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仕事が嫌な時「逃げていい人」「ダメな人」の境界

7月22日(月)6時20分配信 東洋経済オンライン

「逃げる」ことは決して悪いことではないが、最後の手段の1つとして本当にヤバいときのために取っておいたほうがいい(写真:Satoshi KOHNO/PIXTA)
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「逃げる」ことは決して悪いことではないが、最後の手段の1つとして本当にヤバいときのために取っておいたほうがいい(写真:Satoshi KOHNO/PIXTA)
 「逃げる」ことの重要性が最近はよく言われるようになった。毎年9月1日、夏休みを終え学校に戻る小中学生に対し、「いじめられているのならば学校から逃げていい」といったアドバイスは毎年定番のものだろう。

 また、5月23日に『GQ』のウェブ版には『「“逃げる”ことを怖がらないで」── 『うつヌケ』著者・田中圭一インタビュー(後篇)』という記事が掲載された。

 これは漫画『うつヌケ』著者・田中圭一氏が自身のうつ病体験を語り、解決策として「逃げる」を挙げたもの。田中氏は40代前半でうつ病となり、それから約10年後に寛解した。同氏はサラリーマン兼漫画家だが、自分に合わないことを社内で頑張り続けていた結果、うつになったという。だからこそ、リストラされたときは、ようやく解放された気持ちになったようだ。そしてこう続ける。
 「明らかにうつの原因がわかっている──たとえばストレスになっている上司や同僚がいる場合ならなおさら、そんな人は相手にしないですみやかに逃げてしまったほうがいい」

 同氏は、「休んでいい」ことがわかった結果、気持ちは楽になり、うつが寛解に向かっていったようだ。私は生徒・学生がいじめを受けていたり、社会人がメンタルを病んでしまった場合は「逃げてもいい」と思う。バイトの場合も「逃げてもいい」で構わない。あとは、社会人でも残業時間が猛烈に長かったり、パワハラを受けている場合は「逃げてもいい」と思う。
■「逃げる前」に考えておきたいこと

 生徒・学生・バイトの場合は無条件で「逃げろ」派だが、うつ病やパワハラに遭った社会人以外で、「ここは私がいるべき場所ではない」や「もっといい条件があるのでは」と考えた場合は1つ前置きを入れてもいいかもしれない。

 それは、「私にはよそで通じる実績があるか」ということに尽きる。田中氏が逃げることができたのは、同氏が長きにわたるサラリーマン経験(ゲームソフト会社の営業マン)と実績があるし、漫画家としての実績もあるからだ。そんな人は逃げてもいいと思う。
 自分が40歳を過ぎたあたりから、20代中盤~30代前半の若者と飲むと「会社を辞めたい」と言われることが多々ある。それはそれで構わないのだが、彼らはとくに不満がないのに辞めたいと言うのだ。最も多い理由は、「このままだと、ぬるま湯になるのでは」という焦りである。

 会社の同期が独立して起業する様を見たり、フェイスブックでつながっている人々が華麗なる転職を決めたり、友人同士で会社を作る様を見ると、彼らは「このままでいいのだろうか」と焦り始める。
 こうした気持ちを抱くことはよく理解できる。だが、そこそこ待遇がよく、成長もできて仕事仲間や取引先に対する嫌悪感もないのであれば、そこまで焦って辞めないでもいいのでは、とも思う。

 2000年代前半には「転職35歳限界説」というものがあった。しかし、今やこれは死語になっている。若者による新しい企業が立ち上がったときなど、40歳を過ぎたベテランの能力が必要になることもよくある。それなので、明確に「もう私はキツイ」や「ここにいる意味はなくなった」と思うまでは焦らないでもいい。
 人生の岐路でいろいろ考えたり、悩むのはいいことだが、「これはさすがに逃げないほうがよかったのでは……」と、今でも思うのが私の大学後輩・Kである。現在は楽しそうに生きているので、彼の生き方は尊重するが、新卒で入った大手広告代理店で何か実績を挙げていたり、よい仲間を見つけていた場合の彼は異次元の活躍を見せていたのでは……と勝手に期待をしてしまうのだ。

■大手広告代理店から逃げた「K氏」

 Kは2001年に大手広告代理店に入社し、名古屋のクリエイティブ部署に配属された。しかし、「こんな味噌蔵みたいな場所にいられっか!」と配属から約8カ月でタイ・バンコクに逃亡する。職場は困惑するばかりである。上司や同僚間で「誰かアイツのいる場所わかるか?」「まったくわからない」「どうするよ」「困ったな」といったやり取りがあったことだろう。
 数カ月間バンコクで過ごしたKは、「ここまでやれば、上司も僕が名古屋にいることが心底イヤだとわかり、東京に戻してくれるだろう」と出社した。すると席はなくなっていた。「あれ、僕の席はどこですか?」と聞いたら「お前、クビになってるぞ」と言われた。

 以後、Kは無職となり、それから約3年後、急に私の前に現れて「なんか仕事くださーい!  なんでもやりまーす!」と言い、一緒に雑誌『テレビブロス』や「広告」の仕事をやるようになった。
 その後、謎のベトナム人バンドを結成したり(彼は日本人)、歌舞伎町のカレー屋で働いたり、フジロックの会場に最も近いSAにて激安で仕入れたサイリウムを高値で販売するなどしながら、『テレビブロス』の編集を始めて今年で15年となった。

