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ラグビーで多発?スポーツ界の「和製英語」問題

7月24日(水)9時00分配信 東洋経済オンライン

今回は、ラグビーにまつわる英語表現を交えながら、スポーツ界における和製英語の是非を検討してみました(写真:taka/PIXTA)
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今回は、ラグビーにまつわる英語表現を交えながら、スポーツ界における和製英語の是非を検討してみました(写真:taka/PIXTA)
 ラグビーワールドカップの日本大会が近づいているせいか、最近テレビや広告などでラグビーの日本代表選手を見かける機会が多くなりましたね。思えば、2015年のワールドカップで日本代表が南アフリカ共和国に勝利をしたときには、日本中でラグビー熱が高まって、一気にラグビーが身近なスポーツになった気がします。

 筆者の勤務している英会話イーオンは、2017年からラグビー日本代表選手やレフリーの方に英会話のレッスンをしています。レッスン以外にも、ラグビー英語を取り上げた教材をeラーニングのサイトで公開して学習してもらっているのですが、筆者はその教材の制作過程で、日本のラグビー用語に和製英語が含まれているということを知りました。
 今回は、ラグビーにまつわる英語表現を交えながら、スポーツ界における和製英語の是非を検討してみましょう。

■反則「スロー・フォワード」と「ノック・オン」

 ラグビーではプレーヤーがコートで自分のいる位置よりも前方にボールを投げると反則となります。ラグビーをよく知らない方は、もし試合を見ることがあったらプレーヤーがボールをパスするときに、横や後方にしか投げないのを確認してみてください。

 もしも前方にパスを出してしまうと「スロー・フォワード(Throw forward)」という反則を取られてしまいます。ボールを意図的に前方に投げたわけではなく、落とすだけでも反則となってしまいます。こちらは「ノック・オン(Knock on)」と呼ばれています。
 この2つの反則のうち、実はThrow forwardのほうが和製英語で、Knock onは英語でも同じ表現を使います。

× Throw forward → ○ Forward pass(スロー・フォワード)
○ Knock on(ノック・オン)

 スロー・フォワードは、英語ではForward passと言い、直訳すると「前方へのパス」という意味です。もしも英語でレフリーがThrow forward!  とコールをすると「前に投げなさい!」と、真逆のことを指示しているように聞こえてしまいそうですね。
 ノック・オン(Knock on)は英語ではLost forwardと言うこともあります。knockは「たたく」「当たる」という意味で、onはonward(前方へ)という意味ですので、「前にはじく」という感じの意味でしょう。Lost forwardは「前方に落とした」という感じに聞こえます。

 ノック・オンは、パスを受け取るときにうっかりしてしまうことがありますので、プレーヤーは体を前方ではなく、横に向けてパスを受けることもあるそうです。そうすれば、万が一ボールを落としても前方にいかず、ノック・オンになる可能性が低くなるらしいですね。
■ボールを離すの? 離さないの? 

 スロー・フォワードのほかにも、日本で使われている表現と英語の表現が異なるものがあります。

 ラグビーでは「ボールを持っているプレーヤーは、タックルをされて倒れてしまったときには、ボールを離さなければいけない」というルールがあるのですが、これを破ると「ノット・リリース・ザ・ボール」という反則を取られます。英語で書くとNot release the ballで、「ボールを離さない」というのをそのまま英語にした感じですね。
 でもこの反則が起きたとき、実際に英語では

Release the ball(ボールを離しなさい)
 とコールされます。Not release the ball! と言うと、Don’t release the ball(ボールを離してはいけません)みたいに聞こえなくもないですよね。先ほどのThrow forwardと同様に反対の意味になってしまいそうです。和製英語では、プレーヤーが行なっている行為を英語にしているのだと思われますが、これが命令形のように聞こえてしまうと「その反則をしなさい」という意味になってしまうのが厄介ですね。
 「ノット・リリース・ザ・ボール」は

