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「はとバス」を支える運転士のすごすぎるバス愛

7月21日(日)5時50分配信 東洋経済オンライン

外国製バスを愛してやまない運転手歴30年の村尾吉貞さん。そんな村尾さんに、はとバスの魅力について聞いた(撮影:梅谷秀司)
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外国製バスを愛してやまない運転手歴30年の村尾吉貞さん。そんな村尾さんに、はとバスの魅力について聞いた(撮影:梅谷秀司)
 児童向けの図鑑に、スーパーかっこいいバスとして“2階建てバス”が紹介されていた。今回話を聞くのは、外国製の2階建てバスに詳しい村尾吉貞さん。はとバスに運転士として1984年に入社。入社5年目から30年間、2階建てバスを運転している。

 外国製バスの魅力と、“好き”を仕事にしている現在の働き方について話を聞いた。感じたのは、裏方である運転士も楽しく仕事をしていることが、はとバスの楽しさにつながっているのではないか、ということだった。
■車庫に並ぶバスを見た瞬間「あれに乗りたい」

 はとバスの定期観光利用者は、2018年度でおよそ75万人。そのうち、およそ24万6000人が2階建てバスを利用している。現在、村尾さんが担当しているのは、2階建てバス“アストロメガ”だ。スウェーデンのスカニア社、ベルギーのバンホール社、はとバスの3社で共同開発したバスで、2017年に4台導入された。

 ――はとバスが初めてヨーロッパ製の2階建てバスを導入したのは1982年頃ですよね。村尾さんは1984年に入社ということで、就職以前から憧れがあったのでしょうか。
 入社する前はとくに憧れはありませんでした。入社して、はとバスの車庫に入った瞬間に「あれに乗りたい」と思ったんです。運転士をするなら好きなバスに乗りたいと、会社に散々頼み込みこんで、5年目から担当になりました。

 そのときに出された条件がありました。ひとつは、「故障が続いても、やめたいと言わないこと」、2階建てバスはだいたい毎日決まったコースを走りますが、「飽きたと言わないこと」でした。

 結局、飽きませんでした。故障もしやすかったのですが、それもヨーロッパ製のバスのいいところと捉えることができました。
 ――憧れの2階建てバスを運転してみて、どう感じましたか。

 一般のバスとはまったく違いましたね。2階建てバスは運転席が1階で、2階に乗客席があります。ですので、運転席が一般のバスと比べてとても低いんです。初めてここまで低い運転席に乗ったときは、楽しかったですね。ミッションや冷暖房などのスイッチ類も、日本のバスとは異なります。ヨーロッパ製のバスに乗れること自体に特別感がありました。

 ――2階建てバスは、見た目がとにかくカッコイイですよね。2階建てバスで楽しめる、おすすめのツアーはありますか? 
 2階建てバスのツアーでは「湾岸ドライブと東京スカイツリー」がいいと思います。お台場に行って、レインボーブリッジを渡り、ホテルでバイキングを食べて、スカイツリーに行く6時間くらいのコースです。

 屋根がない2階建てバス・オープンバスで行く「東京さくら回廊」もいいですね。桜の季節限定のツアーです。桜の枝がお客さまの目の前に来るように、左車線を走るようにしています。すると、上から「おおおおお」って声が聞こえてくるんです。そのときに車内モニターを見ると、みんな写真を撮っていて「楽しそうだな。俺もちょっと上行ってみたいな」と思います。秋の「東京いちょう回廊」もいいですよ。
■1車1人制で、バスは愛車同然の存在に

 ――はとバスの日帰りツアーというと、昼も夜もやっていますよね。勤務体系はどうなっているんですか。

 5日働いて1日休みというのが基本です。長い日ですと、1日に昼のツアーと夜のツアーを担当します。昼のツアーを終えて少し休憩をしたあと、夜のスタートになるという形で、トータル13時間くらいです。ただ、これが何日も続くことはありません。例えば、休みの前日は、夜のツアーは担当せず早く帰って、ゆっくり休みます。
 ――2階建てバスを担当すると、専任で運転することになるんですか。

