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外国人が驚いた日本の「魚料理」の当たり前

7月19日(金)5時30分配信 東洋経済オンライン

外国人が驚いた日本の魚料理に関する技術とは(写真:shige hattori/PIXTA)
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外国人が驚いた日本の魚料理に関する技術とは(写真:shige hattori/PIXTA)
 今やすしは世界中で親しまれるようになっており、日本のすし屋にも「本場の味」を求めて外国人が殺到している。だが、例えばイタリアやギリシャなど比較的魚を多く食べる国に対して、アメリカといえばいまだに「魚より肉」というイメージが強い。そんなアメリカ人にとって、日本の魚料理や魚食文化はどう映るのだろうか。

そんな疑問を日本の出版社から投げかけられ、自ら日本で取材して答えを出したのがジャーナリストのキャスリーン・フリン氏だ。昨年10月に来日し、築地や豊洲市場を訪れたり、自ら魚料理を学んだりして得た日本の魚文化について、自身の人生にからめて『サカナ・レッスン』にまとめた。
 実はフランスの名門料理学校を卒業しているフリン氏は、自ら料理教室を開催するなど料理の世界には明るい。が、そんなプロの料理家である同氏でさえ日本の魚料理は新たな発見の連続だったようだ。

■食事会で参加者が驚いた昆布のうまみ

 中でもフリン氏が驚いたのが、魚料理における2つの「技術」だ。1つが、料理の下ごしらえ。「脂分が多いサバの臭いを取り除くために、酢と塩を使うなんて、今まで思いつきませんでした。今はほかの脂分が多い魚にも、この方法を使うようになりました。魚に塩を振りかけて水分を抜き取り、味を引き出す下ごしらえも、すばらしい」とフリン氏は言う。
 もう1つが、肉類のだしではなく昆布のうまみを活用する技術。「とくにスープで、うま味と塩のレイヤーができる。おかげで私の料理技術も向上し、料理の材料について改めて考える機会にもなりました。昆布を魚と一緒に煮ることで、うま味を移す技術も覚えました。

 大勢を招待しこの方法で料理した魚を出したところ、食べた人たちから『この魚にある木のような香りは何?』と聞かれ、『昆布よ』と言うと、皆驚きました。西洋料理ではこのような技術は使いません。このように地球環境を守りつつ、食べものをおいしくする方法を持たないことは恥ずかしいと思いました」
 「魚焼きグリル」との出会いもフリン氏には新鮮だった。同氏は本に入れるレシピを書くために、ガスコンロに内蔵する引き出し式と、上部にふたがついた独立型の2つの日本式のグリルを購入。現在は、夫がソーセージを焼くのに愛用しているという。「完璧に茶色に焼けますし、キッチンに煙を出すこともありません。ベーコンも試しました。カリカリに焼けるのだけれど、後でグリルを洗うのが大変ですね」と笑う。

 執筆に際し、シアトル公立図書館で、57冊もの英語で書かれた日本料理の本を読み込んだフリン氏。バランスよく食べるために5色の食材を組み合わせる考え方や、漬物の作り方を知り、買いすぎてしまった野菜をピクルスにするなどその知恵を生活に取り入れるようになったという。
 みりんやしょう油、米酢など日本の調味料にも興味を持ち、「数少ない調味料で、合わせ方によってバラエティー豊かな料理ができるのはとても興味深い」と語る。そんなフリン氏がとくに気に入ったのがみそだ。

 「以前、すしを食べたときの献立で気に入っていたのが、みそ汁でした。そこから私は夢中になって10種類ものみそを買いました。今でもみそを数種類冷蔵庫にストックし、スパゲティソースなど、何にでも入れて料理しています」
■日本人には魚に対する敬意がある

 日本人と魚の「親しみ方」にも驚くポイントがあったという。

 「日本ではたくさんの魚がちゃんと消費されています。私は取材で魚のさばき方を学んだ東京すしアカデミーでヒラメの肝臓を食べさせてもらい、とてもおいしくて感動しました。魚になじんで育った私ですら、肝臓を食べることは思いもよらなかったからです。

 また、魚をどのように獲り、締めて新鮮さを保つかについて、とてもよく考えられていることに感動しました。それは、魚に対する敬意だと思う。アメリカの水産企業では、新鮮さを保つことが必須とされていないのです」
 フリン氏が、日本の魚食文化を「敬意を払うべき完璧さ」があると考えるのは、日本の歴史や、すし経済と歴史をたくさん調べたからだ。

 「アメリカには200年しか歴史がありません。なので、日本でとてもたくさんの固有の歴史があることに驚いたのです。私はフランスにも住んだことがあるので、やはり固有の歴史を持つフランスと比べることが、日本の歴史を理解する助けになりました。日本の歴史を読めば読むほど、その文化がどこから来たのかがわかり、魚食文化についても、よく理解するのに役立ちました」と話す。
 フリン氏が日本の魚食文化に感銘を受けたのは、日本とは大きく違うアメリカの魚食文化があるためかもしれない。先祖がスウェーデン人だというフリン氏自身は、子どもの頃から魚料理が好きだったというが、一般のアメリカ人にとって魚料理に親しみを持っている人はあまり多くないのだ。

