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外国人客はバスを「グーグルマップ」で検索する

7月21日(日)5時10分配信 東洋経済オンライン

馬籠宿最寄りの「馬籠」バス停ではトレッキング目的の人たちの姿が見られる(筆者撮影)
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馬籠宿最寄りの「馬籠」バス停ではトレッキング目的の人たちの姿が見られる(筆者撮影)
 岐阜県南東部にある中津川市。ここで昨年10月に興味深いアンケート調査が行われた。調査名は「北恵那バス馬籠線利用者アンケート調査」。中津川市の中心部と観光地の「馬籠宿」を結ぶバス路線(馬籠線)の利用者を対象とした調査だ。

 馬籠地区は長野県との県境付近に位置し、馬籠宿は中山道の宿場町の面影を残す風情が人気を集めている。島崎藤村の生誕地としても知られ、年間68万人(2017年)が訪れる。

 JR中津川駅と馬籠地区を結ぶ馬籠線は観光客の利用が多く、近年は外国人観光客の利用が増えているという。市は昨年5月から「標準的なバス情報フォーマット(GTFS-JP)」に基づいたバス情報整備とグーグルマップへのバス情報提供を行っており、その効果測定や今後のバスに必要なサービスの検討のためにアンケート調査を行った。
■外国人客が7割以上

 調査は10月4日・5日・10日の3日間実施。対象としたバスは中津川駅前発9時45分・10時15分・11時15分の3便(10日は9時45分の便を除く)で、アンケート120枚を配布し、117枚を回収(回答率97.5%)した。

その結果は興味深いものだ。まず、驚くのは馬籠線利用者における外国人の割合だ。なんと約76%を占めている。中でもとくに目立つのは「欧米・オーストラリア」からの観光客の多さだ。
 全国ベースでみた訪日外国人は韓国・台湾・中国・香港の4カ国・地域からが約75%を占め、欧州からの外国人は約13%にとどまる。一方で馬籠線利用者では欧州からが32.5%、オーストラリアからが17.1%、北米からが15.4%を占める。

 欧米人の多さは、馬籠宿における観光スタイルに理由がある。欧米の人々の間では、観光スタイルとしてトレッキングに一定の需要がある。そのため、日本を訪れた際に「日本らしさ」を感じられる場所を歩きたいと考える人も多いという。そこで注目を集めているのが中山道なのだ。
 中山道は日本の豊かな自然の中を通り、江戸時代に参勤交代で用いられていたことから「サムライの道」とも呼ばれる。そのため「日本らしさ」を感じたい欧米系の観光客に人気がある。

中でも馬籠宿と妻籠宿(長野県)の間は人気が高い。理由としては公共交通によるアクセスが比較的容易で、宿場の間が8kmと適度な距離であり、石畳の道と自然を楽しみながら歩くことができることが挙げられる。実際に2016年には2万人以上の外国人観光客が歩いたという推計もあり、これは同区間を歩いた観光客の5割以上を占めている。
 では、馬籠宿を訪れる旅行者はどのようにして今回のバス路線の存在を知ったのだろうか。バス情報の入手手段の調査結果によると、日本人は観光協会のホームページを利用した人が圧倒的に多いものの、外国人はグーグル検索を利用した人が2割を超えていた。調査はグーグルマップの情報を整備して半年弱の時期だったにもかかわらず、かなり多く利用されていたのだ。

 1996年から運用されている日本の観光案内サイト「japan-guide.com」の情報を利用している観光客も多かった。同サイトの「Hiking」特集ページでは「Kiso Valley」として中山道跡のハイキングを紹介しており、バス時刻表も掲載している。だが、このサイトのみでは「中津川までの交通機関」の時刻をあわせて知ることは難しい。空港などからの移動方法をトータルで調べられるという点で、グーグルマップが活用されているといえるだろう。
■バス情報整備を進めた理由

ところで、中津川市はなぜGTFS-JPに基づくバスデータ整備を行ったのだろうか。

 中津川市は2017年に「地域公共交通網形成計画」を市の職員自らが策定した。通常はコンサルタントに委託することが多く、市職員自らが策定するのは異例だ。そして同計画を市への移住施策と結びつけ、公共交通に関するさまざまな取り組みを始めた。例えば、コミュニティバスにリアルタイムの位置情報を発信できる端末を取り付け、地元企業と協力して病院にリアルタイムのバス情報を表示するデジタルサイネージを設置するなどだ。
そして、バスの利用環境を整備する一環として計画されたのが「インターネットによる経路検索の充実」だった。その基礎データとして、グーグルマップにバスの情報を掲載できるフォーマットに基づいた、データの整備に至ったというわけだ。

