ここから本文です

海外の長期投資家が日本株を全く買わない理由

7月22日(月)9時00分配信 東洋経済オンライン

業績予想を下方修正する企業が少なくない。いよいよ日本株の先行きに暗雲が垂れ込めれているのだろうか (写真:G-item/PIXTA)
拡大写真
業績予想を下方修正する企業が少なくない。いよいよ日本株の先行きに暗雲が垂れ込めれているのだろうか (写真:G-item/PIXTA)
 日本の株式市場がドタバタ状態に陥っている。日本株は7月初めこそ、その直前にあった米中首脳会談を受け、通商交渉が進展するという「危うい期待」から上放れた。だが、その後の日経平均株価は2万2000円台を回復することができず、先週後半は逆に一度下ブレた。結局、「7月初のから騒ぎは何だったのか?」と言えるような虚しい状況だ。

 ごく短期的にみても、先週18日(木)は日経平均が400円幅以上下落し、翌19日(金)は逆に400円幅以上上昇した(終値は2万1466円)。また同日のアメリカの市場では、シカゴの日経平均先物(円建て)が2万1200円台半ばと下落。日本株は方向を失い始めた感覚が強まっている。
■なぜ長期投資家は様子見なのか? 

 こうしたドタバタの背景の一つには、国内外の長期投資家が様子見を強めて積極的に売買せず、東証1部の売買代金が2兆円を下回る日が多くなっていることがあげられる。まとまった買いも売りも入りにくいなか、アメリカの株価や米ドル円相場など、日本の株式市場の「外側」の材料で、海外短期筋などが日経平均先物を売買し、日本株が振り回されているものと推察される。

 というのは、たとえば先週水曜日のザラ場の日経平均の動きは米ドル円の動きに左右された感が強かったが、個別銘柄の動向をみると、輸出株の株価は比較的しっかりしていた。つまり、米ドル円相場が輸出企業の収益に与える悪影響が懸念され個別銘柄が買われたり売られたりしていたわけではなく、米ドル円の動きで株価先物が売買され、それにより輸出株も内需株も全般に株価が上下した、ということなのだろう。
 では、短期筋ばかりが目立ち、なぜ長期投資家は積極的な買いも売りも控えているのだろうか。まず、内外の実体経済を素直にみれば、とても全般的に日本株を買い上げるような気にはならないだろう。アナリストの企業収益予想値の集計値をみると、2019年度は減益見通しが優勢になっているのみならず、下方修正が止まらない。このままでは、収益水準が最終的にどこまで悪化するかのめどが立たない。予想EPS(1株当たり利益)の数値がどうなるかわからなければ、PER(株価収益率)でみて日本株が割安だ、と言っても、肝心のPER自体が信用できない。
 その企業収益の土台となる経済動向をみても、国内では、たとえば消費者態度指数で消費者心理を測ると、大きな心理悪化要因が見出しづらいにもかかわらず、指数の低下が進んでいる。過去の同指数の悪化局面をみると、2008年のリーマンショック、2011年の東日本大震災、2014年の消費増税と、明確な指数押し下げ要因が存在した。これに対し、現状はこれといった悪材料がみられないなか、消費者の気分が悪くなり続けていることは、かなり不気味だ。
 消費者は価格が上昇した製品やサービスの消費を控える傾向を強めているが、そうしたなかで10月に消費税が引き上げられる。その結果、個人消費がどうなるかは、火を見るより明らかだろう。今後の内需・非製造業に対する大打撃が懸念される。

 一方で輸出も不振だ。先週18日(木)に発表された6月の貿易統計をみると、前年比ベースで輸出金額は7カ月連続、輸出数量は8カ月連続のマイナスを記録している。アメリカ向け輸出金額の前年比はプラスを保っているものの、欧州やアジア諸国向けは減少傾向が続いている。このため、鉱工業生産統計では、在庫が積み上がりつつあり、いずれ生産水準を大いに圧迫しよう。つまり、外需・製造業の現状や先行きも暗い。
 内需・非製造業も、外需・製造業も、企業を取り巻く環境が悪化しており、利益見通しの下方修正が続いている、ということになれば「日本株を買えない」と長期投資家が考えるのは、自明以外の何物でもなかろう。

■アメリカの株価は先行き本当に大丈夫なのか? 

