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米利上げ8回分の「ドル高の重み」、解消に伴い100円割れも視野

8月15日(木)11時30分配信 ダイヤモンド・オンライン

パウエル議長(写真)率いるFRBの利下げ決定後も、ドル相場の高止まりは続いている  Photo:Federal Reserve
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パウエル議長(写真)率いるFRBの利下げ決定後も、ドル相場の高止まりは続いている Photo:Federal Reserve
 8月以降、さまざまな材料が交錯しているものの、基本的には「行き過ぎた利上げを背景に米連邦準備理事会(FRB)がハト派へ急旋回し、その結果として米金利とドルが全面的に低下する」というシナリオが着々と進んでいる最中だと考えて差し支えあるまい。

 何をおいても「米金利が低下する」というのが金融取引の大前提であり、そうした中でドル円は上を目指せない。もともと順調に進んできたそうした基本シナリオが米中貿易戦争の激化や香港デモ、そして日韓関係の緊迫化なども相まって予定よりも早いペースで進ちょくしているという理解である。引き続き予測期間中(今後1年間)で1ドル=100円割れが視野に入るという筆者の基本認識は不変だ。

 ところで、市況が荒れる中でもファンダメンタルズの動きにも目を配りたい。とりわけ物価動向に気になる動きも見られ始めている。8月9日に公表された米生産者物価指数(PPI)は食品とエネルギーを除くコアベースで前月比0.1%低下と、上昇を見込んでいた市場予想の中心(同0.1%上昇)を裏切る結果が示された。

 コアPPIが前月比で下落するのは2年ぶりだ。なお、前年同月比では2.1%上昇となっているが、これも2年ぶりの小さな伸び幅だった。世界経済が減速する中、総需要が縮小しているため、物価の上流に当たるPPIの動きが鈍ってくるのは平仄(ひょうそく)が合う。

 だが、トランプ米大統領の口先介入や中央銀行(FRB)の利下げ転換をもってしてもドル相場の高止まりが続いていることも事実であり、これが物価伸び悩みの一因となっている可能性がある。
 円やスイスフラン、そして近年ではユーロといった通貨は世界経済の減速局面で買われやすい性質を持つが、為替市場全般で見ればドルもその他多くの通貨に対して逃避的に買われやすい通貨だ。例えば8月6日以降の1週間を振り返ると、ドル円が年初来安値を捉える一方、ドルインデックスはほぼ横ばいである。

 2015年以降、FRBが利上げで独走する状況下、世界の運用難民がドルに殺到しドル高となった。その際、「世界経済が不調の際に米国だけ単独で利上げしても、結局、通貨高で不況を輸入するだけ」という論調が見られたが、厳密にはFRBの金融政策にかかわらず、世界経済が不調の際にはドルに資金が寄りやすい面はある。

 それでもこれほど鮮やかにハト派に急旋回したのだからもっとドル安になっても良さそうなものだが、やはり低下したとはいえ先進国の中では依然として金利水準が相対的に高く、また信用力も捨て難いということなのだろう(もっとも、10年金利の1.5%台定着も現実味を帯び始める中、今後もその理屈が通るとは限らないが)。

● ドル高と合わせれば17回の利上げ効果?

 ドル高が米経済にもたらす引き締め効果についてはブレイナードFRB理事の講演において有名なフレーズがある。2016年9月12日、『The "New Normal" and What It Means for Monetary Policy』と題した講演においてブレイナード理事は「FRB/USモデルの推計に従えば、2014年6月から今年(2016年)1月までのドル相場上昇は米経済活動にとって、おおむねフェデラルファンド(FF)金利にして200ベーシスポイント(bps)の利上げに相当した」と述べたことがあった。

 同期間(2014年6月2日から2016年1月29日と仮定)のドル高は国際決済銀行(BIS)が公表する日次の名目実効為替相場ベースで約21.6%だった。ということは、1%のドル高で約9bpsのFF金利上昇と同じ効果を持つという話になる。

 さらに、2014年6月2日から利下げ前日となる2019年7月30日までの期間でドル高を評価してみると、約21.6%と全く変わっていない。その間に9回利上げしたことを考慮すれば、合計425bps(25bps×9回+ドル高分の200bps)。25bpsの利上げにして17回分の利上げが行われた計算になる。

 17回と言えば、グリーンスパン元FRB議長が主導した2004年6月から2006年6月までの連続利上げ回数と同じだ(最後の3回だけは後任のバーナンキ元FRB議長が実施)。

 17回目の利上げ(2006年6月)の約1年後にパリバショックという形で金融バブルが崩壊したことは周知の通りである。今回は9回分の利上げ(2018年12月)の半年後(2019年7月)に利下げが行われており、金融政策の舵取りは金融バブルが崩壊した当時よりも性急な印象を受ける。

● ドル全面安の展開で押し上げられる通貨

 なお、上記のBISデータに関し、本稿執筆時点で最新となる2019年8月6日まで引っ張って見ると、ドル高の幅は約22.9%と拡大する格好となっており、米経済が体感する通貨高の重みはむしろ足元で増している感も覚える。

 もちろん、商品価格や株価、外需の動向など所与となる条件も絶えず変化し米経済に影響を及ぼし続けているため、利上げ効果の適否についてはさまざまな議論があり得る。しかし、実質17回という利上げ効果が金融バブル時ほど過熱感のない株式市場を一気に冷え込ませ(それが政治圧力も引き起こし)、当時よりも追い込まれ感のある利下げに至った可能性は否めない。

 激しいリセッションまでは見込めないことから9回分の糊代(のりしろ)を全て使わされるような展開は今のところメインシナリオになり得ないが、FRBによる利上げ8回分とも試算されるドル高部分については幅を持った修正が期待できると筆者は考える。

 ドル全面安の下で円やユーロ、スイスフランといった通貨が相対的に押し上げられるというのが当面の為替相場の潮流として最もありそうな展開ではないだろうか。

 (みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト 唐鎌大輔)

 *本稿は唐鎌大輔氏の個人的見解であり、同氏の所属機関とは無関係です。
唐鎌大輔

最終更新:8月16日(金)18時25分

ダイヤモンド・オンライン

 

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