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医師と製薬マネーのあまり表には出ない大問題

7月21日(日)5時00分配信 東洋経済オンライン

医師と製薬会社の癒着による“闇営業”問題にメスを入れるべく、「灘校で語る『医師と製薬マネー』シンポジウム」が開催された(写真提供:ワセダクロニクル)
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医師と製薬会社の癒着による“闇営業”問題にメスを入れるべく、「灘校で語る『医師と製薬マネー』シンポジウム」が開催された(写真提供:ワセダクロニクル)
 「大手製薬会社の薬を宣伝する医師たちの“闇営業”を野放しにしたらダメだ!」

 灘校(灘中学校・灘高等学校 神戸市灘区)で気炎を上げ会場を大いに沸かしたのは、同校卒業生で現役医師でもある、上昌広氏と岡本雅之氏。

 上氏は、医療ガバナンス研究所(以下、MEGRI)を主宰し、東日本大震災・原発事故被災地へ若手医師を派遣するなどの医療支援をする一方、医薬業界のさまざまな不正や問題について積極的に発信している。岡本氏も東大阪市で医院を開業するかたわら、Dr. Masaとしてラジオ大阪でパーソナリティー番組を持つという名物医師だ。
 言うまでもなく灘校は全国屈指の有名進学校で、受験界で最難関の東大理III(医学部)にも多くの合格者を出すことで知られている。そこでこの6月末に開催されたのが、MEGRIとジャーナリズムNGOワセダクロニクル(以下、ワセクロ)共催による「灘校で語る『医師と製薬マネー』シンポジウム」だ。

 折しも、吉本興業所属の芸人たち、なかでも有名お笑いタレントの宮迫博之が振り込め詐欺グループの宴会に出て100万円もらっていたという闇営業(アルバイト)が発覚して大問題になっているが、さて、「医師の“闇営業”とはなんのことだ?」と不思議に思われることだろう。まずそれについて解説しよう。
■医師の闇営業=薬の宣伝活動

 医師の本来の仕事は、当然ながら患者の診療を行うことだ。医師免許を持つほとんどの医師が、医療機関で働き収入を得ている。これ以外にも大学や研究機関に勤め、研究職に就いている医師もいる。よく大学病院などでは、診療・教育・研究の3本柱が重要と言われるが、それが医師の本来の職務であることに誰も異論はないはずだ。

 しかし、この診療・教育・研究活動以外にも、医師の大きな収入源になりうる活動がある。そのことは、これまで世間一般ではあまり知られていなかった。
 芸人用語としての闇営業は、「芸人が所属事務所ではなく、個人的なルートを通して芸能活動を行うこと」を指す。実は、医師の世界にも似た構図があり、所属する医療・研究機関以外からもオイシイ仕事が回ってくることがある。

 それは、製薬会社や医療機器メーカーから頼まれる講演会活動などだ。場合によっては、診療業務など本来の仕事で得られる収入よりもはるかに時給が高く、年間1000万円以上に及ぶ製薬会社からの副収入を稼ぎ出す著名医師もいる。すなわち、ここで闇営業にたとえられたのは、医師と製薬会社がタッグを組んで行う薬の宣伝活動のことなのだ。
 吉本芸人の宮迫らは反社会勢力から金をもらっていたわけだが、こちらの場合、闇営業といえども、税務申告さえきちんと行っておけば何ら違法な活動ではない。大学など所属機関でも当然認められている。

 しかし、なかには年間100件以上もこの活動に精を出す医師がいて、こうなると本来の業務(診療)は大丈夫なのか、と患者も心配になるだろう。

 その懸念は当然で、国立病院など公的医療機関では年間500万円まで、大学では本給(大学教授では年間1000万円程度)を超えないこと、という内規を設けているところも多い。逆に内規がなければ、この額を超えて副業にいそしむ医師が珍しくないことを意味している。
■影響力を持つ医療界幹部が闇営業で高収入を得ている

