ここから本文です

日経平均株価が2万円を大きく割り込む「必然」

8月19日(月)6時00分配信 東洋経済オンライン

日経平均株価はいよいよ2万円を大きく割り込むのだろうか(写真は2018年12月25日、撮影:尾形文繁)
拡大写真
日経平均株価はいよいよ2万円を大きく割り込むのだろうか(写真は2018年12月25日、撮影:尾形文繁)
 先週は忙しい週になった。しかし目先の市況の上下ではなく、その底流にある動きをみると、世界市場が正常に冷静に、実態を反映し始めたと好感できる。

■市場は「ポジティブなトランプ砲」にも冷静に対応

 最も顕著だったのは、8月13日(火)の「ポジティブなトランプ砲」に対する市場の反応だ。

 米政権は中国からの輸入に対する10%の追加関税について一部の品目の適用を遅らせることなどを表明した。具体的には当初「5000億ドル相当の中国からの輸入に、9月1日から一律10%の追加関税を課す」とされていたところ、以下の3つに分ける、と公表された。
 (1)3243品目(スマートウォッチ、デスクトップパソコン、ワイヤレスイヤホンなどを含む、2018年の輸入額で1114億ドル)は、予定通り9月1日から追加関税発動。

 (2)555品目(スマートフォン、ノートパソコン、ゲーム機、玩具など、同1560億ドル)は、追加関税の適用を12月15日に延期。

 (3)残る品目は、健康、安全、安全保障などの観点から、追加関税の発動を行なわない。

 この適用延期の公表を受けて、ニューヨーク(NY)ダウ工業株指数は、13日(火)に前日比で372ドル(1.4%)上昇した。7月半ば辺りまでのような、アメリカの株価指数がたびたび史上最高値を更新していた頃の地合いであれば、市場は浮かれてもっと株価が上振れしていただろう。
 それに対して「物足りない」との声もあったようだ。またその翌日14日(水)の日本株は、日経平均株価が前日比199円(1%弱)の上昇にとどまり、「日本の株式相場に力がなさすぎる」などの恨み節も聞こえた。

 しかし、今回の追加関税適用延期については、全ての品目で延期されるわけではなく、上述のように9月初めから適用される品目も多い。また12月半ば(クリスマス商戦用の品物の多くが既にアメリカに輸入された後)まで適用が延期されても、今のところは追加関税が撤回されたわけでもない。
 そもそも、これまで当コラムで何度も述べてきたように、米中間の通商交渉を巡る溝は深く、全ての品目ではないとしても、9月1日からの関税引き上げに対し、中国は深い不快感を覚えており、何らかの報復措置(レアアースについての対米輸出の制限など)を打ち出すといった観測もある。

 今回の米政権の追加関税適用延期措置が、決して手放しで楽観できるものではない、という実態をしっかり踏まえた結果、世界の株価の上昇が抑制的であったとすれば、それは市場の判断が正常で適正なものであり、歓迎すべき動きであったと解釈できるわけだ。なお、筆者は、株価が余り上がらなかったことが好ましい、と主張しているわけではない。あくまで実態の強弱に応じて、市場が適切に反応したことが良かったのではないか、と言っているのである。
■さらなる実態悪を評価した「正常化」も進展

 続いてその翌日の8月14日(水)には、アメリカの株価が大きく下振れした。NYダウ工業株は前日比800ドル(約3%)安と、下落は大きなものとなった。この株価下落の説明としては、アメリカ国債で測った長期金利が低下し、特に10年国債と2年国債の利回りが逆転したため、債券の投資家が長期的に景気の先行きについて警戒的であるとの見方から、アメリカ経済の後退懸念が広がったため、とされている。
 ただ、これも当コラムで何度も解説してきたように、アメリカ経済の悪化は以前から進んでいるものであり、いきなり景気が悪化したわけではない。たとえば鉱工業生産は、世界需要の後退を反映して、昨年12月をピークに、減少基調を概ねたどっている。住宅着工は月々の振れが大きいが、昨年1~5月でピーク圏を形成し、弱含みだ。16日に発表された7月分の住宅着工件数は前月比で4.0%減少しており、3カ月連続のマイナスを記録している。
 他にも悪化傾向を示すアメリカの経済指標を挙げていると切りがないが、かなり前からアメリカの経済も企業収益も悪化し続けている(S&P500採用銘柄の1株当たり利益は、1~3月期も4~6月期も前年比減益で、7~9月もアナリストの予想平均値で減益が見込まれている)。