 では、なぜ長期投資家が日本株を売り一方に傾けないかと言えば、最大の要因は、アメリカの株価が堅調で、それが日本の株価水準を支えてしまうと見込まれるため、日本株を売り一方にも傾けにくい、という心理が働いているからだと考える。
 だが、これまで予想外に堅調に推移してきたアメリカの株価については、先週央から頭が重くなり、それが先週後半の日本株の乱高下の下地になったと考えるし、これからアメリカ株には逆風が吹いてくるだろう。まず、最近のアメリカ株の支持要因になったのは、主に2つあったと考える。1つは前述の米中通商交渉の進展期待であったし、もう1つは連銀の利下げ期待だ。

 このうち、米中通商交渉については、構造問題(中国における、知的財産権の侵害、巨額の補助金、先端技術の移転強要)の解決を迫るアメリカとそれに抵抗する中国、といった溝は深く、交渉進展は予想しがたい。また、6月の米中首脳会談直後に、ドナルド・トランプ大統領は「中国が大いにアメリカ産農作物を買う」「ファーウエイ社へのアメリカ企業からの輸出制限を緩和する」と語り、それも米中間の雪解けムードを広げることとなった。
 ところが、中国側は「確かにトランプ大統領から農作物を買ってくれとは言われたが、そうすると言った覚えはない」と述べていると報じられ、大統領もツイッターで「いつまで経っても中国が農作物の購入拡大策を打ち出さない」、といら立っている。また、ファーウエイについては、米商務省は「ファーウエイをエンティティリスト(禁輸リスト)から外さない」、と正式に表明している。ということは、トランプ大統領が農作物やファーウエイについて、米中首脳会談を受けて語ったことは嘘っぱちだった、ということになる。こうした点が、じわじわとアメリカの株式市場で、米中通商交渉の先行きについて疑念を広げつつあるのだろう。
 もうひとつの連銀の利下げ期待は、ジェローム・パウエル議長が利下げの実施を示唆してからだいぶ時間が経つにもかかわらず、いつまでも株価が上がるたびにマーケットでは「利下げ期待だ」と繰り返し述べられている。利下げの可能性が強く打ち出されて、それを材料に一度株価が上がるのは、まあ理解できる。しかし、「ちょっとした利下げの可能性」が「かなりの利下げの可能性」、「すごい利下げの可能性」、「すさまじい利下げの可能性」と進展し続けていくのでなければ、株価がずっと上昇基調をたどることの説明としてはおかしいと感じられる。
 つまり、最近までのアメリカの株価はしっかりした根拠を欠いた上昇だ。とは言っても「何も上がるべき理由がないのに上がっている」とは市況解説では言えないので、無理やりに「利下げ期待」を持ち出して不可解な株価上昇を説明上正当化しようとしている、というのが実態ではないか。

 一方、日本よりやや先行して、アメリカで4~6月の企業決算発表が本格化した。IBMのように、市場の事前予想を実際の収益が上回ったとして、株価が上昇したケースもあるが、ジョンソン・エンド・ジョンソン(決算説明会で医薬品事業の競争激化に言及)、CSX(鉄道大手、売り上げ予想を下方修正)、ネットフリックス(4~6月の契約者数の伸び悩み)などは失望を呼び、それぞれの企業の株価のみならず、市場全体に影を落とした。今週以降も、そうした失望が勝る展開が懸念される。日本株を支える唯一の材料とも言える、アメリカの株価が崩れて行けば、日本株もひとたまりもないだろう。
■今週以降は「悪い決算」がいよいよ株価の重石に

 今週以降、日本でも4~6月期の決算発表社数が増えてくる。すでに「前哨戦」としては、安川電機が3~5月期の決算を発表し、純利益が前年比7割も減少したため、株価の圧迫要因となった。またNOKは2020年3月通期の業績見通しを下方修正し、キヤノンは2019年12月通期の業績見通しを減額修正するとの観測報道が流れた。こうした暗い動きが、今週以降の決算発表の内容についても、市場の警戒感を強めており、そうした警戒感は収益悪化についての確信へと踏み出しかねない。
 株価が一気に崩れてくるとも見込みがたいものの、先週のようなドタバタの上下動を繰り返しながら、日本株は徐々にレンジを切り下げていきそうだ。そうした流れの中で今週の日経平均は、2万700円~2万1500円を予想する。
馬渕 治好 :ブーケ・ド・フルーレット代表、米国CFA協会認定証券アナリスト

最終更新:7月22日(月)9時00分

東洋経済オンライン

 

【あわせて読みたい】

Yahoo!ファイナンスからのお知らせ

【PR】Yahoo!ファイナンスからのお知らせ

平均年収ランキング

ヘッドライン