ということかもしれない。戦う相手はトランプ氏。テレビの娯楽番組で鍛えた直感で、討論相手を「瞬殺」する言葉の達人だ。語彙は多くないが、わかりやすい言葉で政敵の弱点を巧みに攻撃する。初回の討論会での覇気のないバイデン氏を見た民主党支持者は、トランプ氏と戦うバイデン氏の姿を想像できただろうか。
■ジェンダー争点は民主党有利か

 民主党にとって好材料は、アメリカ社会における女性の勢いだ。トランプ氏は「女性蔑視的」と受け止められており、中間選挙では高学歴の郊外に住む比較的裕福な女性が共和党から離反したとされる。大手アメリカ・メディアが共同で実施した出口調査によると、投票先を「民主」と回答した女性は59%、「共和」の40%を大きく引き離した。共和党はその後の補選などでも女性候補の掘り起こしに苦労しており、危機感を持っている。
 「#MeToo」運動は勢いを失っていない。アメリカのサッカー女子ナショナルチームはワールドカップの優勝パレードで「Equal Pay(男女賃金格差の平等)」を訴えた。またアラバマ州で今年5月に人工妊娠中絶をほぼ全面的に禁止する法律が成立したことを受け、女性の権利保護を主張する声が高まっている。こうした声の受け皿となる用意が進んでいるのは民主党で、女性の勢いを取り込める大統領候補を指名できれば、それだけで対トランプ戦略としては有効だと言えよう。
 3回目の討論会から、支持率や献金額の条件を引き上げ、候補者を絞った形で行われる。左派が勢いづくなか、最終的に党内に融和ムードを作り「反トランプ」でまとまることができるのか、あるいは左派とモデレートとの亀裂が深まり、トランプ氏を利する形になるのか。すべては今後の討論の行方にかかっている。
古本 陽荘 :毎日新聞北米総局長

最終更新:8月20日(火)16時00分

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