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「合意なき離脱」はヨーロッパ全体を傷つける

8月15日(木)5時00分配信 東洋経済オンライン

EUからの「合意なき離脱」問題に揺れるイギリスの金融街シティー(記者撮影)
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EUからの「合意なき離脱」問題に揺れるイギリスの金融街シティー(記者撮影)
イギリスのボリス・ジョンソン新首相は、今年10月末には何があってもEU(欧州連合)から離脱するとし、「合意なき離脱」も辞さない構えを繰り返している。
こうした状況をイギリスの金融業界はどう見ているのか。
イギリスの金融サービス業界とその周辺産業を代表する業界団体「ザ・シティーUK」のロンドン本部で戦略部門を担当するマネジング・ディレクター、ゲイリー・カンプキン氏に聞いた。

■「市場の分裂」はイギリス、EU双方に打撃
 ――ジョンソン新政権に望むことは何ですか。

 できるだけ早期にブレグジットに関してEUと合意に達し、産業界に先行きの確実性をもたらすようにしてほしい。

 イギリスの産業界は今、非常に強い不確実性の中にある。「合意ありの離脱」であれば、激変緩和措置としての移行期間がもたらされ、不透明感が薄らいだ中でEUとの将来関係についての重要な交渉に進むことができる。これは他のEU27カ国にとっても重要だ。さらに、日本やアメリカなど、イギリスとの自由貿易協定交渉を望むEU域外の国々にとっても大切なことだ。
 イギリスの金融サービス産業とその周辺産業は国内最大の納税者であり、最大の貿易黒字を計上している。イギリス全体で230万人の従事者を抱える巨大産業でもある。われわれは自由で、開放された市場を望んでいる。そこからわれわれの優位性も生まれている。人材や技術へのアクセスなど、国際的なコネクティビティ(連結性)を通じた競争力強化の政策を進めてもらいたい。

 ――市場では「合意なき離脱」の予想も高まっています。
 われわれは「合意なき離脱」を支持しない。各金融機関は「合意なき離脱」に備えて顧客へのサービス提供を継続するためのコンティンジェンシー・プラン(緊急時対応計画)を用意している。だが、「合意なき離脱」はイギリスだけでなく、他のEU諸国にもダメージを与える。

 最大のリスクは、欧州の価値提供力が低下することだ。市場のフラグメンテーション(分裂)が進むことで、金融サービス業のコストが上昇し、競争力が低下する。EUの市場や企業にも同様の悪い影響を与える。
 市場の分裂は、市場機能が必ずしも欧州の金融センターへ移ることではなく、ニューヨークやシンガポール、香港といった国際金融センターへと移ることも意味する。なぜなら、金融サービス業にとって重要なのは、資本リスクを防ぐ市場の流動性の厚みであり、EU27カ国の市場ではすぐに実現はできないからだ。

 もしイギリスがEUを離脱すれば、世界の金融センターのトップ5はすべてEU域外となる。それがEUにとって何を意味するかをよく考えるべきだ。
■ロンドンの優位性に他の欧州都市は追いつけない

 ――世界の金融センターとしてのロンドンの強みをどう考えますか。

 第1に、長い歴史の中で蓄積された専門性。金融サービス自体に加え、法務や会計など関連サービスの莫大な集積によって形成されたエコシステム(生態系)における専門性だ。

 ロンドンがイギリス内の最大市場だが、230万人の関連従事者の3分の2はロンドン以外(エジンバラやマンチェスターなど)の市場が占めており、地域の金融センターも成長している。
 第2にはコモン・ローを基礎としたイギリスの法律や裁判所制度の優位性がある。第3にはイギリス国内だけでなく、世界中から有能な人材が集まってくることだ。

 ロンドンに来れば、金融やビジネスにおける世界トップレベルのキャリアを積むことができる。そのほか生活や教育の質の高さやタイムゾーン(時間帯)における優位性などを含め、他の欧州の都市がすぐには追いつけない総合力がある。

 ――ブレグジット後もイギリスは金融面での競争力を維持することができるでしょうか。
 私は楽観的だ。イギリスの金融界は国際的関係を強化している。日米などの先進国だけではなく、新興国との関係も深めている。世界で保護主義の台頭が懸念される中、イギリスはWTO(世界貿易機関)の再活性化を図り、財の貿易に比べて遅れたサービス貿易のグローバルなルールの整備に力を注いでいる。

 ロンドンとイギリスは金融サービスにおける国際的システムのハート(心臓部)といえ、そのことが日本を含め、世界の金融機関がイギリスに拠点を維持したいと考える理由といえる。
 イギリスはブレグジット後、規制や税制、移民政策など競争力維持のための政策であらゆる選択肢を持つ。そして、国際金融センターとして、コーポレート・ガバナンスなど市場の高いスタンダード(基準)とクオリティー(質)を維持していく。

■アメリカや中国との関係も強化していく

 ――アジアインフラ投資銀行(AIIB)に真っ先に参画するなどイギリスは近年、金融面で中国との関係も強化しています。そうした中で米中貿易戦争も激化しています。
 現実的にわれわれはアメリカと良好な関係を維持したいし、巨大で成長力のある中国との関係も強化したい。中国は「一帯一路」構想にみるように野心的であり、イギリスは中国の野心を支援する特別な専門性を持つ。

 人民元の国際化においても、取引する最適な場所は最大市場のロンドンだ。中国が積極化しているグリーンファイナンスにおいても膨大なビジネス機会がある。金融サービス面だけではなく、法務やプロジェクトのアドバイザリー業務の面でも専門性を提供できる。
 もちろん、貿易戦争は難しい問題だ。日本と同様、イギリスは保護主義から利益は得られない。われわれには国際的な国家としてのDNAがある。

 ――日本企業の動向についてはどう見ていますか。

 イギリス経済に対する日本企業の関与は非常に重要であり、日本からの投資をこれからも歓迎している。シティーUKのメンバーにも日本の金融機関が入っており、最も国際的な市場で国際的なビジネスを行っている。

 イギリスに進出した日系自動車産業の決断(撤退や生産縮小など)について言えば、それはブレグジットによるものではなく、(電気自動車など)最新技術の変化やグローバル市場の変化が背景にあると認識している。
中村 稔 :東洋経済 記者

最終更新:8月15日(木)5時00分

東洋経済オンライン

 

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