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吉本社長の「的外れ」会見が与えた強烈な不信感

7月23日(火)8時20分配信 東洋経済オンライン

報道陣の質問に対する吉本興業の岡本昭彦社長の回答は的を射ないものばかりでした(撮影:大澤 誠)
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報道陣の質問に対する吉本興業の岡本昭彦社長の回答は的を射ないものばかりでした(撮影:大澤 誠)
 7月22日行われた吉本興業・岡本昭彦社長の会見をほんの数分でも見た人は、「この社長で大丈夫?」と思ったのではないでしょうか。

 岡本社長の5時間31分間に渡る会見は、前代未聞の長さであったにも関わらず、結果的に吉本興業のイメージダウンは止まりませんでした。企業の不祥事では、「謝罪会見をネガティブの底にして、再浮上の第一歩にする」のが鉄則ですが、吉本興業の企業イメージはまだまだ下がり続けています。

 会見の何が問題で、今後はどんな姿勢が求められているのでしょうか? 
■「冗談のつもり」というコメントへの失笑

 会見冒頭、小林良太弁護士がメディアに配布した<時系列まとめ>という3枚の書面を事細かに説明。その後、岡本社長が世間の人々、詐欺被害者、ファン、宮迫博之さんと田村亮さんらに謝罪の言葉を述べ、深々と頭を下げました。

 次に岡本社長は、「2人への処分を撤回したい」「ミーティングの席に立ってほしい」「いつの日か戻ってきてもらえるなら全力でサポートしたい」とコメント。その上で、“コンプライアンスの徹底”と“芸人・タレントファースト”の企業方針を宣言しました。
 さらに、「自分の思いが本人たちに伝わっていなかった」「コミュニケーション不足だった」ことを反省点に挙げ、明石家さんまさんや松本人志さんと会話したエピソードを話したあと、「1年間50%の減棒」という自らへの処分を発表しました。

 紙を読み上げながらの淡々とした語りは、事務的な印象を与え、多少の違和感こそ抱かせたものの、ここまで大きな問題はなし。しかし、記者たちとの質疑応答に入ると、「それらの言葉は嘘ではないか?」と首をひねらざるを得ない言動が相次いだのです。
 真っ先に問題視されたのは、宮迫さんや亮さんらに言った「テープはとってないだろうな?」という言葉に対する「冗談のつもりで言ったらまったく受け入れられず、笑われることもなかった」という釈明。しかも、のらりくらりと言葉を重ねた上での釈明であり、その中には「そもそも彼らの『お金をもらってない』ということ(嘘)からはじまったこと」と2人を非難するフレーズが混じっていたのです。

 なかでも「冗談」というフレーズは、見ている人の失笑を誘いました。もし本当に冗談だったとしても、岡本社長はふだん冗談のつもりで多くのパワハラをしているのではないか?  少し怒っているときはどれくらいの強い言葉が飛び出すのか?  「そんなつもりはなかった」とパワハラされる人の気持ちがわからないことは認めているだけに、世間の人々に「この人ならやりかねない」と思わせてしまったのです。
 もはや「これなら言わないほうがいい」というレベルであり、パワハラ疑惑の釈明としては0点以下のコメント。質問者のベテランリポーター・石川敏男さんが岡本社長の言葉を「ありがとうございました」とさえぎる形で打ち切ったことが、「ヤバさがわかったからもういいです」という本音を物語っていました。

■「芸人ファースト」と言いつつ非難する矛盾

 「俺には全員をクビにする力がある」というコメントへの釈明も同様。「僕自身はまったくそういうつもりはなかった」「父親が息子に『いいかげんにせい』と言うようなもの」と悪意を否定しつつ、やはりのらりくらりと言葉を連ね、ここでも「被害者に対する反省の気持ちが感じられなかった」などと2人を非難するフレーズを混ぜていました。
 それどころか、「『クビにする力はあるぞ』というのは、僕は標準語で怒ることはありませんので、怒りながらはっきりと言えないと思います」という子どものような言い訳をしてしまったのです。

