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6.2%成長の中国、27年ぶり「低成長」のわけ

7月18日(木)5時40分配信 東洋経済オンライン

中国の今年4~6月期の実質GDP成長率は、1992年に統計が始まって以来の低水準にとどまった。写真は中国・青島市の港湾で輸出向けコンテナを運ぶクレーン車(写真:Imaginechina/時事通信フォト)
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中国の今年4~6月期の実質GDP成長率は、1992年に統計が始まって以来の低水準にとどまった。写真は中国・青島市の港湾で輸出向けコンテナを運ぶクレーン車(写真:Imaginechina/時事通信フォト)
 中国では四半期ごとのGDP統計発表は一大イベントで、国家統計局の記者会見はリアルタイムで報道される。説明に当たる報道官は国民の目を意識して、強気なコメントに終始するのが常だ。それでも、その応答ぶりから当局がいま何を心配しているかはうかがえる。

 今年4~6月期のGDPが公表された7月15日の記者会見で、雇用情勢への見方を聞かれた報道官は「失業率は5%前後で推移しているが、今年の大学卒業生は830万人近い。雇用への圧力は増している」と話した。2001年に100万人余りだった大学卒業生は2009年には600万人を超え、その後も右肩上がりで増加している。親の期待を背負い高い学費を払ってきた一人っ子たちにそれなりに稼げる仕事を用意することは、社会の安定維持のための優先課題だ。
 中国政府は米中貿易摩擦で、制裁関税の撤廃まで妥協しない持久戦の構えを固めている。雇用の維持はそのための絶対条件だろう。

■1992年に統計が始まって以来、もっとも低い数字

 中国政府が発表した今年4~6月期の実質GDP成長率は前年同期比6.2%増だった。これを受けて内外のメディアは一様に「リーマンショックの直後だった2009年1~3月期の6.4%を下回り、1992年に統計が始まって以来、もっとも低い数字だ」などと報じた。今年1~3月期の成長率は前年同期比6.4%だったので、0.2ポイントのマイナスだ。2四半期ぶりの減速である。
 とはいえ、中国政府が今年の成長率の目標としている6.0~6.5%の範囲内ということもあってサプライズはない。4~6月期のGDPは額にして23.7兆元(379兆円、1元=約16円)で、これは2009年1~3月期の6.5兆元に比べて3倍以上に膨らんだ。これだけ大きな経済が毎年6%もの成長率を維持するのは簡単なことではない。

 経済を成長し続けるために期待されていたのが、財政出動と金融緩和による景気テコ入れ策だった。2019年予算について、今年3月の全国人民代表大会(全人代)で、対GDP比の財政赤字を2.8%と、2018年より0.2ポイント拡大する方針が打ち出された。これは2018年に政府・企業の債務削減(デレバレッジ)と緊縮財政が景気を冷やしすぎたという反省によるものだ。
 また増値税(付加価値税)の引き下げなど、総額2兆元に及ぶ企業負担の軽減も決まった。金融面では、中央銀行である中国人民銀行が国有銀行に対して中小企業向け融資の拡大を指導。3月の人民元建ての新規融資は1兆6900億元と2月から倍増した。

 こうした動きを受けて、企業の景況感を示す製造業PMI(国家統計局)は2月の49.2から大きく改善した。3~4月は景気判断の節目となる50を上回ったが、これに冷や水をかけたのが5月10日のトランプ政権による第3弾の制裁関税だ。
 アメリカ政府が2000億ドル相当の中国製品への関税を10%から25%に引き上げると発表し、米中貿易摩擦の先行きは一気に不透明さを増した。このため、5月の製造業PMIは49.4に反落。6月も横ばいだった。製造業投資の増加幅は1月から6月までの累計で前年同期比3.0%にとどまり、同時期に9.5%増だった2018年との落差が鮮明になった。

