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「ありがとう」と言える上司が得する科学的根拠

8月15日(木)6時10分配信 東洋経済オンライン

いくら仕事ができても、「礼儀」を欠くリーダーでは成功できません(写真:xiangtao/PIXTA)
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いくら仕事ができても、「礼儀」を欠くリーダーでは成功できません(写真:xiangtao/PIXTA)
なぜ本当にできる人は、不機嫌にならないのか?  「職場の無礼さ」の研究に20年を捧げた著者の集大成となる『Think CIVILITY(シンク シビリティ)「礼儀正しさ」こそ最強の生存戦略である』が発売1カ月で5万部を突破した。

「職場の上司に読ませたい」などの声が集まる本書では、今求められるリーダー像が記されている。会社で自分の地位を上げたいと思ったら、まず仕事で成果を上げることが必要だ。しかし、実際はそれだけではないということが研究でわかってきているそうだ。いったいどういうことか、本書を一部抜粋のうえ、再編集してお届けする。
■少し無礼なくらいの方が出世できる? 

 あなたの職場の同僚や上司を想像してみてほしい。

 同僚は廊下であなたに会えばほほ笑みかけ、あいさつをしてくれるか。上司は、部下に仕事を「どうかお願いします」と頼み、完了してくれたときには「ありがとう」とお礼を言ってくれるか。

 皆の上に立つリーダーは、ただ下の者に命令するだけではなく、会話をしたほうがより礼節ある態度といえる。そして、よい仕事をした部下は、時間を取って称賛することが重要だ。
 しかし、職場というところでは、こうした礼節ある言動が非常に珍しいものになってしまうことがある。

 私がこれまでに会った経営者や管理職のほとんどは、礼節が大切だとする私の意見には明確に懐疑的な姿勢を示した。

 もし自分が一歩踏み出して、部下を丁重に扱ったら、自分の権威をもはや尊重しなくなるのではないかと恐れたのだ。彼らはとにかく厳しく、粗雑な態度、傲慢な態度を取り、自分を遠い存在に感じさせるべきだと信じていた。少し無礼なくらいのほうがビジネスの世界では出世できると考えていたのだ。
 私の実施したアンケート調査では、回答者の40パーセント近くが、仕事の場で下の人間に優しく接したら、それに付け込まれるのではと恐れていた。そして、半数近くが、自分を誇示するのが言うことをきかせる最良の方法だと考えているとわかった。

 しかし、この考えは現代には当てはまらないらしい。

 礼節ある人は出世が早く、仕事で優れた業績をあげる可能性が高い。本当だろうか、と疑う人もいるだろうが、間違いなくそうだと断言できる。いくつか例を紹介しよう。
■礼節ある人は採用されやすい

① 声がかかりやすい
 まず言えるのは、礼節ある人には、「声がかかりやすい」ということである。何かを一緒にやろうと誘われる機会が多い。

 考えてみてほしい。あなたが仕事中、同僚に何か手伝ってもらう必要が生じたとき、声をかけるのはどういう人だろうか。いつも親切で愛想のいい人だろうか。それとも、より有能だが、態度が大きくて無礼な人だろうか。

 こう尋ねると、多くの人が「それはもちろん有能な人だ。仕事なのだから大事なのは能力だ」と答える。しかし、実際の行動は言葉とは違うことがわかっている。
 職場での人間関係について1万人以上を対象に行われたアンケート調査ではこういう結果が出た。

 協力を頼む同僚を選ぶ時は、自らに「この人と働くと楽しいだろうか」と問いかける人のほうが、「この人は、手伝ってもらう仕事に詳しいだろうか」と問いかける人よりも多い。

 つまり、他人に優しく接している人、気分のいい接し方をしている人のほうが、声がかかりやすいということだ。人に何かを頼まれる機会が多ければ、能力を証明する機会も多くなるし、いい評判も広まりやすくなる。そしてますます、選ばれる機会が増えていく。
 こうして、「能力はあるけれど無礼な人」との差は時間が経つごとに開いていく。

 私の知る限りでは、法律事務所や医療機関でもやはり同じらしい。上席弁護士や医師を採用する際には、同様のことが起きる。長期間ともに働き、重要な職務を担ってもらう人を雇う際には、たとえ能力はあっても無礼な人は避けたいと考えるようだ。

 その人が重要であるほど、礼節を重視する傾向は強まる。

 何度かの合併を繰り返したあるコンサルティング会社でも、礼節ある人を長く雇用し、昇進もさせているという。とくに合併により、多様な人々がともに働く状況になったことから、その中でも皆とうまく関わることができ、種類の違う人とでも垣根なくコミュニケーションできる人が求められるようになった。
 他人との関わりに問題がある人や、他人への親切心、尊敬がないと思われる人は、雇いたがらないということだ。

② 幅広い人脈が築ける
 次に、礼節ある人はそうではない人よりも、たやすく大きな人的ネットワークを築くことができる。ネットワークが大きくなればそこに有能な人が含まれている可能性も高まるだろう。ソーシャルメディアなども発達した現代では、自ら積極的、活発に動き回って大規模な人的ネットワークを築こうとする人も多い。
 ただし、熱心なだけではネットワークはなかなか広がらない。それに加えて、その人に礼節がなければ周囲に人は集まってこないだろう。コンピューターのネットワークでの人間関係においても、礼節が重要な意味を持つと感じている人は多い。