 会見を見た人々をモヤモヤとした気持ちにさせたのは、「戻ってきてほしい」「芸人ファースト」と言いながら、一方で2人の言動を非難する岡本社長の矛盾。「不徳の致すところです」と言うだけで事実をはっきり認めず、「自らの非をはっきり認めた上で、釈明すべきところはする」という謝罪会見の基本ができていなかったのです。
 もちろん宮迫さんたちの過ちが騒動の発端であり、「お前らが悪いことをしたのだから」という気持ちは理解できますが、だからといって「企業トップが会見で部下を非難する」という姿勢は疑問。企業トップなら「会社を守る」という姿勢を前面に出すべきであり、ましてや自らのパワハラを否定するために部下を非難しているようでは、資質を疑われても仕方がありません。

 これを読んでいるビジネスパーソンの学びとしてぜひ書いておきたいのは、岡本社長が会見で見せた受け答えの是非。会見を生中継していた情報番組「直撃LIVE グッディ!」(フジテレビ系)のコメンテーターを務める吉本興業所属のトレンディエンジェル・斎藤司さんが、「長ったらしい」「イエス、ノーの札を最初に渡しておけばよかった」と酷評したように、反面教師にしたいものでした。
 岡本社長のコメントは、謝罪会見で必須とされる「事実」「原因」「対策」のすべてで具体的な発言がなかった上に、着地点から逆算して組み立てずに長々と話し、「2人が(交渉の)テーブルについてもらえるなら」「僕のダメなところです」などの同じフレーズを連発。質問に対する回答をなかなか話さないため、記者に「〇〇なんですね?」と再度うながされて、仕方なく「はい」と答える。あるいは「端的にお願いします」と求められるシーンも目立ちました。
■受け答えがしどろもどろだった根本理由

 ビジネスパーソンの学びとしては、岡本社長の逆をすればOK。「事実、原因、対策に関する具体的な発言を心がける」「着地点から逆算して話を組み立て、冗長にならない」「同じフレーズを繰り返して事務的な印象を与えない」「質問に対する回答を最初か最後に話してわかりやすくする」。謝罪に限らず記者会見では、これができていれば記者から必要以上の攻撃を受けることはなく、いたずらに長引くことはないでしょう。
 裏を返せば、岡本社長がこれをできなかったのは、宮迫さんと亮さんの動きを受けて会見の必要性が発生しただけで、「もともと会見するつもりはなかった」からでしょう。会見を見た多くの人々が、「しどろもどろなのに、『これは小林に』『これは藤原に』と部下に話を振るときだけスピーディーだった」と指摘していました。「できるだけしゃべりたくない」という心境は誰の目にも明らかであり、2人の会見から中1日空けたにも関わらず、心の準備が整っていなかったのではないでしょうか。
 その意味で、しゃべりたくなくて会見に臨んだ岡本社長と、しゃべりたくて会見に臨んだ宮迫さんと亮さんの2人は対照的でした。岡本社長はコミュニケーション不足を反省点に挙げていましたが、騒動に対してここまでテンションの温度差がある以上、ギャップを埋めるのは難しかったのでしょう。

 その他にも岡本社長は、数々の疑惑を釈明しました。

 「なぜ会見させなかったのか?」という質問には、「『(お金を)もらっていない』というところ(嘘)からはじまり、プラス(第2弾の報道で)人も増えたので」。
 「お金をもらっていたことがわかった6月8日から公表した6月24日まで、なぜこれほど時間がかかったのか?」という質問には、「それだけ、すごく衝撃的だったということ」「われわれとしては現場総出でヒアリングしてきたので、全力でやったと思っています」。

 「『反社会勢力のエステサロンは、もともと吉本興業のスポンサーだった』という声があるが?」という質問には、「吉本はイベント会社の依頼を受けてタレントを派遣し、そのイベントのスポンサーの1つが特殊詐欺集団のフロント企業でした」。
 「『岡本社長が芸人を恫喝していた』という指摘も出ているが?」という質問には、「『どこを指すか』というのはありますけど、若いころは怒ったりとかはありました」「今は部屋で、1人でいるので(恫喝するようなことは)ないと思います」

