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ポルシェやアウディが「SUVクーペ」投入の理由

7月19日(金)6時20分配信 東洋経済オンライン

アウディジャパンは7月の発表会でSUVクーペ「Q8」を日本市場に投入することを発表した(筆者撮影)
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アウディジャパンは7月の発表会でSUVクーペ「Q8」を日本市場に投入することを発表した(筆者撮影)
 最近になって、ドイツのプレミアムブランドがSUVクーペなるジャンルの新車種を相次いで送り出している。まず4月にはポルシェが「カイエンクーペ」を発表し、7月に入るとアウディが「Q8」をデビューさせた。

 同じドイツのプレミアムブランドであるBMWは「X6」「X4」、メルセデス・ベンツは、「GLEクーペ」「GLCクーペ」をすでに販売しており、冒頭で挙げた2車種はこのうちX6とGLEクーペのライバルとなる。
 この中でもっとも早く発表されたのはX6で、初代が2008年に登場している。しかしこれがSUVクーペのパイオニアではない。

■いすゞ「ビークロス」の存在

 筆者が記憶している限りでは、SUVクーペのルーツと言えるのはスズキが1995年に送り出した「X-90」と、いすゞ自動車が1997年に発表した「ビークロス」だ。

 どちらも1993年の東京モーターショーに出展したコンセプトカーが好評だったことから市販化したもので、X-90は当時の「エスクード」、ビークロスは日本でも販売していたSUV「ビッグホーン」をベースに、個性的なボディを融合させた。
 いすゞは現在日本ではトラックとバスのブランドとして知られるが、1993年までは「ジェミニ」や「ピアッツァ」などの乗用車、2002年以前はSUVをわが国で開発・生産・販売しており、海外向けでは現在も自社開発のSUVをラインナップしている。

 ビークロスが発売に移された1997年の東京モーターショーには、本田技研工業(ホンダ)がやはりSUVクーペのコンセプトカーを展示。翌年「HR-V」として発売した。ただし3ドアだけでは販売台数が伸びず、1999年に早くも5ドアを追加。こちらが主力となった。
 HR-Vは2006年に国内販売を終了。その後2010年の日産自動車「ジューク」、2013年のホンダ「ヴェゼル」、2016年のトヨタ自動車「C-HR」など、クーペ風なスタイリングを持つSUVは登場しているが、すべて5ドアのみとなっている。なおヴェゼルは欧米ではHR-Vの名前で販売している。

 日独以外ではイギリス・ランドローバーの「レンジローバー・イヴォーク」が印象的だった。こちらは2008年のコンセプトカー「LRX」が源流で、日本では2011年に発表された。ただしスタイリングが似ていたHR-V同様、LRX由来の3ドアクーペが存在していたのは初代だけで、今年発売した2代目は5ドアのみとなった。
 近年は日本のみならず欧州でも2/3ドア受難の時代であり、小型スポーツカーのメルセデス「SLC」、アウディ「TT」はともに生産終了を発表した。2台のライバルであるBMW「Z4」がトヨタ「スープラ」との共同開発となったのも、こうした事情が絡んでいるかもしれない。

■SUVのマーケットが急速に拡大

 それを考えればドイツのSUVクーペが最初から5ドアのみで出てきたのは、現状を察知した手堅い戦略と言える。ただしジャーマンSUVクーペは日本車勢やイヴォークとは立ち位置が異なる。新しい車種として新しい価値を提案した日英の車種とは対照的に、ドイツ勢はすべて基本となるSUVがあり、バリエーション展開としてのクーペである。
 昔は同じ車種に4ドアセダンと2ドアクーペ(あるいはハードトップ)を用意することが多かった。トヨタの「カローラ」にもクーペがあった。しかし前述のように2/3ドアを好む層は次第に減り、「86」のように独立した車種として付加価値をアピールすることが一般的になっている。

 対照的に増えているのがSUVで、当初はバリエーションの1つにすぎなかったが、近年マーケットが急速に拡大し、ワゴンに近いクロスオーバーSUVからミニバンを思わせる3列シートSUVまで、さまざまなパッケージングが生まれている。SUVの中にセダン、クーペ、ミニバンなどのバリエーションがあるような状況だ。
 ここまでSUVの車種が増えた理由として、背の高さによる使いやすさや乗りやすさ、ミニバンのような生活感が薄いカジュアルな雰囲気、技術の進歩で背が高くても走りの性能を確保できるようになったことなどがあるが、メーカーにとっては付加価値型商品、つまり高く売れることも大きいと思っている。

