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「人間関係」に疲れ切った日本人を救う働き方

7月16日(火)5時30分配信 東洋経済オンライン

人間関係に翻弄され、疲れ切った日本人を救う働き方とは?(写真:GrandJete/PIXTA)
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人間関係に翻弄され、疲れ切った日本人を救う働き方とは?(写真:GrandJete/PIXTA)
世界は急速に「未来」に向かっているにもかかわらず、日本人(サラリーマン)の働き方は相変わらず前近代的な「身分制」にとらわれたままです。この気の遠くなるような矛盾が私たちの直面している現実なのですが、そんな世界をどのように生き延びていけばいいのでしょうか。近著『働き方2.0vs4.0 不条理な会社人生から自由になれる』より橘玲氏が海外の企業の事例から、複雑な人間関係や膨大な業務から社員を開放する新たな試みを紹介します。
■「触れ合い」が多すぎることが「ソロ化」を招く

 多くの人が感じている「生きづらさ」の根源にあるのは、知識社会が高度化し人間関係が複雑化していることです。保守派やコミュニタリアン(共同体主義者)は「昔のような触れ合いがなくなった」と嘆きますが、これはそもそも事実として間違っています。

 小さなムラ社会で農業しながら暮らしていれば、顔を合わせるのは家族と数人の隣人たちだけで、ムラの外から見知らぬ人間(異人)がやってきたら大騒ぎになるでしょう。ヒト(サピエンス)は旧石器時代から何十万年も、あるいは人類の祖先がチンパンジーから分岐してから何百万年も、こうした世界で暮らしてきました。
 しかし今では、(少なくとも都会で暮らしていれば)日々、初対面の人と出会うのが当たり前です。こんな「異常」な環境に私たちは適応していないので、それだけでものすごいストレスになります。問題は「触れ合いがなくなった」ことではなく、「触れ合いが多すぎる」ことなのです。

 日本をはじめとした先進国で急速に進む「ソロ化」はここから説明できます。日常生活での「触れ合い」に疲れ果ててしまうため、プライベートくらいは1人(ソロ)になりたいと思うのです。夫婦は「他人」ですから、その関係すらもおっくうになると、結婚できるだけの条件(仕事や収入)を十分に満たしていても生涯独身を選ぶ人も増えてくるでしょう。
 こうした問題がわかっていても、会社(組織)は専門化する業務や多様な価値観を持つ顧客の要望に対応するために、仕事を複雑化せざるをえません。その結果、多くの社員が人間関係に翻弄され、擦り切れ、力尽きていきます。「karoshi(過労死)」は今では日本だけではなく、世界中で大きな社会問題になっています。

 この理不尽な事態に対して個人でできる対抗策が、会社を離脱するフリーエージェント化ですが、誰もが独立して自分の腕一本で家族を養っていけるわけではありません。そこで、「会社そのものを変えればいいじゃないか」という試みが出てきました。
 ここで、ジェイソン・フリードとデイヴィッド・ハイネマイヤー・ハンソンの『NO HARD WORK!  無駄ゼロで結果を出すぼくらの働き方』から、「穏やかな会社(カーム・カンパニー)」というコンセプトを紹介しましょう。

 フリードとハイネマイヤー・ハンソンはソフトウェア開発会社「ベースキャンプ」を1999年に創業しました。開発・販売するのはプロジェクト・マネジメントツールの「ベースキャンプ」のみで、世界30カ国で54人の社員(メンバー)が働いています。ということは、1カ国に1人か2人ということになります。
 ベースキャンプの労働時間は1年を通じてだいたい1週当たり40時間で、夏は週32時間に減らしています。社員は3年に1回は1カ月の有給休暇を取ることができ、休暇中の旅行費用は会社持ちです。

■働く時間は1日8時間あれば十分

 こんなことが可能なのは、本来、ちゃんとした仕事をするのに1日8時間あれば十分だからです。それなのに、日本人がなぜこれほど忙しいのかというと、「1日が数十の細かい時間に寸断されている」からです。会議や電話、同僚や部下からの相談、上司との雑談など、こまごまとした用事によって通常の勤務時間のほとんどは潰れてしまいます。細切れの時間で集中した仕事はできないので、夜中まで残業したり、休日に出勤して穴埋めしなくてはならなくなるのです。
 ベースキャンプでは、それぞれの社員が「開講時間」を決め、1日1時間など、自分への質問はそのときに限るようにしています。そんなことをして大丈夫かと思うでしょうが、緊急の質問は実はほとんどなく、自力で解決できることも多いといいます。「聞けば教えてくれる」同僚や上司が近くにいるから、依存してしまうのです。

 会議や打ち合わせなど、他の社員のスケジュールを勝手に埋めることができるシェア型のカレンダーもベースキャンプでは使用禁止です。他人の時間を勝手に分割し、仕事に集中できないようにして生産性を落とすだけだからです。
 給与の交渉も時間の無駄だとして、プログラマーであれデザイナーであれ、いっさいの査定なしに、業界の同じポジションのトップ10%が得ているのと同じ額の給与が支払われます。これは住んでいる場所(国)に関係ないので、バングラデシュのような生活コストが安いところで暮らせば、ものすごく優雅な生活ができます。こうしてベースキャンプの社員たちは、自分と家族にとって最も快適な場所に移り住んでいきます。

 どうでしょう?  これはたしかに特殊なケースでしょうが、会社であっても、創意工夫によって「人間らしい」働き方をすることは可能なのです。
橘 玲 :作家

最終更新:7月16日(火)5時30分

東洋経済オンライン

 

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