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新人研修でラジオDJする福島のガス会社の凄さ

8月20日(火)6時10分配信 東洋経済オンライン

企業の新人研修は業務に直結する内容が多いですが、アポロガスという会社ではさまざまな研修を行っています。写真はイメージ(写真:EKAKI/PIXTA)
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企業の新人研修は業務に直結する内容が多いですが、アポロガスという会社ではさまざまな研修を行っています。写真はイメージ(写真:EKAKI/PIXTA)
 2010年8月に、アメリカのニューヨーク・タイムズ紙に「2011年にアメリカの小学校に入学した子どもたちの65%は、大学卒業後、いまは存在していない職業につくだろう」という記事が出て話題になりました。ご存じの方も多いと思います。

 この記事には衝撃を受けました。私は福島市内を中心にLPガスや灯油、重油などを提供するアポロガスという会社の会長を務めています。LPガスの市場はすでに成熟しており、この先、大きく拡大が見込めるものではありません。
 そのため、これまでもガス事業だけにとどまらず、リフォーム事業や新築・不動産事業、太陽光発電事業、近年では、水素ステーション事業など、ライフラインの事業を展開してきました。

 このように「いま存在している仕事」であれば、さまざまに傾向と対策を分析して、チャレンジのしようもあります。しかし、「いま存在していない仕事」に対しては、手の打ちようがありません。当社が生き残るには、どうすればいいのか?  

私は途方に暮れてしまいました。その後、どのようなことに取り組んでいったのか。拙著『福島の小さなガス会社がやっていた 世界最先端の社員教育』から、エッセンスをご紹介します。
■新人を変化対応力のある人材に育てる

 私の頭に浮かんだのは、「変化対応能力の高い組織をつくっていく」ことでした。つまり、どんな大激変の時代にあっても、そこに対応し、生き残っていける組織をつくっていく、ということです。実際、地球上の生命が生き残ってこられたのも、こうした変化対応能力が大きかったといいます。

 このことは「会社」でもいえるのではないでしょうか。多様性のある、「引き出し」を多く備えた組織は、予測不可能な時代に、どんな環境の変化が起きようとも、それに合わせて自らを変化させ、新しい事業を創出していけるはずです。そして、組織をつくっているのは「人」です。
 そのため、変化対応能力のある組織をつくっていくには、そこで働く人が変化対応能力を磨いていくことが不可欠です。そして、そうした人材をしっかりと育てていくことができれば、どんな変化にも柔軟に対応していくことができます。そのことは結果的に経営の安定につながっていくと考えたのです。

 近い将来、そうした組織となるために、いまとれる最良の戦略は「人づくり」をしっかりと行っていくことだろう。私はそう考え、2011年から「新卒採用」に踏み切り、彼らにさまざまな研修を実施していくことを決めました。
■ミッションはファンレターを100通以上もらうこと

 当社の新人研修では、いわゆる「業務研修」にあたるものがほとんどありません。新人研修で何をするのかというと、新入社員には、とにかくいろいろな未知の体験に挑戦してもらいます。

 代表的なものが、入社して2週間目にスタートする地元のFMラジオ局での「ラジオDJ研修」。週1回、10分間の自分の名前のついた冠番組を1年間、担当してもらうのです。そこで新入社員たちは、生放送でのDJのほか、番組の企画やゲストの選定、原稿づくりなど、ラジオ番組づくりに関わるあらゆる仕事を体験することになります。
 ラジオDJ研修では、「1年間で、ファンレターをひとり100通以上集める」というミッションが課されます。新入社員はたいてい、ラジオでパーソナリティーをしていれば、ファンレターは自然に来るものだと思っています。ところが、現実は違います。何もしなければ、1通も来ません。そのことに、数カ月もすると気がつきます。そこで彼らのスイッチがオンになります。

 「ファンレターをもらうには、何をしたらいいんだろう?」「どうしたら100通も集められるんだろう」と、自分の頭で考え始めるのです。そして、家族や友人、さらには外まわりなどで出会った人などにお願いしてまわったりなど、具体的な行動に出るようになります。その結果、これまで20人くらいの社員がこのミッションを経験していますが、全員が100通を集めることができています。
 また、毎週のゲストのブッキングも自分で行わなければなりません。しかもゲストの条件は「地元企業の入社1年目から3年目までの若い社員」です。では、そのような人たちをどうやって探していくか。彼らは知恵を絞るようになります。

