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「働く時間減らせばOK」と考える経営者の大誤解

8月19日(月)16時00分配信 東洋経済オンライン

今年4月から本格的に始まった「働き方改革」。定着したように見えますが、残念ながら本当に効果があるかは怪しいところです。日本の働き方改革が「機能不全」を起こしている理由とは?(写真:foly/PIXTA)
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今年4月から本格的に始まった「働き方改革」。定着したように見えますが、残念ながら本当に効果があるかは怪しいところです。日本の働き方改革が「機能不全」を起こしている理由とは?(写真:foly/PIXTA)
 近年、官民問わず広く推進されてきた「働き方改革」は、もう完全に定着した感があります。最初はさまざまな異論や疑念などが発せられていましたが、日本人の適応能力の高さというか素直さというか、どんな会社でも「もう起こってしまったことは仕方がないので粛々と進めよう」という雰囲気になっています。

 徐々に、メディアなどでも働き方改革については議論されなくなっています。ですが、当初「問題視されたこと」がとくに解決されたわけではありません。本稿では、今一度、働き方改革の意味と問題点について考えていきます。
■本来の目的は「生産性の向上」

 政府の言う働き方改革の目的は、少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少や、介護の増加などによって働く人の総数が減っているため、働くことを阻害するものを減らし、人々が働きやすくすることで生産性を向上させ、これまでの日本の生産力=経済力を維持・向上させようということでした。

 確かに、日本は世界主要国の中でも生産性の低い国であるとよくいわれます。この「生産性」とは、一般的には、投入した資源(インプット)と、産出した成果(アウトプット)の比率を指します。
 つまり、生産性とは、「労働による成果(≒利益、付加価値)」÷「労働投入量(≒労働時間、人件費)」という計算式で表せるもの。同じ労働時間、人件費で生み出す付加価値、利益がどれくらいになるかを示す指標です。

 この計算式を考えれば、生産性を上げる方法は2つしかありません。分母(労働時間、人件費)を減らすか、分子(利益、付加価値)を増やすかです。どちらかができれば、生産性は向上します。

 まず前者ですが、人件費を減らすと言っても基本給などの報酬水準を単純に減らせば、社員は納得いくはずがありません。すぐにモチベーションの低下につながるのがオチで、生産性向上に対してマイナスの効果が働きます。
 ですから、結局は「少ない労働時間で同じ成果を上げる」ということを目指す、つまり労働時間をいかに削減できるかという問題に行き着くわけです。

 今の政府や企業が行っている施策の多くが、「労働時間を減らす施策」です。例えば、時間外労働の上限規制(原則月45時間、年間360時間)は、残業代が減ることで人件費が減ります。

 「高度プロフェッショナル制度」も、労働基準法に定められた労働時間、休憩、休日および深夜の割増賃金に関する規定を適用しない制度です。フルタイムでなくても働きやすいようにするとか、ワークライフバランスとか、これも結果的には「少ない時間で働ける」ことを推進している施策です。
 現状の働き方改革は、生産性を上げるためにインプットを減らすことばかりに注力しているといってよいでしょう。

■働き方改革の「大きな見落とし」

 このように労働時間短縮(時短)ばかりを進めようとするから「働き方改革」が、「働かない方法の改革」とか「休み方改革」であると揶揄されてしまうわけです。さらに、ここには大きな問題が隠れています。

 理屈では、確かに同じ利益(付加価値)を少ない労働時間、少ない人件費で出すことができれば生産性は上がります。ですが、実際にそうはなりません。
 というのも、もし働く人の能力が変わらない状態でインプットである労働時間を減らせば、利益(付加価値)とは結局「労働時間」と「能力」の積ですから、アウトプットは減ります。前述した分母(労働時間、人件費)だけでなく、分子も(利益、付加価値)も減るわけですから、生産性は決して向上しないのです。

 これまでの流れを式で表現してみますと以下のようになります。

①「利益(付加価値)」=「労働時間」×「能力」
②「生産性」=「利益(付加価値)」÷「人件費≒労働時間」
③「能力」=「労働時間」×「能力」÷「労働時間」
 「生産性」の正体が、働く人の「能力」であることがわかります。つまり、「働き方改革」とは、働く人々の能力を向上させることなのです。にもかかわらず、「能力の向上」に手をつけずに労働時間を減らせば、それに連動して利益も減ることになり、結局、生産性が向上することはないでしょう。

 「短い時間で成果を出さなくてはならなくなれば、各自工夫して能力向上するのでは?」という意見もありますが、それはあまりにも楽観的な考えに思えます。多くの人は、「こうすれば評価され、こうすれば非難される」というインセンティブを作っただけで、そのとおりに動けるほど自律的ではありません。
 生産性の向上という本来の「働き方改革」の目的を実現するのであれば、最初は社員やチームの能力開発を先行させなくてはなりません。「短い時間で同じ成果」を出せる「能力」を身に付けるしかないのです。

 具体的には、暗黙知のままになっている仕事をマニュアル化や仕組み化などによって形式知化し、ノウハウ展開が可能となる素地作りを行う。そして、社員の不足する能力を見極めて目標設定を行い、その能力を獲得できるような仕事への教育的観点からアサインを行ったり、研修やトレーニングを実施したりするということです。
■求められるは「人材育成」

 能力開発をする前に時短を先行させてしまうと、能力開発に悪影響を与える可能性があります。まず、短時間で成果を出そうとすると、どうしても人材育成は後回しになります。また、仕事を教えるために共同作業したり同行させたりするなど、短期的な生産性の観点からはダブルコストになるようなことは敬遠されるようになります。

 仕事上のすべての知識やスキルを形式知化するのは至難の業ですから、「見て学ぶ」ことは仕事において大変重要なのですが、それができなくなるのです。形式知化されたものはオンラインセミナー等でも学ぶことは可能ですが、そうでないものは引き継がれずに失われていく可能性があります。
 残念ながら政府の進行プロセスは「時短」が先行しています。時短は時短で大事ですが、本来なら企業の能力開発を支援するために、例えば、教育研修費の損金算入の拡大や、ポテンシャル人材を採用した際の人件費への補助金を出すなど(制度として何が適当かはわかりません。あくまで例です)に最初に力を入れたほうがよかったのではないかと思います。

 しかしそう言っていても、もう仕方ありません。企業はまず「働き方改革」は、現在のような「労働時間の削減」ではなく、「個々人の能力開発」が最重要課題であるということを理解することが重要です。そして、改革の順序を、「能力開発の実施」→「労働時間を短くする制度の導入」という順番に変更していくことが望まれます。
曽和 利光 :人材研究所 社長

最終更新:8月19日(月)16時00分

東洋経済オンライン

 

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