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山寺宏一「同業者から見ても凄い」圧倒的な実力

7月20日(土)16時00分配信 東洋経済オンライン

声優は、実は声の良しあしだけではありません。声優・山寺宏一さんを通して見えてくる、演じる姿勢のすごさとは?(写真:Jun Sato/WireImage/Getty Images)  
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声優は、実は声の良しあしだけではありません。声優・山寺宏一さんを通して見えてくる、演じる姿勢のすごさとは?(写真:Jun Sato/WireImage/Getty Images)  
昔と違って、最近は地上波のテレビ番組に出ることも珍しくなくなった「声優」という仕事。声優業界に憧れる若者は多くいますが、いったいどんな世界なのか?  
今回は「声優・山寺宏一の実力」について、フリーザやばいきんまんなど数多くの人気キャラクターの声を担当する中尾隆聖氏が上梓した新著『声優という生き方』から抜粋して紹介します。

 設定情報の多い少ないは別として、声優が役づくりをするにあたって、とくに経験の少ない人が陥りがちなのが、役に合わせて「声をつくってしまう」ことです。
 例えばおじいちゃんの役だったとすると、しわっしわの声にして、「わしはのう」なんて言ったりする。それだと「おじいちゃんなんだな」と思われても、単なるステレオタイプな記号でしかありません。おじいちゃんにもいろいろあります。

 温厚な人もいれば、怒りっぽい人、背筋がピンとしている人、性別がわかりにくい人、早口な人、無口な人。こういう人物であるから、こういう口調にする、とならなければいけない。

■まず必要なのは「役づくり」
 「声をつくっただけでやった気になるな」というのはよく言っています。まず芝居があって、そこに必要な声を出すという順序でないとなりません。だけど、声優志望の人たちは「声をつくること」で役づくりを終えてしまいがちです。

 この仕事をしていると、声優というのは「いろんな声が出せる人」と世の人々に思われているんじゃないかと感じることがあります。もちろん、山寺宏一さんのように「七色の声」といわれるような声帯を駆使した声の達人はいます。
 しかし、彼であっても演技においては声をつくるのは二の次でしょう。まず役をつくってから声をつくる。声をつくらなくても、口調やトーンで人物は演じ分けられます。

 しかし、「ばいきんまんにそれを言われても、いまいち説得力がない」、というのが困ったところです。実際、ばいきんまんはものすごく「つくった声」なんです。

 それこそ初期の頃は「このままじゃ声が潰れる」と思うくらい、無理な声の出し方をしています。若いうちに声帯を酷使してしまうのもよくありません。野球で言えばストレートを投げられるようにしてから変化球を投げろということです。
 「声優=いい声」というのも世間のイメージとしてはありそうです。しかし、「いい声」というのも漠然としていますね。私なんかが思ういい声は、大平透さん(ハクション大魔王などの声を担当)、若山弦蔵さん(ショーン・コネリーの吹き替えなどを担当)、野沢那智さん(アラン・ドロンなどの吹き替えを担当)とか、ダンディーでかっこいい、渋い人たちを想像します。

 アニメ好きの女子たちなら、いわゆるイケメンボイスでしょうか。正直、「いい声」というのは主観であって、好みじゃないでしょうか。
 ある程度は発声の仕方や口調でしょう。ぼそぼそとしゃべっていたら爽やかなキャラにはなりませんし、せわしなく早口だったらクールな大人という印象になりません。声質に特徴があったほうが声優としていいのかというと、これもなんとも言えません。

 私の地声で言えば、「ストレートでふつうにいい声」だと思っていますが、まわりからすれば特徴的なようです。すぐに誰だかわかっちゃう。そんなものですから、ダブりの役をやることが少ないです。
 ダブりというのは自分の役以外にもいくつか役を兼ねること。1つの作品で同時には出てこない脇役を2つ兼ねることもありますし、決まった役を持ちつつ、わざわざ専用のキャストを当てる必要のないほんのちょい役をその場でやることもあります。