 このキャリアを見てもわかるように、とにかく世の中の常識が通用せず、独自路線を突き進むエキセントリックな男なのだが、Kが作るCMや広告を見たかったな、という気持ちがある。

 彼からしたら「もう、名古屋、イヤだったんですよ。あと、会社もなんか自分には合わなかったと思います。結局、その後博報堂とも仕事してるじゃないですか。全然後悔していませんよ」と笑って言い放つだろうが、はたして常人が「逃げた」結果、「エリート広告代理店マン→無職→フリーの編集者」となった場合、「あのとき逃げなければ……」と考える割合は案外多いのでは。
 「逃げる」については、「会社」だけでなく「仕事」からも逃げることがある。その場合、余人をもって代えがたい人、十分な実績を持った人であれば、「よっぽどの事情があったんだろうね」ということで、セカンドチャンスをもらうことは可能だろう。

 だが、代わりがいる場合、またはそれほどの実績がない場合、そしてよっぽどの人間関係が構築されていない場合は各所で「出禁」となる。信用復活までには相当な時間がかかってしまうことだろう。
■仕事から逃げようとした筆者

 私も一度だけ、仕事から逃げようとしたことがある。以前、とある企業のオウンドメディアの編集を担当することとなったのだが、毎日更新する記事の本数や取材の大変さに押しつぶされそうになってしまった。

 この段階で、ウェブメディアの編集を開始して6年の経験があったため、「オレならできるに決まっている」と思っていた。さらにその2年前にもオウンドメディアは作った経験があるので、余裕でできると過信していた。
 しかし、このときは動画もつけたり、記事本数も前回よりも格段に多かったり権利関係のクリアなど、とにかくやることが多すぎた。サイトオープン直前に企業・A社との打ち合わせで進捗を報告しなくてはいけなかったのだが、打ち合わせの時刻が迫るにつれ、不安だらけになってしまった。

 はたしてA社は今日報告する内容で満足してくれるだろうか……。そもそも、これからの3カ月(商品の重点販売期間)、毎日更新することができるだろうか……。原稿を発注するライターの皆はキチンと言ったとおりに動いてくれて、納品してくれるだろうか……。あるいは今担当している3つのウェブメディアの編集(つまり私の本業)は、その間滞りなくできるだろうか……。とにかく不安だらけになってしまった。
 そして、そこにやってきたのが広告会社のクリエーター・M氏だ。彼は笑顔を浮かべながらこう言った。

 「中川さん、もうすぐオープン楽しみですね。さぁ、上に行きましょう。もう営業は先に打ち合わせを始めていますので」

 前日の社内(広告会社内)打ち合わせでは、まったく不安はなかったのだが、いざクライアントを目の前にしたら不安が押し寄せてきてしまった。いや、恐怖と言ってもいいかもしれない。ここからの展開はあまりにも私が情けなさすぎて恥ずかしいのだが、再現してみる。
中川:「ちょっと、ちょっと、ダメです。オレ、もうダメです!  無理です。上、行けません。つーか、この仕事、オレには手に負えません……」
M氏:「えっ、何言ってるんですか、中川さんだからできるんですよ。大丈夫です」
中川:「とにかく今日は無理です!  無理です!  ギャーッ!」
 こうなって、私はなぜか泣いてしまったのである。完全にアホである。お前はそれでもプロか? という話なのだが、こんな無能な私に優しく笑顔で接してくれるM氏を前にしたら駄々っ子になってしまった。M氏は一瞬考えた後、こう言った。
 「わかりました、資料はもう営業が持っていますし、昨日の打ち合わせで話した内容は営業もわかっているので、彼に説明してもらいましょう。取りあえず、僕らはビール飲みに行きましょう」

 そう言って、2人して近くのデニーズに行き、朝っぱらからビールをガンガン飲んだ途端に気が大きくなり「ワシだったらできますよね!」「はいはい、大丈夫ですよ(笑)」みたいな話になった。

■あのとき、逃げていたらどうなったか

 あのまま彼が「ビール飲みに行きましょう」と言わずに「絶対に上に行きます」と言っていた場合、多分私は走って逃げていたと思う。
 そしてその後は布団の中で「オレには無理だ、オレには無理だ」と言っていたかもしれない。そして一切の電話に出なくなり、プロジェクトはできる人間でなんとか遂行するという形になっていたかもしれない。大切なサイトオープンの日に関わっていないと、もはやその後の3カ月間、関わるのは気まずいだろう。

 最悪の場合、私とその広告会社の関係も悪化し、仕事を発注してもらえなくなったかもしれない。そう考えると、あのときのビールのオファーが救ってくれたし、酒を飲んで気持ちが大きくなったことで逃げずに済んだ。
 「逃げてもいいんだよ」は安易に考えないほうがいい。ある程度「逃げても自分の信用は落ちない」とわかっているときに発動させる最後の手の1つとして、本当にヤバいときのために取っておいたほうがいい。

 ただし、大事なことなので何度でも繰り返すが、パワハラやうつ病の場合は、自殺につながってしまうこともあるため、逃げることを躊躇しないでほしい。
中川 淳一郎 :ネットニュース編集者

最終更新:7月22日(月)6時20分

東洋経済オンライン

 

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