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小学校受験対策が机上の学習で終わらないワケ

7月20日(土)6時40分配信 東洋経済オンライン

小学校受験を経験した親子が得られるものとは?(写真:Fast&Slow/PIXTA)
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小学校受験を経験した親子が得られるものとは?(写真:Fast&Slow/PIXTA)
 「小学校受験」に対する親の感じ方、考え方はさまざまだ。

 その子の個性によっても変わってくるものなのだから、もちろん正解はないだろう。ただ、子どもにとっての最良の道を考える過程において、小学校受験がひとつの選択肢となっても不思議ではない。

■結果的に親の精神的な成長につながることも

また、ある意味においては、子どもの小学校入学が、結果的には親の精神的な成長につながるということも考えられる。それは、『小学校受験バイブル ~賢い子育てをするために~』(二宮未央 著、宮田紀子監修)の著者についても言えるようだ。
 息子が小学校受験に挑むことになったときに初めて、「小学校受験のメリット、デメリットは?」「母親が働きながら小学校受験はできるのだろうか?」「子どもにストレスはかからないのだろうか?」と、さまざまな疑問と直面したというのである。しかも、そこから多くのものを学ぶことになったようだ。

受験をするなら合格したいという気持ちはもちろんありましたが、もっと先のわが子の将来を見据えたとき、合格することよりも、「息子が将来幸せだと思える人生を過ごすために必要な土台である“人間力”を備えること」が大事だと考えました。(「はじめに」より)
 そう考えが及んだとき、著者はかつての恩師のことを思い出す。小学校受験のための教室を運営している人物であり、本書の監修者でもある宮田紀子氏。息子の受験についての覚悟を持てずに悩むなかで宮田氏と再会したことが、著者にとっての大きな契機になったというのである。

「今までの子育てすべてを考え直さなければ、息子さんの将来は大変なことになる」という宮田先生のお言葉で、私は心臓に銃口を突き付けられたようでした。
宮田紀子先生は、「見る」「聴く」「考える」を基本とし、生徒一人ひとりに向き合う方針のもと、少人数制の小学校受験を目的とする幼児教室で50余年にわたり指導されていました。名だたる有名小学校に何百人も合格に導いている、小学校受験の幼児教育に携わるエキスパートなのです。(「はじめに」より)
 その結果、「宮田先生の言葉を反映させた『幼少期の子育ての本』をいつか世に出したい」と考えるようになり、本書が誕生したというわけだ。
 ちなみに、ここ記載されているのは「働くママ+小学校受験を考えている方」へ向けてのメッセージや小学校受験のノウハウが中心で、忙しいママにも読みやすく実践しやすいことが書かれている。だが、本当に伝えたいのは「幼少期の子どもと、親子の絆を深めることの大切さ」だという。

■小学校受験で子どもの「人間力」が育まれる

 小学校受験に関する考え方を明らかにするにあたり、著者はまず「非認知能力」ということばを引き合いに出している。それが、子どもが小学校受験に勝つために必要な力であり、小学校受験対策をすることで得られるものだというのだ。
 「非認知能力」の対極にあるのは、数が数えられる、字が書ける、ものが覚えられる、論理的思考ができるなど、IQ(知能指数)に代表される「認知能力」だ。それは当然のことながら、人生を生き抜くために重要なもの。これまで、子育てに関して重視されてきた要素である。

 しかしその一方、近年では認知能力の高さだけが人の生涯を左右するのではないという研究・知見も多数報告されているという。

例えば国立教育政策研究所は2017年3月、「非認知的(社会的情緒力)能力の発達と科学的検討手法についての研究に関する報告書」を発表しました。
この中で詳しく論じられた主題の一つが「非認知的能力」であり、IQなどでは測れない人間の内面の力です。(19ページより)
 非認知能力は「意欲」「協調性」「忍耐力」「粘り強さ」「自己肯定感」「計画性」「責任感」「問題解決能力」などの、数値では測れない個人の特性。それらが、幼児期から育まれる「人間力」に関わってくるということである。

 事実、著者が本書の執筆にあたり、小学校受験を経験した複数の保護者に対して「小学校受験で得られたものはなにか」問うと、次のような答えが返ってきたのだそうだ。
「息子は物事をすぐに諦めてしまう性格であったけれど、忍耐強くなった」
「引っ込み思案であった娘が、積極的に友達に話しかけられるようになった」
「落ち着きのなかった息子が、静と動の区別をつけられるようになった」
(21ページより)
 このように、受験の合否とは別に、受験を通して精神面での成長を感じているという声が多く上がったというのである。