 また、「『会社としては“静観です”』と言ったのか?」という質問には、藤原寛副社長が「“静観”という言葉を使ったかどうか覚えていません」。

 「『在京5社、在阪5社のテレビ局は吉本の株主だから大丈夫』という発言の意味は?」という質問には、小林弁護士が「亮さんから『会見を生中継したい』という話がありました。それに対して、『吉本は京阪各局が株主様でいらっしゃるので、生中継するにしても、どういった時間帯にするのか配慮しなければいけないんです』と弁護士に話しました」「(吉本興業がメディアをコントロールすることは)物理的に不可能です」。
■岡本社長の進退を問う声が繰り返し飛び交った

 けっきょく大半の疑惑を認めないまま会見は終了。しかし、どの回答も見ている人を納得させるものではありませんでした。そのため、記者たちから岡本社長の進退を問う声が繰り返し飛び交ったのです。

 こうした声に岡本社長は、「『環境を変えることに全力を尽くすことで責任を果たしていければ』と思っております」「『お金を下げた(報酬を下げる)からそれで(おしまい)』というつもりはまったくありません。自分自身がしっかり変わっていくことで、みなさま方にきっちりご評価いただければ」と退任の意思がないことを表明。さらに、「『笑いを作られる方を愛している』というところにおいては人一倍思っています」と胸を張りました。
 ただ、やはりと言うべきか、ここでも一部の記者から失笑が漏れていたのです。

 宮迫さんと亮さんが7月20日に会見した後、松本人志さんが岡本社長らと話し合いの場を設け、7月21日放送の「ワイドナショー」(フジテレビ系)で、「このままじゃダメ」「会見を開かせる」「芸人ファーストでないと意味がない」などと発言しました。

 翌22日朝、加藤浩次さんが「スッキリ」(日本テレビ系)で、「芸人たちが岡本社長らを恐れている」「みんなつらい思いをしていて、『トップが責任取れない会社って機能してるのかな』と思う」「経営陣が変わらなければ退社します」と訴えかけました。
 かたや、岡本社長、大崎洋会長、藤原寛副社長らと、長年一緒に仕事をしてきて人柄をよく知る松本人志さん。かたや、MCとしてさまざまな企業や団体の不祥事を目の当たりにし、経済バラエティでトップとの対談を重ねてきた加藤浩次さん。円満解決を望んだ松本さんと膿を出し切ろうとする加藤さん、どちらの言葉も思いがあふれ、重みを感じるものでしたが、会見を見る限り、岡本社長に届いていたとは思えませんでした。

■芸人たちの社長批判が暗示する未来
 実際、SNSにはそんな岡本社長を見ていた芸人たちから批判が殺到。本来、社長への批判はタブーであり、パワハラ疑惑のある岡本社長はなおさらでしょう。「これまで何も言えなかった芸人たちが瞬発的に声をあげている」という現象は、ガバナンスの崩壊に他なりません。若手芸人までが「今、声をあげなければ」と腹をくくってコメントしているだけに、大量の退社があってもおかしくないのです。

 また、影響力は大きいものの一個人に過ぎない松本さんと加藤さんが、生放送番組で「こうしなければ辞める」と発言し、これも「企業ガバナンスとしては看過できないもの」と言えるでしょう。
 岡本社長の進退は変わらないのか?  宮迫さんと亮さんの再会見はあるのか?  松本さんと加藤さんの動向は?  など、芸人たちの批判がやまない限り、しばらくは連日のように動きが見られるでしょう。まだまだ世間をさわがせ続けるはずであり、われわれとしては「吉本興業がここからどう立て直していくのか」を注視していきたいところです。
木村 隆志 :コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者

最終更新:7月23日(火)8時20分

東洋経済オンライン

 

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