 よくあるのは「ガヤ」。絵にもなっていないようなその他大勢がいるときです。学校のクラスで休み時間に騒いでいるとか、事件や事故で野次馬が集まっている場面とか。

 ガヤはレギュラーキャストみんなでやったり、ゲストや新人の人たちも参加しますが、そんなガヤでも私は「入んないで」なんて言われたりすることもあります。声ですぐわかっちゃうから。そういう意味では、個性が抑えられるのもある意味個性です。
■山寺宏一のすごさ

 話がそれましたが、いい声にはいい声の仕事もあるし、悪い声には悪い声の仕事がある。七色の声を駆使する先輩もいれば、1色の魅力でずっとやっている人もいます。

 若本規夫さん(『ドラゴンボール』のセルなどを担当)なんかは、あの独特の口調が話題になり、あちこちものまねまでされるようになりました。どんどん誇張されていき、いまでは「若本節」があちらこちらの番組で炸裂するという類まれな例です。
 一方で山寺宏一さんのように、クール、熱血、コメディー、さまざまな年齢の人物から動物までなんでもこなす声優がいます。それこそ役柄に合わせてどんな声でもつくることができます。天才です。しかも、ものすごく真面目に仕事に取り組むし、努力家でもあります。役者の鑑のような存在ですが、私なんかからすれば、もうお手上げだな、と思っちゃいます。

 しかし、うまいという以上に、熱心に作品に取り組む姿勢こそが山寺さんが業界から一目置かれているゆえんでしょう。
 さきほど述べた「ガヤ」ですが、セリフの少ない若手や新人がやるようなイメージがもしかするとあるかもしれませんが、誰でもできる簡単なものかというと、実はそうでもありません。実際はベテランも若手も関係なくやりますし、「経験の差」やセンスが如実に表れやすいのです。

 とくにセリフは決まっていませんが、なんでもいいわけではもちろんなく、状況をきちんと理解して適切なことを言わなくてはいけません。

 交通事故で通行人や野次馬が集まって、「どうした?  どうした?」となるシーン。驚いたり、こわがったり、興味本位だったり、だいたいここまでは想像できます。ただ、若い人ばかりだとおんなじようなことばかり言っていて厚みが出ないことがあります。ベテランが入るとそこが全然違ってくる。
 とあるベテランが、そこでやっていたのは警官。野次馬がいるんだから、それを現場に近づけないように制止する警官は当然いるだろうと考えて勝手にやっているのです。はっきりと絵に描かれていなくても、それが入るだけでガヤの質がぐっと上がる。そういう発想が自然と出てくるかどうかも役者としての技量です。

■山寺宏一が人気者になれた理由

 山寺さんはそこでも違いを生み出す男です。私は彼がデビュー間もない頃から『それいけ! アンパンマン』で共演していますが、実は彼もばいきんまんのオーディションを受けていました。もう、いまだったら間違いなく山寺さんです。彼は結局、めいけんチーズの役で参加することになりましたが、カバおくんや、かまめしどんなど、別のキャラクターも複数担当しています。
 カバおくんは、アンパンマンの世界では小学校にいる子どもたちの1人です。話によっては子どもたちがたくさん集まるガヤもあります。そこでやはり、ほかの子よりも印象的でした。おぼっちゃま風のしゃべり方も彼のアイデアでした。

 音響監督もそういうのを見ています。あんまりいいので、どんどんカバおの存在感が出てきて、大勢の中の1人から独り立ちできるくらいのキャラクターになっていったのです。

 ガヤだろうが小さな役だろうが、彼がやるとキャラがいきいきと存在感をもちはじめる。そういうことができるから、いまこれだけの人気者になったんだと思います。ですから、声質でとくに有利も不利もないし、個性は個性としてもちながら芝居をすればいいし、演じながらキャラクターをつくりあげていくことだってできるんです。
中尾 隆聖 :声優

最終更新:7月20日(土)16時00分

東洋経済オンライン

 

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