 2019年6月23日、新聞2紙が一面トップでこの問題を報じた。

 毎日新聞は「製薬謝礼 一部に集中 処方多い学会理事 講演・原稿料」、東京新聞は「薬審議委員に製薬マネー 医師ら6割 講演料など」という大見出しで始まる記事を目にした人も多いだろう。東洋経済新報社が発行する『週刊東洋経済』も、2019年6月1日号で「クスリの大罪」と題した特集を展開した。
 これらの記事では、闇営業で高収入を得ているのが、処方薬の評価や値段を決めるなど国の審議委員についている医師や、一般の医師に強い影響力を持つ医学会の幹部であることを問題視した。

「政治家とカネ」については政治資金規正法などができ、世間の目が厳しくなったが、このような“公職”に就く医師と製薬マネーの金脈問題については、これまで「業界タブー」となっていた。この事情は、拙著『知ってはいけない薬のカラクリ』(小学館新書)でも詳しく記している。
 シンポジウムで、上氏、岡本氏らはこのようにも述べた。

 上:製薬会社から講演料などの名目でお金をもらっていることが、最近になってようやくマスメディアでも報道されるようになりました。それについて、大学教授や学会理事など有名な医師が反論としてよく口にするのが、《産学協同の必要性》という大義名分です。

 岡本:しかし、それは本当に産学協同と呼べる活動なんですか?  そもそも患者のためになってますかね。本来の仕事をほったらかして、製薬会社の宣伝マンのアルバイトをやっているだけじゃないですか。
 上:東大教授を頂点とするような、官尊民卑の大学病院モデルは限界にきている。東大病院も赤字垂れ流しで、今や東大のお荷物になっている。そんな窮状でありながら患者さんをほったらかしにして、大学教授が年間何十回と講演に出かけ、診療では専門病院に実績で圧倒されている。後進の医師を育成すべき大学教授たちにとっていちばん大切な時間を、ムダに使っていると本当に思います。

 岡本:産学協同は詭弁以外のなにものでもないですね。
 上:患者のために診療するのが、本来の医師の姿。そして研究。研究費だって、やる気さえあれば製薬会社にたかる必要はありません。まじめに診療をやって研究費を捻出することもできるのだから。

 シンポジウムの登壇者は、上・岡本両氏のほかに、ノーベル賞を受賞した本庶佑氏の元門下生で幹細胞病理学の第一人者である仲野徹氏(大阪大学医学部教授)、ワセクロ編集長の渡辺周氏やMEGRI関係者である筆者、若手の尾崎章彦氏(乳腺外科医)と山本佳奈氏(内科医)に加え、加藤晴之氏(編集者、加藤企画編集事務所代表)という顔ぶれで、「製薬マネーと医師」に関わる活発な議論が行われた。
そもそも、先の東京、毎日新聞両紙の1面トップの報道や、今回のシンポジウムの発端になったのは、ワセクロとMEGRIが総力を挙げて調査し、ネット上に構築した「マネーデータベース『製薬会社と医師』」が、2019年1月から公開されたのがきっかけだ。検索窓に医師や製薬会社の名前を入れれば、誰でも簡単に無料で製薬マネーの実態について調べることができる。

■医療界の産学癒着を断ち切ることができるのか

 「この問題は、どこからお金をもらっているか、どんな利害関係に立っているのか、医師がCOI(利益相反)をきちんと明らかにすべきだということじゃないでしょうか。
 最近では国からの研究費はどんどん削られています。大学医局など多くの大学院生を抱えている臨床教室が研究費のために、製薬マネーに頼ることはやむをえないという側面もあるのですから」(仲野氏)

 「大学病院にいる同級生に聞くと、2日に1回はお昼や晩に製薬会社からの高級弁当が配られるので、食費がずいぶん助かっているそうです。若いうちから製薬会社のお世話になるのが当たり前になっている」(山本氏)