 4WDなどオフロード走行を考慮したメカニズム、生活を楽しむための車種という方向性が、こうした位置付けにつながり、多くの自動車ブランドがSUVを用意する理由の1つになっていると考えている。
 ではカイエンクーペはカイエンと、Q8はQ7と、どのような差別化をしているのか。ボディサイズを見ると、カイエンクーペは全長4931mm、全幅1983mm、全高1676mmで、Q8はそれぞれ4995mm、1995mm、1705mmとなっている。既存の2車種との比較では、背が低くなっているだけでなく、長さや幅も違う。

 Q8はQ7よりやや全長が短くなっている。これはQ7が3列シートだったことが大きい。Q7の2列シート版という意味も持たせているのだろう。クーペという言葉から連想するルーフラインではないが、リアクォーターピラーの角度は寝ている。Q7はキャビンが四角すぎると感じている人にとっては朗報だろう。
■「911」を思わせる姿形

 逆に全幅は拡大している。これはトレッド(左右タイヤの間隔)を広げて太いタイヤを履き、これらをカバーするフェンダーを張り出した結果である。背が低くなっていることと相まって、クーペにふさわしい走りを目指したことがわかる。

 カイエンクーペもまた、カイエンより太いタイヤを履くものの、トレッドや全幅は逆に狭くなっている。ただし全長については、逆にやや長い。

真横からの眺めでは、「911」を思わせるなだらかなルーフラインやサイドウインドーが印象的だ。少し前に書いた911の記事で、911は空冷時代のデザインから飛躍しすぎると人気が薄れることを書いた。911に似たサイドビューを持つカイエンクーペはポルシェファンからも支持されるだろう。
 フロントマスクはカイエンとほぼ同じなのに対し、リアはテールゲートの角度が異なるほか、ナンバープレートがゲートからバンパーに移されたことも目をひく。これも911に近いイメージを抱かせる。

 一方のQ8は、グリルが横に広がり、Sラインパッケージと呼ばれるスポーティな仕様ではグレーのフレームでグリルの周囲を覆っている。少し前までのアウディのシンプルかつスマートな造形とは異なる印象だが、大型ミニバンの巨大なグリルを好む人が多い我が国をはじめとするアジア諸国では、好評を博するだろう。
 ポルシェとアウディの昨年の世界販売台数を見ると、国別で最高の数字を挙げたのはどちらも中国で、全体の約3分の1を占めている。強固なブランドイメージを持つ欧州車であっても、巨大マーケットで販売台数を伸ばしたいのであれば、彼らの趣味嗜好に沿ったクルマづくりが求められるのは当然だ。

 価格についても触れておこう。Q8のベースグレードである3リッターV型6気筒ターボエンジン搭載の 55 TFSIクワトロを、同じエンジンを積むQ7を比べると、Q7が938万円、Q8が992万円で乗車定員が少ないQ8のほうが高い。カイエンはさらに明白で、3リッターV6ターボエンジンを積むベースグレードで比較すると、1012万円に対してクーペは1115万円となる。
 セダンやワゴンに対するSUVと同じように、クーペもまた付加価値型商品である。この位置付けを確立したのはそもそも欧米で、日本車の例として挙げたカローラもそうだった。セダンのような実用重視ではなく、デザインや走りを楽しむ車種という位置付けが、贅沢なクルマというイメージを生み、高めの値付けにつながった。2台のSUVクーペもこの図式の上にある。

■富裕層の欲求を高いレベルで満足させる

 われわれ庶民にとっては高価であることはデメリットだが、このクラスのSUVの主な顧客である富裕層にとっては、格上のクルマに乗っていることをアピールできるというメリットにもなる。いいものを買ったと顧客に実感させることは、マーケティングでは重要だろう。
 従来のクーペも同様の位置付けだったが、使い勝手に難があった。とりわけ2/3ドアは使い勝手が悪かった。その点SUVクーペは車高が高めなので乗り降りは楽であり、室内は広く、目線が高いので運転はしやすい。

 もちろんそれは、同じクラスの既存のクーペと比べた場合である。カイエンやQ7にも言えることだが、5m近い全長、2m近い全幅は日本の道路事情に合っているとは言えない。車両重量はどちらも2t以上なので、経済性は期待できないし、環境負荷も高い。
 クルマはそういった社会環境を考えて選んだほうが幸せになれるはずだと、庶民のひとりとして思うが、一方でSUVクーペというジャンルが、富裕層の欲求を高いレベルで満足させる車種であることも確かである。
森口 将之 :モビリティジャーナリスト

最終更新:7月19日(金)6時20分

東洋経済オンライン

 

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