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新海監督「天気の子」で田端が聖地になる予感

7月23日(火)5時30分配信 東洋経済オンライン

新海誠監督の最新作『天気の子』は全国東宝系で公開中 ©2019「天気の子」製作委員会
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新海誠監督の最新作『天気の子』は全国東宝系で公開中 ©2019「天気の子」製作委員会
 新海誠監督の最新作『天気の子』が7月19日に公開された。新海監督の映画は背景画の美しさが大きな特徴の1つだが、雲の切れ目から地上に降り注ぐ陽の光や、嵐を予感させる巨大な積乱雲などが今回の映画でも印象的に描かれている。

 新海作品のもう1つの持ち味は、鉄道のある風景が印象的に使われていることだ。『秒速5センチメートル』の小田急線参宮橋3号踏切、『君の名は。』の高山本線飛騨古川駅など、普段見慣れた風景が、映画の中では「一度見たら忘れられない風景」に変身する。
■新海作品に多い鉄道のシーン

 天気の子でもJR山手線・京浜東北線の田端駅南口付近をE5系新幹線が走るシーンなど、いくつか鉄道が印象的な場面が出てきた。

 田端駅南口は、もともと極めて特徴的な場所だけに、映画をご覧になった人なら強く心に残ったと思う。

 では、『天気の子』で登場する田端駅南口の特徴を挙げていこう。

 最大の特徴は、駅前に店が1軒もないことだ。あるのはなんと葬儀会場のビル1棟だけ。無人改札のあるこぢんまりとした駅舎を出ると右側に急な上りの階段、正面にゆるやかな上り坂が続く。この坂道は、車は通行禁止。田端駅南口は、駅前に車を乗り付けられない場所なのである。
 乗降客も山手線駅の改札口としては極端に少ない。日中など電車が着いても誰ひとりこの改札口を通る人はいない、ということがよくある。田端駅で降りた乗客は皆、繁華な北口改札の方へ向かっている。

 2018年度における1日の平均乗車人員は4万7440人で、山手線では鶯谷駅、目白駅に次いで利用者が少ない。JR東日本の駅では100位に位置する。都心近くにありながら、まさにローカル線の小駅といった風情を漂わせている。
 もう1つの特徴は、武蔵野台地の東端に位置し、山手線で池袋駅方面から来ると、田端駅は下町低地の入り口にあたる点である。

 天気の子は、雨が降り続ける日々の中、ストーリーが展開する。詳細は省くが、それには地形も重要な要素の1つとなってくる。

 田端駅より都内西側に広がる武蔵野台地は小高い丘をはじめ凸凹に富んだ地形で、台地内には多数の坂道がある。

 その一方、下町低地はほぼフラットである。標高で言えば、武蔵野台地内の池袋駅が約32m、田端駅の1つ手前の駒込駅が約18mなのに対し、田端駅の線路は標高約6mしかない。
■田端駅「南口改札」からの眺め

 田端駅はホームから跨線橋の階段を上った所に南口改札口があり、そこからさらに階段や坂道が続く。

 正確に言えば、田端駅南口は武蔵野台地の丘の中腹にあたり、階段や坂を上った先が武蔵野台地の東端の丘の上となる。

 そのため、南口改札付近は、眼下に山手線などの線路を目にしながら下町低地方面(東側)の眺めがいい。

 田端駅からその先の上野駅まで、線路の東や北側、東京下町部分は、縄文時代の一時期などは海だった。映画のシーンで、田端駅南口から新幹線の高架方面を眺めたように、縄文人も、丘だった所から海を眺めたことだろう。
 さらにいえば、田端駅のすぐ北側には京浜東北線で都内唯一のトンネルがある(大宮方面への北行線のみ)。これは明治29(1896)年、田端駅が開業したときはなかったもので、線路を増設する際、新たな線路スペースがない(または買収できない)ため、武蔵野台地の丘にトンネルを掘ったものである。

 田端駅は移転など複雑な経緯をたどるが、トンネルの存在は、個性的な地形に立地することを示唆しているわけだ。

 山手線駒込―田端間に昭和の初めごろまで道灌山トンネルという数十mほどのトンネルもあった。現在その坑門の一部が内回り側の切り通しに露出していて、山手線車窓から見てとれる。
 近年、アニメ映画の舞台になった場所を訪問する「聖地巡礼」がブームになっている。ワールドワイドなヒット作となると、世界中から「聖地巡礼者」が押し寄せる。

 それが数年以上にわたる場所もある。例えば、1995年に公開されたスタジオジブリの映画『耳をすませば』の舞台となった京王線の聖蹟桜ヶ丘駅は、2012年から同映画で使われた「カントリー・ロード」を発車メロディーに用いるなど、鉄道会社側でファンサービスを行う例もある。
■アニメと聖地の新しい関係

 江ノ電の鎌倉高校前駅付近の踏切は、アニメ『スラムダンク』の舞台となったためで、アニメが放送されたアジア各国からの訪問者が訪れ、多くのファンがアニメと同じアングルで写真を撮影する。しかし、踏切が閉まって電車がやってくるときなど、車道に入り込む者が多いなど、地元の方々に迷惑がかかっているようだ。

 そのため、近年では制作サイドでも舞台の選定に気を使う。雰囲気のいい路地でも、そこにもし多くのファンがやってきて近所の人に迷惑がかかるような場所の場合、そこを使うわけにいかない。
 今回の天気の子でも、周辺に民家がない田端駅南口を舞台に選んだように、その点を考慮した様子がうかがえる。

 今回の天気の子は、アニメと「聖地」の新しい関係を提示したといえるかもしれない。
大坂 直樹 :東洋経済 記者

最終更新:7月23日(火)5時30分

東洋経済オンライン

 

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