Holding on(ノット・リリース・ザ・ボール)
Held on(ノット・リリース・ザ・ボール)
 とコールされることもあります。これは「(ボールを)持ったままの状態です」、「(ボールを)持ったままの状態でした」という意味です。日本語でもこちらをカタカナにして使用したらよかったのですけれどね……。あ、でもHold on! と命令形になってしまうと、「(ボールを)持ったままでいなさい!」となってしまうので、同じことですね。
 ラグビーにかかわらず、日本ではいろいろなスポーツにおいて和製英語が使われているようで、それらを問題視する声を耳にすることがあります。これについて、皆さんはどう思われますか。やはり、日本でも正しい英語表現を使うべきだと思いますか。それとも、和製英語のままでも別に構わないと思いますか。

 さまざまなスポーツで、和製英語が使われるようになったのにはそれぞれの事情があるのでしょう。そもそも、それらのスポーツが日本で始まったときや、用語が外来語に変更されたときに、どのような事情があれ、正しい英語表現が導入されていればこのような問題にはなっていなかったはず。
 でも、たとえそれらの用語が英語としては間違っているとしても、日本語の外来語としては受け入れて、使用し続けていいのではないかと基本的には思います。由来は英語でも、日本でできた新語なのであれば、日本語としては「間違っている」とか「おかしい」とかいう問題ではないと感じます。

■とはいえ、未来の日本人アスリートのことも考えると…

 ただ、気をつけたいのが、「それらの表現を英語だと勘違いしてしまうこと」です。
 とくにスポーツでは、プロや一流のアスリートであればなおさら、国際大会などで外国のアスリートと競技や試合をする機会が多くなります。レフリーも英語を使用する中で、その表現が理解できないというのは圧倒的に不利になってしまいます。その不安や混乱から、メンタルに影響して、思うように力を発揮できないかもしれません。

 相手の言うことがわからないだけでなく、自分が和製英語でコミュニケーションを取ろうとして、相手に通じないというのも避けたい状況です。
 そういった意味では、未来の日本人アスリートのことも考えると、スポーツに関してはどこかの段階で英語の表現に合わせていくというのは悪い考えではないと思います。これまでに使い慣れた表現を変更するというのは、かなりエネルギーのいることでしょうから、なかなか難しい問題ですが……。

 ラグビーの試合終了には「ノー・サイド」という表現が使われます。「ノー・サイド」と聞くと、ユーミンの歌を思い出すのは筆者の世代のせいでしょうか。歌になっているくらいですから、皆さんもこの表現は聞いたことがあると思います。でも、英語ではラグビーの試合終了はFull timeと言います。
× No side → ○ Full time(ノー・サイド)
 No sideの由来は「試合が終了したら、どちらのチーム(サイド)という区別なく、同じ仲間である」という精神に基づいていると聞いたことがあります。しかも、ほぼ日本でしか使用されていないようで、「ノー・サイドは和製英語だ!」と言われることもあります。でも、ちょっと調べてみたら、実はこれ英語表現としても正しいようですよ。

■目先にとらわれず、使い分けができるとスマート
 アメリカの有名なスポーツ専門チャンネルでESPNというのがあるのですが、イギリスにもESPNが存在します。アメリカではラグビーはそれほど人気がありませんが、イギリスではラグビーが盛んですので、イギリスのESPNのウェブサイトを見てみました。すると、この「ノー・サイド」の説明が載っていました。一緒に見てみましょう。

No side
Antiquated term used to describe the end of the match. Superseded by full time.
ノー・サイド
試合の終了を意味する古い言い方。フルタイムと言い換えられている。
 つまり、現在は使われていないようですが、もともとは英語だったということですよね。「和製英語だ!」と騒いだり、「間違っている!」と指摘をしたりするのは、ちょっとオーバーリアクションでしょう。

 ここまでラグビーにおける「和製英語」を取り上げてきました。やはり「よくないもの」と感じてしまう方も多いのではないかと思いますが、これは私たち日本人が、英語が苦手なことにコンプレックスを感じる傾向があるという背景もあるかもしれませんね。
 英会話教師らしからぬ発言かもしれませんが、日本国内では、(英語ではなく、あくまでも日本語であるとわかったうえで)堂々と和製英語を使い、国際舞台に出たときには、さっとスイッチを切り替えて、スマートに英語の表現を使うことができるのがいちばんカッコいいですね。ラグビーをきっかけに、ちょっと和製英語のあり方について考えさせられました。
箱田 勝良 :英会話イーオン TOEIC満点教師

最終更新:7月24日(水)9時00分

東洋経済オンライン

 

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