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英ジョンソン首相誕生後のシナリオを徹底検証

7月23日(火)15時00分配信 東洋経済オンライン

悪ガキのような言動で話題を振りまいたこの人が、ついに英国首相に(写真: REUTERS/Peter Nicholls)
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悪ガキのような言動で話題を振りまいたこの人が、ついに英国首相に(写真: REUTERS/Peter Nicholls)
 EU(欧州連合)からの離脱実現を目指す英国の次期首相に、2016年の国民投票で離脱キャンペーンを率いたボリス・ジョンソン元外相が就くことになりそうだ。新旧外相の争いとなった与党・保守党党首選の決選投票の結果は、日本時間の本日20時前に判明する。政府の離脱案に反対して外相を辞任したジョンソン氏が、残留派から離脱派に転向したジェレミー・ハント外相に大差をつけて勝利するのは確実だ。

 テリーザ・メイ首相は24日に女王陛下に辞意を伝え、与党党首に就任したジョンソン氏を後任候補に推薦する。いよいよジョンソン新首相が政権の舵取りを担うことになる。
■2つの顔を持ち、妄信的離脱強硬派ではない

 ジョンソン氏は2つの顔を持つ。1つは政界転身前に辛辣なEU批判記事を書くジャーナリストとして名を上げ、EU離脱派のリーダー的存在としての顔。もうひとつは、世界有数の国際都市であるロンドンの市長を2期8年務めたグローバル化やリベラリズムの体現者としての顔だ。

 異なる2つの顔を使い分けるジョンソン氏を日和見主義者と評する声も多い。2016年に盟友であるデービッド・キャメロン首相(当事)と袂を分かち、国民投票で離脱派に合流したのも、次期首相の座をにらんでの賭けだったと言われている。首相の座を争うジョージ・オズボーン財務相(当時)に対抗するため、同氏と立場が逆の離脱派を選択したとの見方もある。
 ジョンソン氏は今回の党首選を通じて「合意なき離脱」の可能性を排除しないことを明言してきた。ただ、何が何でも離脱実現を目指す一部の妄信的な強硬離脱派と異なり、合意なき離脱が混乱を引き起こす可能性を認識していることは、同氏のこれまでの発言から明らかだ。そのため、最後は合意なき離脱の回避に動くと楽観視する向きもある。

 ただ、残念ながら、ジョンソン新首相が自ら進んで合意なき離脱の回避に動くことは期待できない。それは、英議会やEUに対し修正後の離脱案の受け入れを迫るうえで、合意なき離脱を有効な交渉カードと考えているためだ。メイ政権下の離脱協議の失敗の1つは、合意なき離脱阻止に向けた議会の動きを封じ込めることができず、脅しが効かなくなってしまったことと考えているふしがある。今度こそ向こうが怖気づいてブレーキを踏むまで、チキンレースを続けようというわけだ。
 強硬離脱派の支持を受けたジョンソン新首相は今後、どのような離脱案をEU側に要求するのだろうか。

 前政権の離脱案の中で強硬離脱派が最も問題視したのは、北アイルランドの国境管理のバックストップ(保険)案だった。これは和平合意の趣旨に反しない国境管理の最終的な解決策が見つかるまでの間、一時的に英国全体がEUの関税同盟に残留するとの内容だ。強硬離脱派はこれを、半永久的にEUの属国になるおそれがあるとして拒否してきた。ジョンソン氏はバックストップの撤回とともに、技術活用による国境管理の解決を求めるとみられている。EU側はバックストップの撤回を明確に拒否しており、協議は平行線をたどることが予想される。
 10月31日の離脱協議期限までの日程を確認しておこう。

 英国議会は7月26日から夏季休会に入り、次に議会が召集されるのは夏休み明け後の9月3日となる。そこから2週間余り、議会を開催した後、秋に各党が党大会を開催するため、例年9月上旬から10月初旬にかけての3週間は再び休会となる。議会の再会から、EUと離脱協議での合意を目指す10月17・18日の欧州首脳会議までわずか10日余り、10月末の最終的な離脱協議期限まで20日余りしかない。
■またもや政府と議会の攻防戦、膠着状態へ

 強硬離脱派の首相が誕生したところで、議会の構成に変化はない。これまでの議会投票からも明らかな通り、議会では合意なき離脱の回避が多数意見となっている。そのため、合意なき離脱を排除しない政府方針に議会が歯止めを掛けることに期待する声もある。ただ、英国では原則として、野党に議会の審議内容を決定する主導権はない。合意なき離脱の阻止に向けた議会の介入は、あくまで法案に対する修正動議という形をとり、政府はその内容に法的に拘束されるわけではない。
 政府は、合意なき離脱の阻止をもくろむ野党勢や与党内の残留派議員に、極力、投票機会を与えないようにすることが予想される。また、ジョンソン氏は組閣にあたって、合意なき離脱の可能性を排除する人物を閣僚に登用しない方針を示唆している。過去に合意なき離脱に反対してきた与党議員の一部も、ジョンソン氏に同調し、合意なき離脱の可能性を排除しないと主張している。