 それに対して、7月途中までアメリカの株式市場は過度の楽観に包まれ、主要な株価指数は史上最高値を更新していた。こうした楽観に行き過ぎた市場が、景気や企業収益実態の悪さを「正しく」評価する方向に向かい始めており、14日の株価の大幅下落は、そうした「正常化」が最大の要因であったと考えるべきだろう。つまり、「なぜ14日の株価はこんなに下落しなければいけなかったのか?」という問いに対する正しい答えは「それまでの株価が上がり過ぎだったから」だろう。
 それでも、アメリカ経済が堅調に推移するとのシナリオを、いまだに信奉する向きも多いようだ。そうした強気シナリオの最大のよりどころは、個人消費の堅調さだろう。「雇用が堅調だから消費も堅調に推移するだろう、世界最大の規模を誇るアメリカ経済のなかで、最大のウエイトを占めるのが個人消費だ。その個人消費が堅調であれば、多少他が悪化しても、世界経済は大丈夫で、世界の株価も大丈夫だ」との声も聞く。そのように「期待の星」に祭りあげられたアメリカの個人消費は、本当に大丈夫なのだろうか。
 現時点で「個人消費は悪化しているか?」と問われれば、今は拡大基調を維持している。とは言っても、たとえばコンファレンスボードの消費者信頼感指数で測った消費者マインドは、直近の7月分は上振れしたものの、昨年10月をピークとして悪化傾向に向かっているように見える。雇用統計から算出した、1人当たり週当たり賃金の前年比も、直近の7月分が2.6%増とまだ堅調ではあるものの、昨年10月のピークである3.6%増からは、勢いが衰えていることも事実だ。
 先週15日(木)に発表された小売売上高については、6月分が前月比0.4%増から0.3%増に小幅下方修正されたものの、7月分は0.7%増と大きな伸びを見せた。ただしこれは、7月15~16日のアマゾンプライムデーの押し上げ効果によるものとの見解もあり、8月も小売売上が高い伸びを保つかどうかは、予断を許さない。

■新興国市場も不気味な動き、いよいよ円高へ? 

 目をアメリカから広く世界に向けると、先週は株価も通貨も下落した新興諸国が目立った。大統領選挙の予備選で、ポピュリズム的な政策を掲げる左派候補が勝利し、現職大統領の苦戦が伝えられたアルゼンチン(加えて、格付け会社のフィッチが、アルゼンチンの長期債務格付けを格下げ)は「別格」としても、ブラジル、トルコ、ロシアの株価および通貨の下落が進んだ。リスク回避的な動きは、世界的に強まっていると懸念する。
 通貨市場では、先週米ドルの対円相場が、前述の追加関税適用延期の報道を受けて一時1ドル=107円近くに上昇した後、円高方向に戻っても106円前後での推移にとどまっているが、これは円安が進展しているというより、新興諸国に対する不安から、新興国通貨売り・米ドル買いが生じているため、と解釈すべきだろう。

 こうしたなか、8月21~22日は、ワシントンDCで日米通商交渉のための閣僚級協議が予定されている。特にこれで米ドル安・円高に向けての圧力がアメリカ側からかかるとは見込みがたいが、トランプ政権が米ドル安を望んでいるのではないかとの思惑が市場で生じると、足元の米ドルの堅調推移が崩れ、全面的な円高となる恐れもあるだろう。
 つらつら述べてきたが、世界の経済・企業収益等の実態悪化と、これまで「過度の楽観」に支えられてきた世界市場の「正常化」(=株価下落と外貨安・円高)は、これから一段と進展しそうだ。9月までに日経平均が1万6000円に向かう、という見通しは、全く変わらない。

 もちろん、一直線に株安が進むわけでもなく、「一進二退」のような様相が続きそうだが、今週の日経平均株価は、2万円~2万700円のレンジを予想する。
馬渕 治好 :ブーケ・ド・フルーレット代表、米国CFA協会認定証券アナリスト

最終更新:8月19日(月)6時00分

東洋経済オンライン

 

【あわせて読みたい】

【PR】Yahoo!ファイナンスからのお知らせ

【PR】Yahoo!ファイナンスからのお知らせ

平均年収ランキング

ヘッドライン