 そのことは私たちの実施した調査の結果からも明らかである。礼節ある人は、発想、情報、人をつなぐ役割を果たすことができる。境界を越えることも容易にできるため、そういう人はソーシャルメディアだけではなく、当然、企業などでも力を発揮する。
 またネットワークの恩恵、利益を誰より多く享受するのも礼節ある人自身である。反対に、無礼な人には、ネットワークからの利益がもたらされることは少ない。ネットワークからは多くの助言、情報が得られ、キャリアアップの機会も得られるはずなのだが、無礼な人はそういうものから遠ざけられてしまう。

 あるアンケート調査では、礼節ある人は無礼な人の1.2倍、就職への推薦を受けやすいという結果も得られている。

■7万5000人以上を対象とした調査の結果
③ 周囲の人間から評価される
 もしあなたが企業の中でリーダーの地位まで上りつめたいと願うのなら、周囲の人たちにその地位にふさわしい人だと思ってもらう必要がある。

 私がサリー大学のアレクサンドラ・ゲルバシ、ロス・アンデス大学のセバスチャン・ショルチとともに実施した調査では、一般に礼節ある人(この調査では、他人の尊厳を認め、誰に対しても敬意ある礼儀正しい接し方をする、という人を「礼節ある人」と定義した)ほど「リーダーにふさわしい」とみなされやすいという結果が得られている。
 あるバイオテクノロジー企業を対象とした調査では、周囲から礼節ある人とみなされている人は、無礼だとみなされている人に比べ、「リーダーにふさわしい」と評価される可能性が2倍になるという結果が得られた。

 また企業内での業績も約13パーセント、礼節ある人のほうが高いというデータもある。自分が礼節ある人間であるという証拠を見せると、周囲の人に有能なリーダーと思われやすくなるということもわかっている。

 7万5000人以上を対象とした国際的な調査では、優れたリーダーとみなされている人の多くが、他人から「思いやりがある」「協力的」「公平」という評価をされているとわかった。
 世界各地の合計2万人の会社員を対象に私が実施した調査でも、「敬意ある態度で人に接する」ということが、リーダーが皆の忠誠心を勝ち得るうえで何より重要だとわかった。

 同種の69の調査結果をまとめて分析した研究者によれば、今、望ましいとされるリーダー像は昔とは違ってきているという。今、望ましいとされるリーダーは、「気配り」「優しさ」「思いやり」など従来「女性的」とされてきた資質を持った人らしい。

■知性ある人は他人に対して無礼に振る舞わない
 もちろん、最も地位向上に役立つのは、仕事で成果を上げることである。ただ、礼節ある態度がその後押しになることも確かだ。

 礼節ある態度とは例えば、人に感謝する、人の話をよく聞く、わからないことは謙虚に人に尋ねる、他人のよさを認める、成果を独り占めせずに分かち合う、笑顔を絶やさない、といったことを指す。こうした態度は業績の向上にも役立つ。

 礼節ある態度は賢明さの表れだ。知性のある人は他人に対して無礼には振る舞わないだろう。礼節ある態度を保っていれば、あなたはよい人間になれるし、成功を収めることもできる。それ以上によいことはあるだろうか。
 成功しているリーダーの中には態度が無礼な人もいるではないかという反論もあるだろう。そうした人たちは、無礼であるという不利な条件をはねのけて成功しているということだ。無礼でなければもっと楽に成功できたかもしれない。

 いくつかの調査により、失敗するリーダーの多くには、無神経、人を不快にさせる、弱い者いじめをする、という共通の性質があるとわかっている。またその次くらいに多く見られるのが、よそよそしい、傲慢といった性質だ。
 もちろん、たとえひどい性質の持ち主でも、権力があれば多くの人は従うだろう。しかし、日頃から無神経な、敬意のない態度で接していると、とくに重要な場面で従業員は助けになってくれないおそれがある。従業員は情報の共有を渋るかもしれないし、できるはずの努力を怠り、使えるはずの資源を使わない可能性がある。

 しっぺ返しは意外に早く、しかもまったく油断しているときにやってくるかもしれない。また、そのしっぺ返しが意図的なのか無意識なのかは、本人にさえわからないことが多い。
 あなたが職場の管理職にしろ、小さなチームのリーダーにしろ、ともかく人の上に立つ人間であれば、ほんの少しのことに気をつけるだけで大きく評価を上げられるということだ。

 ぜひ、勇気を持って礼節ある態度を取るべきだ。そうすれば間違いなく、あなたと接した人は喜んでくれる。そしてきっとあなた自身にとっても喜ばしい結果が待っているはずだ。
クリスティーン・ポラス :ジョージタウン大学マクドノー・スクール・オブ・ビジネス准教授

最終更新:8月15日(木)6時10分

東洋経済オンライン

 

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