 「魚にはとてもたくさんたんぱく質が含まれ、野菜的な要素と多少のデンプン質もあります。イギリスでは肉であり、2つの野菜でもあると言います。しかし、アメリカで魚は“皿に載った小さな一切れ”にすぎないことが多い。そこにアメリカ人の考え方が表れていると思います」
 「アメリカでは、魚と言えばフライと考えている人も少なくない。それは子どもの頃からフライを食べて育ってきたことにも問題があると思います。私の両親は釣りをして、それを料理しました。切り身を食べて育ったので、フライは奇妙な食べ方だと思っていました。しかし、私の夫のマイクはフライを食べて育ち、それが魚料理だと思っていたのです」

 だが、夫は取材来日を機に、苦手だった生魚のすしを食べるように。世界中で食べられているすしをマイク氏が苦手だった理由は、日本以外では冷凍魚をよく使うからではないかと話す。「今では少し高くても、質の高いすしを食べるようにしています。シアトルではそれが可能ですから」。
■魚を食べ慣れていないことの“弊害”

 とはいえ、すしが身近になったからといって、アメリカ人が魚を好むようになったとは言えない、とフリン氏は話す。

 「人々は今でも、3、4種類の魚しか食べていません。スーパーには、鮭、ティラピアなど7、8種類しか置いていないのです。その魚には香りがありません。多くのアメリカ人にとってそれは、単に鶏の胸肉のように白くておいしくない『たんぱく源』にすぎないのです。たまにマスを見つけることはできますが、それもめったにない。だから多くのアメリカ人は魚を食べないのです」
 魚を食べ慣れていないことによる“弊害”もある。「多くの人はメロを好んで食べますが、レストランで注文するとき、それがどこで獲れたものなのかまでは誰も気にしていません。

 チェーンの安いレストランでは、お皿いっぱいに魚を出しているけれど、人々はその半分も食べないで、残りは捨てられてしまう。そういう光景を見ると胸が痛みます。メディアなどで取り上げられてはいるけれど、アメリカ人にとって食品ロスは関心のない話なのだと」。
 今回の企画に際し、フリン氏は手はじめにSNSで魚食についての調査を行っている。すると1日で400人、最終的には1100人からコメントが寄せられ、魚食に関する問題には関心が高いが、混乱している人が多いと感じたという。なぜなら、魚は高たんぱく低脂質とヘルシーな一方で、世界的に乱獲が問題になっているからだ。

 中でもシアトルなど西海岸の人たちは意識が高く、「乱獲を防ぐためには、養殖の魚を食べればいいの?  でも、それも体に悪いと聞いているし、何を食べるのが正しいのかわからない」「サケを食べるたびに、(それをエサとしている)シャチを殺しているのではないかと心配になる」という声が寄せられたという。
 対して、フリン氏も住んでいた内陸の中西部は「悪い状態の魚はすべて捨てられてしまうことで有名」なほど、魚慣れしていない。「スーパーで魚を買ってきたけど、家に帰ってきたらなんか臭う気がする。家がくさくなるから捨ててしまった……という経験からちゃんとした魚を選んだり、調理したりする自信をなくしてしまっている人が少なくないのです」(フリン氏)。

■丸ごと買えば生きものだったことを意識できる

 では、より魚とうまく付き合うにはどうしたらいいのか。1つは、乱獲の現状を知り、意識を高めることだろう。フリン氏はこれについて規模の巨大さで知られるアメリカのモントレーベイ水族館にメール取材を行っており、「魚介類の観察」というプログラムがあると回答を得た。「この魚は『青信号』なので好きなだけ食べられます。この魚は『黄信号』なので食べるときは注意が必要。この魚は『赤信号』で、乱獲されているので食べるのを避けたほうがよいでしょう」といった表示をしているのだそうだ。
 また、フリン氏自身は料理を教える際、「例えば鶏を丸ごと買うことをすすめています」と話す。「そうすると、これがもともと生き物だったと意識できるうえに、低コストだからです。魚や動物、たんぱく質について、考えを改めてもらわなければいけないと思います」。

 フリン氏は、魚大国の日本の食文化の奥深さを、外からの目で教えてくれた。塩であらかじめ水分を抜くことで臭みを抜き、味を引き出す基本や、たいていのキッチンにあり、塩焼きの魚をパリッと塩焼きにする魚焼きグリルは、独自の積み重ねで生まれた知恵だったのである。
 しかし同時に、日本は諸外国に比べて漁獲制限が進んでいないという指摘もある国だ。漁業者の高齢化が進み、将来の漁業が安泰とは言えない状態でもある。

 食べる側の消費量も減少傾向にあり、農林水産省の調査によると、消費量のピークだった1988年に比べ、2016年には6割強まで減っている。FAO(国連食糧農業機関)の調査でも、2005年まで年間1人当たりの魚介類の消費量世界一だったのが、2013年には7位にまで転落している。
 今や魚は肉より割高なたんぱく源であり、買い置きしづらい食材であることもあって、仕事を持つ忙しい人が敬遠しがちになっている。誇りを持つべき文化が衰退する危険にさらされていることに対し、私たちも意識的になる必要があるのではないだろうか。
阿古 真理 :作家・生活史研究家

最終更新:7月19日(金)5時30分

東洋経済オンライン

 

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