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英ジョンソン首相誕生で浮上する「管理された合意なきEU離脱」とは何か

7月24日(水)12時30分配信 ダイヤモンド・オンライン

EU離脱強硬派のジョンソン氏が英国の新首相に就任。「合意なき離脱」は行われるのか Photo:ロイター/アフロ
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EU離脱強硬派のジョンソン氏が英国の新首相に就任。「合意なき離脱」は行われるのか Photo:ロイター/アフロ
● ジョンソン首相が誕生 英EU離脱は強行されるか

 英国ではロンドン時間の7月23日、与党・保守党の党首選の結果が判明し、ボリス・ジョンソン前外相が新党首に選任され、第77代の首相に就任することになった。24日午後に就任するジョンソン新首相は、決選投票前に実施された保守党下院議員による予備投票でも着実に票を獲得しており、大差で勝利することが確実な情勢であった。

 ジョンソン新首相は10月31日までとされる欧州連合(EU)からの離脱の期日が到来すれば、「合意なき離脱(ノーディール)でも構わないので離脱を優先すべきだ」と主張する、典型的な離脱強硬派である。ただ金融市場では、ジョンソン新首相の就任は事前に織り込まれており、英国の通貨ポンドの相場は小幅下落にとどまった。

 メイ前首相による離脱交渉が不調に終わり、与党である保守党の支持率は急速に低下した。最新のユーガブ社の世論調査(7月16~17日調査)では、保守党が政党支持率で引き続きトップであるものの、わずか25%に過ぎない。その後は労働党21%、自民党20%、離脱党19%といずれも僅差で続き、実態としては四つ巴の状態にある。

 党勢の建て直しが急務である保守党にとっては、現実主義者である他の候補者よりも、カリスマ性があり強いリーダーシップが期待できるジョンソン前外相を前面に押し出した方が得策だという判断が、党所属の下院議員を中心に働いたものとみられる。ただ、ジョンソン新首相の誕生でどれだけ党勢の回復が見込めるかは未知数だ。

 実際、その保守党の中からもジョンソン新首相に対する造反が出始めている。マーゴット・英デジタル・文化・メディア・スポーツ担当閣外相をはじめ、ダンカン外務担当閣外相がジョンソン新首相の離脱方針を巡り辞任した。ハモンド財務相も新首相の方針に反対しており、辞任の意向を目指している。

 また世論との乖離も大きい。EU離脱を目指す離脱党と保守党の支持率の合計値(44%)と、EU残留を目指す自民党と労働党の支持率の合計値(41%)の差は3%ポイントに過ぎない。また交渉の膠着を期待して、保守党から離脱党に支持政党を鞍替えした有権者もいるが、彼らのすべてが必ずしもノーディールでのEU離脱を支持しているわけではない。
● 高まる「なし崩し的」 ノーディールの実現可能性

 今後のスケジュールを確認すると、議会は7月24日から9月4日まで夏季休暇に入る。さらに9月14日から10月9日まで、党大会ために議会は休会となる。10月のEU首脳会議が開催されるのが17日からの2日間であるため,わずか1週間あまりの時間で英議会が実りのある審議を行うことはまず不可能な情勢である。

 こうした中で、英議会での審議が不十分なままでノーディールが「なし崩し的」に実現するシナリオも取り沙汰されている。確かに、ジョンソン新首相はノーディールも辞さない立場を示しているが、一方で同首相は日和見主義者とも言われており、ノーディールの工程はあくまで保守党員の支持を固めるための方便に過ぎないと考えられる。

 むしろジョンソン新首相が本当に目指している路線は、「管理された」ノーディールにあると見られる。ノーディールを管理するというと、一見矛盾した響きを持つ概念であるが、つまり18年11月の離脱協定案は破棄しつつも、ショックを緩和するための緊急時対応策に関する最低限の合意をEUとの間で結び、離脱を強行するというものである。

 EUは離脱協定案の再交渉には臨まない方針であるが、事態の膠着にしびれを切らしていることもまた事実である。事態が前進する展望がないままで交渉の延期が続くくらいなら、最低限の合意の末に自らノーディールという「いばらの道」を歩む英国を引き留めなくてもいいとの声がEU内で高まっても不思議ではない。

● すでに英国・EU間で ノーディールへの対応が進む現実

 それに以前と比べて、英国とEUの双方でノーディールが生じた場合の対応の準備が進んでいると考えられる。そもそもノーディールで懸念されてきたことは、それまで原則的に自由であったヒト・モノ・カネの移動の自由が一夜にして制限され、経済活動に支障が生じることであった。

 そのため、当初の離脱期限であったロンドン時間19年3月29日午後11時が近づくにつれて、英国とEUは双方でノーディールを想定し、物流面を中心に出できる限り英国とEUとのやり取りをこれまでと同様の枠組みで行えるよう、緊急対応策をまとめてきた。その結果、ノーディールが生じた場合のダメージコントロールの仕組みはかなり整備されている。
 英国とEUの双方の企業にとっても、英国のEU離脱に伴う不透明感を受けて設備投資を手控えたり在庫を積み増したりするような状況が続くくらいなら、ノーディールという形で事態が決着した方がむしろ身動きがとりやすくなるかもしれない。こうした意味で、かつてほどノーディールは破滅的な意味合いを持たなくなっている。

 ただ、金融市場の反応はまた別である。実際にノーディールとなれば通貨ポンドの急落は免れない。輸入依存度が高い英国経済は、相応の悪影響を被ることになる。米中通商摩擦の激化を受けて投資家のリスクセンチメントが悪化していることもあり、ノーディールが世界的な連鎖株安のトリガーになる展開が警戒される。

● 10月再延期の末に 「管理された合意なき離脱」か

 もちろん「なし崩し的」なノーディールよりも「管理された」ノーディールの方が英国とEUの双方にとって経済的な打撃が軽い。保守党内にも少なからず存在する離脱穏健派を懐柔し、挙党一致での決定を演出するためにも、ジョンソン新首相は「管理された」ノーディールによる離脱を10月のEUサミットで提案するのではないだろうか。

 EUも交渉疲れが否めないため、離脱協定案の再交渉には臨まない従来のスタンスを翻し、管理されたノーディールによる離脱の実施に関しては交渉の窓口を解放するだろう。そのための準備期間として、離脱の期日をさらに3~6ヵ月ほど延期するというのが、現状のところ最も現実的なシナリオの展開になると予想される。

 サブシナリオとしては、英国内での議論が膠着する中でなし崩し的ノーディールが10月末に生じることや、10月までないしは離脱再延期後にジョンソン新首相に対する不信任案が下院で可決される可能性がある。後者の場合、英国は解散総選挙に突入することになるが、労働党と自民党による新政権が成立すれば、離脱撤回に向けた動きが加速する。

 確かに英議会は7月下旬から9月上旬まで休暇に入るが、水面下では様々な駆け引きが行われることになる。結論がノーディールだとしても、それが「管理された」ものになるのか、それとも「なし崩し的」なものになるのか、この間における英国内でのやり取りがどう動くかで、その方向が決することになる。

 (三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査本部 研究員 土田陽介)
土田陽介

最終更新:8月7日(水)20時25分

ダイヤモンド・オンライン

 

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