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「有名人の政治的発言」が叩かれる日本のゆがみ

7月20日(土)11時00分配信 東洋経済オンライン

なぜ日本では著名人が政治的発言をすると批判されてしまうのか(画像:『遊戯王』作者・高橋和希氏のInstagramより)
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なぜ日本では著名人が政治的発言をすると批判されてしまうのか(画像:『遊戯王』作者・高橋和希氏のInstagramより)
 日本では参院選を前に、芸能人や漫画家が政治的発言をしては批判される事態が続いている。

 俳優の古館寛治がツイッターで政権批判をすると「政治のことになんか触れず、『いだてん』の宣伝だけしとけ」と非難され、さらにはインスタグラムで自作のキャラクター(漫画『遊戯王』の闇遊戯)に政権批判発言をさせた漫画家の高橋和希が大炎上。それを受けて謝罪のコメントを発表した。

 『遊戯王』の件に関しては、多くのファンを持つキャラクターに政治的なことを言わせたのが問題だったとする見方があるが、はたしてそうなのか。これがキャラクターでなく、高橋氏個人の発言であったら、誰も何も言わなかったのだろうか。
 おそらく違う。高橋氏が個人として発言したとしても、古館氏と同じようなバッシングを受けたと思われる。日本では有名人が政治的発言をすると、なぜか拒否反応が起きやすいからだ。

■日本とは真逆のアメリカ

 アメリカに住む筆者はこうした状況を知って不思議に思う。アメリカではむしろ、セレブリティーは政治的、社会的発言をするのが当たり前という風潮だからだ。選挙前はとくにそうで、多くの有名人が支持する候補者を表明し、候補者のために先を争って協力するのが一般的である。
 例えば2016年の大統領選直前には、ハリウッドスターのロバート・ダウニー・Jr、スカーレット・ヨハンソン、マーク・ラファロ、ジュリアン・ムーアら大物スターが総出演して、選挙に行こうというコマーシャルを製作、放映した。

 CMではトランプを名指しこそしていないが、「人をクビにすることで有名になったあの男を核兵器の手の届くところにやるのか」「人種差別者で臆病者のあいつはこの国を永遠に破壊する」「悪夢は、始まる前にストップしよう」などと言っており、その意図は明らかだった。
 豪邸を所有する彼ら彼女らはまた、自宅を候補者の選挙資金集めパーティーの会場に提供したりもする。前回の大統領選では、ジャスティン・ティンバーレイクとジェシカ・ビール夫妻宅でヒラリー・クリントンのためのパーティーが行われた。

 また、今年5月には2020年のアメリカ大統領選の民主党候補であるピート・ブティジェッジのためのパーティーがグウィネス・パルトロウ宅で行われ、ロブ・ライナーやマーティン・シーンらの大物が出席している。
 若い人たちも負けていない。2016年に投票できる年齢に達したクロエ・グレース・モレッツは民主党大会の舞台に上がり、同世代にヒラリーへの投票を呼びかけたし、マイリー・サイラスも積極的だった。昨年の中間選挙の時期には、遅ればせながらテイラー・スウィフトも政治的発言を始めている。

■政治に無関心は「頭が悪い」と同意義

 ハリウッドではマイナーな存在である共和党支持者も、同様だ。過去にカーメル市長を務めたこともあるクリント・イーストウッドは、テレビのインタビューで、自分と違いヒラリーは政治を金稼ぎに使ったと批判し、自分はむしろトランプを支持すると発言した。
 誰もが政治について発言する状況なため、まれに何も言わないセレブがいると、逆にどうしたのだろうと思ってしまうくらいだ。先に述べたスウィフトは、保守が強い地域にファンが多いせいかと臆測されていたが、最近になって、「あまり知らなかったから(もっと政治を)わかってから発言したかった」と、これまで黙っていた理由を説明している。

 彼女をめぐるケースが示すように、何も言わない人はおそらく、「反感を持たれるのが怖い」か、「知らない、関心が薄い」のどちらかだろう。どちらもいいイメージはもたらさない。
 自分の人気、つまり個人的利益を重視して社会のために重要なことを言わないでおくというのは、自己中心的で視野が狭いように見えるし、政治のことを知らない、関心がないというのは「自分は頭が悪い」と言っているようなものである。

 とはいえ、わかっているふりをするのも格好悪い。スウィフトのように、わかる努力をし、わかってから発言するという行動はなかなか賢い選択と言える。

 アメリカの有名人らは、慈善事業や社会運動にも積極的に関わっているが、それに関しても同じだ。長年、国連の活動に従事してきたアンジェリーナ・ジョリーほど熱心な人はまれだが、セレブの多くはフェミニズムや銃規制、動物愛護、環境問題など特定の社会的関心事項を持っていて、それについて発言している。
 プレミア(映画の封切り日)や記者会見の場では、そういった発言はあまりしないが、それは考えがあってのこと。それらのイベントは、特定の作品の宣伝のためにスタジオが高いお金をかけてやっているものであり、そこではその話に集中するというのがプロというものである。

■「発言を止める権利」は誰にもない

 しかし彼ら彼女らが、ツイートやフェイスブックなど個人的なツールで何を言おうと、それは本人の自由。そうすることで、スターは「私はかわいいだけじゃないんですよ」とアピールできるし、ファンもそのスターをより深く知ったり、ファンでなかった人もそのスターの新しい側面を発見できたりする。それに、スパイダーマンのセリフではないが、有名人たちは「パワーを何か世のためになることに使わないといけない」とも思っている。
 この2、3年、反トランプ、反共和党の風刺画を描いてツイートし、政治的アーティストとして注目され始めたジム・キャリーは、まさによい例だろう。おバカコメディーで知られてきた彼は、この新たな才能で違った層からも尊敬を集めている。

 もちろん過激な絵を見たせいで、もうキャリーの映画は見ないと決めた人も、いくらかはいるかもしれない。それは彼にしても想定内だろう。それに、自分の絵が魔法のランプでないことも彼にはわかっている。
 金と名声で大抵のことは思いどおりにできるセレブにも、力が及ばないことはあるのだ。それは、2016年の選挙で、みんなが思い知らされた。

 だが、人に耳を傾けてもらえるのがセレブの特権である。世の中にはいろんな意見があるし、「誰かの正しいこと」が「誰にとっても正しいこと」とは限らない。それでも彼ら彼女らは自分が信じた行動を取るし、そもそも民主主義とは自由と平等を約束するものなのだから。
猿渡 由紀 :L.A.在住映画ジャーナリスト

最終更新:7月20日(土)11時00分

東洋経済オンライン

 

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