 はとバスは1車1人制といって、バスごとに担当者を決めています。ですので、2階建てバスを担当していると、自動的に専任で乗ることになります。自分は歴代で6台担当しました。新車で担当させてもらい10年間乗ったバスもあります。商売道具ですから、自分が担当する車は大事に乗りたいと思いますね。

 ――2階建てバスは、普通のバスとは運転がかなり異なりそうですね。特に、難しいところはどこでしょう。
 2階建てバスは、どうしても高さの感覚がわかりにくくなります。ホテルの玄関の屋根が気になったり、左側を走るときに街路樹の枝が気になったりします。一般のバスは横のガラスも上までありますから感覚で高さがわかりますが、2階建てバスはわかりづらいんです。危ないと思ったら、降りて見に行きます。

 ――はとバスで現在所有するバスは、一般のバスはほぼ国産なのに対して、2階建てバスは、1車種を除いてすべてヨーロッパ製だそうですね。生産国による違いは感じますか。
 操作の仕方が、日本とはまったく違います。さらに、ヨーロッパ製のバスは、操作方法を大きく変えることがあると感じます。自分が最初に乗ったドイツ製のバスはミッションが8段でした。次に入ってきたバスはクラッチペダルを踏むだけでギアが変わるようになっていたんです。今は、フルオートマチックではないんですが、クラッチペダルはなくなっています。こういう大きな変化は日本のバスにはあまり見られないと思います。発想が日本と違いますよね。
■「2階建てバスは楽しいよ」と技術指導

 ――社内では、車両の不調について相談されることもあるということですが、そういった知識はどうやって身につけたのですか。

 整備の担当者から聞いて勉強しています。故障したときになるべく見に行くようにしていて、そこで部品がどこにあって、その部品がどういう働きをしているのかを覚えていきます。わかってくると、さらに面白くなりますね。

 他社のバスが弊社の整備工場に来ることもありますが、外国製のバスが来たら見に行ってしまいます。仕様も少し違っているので、知りたくなるんです。
 ――バスが好きだからこそ、自然に知識が増えた感じですね。新車が納車されたときは、楽しくて仕方ないのでは。

 故障もしていないのに、エマージェンシーをいじって調子を悪くして、余計なことをするなと怒られたことがあります。でも、いじりたいものですから。

 外国製のバス特有の操作を、整備に聞くことなく、いじくりまわして発見したときは「やったー」って思います。エンジンをかけないと点灯しないライトがあるなど日本とは発想が異なるところがあるんです。わかっていくうちに、どんどん楽しくなります。
 ――村尾さんは、自社だけでなく、他社に2階建てバスが納車された際にも技術指導を頼まれることがあると聞きました。後輩たちにも頼られている存在のようですが、そうなるために気にかけていることはありますか。

 どうなんでしょう。自分も楽しんで乗っていますので、2階建てバスは楽しいから乗ってみなよという感じで接しているだけです。上から教えることはしていません。自分が楽しんで乗っていますので、それでいいのかなと思います。
 ――ヨーロッパ製の2階建てバスは、はとバスでは2016年に1台、2017年に4台と導入していますが、今後はどうなっていくと感じていますか。

 2階建てバスは、昔は多くの会社が所有していましたが、今は少なくなってきました。はとバスのような都内の定期観光であれば通れない場所はあまりないのですが、郊外に行くと狭いトンネルなど通れないところが結構あります。修理の部品も輸入になるので経費が高くつきがちです。そのため、日本でのヨーロッパ製の2階建てバスが、また貴重になってきていると感じています。自分は好きですので、なくなってほしくないです。自分の願望ですけど、たくさん走ってもらいたいなと思います。
村尾さんは、バスの話になるとぱあっと明るい顔になる。母国ヨーロッパで走っているアストロメガは、日本とは基準が違ってサイズが大きい。
「そのバスを運転してみたくありませんか」と聞くと、「したいです。できれば向こうに行って、左ハンドルで」との即答。現実的にはたぶん行くのは無理でしょうと笑う村尾さんだったが、そのとき脳内でバスを運転していたように感じた。心から楽しそうな、いい表情をしていた。
高橋 ホイコ :ライター

最終更新:7月21日(日)5時50分

東洋経済オンライン

 

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