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ムスリムがみそ煮込みうどん店に殺到するワケ

8月18日(日)6時10分配信 東洋経済オンライン

名古屋市千種区にあるみそ煮込みうどん専門店「山本屋 大久手店」にはムスリムの客が月に300人訪れ、手羽先も食べる(写真:青木さん提供)
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名古屋市千種区にあるみそ煮込みうどん専門店「山本屋 大久手店」にはムスリムの客が月に300人訪れ、手羽先も食べる(写真:青木さん提供)
 日本人にとってはあまりなじみがないが、ベジタリアンや宗教上の理由で肉を食べない人が世界中にはたくさんいる。彼らが日本へ旅行したときに困るのが食事。東京や大阪ではベジタリアン(ヴィーガンも含む)やイスラム教徒向けにハラール対応している和食店は増えつつあるが、名古屋ではインド料理やトルコ料理、モロッコ料理などが中心。せっかく日本に、それも名古屋へ来たのに、名古屋めしが食べられないのである。

 そんな中、名古屋市千種区にあるみそ煮込みうどん専門店「山本屋 大久手店」は昨年12月より、ムスリム対応のみそ煮込みうどんをはじめ、手羽先やみそ串かつなどの名古屋めしの販売をスタートさせた。
■ムスリムの友人に店の料理を食べさせたい

 「店を継ぐ前に、中古の建設機械をマレーシアやインドネシア、サウジアラビアなどに販売していました。取引していた外国人バイヤーは今でも友人としてつき合っていまして、彼らにみそ煮込みうどんを食べてもらえないかと思ったのがきっかけです」と、話すのは、店の5代目で山本屋の専務取締役、青木裕典さんだ。

 「山本屋 大久手店」では、2014年ごろからインバウンドにも積極的に取り組んできた。多言語のメニューを作成しただけではなく、うどんの手打ち体験を企画して、海外の旅行情報サイトに載せた。
 その内容は、名古屋の食文化や八丁みその歴史、みそ煮込みうどんの発祥などの話を聞いた後、麺のこねと延ばし、切りを実際に体験してもらうというもの。もちろん、自分が打った麺は食べることができる。これが大ヒットとなった。

 「食事に親子煮込みうどんのほかに天ぷらとみそおでん、ご飯、漬物が付いて参加費は4200円。しかも、開店前の10時と客足の少なくなる16時のスタートにもかかわらず、満員御礼。中国人の富裕層が多かったので、アルコールを追加注文したり、高いワインもよく出ました」(青木さん)
 中国人観光客の「爆買い」ブームが終わると、うどんの手打ち体験の申し込みもだんだんと少なくなっていった。そんな背景もあり、ハラール対応メニューは、これから増加するといわれるイスラム圏からの観光客の来店にもつながると思った。そこで青木さんはハラールについて認証の手続きなどについて調べた。

 「ハラール認証の飲食店として登録するには年間約100万円から200万円と、ものすごくコストがかかることがわかったんです。もともとは友人に食べさせたいと思って始めたことですし、月に10人くらい来てもらえればという程度の考えでしたから、諦めざるをえませんでした」(青木さん)
 しかし、ひょんなことから東京・浅草に本社があるフードダイバーシティの代表取締役、守護彰浩氏と出会い、ムスリム対応の飲食店は、ハラール認証団体からの認証取得を受けないまま商品を提供しているところが大半であることを知った。

 そこで、ムスリム対応の店が情報を公開し、食べられるかどうかはムスリム(イスラム教徒)に判断してもらうという「ムスリムフレンドリー」という事業に参加することにした。

 「ハラールは必要不可欠ですが、イスラム教の宗派ごとにさまざまな考え方があるんです。すべてに対応するのは不可能ですし、実は全世界共通の基準も存在しないんです。ムスリムに開示するのは、ハラールに対する6つのポリシーです。それを見て、店を利用するかしないかをムスリムの判断に委ねるというわけです」(青木さん)
■目指すのはフードダイバーシティを軸とした街づくり

 「ムスリムフレンドリーポリシー」は、以下のとおり。

(1)当店は第三者機関によるハラール認証は受けておりません。
(2)厨房は一般調理も行うため、ムスリム専用ではありません。
(3)ムスリム対応メニューにおいて、食肉はハラール認証を受けたものを使用。
(4)ムスリム対応メニューにおいて、調味料もハラール対応したものを使用。
 ※ハラール認証のないものは内容成分を確認して使用。
(5)まな板や包丁、ボール、フライヤーなどの調理器具は分けて使用。
(6)希望がある場合は使い捨てのフォーク・ナイフ・割り箸の対応可能。
 (3)の食材と(4)の調味料で、店の看板メニューである鶏肉と卵が入った「親子入り味噌煮込みうどん」を作る場合、大豆と塩のみで仕込む八丁みそも水と小麦粉だけで打つ麺も問題ない。

 また、ベースとなる鰹だしも魚なので問題ない。具材の卵やネギも普通に使用している。唯一、ネックとなるのが鶏肉だ。イスラム教のルールに従って処理したものでなければならないというルールがある。
 「ハラールチキンは、業務用食品スーパーでも入手できるんですよ。トルコ料理店やブラジル料理店のために用意しているのだと思います。

 また、ハラールと知らずに使っている日本の料理店も多いと思います。実はハラール対応のみそ煮込みうどんに入れるのを諦めた具材があります。それはかまぼこです。酒精が入っていますから、ムスリムには御法度なんです」(青木さん)

 かまぼこのみならず、日本の食べ物や調味料はアルコール成分が入っているものが多い。
 ハラール対応の和食店が頭を抱えているのが、料理酒やみりんだ。ゆえに、メニューはかなり限定されるが、「山本屋 大久手店」では「親子入り味噌煮込みうどん」(1150円)のほか、にハラールチキンを使った「味噌串かつ」(3本500円)や「天むす」(2個480円)、「手羽先」(5本850円)など、いわゆる名古屋めしを中心に7種類のメニューを用意している。

■食材より大変だった調理器具

 食材や調味料選びにはかなり気を遣うが、いちばん大変だったのは、(5)のハラール対応メニュー用に調理器具を別に用意しなければならなかったことだ。通常、串かつや手羽先などは業務用のフライヤーで揚げる。ハラール専用のフライヤーを新たに導入するにはコストがかかるため、フライパンを使っている。
 「ムスリムのお客様が来店したときのオペレーションに慣れるまでが大変でした。調理は主に私の父が担当していますが、普段とは勝手が違うので、文句を言いながら作っていました。でも、今はムスリムのお客様がみそ煮込みうどんや手羽先を喜んで食べている姿を見て、感動しています(笑)」(青木さん)

 現在、「山本屋 大久手店」に来店するムスリムは月に約300人。その8割は在留者で2割は観光客だという。皆、食べたものをインスタグラムなどのSNSにアップするため、店の評判は口コミでどんどん広がっている。
最近では、ハラール対応のみならず、ベジタリアン向けのメニューも考案しているほか、青木さんはほかの飲食店にも積極的にハラール対応を勧めている。

 「将来は、観光スポットを中心に、ハラールやベジタリアンに対応した宿泊施設や飲食店、お土産物店などのネットワーク、“フードダイバーシティ”を構築できないかと思っています。イスラム圏からの観光客の利便性をアップさせることができれば、街の活性化にもつながると思っています」(青木さん)
永谷 正樹 :フードライター、フォトグラファー

最終更新:8月18日(日)6時10分

東洋経済オンライン

 

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