 研修で「未知の体験」にこだわるのには理由があります。それは、初めてのことや慣れないことをするのは、人間にとってストレスだし、とてもしんどいからです。やり遂げるまでには、たくさんの大変なことに遭遇します。
 うまくいかず苦労することもしばしばでしょう。そうしたときに、それを乗り越えようとさまざまに考え、行動し、うまくいかないときにはもう1度考え直し、再トライする。

 こうした繰り返しの中で、人はさまざまなことを学び、成長していきます。私が、新人研修を通して期待しているのは、新入社員たちがこうした学びをたくさん得てくれることです。

 さらに、私が新人研修で重視しているのが、一般的に見れば「無駄な経験」というものを、たくさん経験してもらうことです。これは私の考え方なのですが、「一般的に見て無駄な経験」というのは、実はその後の人生において大きな肥やしになります。
 未知の経験にしても、無駄な経験にしても、若いうちのほうが受け入れやすいものです。その意味では、社会人として「真っ白」な新入社員だからこそ、こうした研修がしやすいともいえるかもしれません。

■学びがあれば、すべて研修

 ほかにも毎年秋に実施しているお客さま感謝祭で着ぐるみを着て、お迎えする「着ぐるみ研修」や地元の銘菓の新しい食べ方を提案する「饅頭研修」、ハンバーガーを早食いする「早食研修」など、当社の研修ラインナップには、およそ一般的な研修のイメージとはほど遠いものが並びます。
 通常、アポロガスの新人研修のメニュー数は約30、それに合わせて約20本の論文・リポートを課す、というのが平均的です。それを、内定後の10月から入社後1カ月半までの期間に、およそ50日を使って行っています。

 2017年度は、こちらが出す課題を新入社員たちがどんどん消化していってくれるので、私が「これは面白い」と調子に乗り、次々と新しい課題を提案していったら、結果的に150種類の研修を行い、これまで100本の論文を書かせることになりました。
 私の中には「学びがあれば、すべて研修」という考え方があるので、「これは研修になる」と思えば、どんなこともすぐに研修化してしまいます。ただし、「研修を通じて何らかの学びを得られればOK」という緩いスタンスではありません。

 例えば、ラジオDJ研修では「チャレンジ精神」「自分の頭で考え、行動する力」など、研修を実施する側として、明確にそこから「学んでほしいこと」を設定して、研修中に働きかけています。

 こうした研修を、スタンフォード大学の最先端のキャリア理論「計画的偶発性理論」(個人のキャリアの8割は予想しない偶発的なことによって決定される。
 その偶発的なことを計画的に導くことでキャリアアップをしていくべきというもの)を自然に実践していると評価していただき、福島大学の先生が「計画的無意識性人財育成戦略」と命名してくださいました。

■研修の成果は? 

 では、研修が実際にどのような成果を生み出しているかと問われると、正直それが見えにくいところはあります。会社全体の売り上げは、この10年で見ると、グループ全体で倍増しています。この成長は、研修を実施し始めた時期と重なりますが、この間に、研修によって売り上げに貢献するような革新的な新サービスが生まれたわけではありません。
 一方で、社員たちが自分たちの頭で考え、新しい仕事を生み出すということが、ちらほら出始めています。2018年に「20代の若手社員でグループを組み、高齢者の方々のお宅にガスや灯油などの配送をした際に困り事はないかを尋ね、頼まれれば、重い物を動かしたり、高いところから物をとったりといったお手伝いを行いたい」という提案があり、現在もこの活動を続けています。

 すでに1年以上経ちますが、少しずつ地域でも認知されるようになり、活動の頻度も幅も広がってきています。
 こうした活動が、今後も社員たちからさまざまな形で起こってくるのが、私が目指す会社の姿です。社長などからのトップダウンではなく、社員の側から新しい事業を提案し、それを実現させ、会社そして地域全体の利益につなげていく。

 教育を通じて、そうした社員を育てていくことが、変化の激しい時代の経営者に求められていることなのだと思います。
篠木 雄司 :アポロガス会長兼元気エネルギー供給本部長

最終更新:8月20日(火)6時10分

東洋経済オンライン

 

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