 中津川市定住推進課の柘植良吾主査は、GTFS-JPのデータ整備を進めたことについてこう語る。

 「利用者が減っていて地域公共交通網の維持が危ぶまれていることや、生産性向上の取り組みが叫ばれている中、インターネットでの検索ができないことで利用者を逃すことがあるならば、それを見過ごすわけにはいきません。また新たな利用者の掘り起こしにもつながるので『できることからどんどんやっていこう』という思いでデータ整備に取り組みました」
 当初は中津川市のコミュニティバスのみデータを整備する予定だった。しかし、地域の公共交通網すべての検索ができることが望ましいという視点から、地元バス事業者である北恵那交通の協力の下、同社の路線を含めた中津川市全体でデータ整備を行った。市自らの力で地域公共交通網形成計画を策定したからこそできたことであろう。

 今回の調査結果について柘植主査は、「外国人旅行客はガイドブックだけではなくグーグルマップの経路検索を利用して馬籠線のバスを知る人が多いことがわかりました。中津川市が整備したバス情報をグーグルマップで経路検索できるようにしたことで、利用環境整備として効果が出たことも感じました」と話す。
■「検索できる」PRも必要

 その一方で、現状は必ずしも十分でないことも調査結果から見えてくる。「求めているバスのサービスについて」の回答では、多くの外国人が「フリーWi-Fi」を求めているのと同時に、すでに可能であるはずの「グーグル検索でバスの時刻がわかること」を求めているとの結果が出た。

 市が行ったアンケート調査でわかることは、データの整備とともに「情報発信」が重要だということだ。グーグルマップで発信していても、「検索が可能」ということが知られていなければ使ってもらえない。検索できることが知られていなければ利用されることもない。ガイドブックやWebサイトで「グーグルマップ」で最新情報がわかることを示すことも重要であるといえよう。
 「『どのように馬籠行きバスを知ったか?』という項目では(運行会社である)北恵那バスホームページという回答は少なく、公共交通の利用促進にはさまざまな媒体や関係施設のホームページなどにバス情報を掲載してもらうなどの工夫が必要と感じました。また、妻籠宿へ抜ける外国人観光客が多いので、周遊できる仕組みとして公共交通と観光の連携も必要と感じました」(柘植主査)

 グーグルマップの経路検索を利用する人が多い背景として、鮮度が高く確実な時刻情報を期待しているというニーズが推測される。「鮮度の高い情報提供」という点は、事業者側にもメリットがあると思われる。変更した時刻データがすぐに反映できるためだ。
また、「鮮度の高い情報提供」として最近グーグルマップで注目されているのは「アラート」の機能だ。

 例えば、北恵那交通は年末年始の運行や、センター試験向けに会場へ向かう路線の増発運転についての告知をグーグルマップの経路検索に出した。また、群馬県の永井運輸は昨年9月に行われた大型のライブイベントでTwitterとグーグルマップのアラート機能双方を駆使した案内を行ったところ、Twitter上で大いに感謝の声が同社に寄せられ、こうした情報発信の効果がはっきりと表れた。
■観光立国の施策にも

筆者は昨年5月20日に東洋経済オンライン記事「「グーグルマップ」に載るとバスは便利になる」を公開したが、その後、各地域のバスで急速にGTFS-JPの整備やグーグルマップへの掲載の取り組みが広がった。

 佐賀県と群馬県では全県的なバスのオープンデータ整備が行われ、12月には日本で初めての高速バス路線事業者によるデータ掲載が日本中央バス(群馬県)によって行われた。夜行バスを7路線11系統を運行する同社にとっては宣伝効果も期待できそうだ。今年も富山県や沖縄県でデータが整備される予定だ。また、社内で利用するデータ整備はほぼ進めており、効果的なところからグーグルマップに載せていく予定という事業者もあると聞く。
 訪日外国人へも効果のあるグーグルマップへの情報掲載、そして基となるバスのデータ整備。バス事業者がそれぞれ工夫を凝らして取り組む流れが生まれつつある。訪日外国人対応としてデータ整備を日本全国で一気に行い、「どこに行くバスも検索でわかります」とアピールするというのも、訪日観光客4000万人を目指す「観光立国」の施策としては十分にありうるのではないだろうか。
鳴海 行人 :まち探訪家

最終更新:7月21日(日)5時10分

東洋経済オンライン

 

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