 「世界的な製薬会社ノバルティスファーマと千葉大学、京都府立医科大学や慈恵医科大学などの医師たちの研究不正に司直の手が入ったディオバン事件。その後どうなっているのか追跡調査したところ、不正論文に名を連ねた医師たちが、事件後も当然のようにたくさんの製薬マネーをもらっていた。
 ノバルティスがディオバンという薬にありもしない薬効をでっちあげて、累計1兆円以上も売り上げ、一般社会に大迷惑をかけた医療界の産学癒着にいまだ何の反省もありません」(尾崎氏)

 高額の製薬マネーを受け取るのは、大学教授などに出世したキー・オピニオン・リーダーやエクスターナル・エキスパートと称される影響力の大きい医師だ。

 製薬会社と医師の関係性は、健全な産学協同であればいいが、歪んだ処方で医療費のムダ遣いを生み出す癒着ともなりやすく、世界中で頭を悩ませている大きな問題だ。
 昨年も、ハーバード大学の有名医師が「産学の癒着関係は全面禁止すべきだ!」とニューヨーク・タイムズ紙に寄稿すると、元大手製薬会社勤務でベンチャー起業に転じた人物が「産学協同はなくてはならない!」と経済誌『フォーブス』で反対の論陣を張るなど、侃々諤々(かんかんがくがく)、さまざまな議論が行われている。

 日本においても、著名医師の講演会が薬を宣伝する「闇営業」なのか、それとも、講演料を受け取った側の反論どおり「患者のためになる真の産学協同」なのか、ファクトを積み重ねて見極める必要がある。
 そのためには、数々のメディア報道の基礎となったように、「マネーデータベース『製薬会社と医師』」が果たす役割は大きいだろう。アメリカや一部のヨーロッパ諸国など、製薬マネーの公開について罰則規定のある法制化を行う国も増えてきている。

 ワセクロ編集長の渡辺氏は、今回のデータ調査報道の苦労話をこう披露している。

 「アメリカでは、サンシャイン法という法律ができて、公的機関がネットで公開(オープン・ペイメンツ・データ)しています。誰でも無料でそのデータをチェックできます。
一方の日本では、業界団体の自主ルールに基づき医師への支払い明細を公開しているといいながら、その実情は公開とは程遠い。なかなか全容がわからないような、形だけの公開になっているのです。そのため今回の調査では、われわれは各製薬会社の数字を丹念に集めてまわり、データベース作成に3000時間の作業と労力を費やさざるをえませんでした」

■製薬マネー問題の解決への道は

 法制化もされず、したがって罰則もなく、製薬業界の自主的な取り組みに任されている日本のお寒い現状。まだまだ見直しの余地が残されており、世論の後押しが大切だ。このワセクロ・MEGRI共同プロジェクトで中心的役割を果たしている若手医師の尾崎氏が、こう述べたのが筆者の印象に残った。
 「医師と製薬会社の利益相反の透明化が、一過性の話題で終わったのでは意味がありません。今後もこの取り組みをずっと続けて、医療や政治、つまり、この社会の何がどう変わるのかを見届けなければならないと思います」

 少子高齢化と国民医療費の高騰化が進む中で、高度成長期の1961年に開始された国民皆保険制度は危機に瀕している。医療費のムダ遣いを考えるうえで、製薬マネーの問題はますます無視できなくなってくるだろう。
 会場となった灘校は、日本酒の名産地として知られる灘五郷の酒造家、嘉納家と山邑家の篤志により1927(昭和2)年に創立されたという歴史がある。そのため、官に頼らない民の力を重視するという校風が今に受け継がれているようだ。

 灘校の創始者たちが実現したように、民間の力で社会的に大きな影響力を持つ成果を出すことは、決して不可能ではない。公を担うのは官だけではないことを改めて認識したのが、今回のシンポジウムだった。
谷本 哲也 :内科医

最終更新:7月21日(日)5時00分

東洋経済オンライン

 

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