 仮に議会が合意なき離脱を阻止する修正動議を可決したとしても、10月31日までに英国が離脱期限の再延長を要請し、EU側がそれを受け入れないかぎり、合意なき離脱を回避することはできない。再延長を要請するかは政府の判断によるもので、議会がこれを決定できるわけではない。
 ただ、議会には首相の暴走を止める最終手段がある。それは内閣不信任案を可決し、合意なき離脱を目指す首相を退陣に追い込むことだ。

 与党・保守党と閣外協力する北アイルランドの地域政党の投票総数は320と、野党の投票総数318をわずか2議席しか上回っていない。さらに8月1日の下院補欠選挙では野党の勝利が予想されており、与党のリードは1議席に縮小するとみられる。野党勢の提出する内閣不信任案に、ほんの一握りの与党議員が同調すれば、内閣不信任案は成立する。
 すでに、ジョンソン氏の首相就任に反対し、政権発足に向けて複数の閣僚が辞任ないしは辞任を表明しており、与党内が強硬離脱で団結しているわけではない。10月末の離脱期限が近づき、合意なき離脱への不安がより現実味を増せば、離党覚悟で野党に同調する与党議員も現れそうだ。

 内閣不信任案が可決すれば、14日以内に別の内閣が信任されないかぎり、議会は解散し、総選挙が行われる。問題は10月末の期限直前に内閣不信任案が可決されたとしても、そのまま離脱期限が到来し、合意なき離脱となってしまうおそれがあることだ。その場合、EUに対して協議期限の延長を要請し、総選挙を行うまでの暫定政権を発足する可能性が高い。
■秋の総選挙後、4つのシナリオの確度は? 

 次の総選挙こそ、英国の離脱の行方を左右する決選投票と位置づけられよう。約束した期日に離脱できなかった保守党、離脱方針や反ユダヤ主義をめぐる混乱が続く労働党の2大政党がそろって支持を落とす中、離脱実現を目指すブレグジット党、国民投票の再実施を求める自由民主党が急速に支持を伸ばしている。

 考えられるシナリオは4つある。

 第1は、保守党が単独政権を立てられず、ブレグジット党に協力を仰ぐ政権となる。この場合、英国は今以上に強硬な離脱に突き進むことになり、EUとの衝突や合意なき離脱のリスクが高まろう。
 第2は、保守党が議席を伸ばし、単独政権を発足させる。メイ首相の案よりも強硬な離脱案が議会で通る可能性が高まり、EU側も多少の譲与を余儀なくされる。最終的には両者が歩み寄り、合意あり離脱の確率が高まる。

 第3は、労働党が政権を奪取する。穏健な離脱や国民投票の再実施の可能性が高まる一方で、ジェレミー・コービン党首の主張する公益企業の再国有化や富裕層への増税などが嫌気され、金融市場は大荒れとなる。

 第4に、労働党が政権を奪取するが、単独過半数に届かず、自由民主党が協力する政権が成立する。この場合、国民投票の再実施を通じてEU残留の可能性が高まるうえ、連立発足により労働党の極端な政策主張が薄まる。
 現在の世論調査から判断するかぎりは、保守党・労働党ともに単独政権を発足させることは難しい。離脱支持の有権者が多い選挙区では、保守党とブレグジット党の間で票が割れるため、労働党が政権を奪取する第4のシナリオの可能性が高い。

 ただ、ジョンソン氏の首相就任で保守党はブレグジット党から票を奪い返すことが予想される。総選挙が行われる頃には、保守党の支持が回復し、第2のシナリオの可能性が高まっていると筆者はみる。近い将来の総選挙実施をにらみ、ブレグジット党に流れた離脱支持の有権者の票を奪還するためにも、ジョンソン氏が早期に離脱方針を穏健なものとすることはなさそうだ。
■最も怖いのはブレグジット党の政権入り

 怖いのは新首相への期待が失望に変わり、保守党の離脱支持者の奪還票が伸び悩み、第1のシナリオになる場合だろう。離脱が争点となる総選挙で、離脱方針で保守党が協力できる相手はブレグジット党以外に見当たらない。

 ブレグジット党を率いるのは、かつて英国独立党を率い、保守党政権の危機意識をたきつけ、国民投票の実施に追い込んだナイジェル・ファラージ氏だ。英国独立党やブレグジット党に政権運営能力はない。だが、ファラージ氏のような真性ポピュリストに、英国の未来を占う離脱協議の主導権を握られるとすれば、これほど怖いことはない。
田中 理 :第一生命経済研究所 主席エコノミスト

最終更新:7月23日(火)16時18分

東洋経済オンライン

 

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