■日々の生活のなかで得られる学びこそが受験対策

 できないことを諦めず、「なぜできないのか」を考え、できるようになるまで続けること。そして、できたときの達成感や喜びを親子で共有すること。その繰り返しこそが、子どものなかに「自分もがんばればできる」という思いを根づかせ、ひいてはそれが自信につながるわけである。
 つまりはこれこそが、「非認知能力を養う過程」。そして、その結果として子どもに身についた精神的な成長が、「非認知能力」だということだ。

 もちろん、「小学校受験をしなければ非認知能力は培われない」ということではないだろう。とはいえ現実問題として、忙しい毎日を送るなかで非認知能力を意識し続けるのは難しいものでもある。

 そこで、小学校受験というひとつの目標を持ち、それを活用しようという発想。確かにそれなら、専業主婦にくらべて子どもと直接関わる時間が限られているワーキングマザーであったとしても、子どもの「人間力」を無理なく育むことができそうではある。
 ところで小学校受験の入試問題のなかには、「幼少期にこの問題を解かせる意味はいったいなんなんだろう?」と疑問を抱かざるをえないようなものが少なくないのだという。しかし、それらには一つひとつ意味があるのだそうだ。

 単純に問題を解くことだけが大事なのではなく、問題が解けるようになるまで試行錯誤するプロセスが重要だということ。つまり、そのプロセスのなかに「考える力」「忍耐力」「向上心」「達成感」を得られるチャンスがあるということだ。
 そのため、問題の趣旨や意味をくみ取ったうえで、親が子どもを導いてあげることが大切なのだと著者は言う。その問題を解かせることの目的も理解していないまま、ただがむしゃらに教えたところで、その問題の本質が子どもに伝わるはずもないわけである。

受験勉強を単なる「受験勉強」で終わらせるか、子どもの「人間力」の向上に結び付けられるかどうかは、親の力量にかかっています。どんなペーパーの勉強でも、机上の学習にとどまらせないことを心がけましょう。(23ページより)
 受験には当然ながら、机に向かって勉強するというイメージがついてまわる。しかし、それは中学、高校、大学受験の話だ。小学校受験の場合は、むしろ日々の生活のなかで得られる学びこそが最大の「受験対策」だということだ。

 これは学歴以上の財産となりうるもの。小学校受験のための勉強は単に机上の学習だけで成り立つものではない。

■「小学校受験をしない」という選択も

 『小学校受験バイブル』と銘打っている以上、本書には「受験に勝つ子を育てる方法」「夏の制し方」「願書の書き方、面接対策」「試験本番に際しての心得」など、実践的な情報も多数盛り込まれている。
 だが本書がなにより強調しているのは、あくまで「素直に育てること」、そして「親と子の絆」の重要性だ。その子の将来を決定づける最大の要因だともいえるそれらは、受験とあまり関係がないと思えるかもしれない。

 しかし、なによりまず、人間としての基礎を子どもの幼少期に固めること。なぜなら、それこそが未来へつながっていくものだからだ。事実、著者はこうも言うのである。

この本は小学校受験を推奨している内容ではありますが、小学校受験は、一つの通過点であり、「小学校受験を選択しない」という選択もあります。また、やめてしまったからといって子どもの人生に大きく影響するかといったら、そうでもありません。(「おわりに」より)
 大切なのは、笑顔であふれる家庭で育つことだからである。

 ましてや「1度受験をすると決めた以上、簡単に諦めてはいけない」とも限らない。

 小学校受験をすることで子どもがストレスを抱えてしまい、家庭から笑い声が消えるのだとすれば、それは本末転倒だということ。

 だから、もしそうなったのであれば、受験をやめてしまってもかまわないと著者は言う。それもまた、その家庭の出した最良の答えであり、子どもに対する愛情だからだ。
本来の目的を見失わないでください。
子どもの出来や合否に囚われず、もっと先の将来を見据えて、わが子が心から幸福だと思える人生とはどんな人生かを、もう一度よく考えてみてください。(「おわりに」より)
 そのため、子どもをよく見て話を聞き、性格・長所・短所・どんなところを伸ばしていきたいか、などをじっくり考えてほしいと著者は記している。いわば、子どもにとっていちばんの幸せとはなんなのかを、しっかり見極めることが大切だというわけである。
印南 敦史 :作家、書評家

最終更新:7月20日(土)6時40分

東洋経済オンライン

 

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