 牽引役になるはずだったのはインフラ投資だ。ところが1~6月期のインフラ投資は累計で4.1%増にとどまり、通年で3.8%増だった2018年と比べてペースは加速していない。
■シャドーバンキング規制で資金供給に目詰まり

 年初にインフラ投資の呼び水として期待されたのが、地方政府特別債(専項債)発行額の増額だった。専項債は元利償還の財源がプロジェクトからの収益に特定されているうえ、地方政府による保証がつかない。その狙いはインフラ投資と地方政府の財政を切り離すことにある。

 その発行額を2018年より8000億元多い2.15兆元に増やし、地方政府主導のインフラ投資が大幅に伸びると期待されていた。しかし、それがもくろみどおりに進まず、マクロ経済政策を統括する国家発展改革委員会が地方での実地調査を進めている。
 かつては融資プラットフォーム(地方融資平台)と呼ばれる資金調達会社に地方政府が出資し、国有銀行が融資をつける手法が認められていた。地方融資平台は独自に債券を発行し、開発資金に充ててきた。地方融資平台の負債は事実上、地方政府の「隠れ債務」とみなされている。

 これが2013年に「シャドーバンキング(銀行を介さない金融取引)」問題として注目され、中国経済が抱えるリスクとして強く意識された。そのため、現在では地方融資平台への地方政府の出資は禁じられている。
 ところが、この政策が資金の目詰まりを起こすことになった。インフラ投資のための会社をつくろうにも、資本金がないと銀行は貸せないからだ。そこで6月初めに制度を改正し、専項債で調達した資金を資本金に充当することが認められた。そして資本金の5倍まで銀行借り入れができることになった。今後はこれでインフラ投資にはかなり勢いがつくとみられる。

 中国では毎年7月下旬に開かれる共産党中央政治局の会議で、下半期の経済運営の方針が議論される。今年もその場で、景気下支えのためのインフラ投資の拡大に向け、さまざまな政策が決定されるとみられる。これでうまくいけば下期は6.5%、通年で6.4%程度の成長率が期待できるかもしれない。もしトランプ政権による第4弾の制裁関税が発動されるようなら、専項債がさらに増額されることだろう。
 懸念材料は、これにより債務問題が再燃することだ。中国の非金融部門の債務は拡大を続け、2018年12月末時点でGDP比254%まで膨張している。習近平主席は今年1月の談話で、企業と地方政府の過剰債務問題を「灰色のサイ」に例えた。

■「反腐敗運動」で地方政府は委縮気味に

 予測困難だが発生すると破滅的な結果をもたらす「ブラックスワン」に対して、灰色のサイとは発生確率が高く打撃も大きいのに見逃されがちなリスクを指す。債務拡大を伴うインフラ投資は、米中摩擦のもとでの景気底割れは防げても、灰色のサイをもっと太らせるリスクがある。
 こうした懸念がくすぶる中で「5倍までレバレッジをかけていい」と言っても、そこまで銀行が融資をつけてくれるのかはわからない。2013年に習政権が発足して以来の反腐敗運動で、地方政府の現場が委縮しているという要素も見逃せない。こうしてみると、頼みの綱のインフラ投資が期待通りの効果をあげる保証はない。

 リーマンショック後に中国は4兆元政策でV字回復を果たしたが、当時はGDPの5割近くが投資だった。現在は消費のウエートが高まり、4~6月期の成長率をみても最も寄与度が大きかったのは消費だ。6.2%成長のうち3.7%が消費の伸びによるもので、純輸出の1.3%、投資の1.2%がそれに続いている。
 ここまで大きくなった経済を持ち上げるのに、インフラ投資頼みでは限界がある。企業が自信をもって投資をし、家計が消費に前向きになれるようなビジョンを打ち出せるか。貿易摩擦の長期化をにらんでアメリカとの持久戦を呼びかける中国政府にとって、それが最大の課題だろう。
西村 豪太 :東洋経済 記者

最終更新:7月18日(木)5時40分

東洋経済オンライン

 

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