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トヨタが超高級「スーパーカー」を投入する意味

7月16日(火)5時20分配信 東洋経済オンライン

TOYOTA GAZOO Racingは、6月に行われた ル・マン24時間レースで2連覇を果たした(写真:トヨタグローバルニュースルーム)
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TOYOTA GAZOO Racingは、6月に行われた ル・マン24時間レースで2連覇を果たした(写真:トヨタグローバルニュースルーム)
 TOYOTA GAZOO Racingが昨年に続く2連覇を達成した2019年のル・マン24時間レース。その決勝スタート前に行われたブリーフィングで、GAZOO Racing Companyの友山茂樹プレジデントは、2020-2021年シーズンから導入されるル・マン、そしてWEC(世界耐久選手権)の新しい最高峰クラスへの参戦を発表した。

 注目すべきは、ハイパーカークラスと呼ばれるこのカテゴリーにTOYOTA GAZOO Racingが投入するのが、市販前提のモデルだということである。2018年1月の東京オートサロンでは、現行のWEC参戦マシンであるTS050ハイブリッドをベースに一般公道走行可能としたGRスーパースポーツコンセプトを発表していたが、このハイパーカークラスには現在開発中の新たなマシンで挑む。そして、のちにこのマシンをベースとする市販車を発売するという計画だ。
 モータースポーツにますます力を入れ、そして販売価格は1億円をくだらないであろう、こうしたモデルを発売しようとしているGAZOO Racing Companyの狙いは何か。GRブランドの目指すものは何かを友山プレジデントに、ル・マン24時間レース中のル・マン、サルテ・サーキットにてあらためて聞いた。

■「レーシングカンパニー」と名乗る真意

 「このクルマは、これまでのトヨタのクルマづくりとは違って、レースフィールドにあるクルマからロードゴーイングバージョンを作る。しかも、衝突安全性とか法規要件は入れなきゃいけないけれど、できる限り近いものをそう遠くない未来に出します。実際にル・マンのレースで戦っているクルマに公道で乗れるというところが、われわれがスーパーカーという領域に新しく入っていく中で一番の価値だと思いますし、そうしなければダメだと思います。スーパーカーのビジネスと、WEC、ル・マンとは表裏一体。両方とも重視していく」(友山氏)
 GAZOO Racing Companyは通常のマニュファクチャラー(自動車メーカー/ブランド)ではなく、レーシングカンパニーだ。友山氏はつねにそう発言している。単にレースに出るのではなく、レーシングカーと市販車が一体だというのが、その真意なのだ。

 「GAZOO Racingはピュアスポーツで、レースフィールドからクルマを作っていく。コンペティションで培ったノウハウと、そこで鍛えたエンジニア、メカニックを使ってやるということですね」(同)
 モータースポーツを継続的に行うこと。それがGAZOO Racing Companyのビジネスの根幹にあるテーマだ。では、なぜモータースポーツを継続的に行うのか。マーケティング?  技術のアピール?  しかし一番に挙げられたのは、それとはまったく異なる答えだった。

 「それは『人を育てる』ためです。今ピットではたくさん、トヨタの人間がいますが、そうじゃなければああいうことはやらないで全部プロに任せた方がいい。レースのプロの方が安くて確実でしょ。でも、あえてそういう人間を入れて、技術を吸収させているんです」(友山氏)
 TMG(トヨタ・モータースポーツGmbH)を主体とするTOYOTA GAZOO Racingのチームに合流しているのは、トヨタ自動車のスタッフだけではない。デンソーやアイシンといったサプライヤーの若いメンバーも、やはりチームに入って作業をしている。

 「クルマはウチだけじゃつくれません。サプライヤーさんも一緒にやっていかなきゃいけない。そこで得られたいろいろなノウハウは必ず生かされていくでしょうし、鍛えられたエンジニアはどこでも十分活躍していけるでしょう。そういうエンジニアの育て方とかクルマづくりは、今までしていなかったんです。いや、過去にはやってたと思うんですけどね。成瀬さん(元トヨタ マスタードライバーの故・成瀬弘氏)がいた第7技術部(トヨタ自動車工業時代に有志で日本グランプリに出場するなどモータースポーツ活動を行った)とかね。でも、ここまで来る途中で全部なくなっちゃった」(同)
■モータースポーツが収益に貢献しないといけない

 WECからはGRスーパースポーツが具現化してきたし、市販車としてはスープラがすでにデビューしている。ほかにもGRとしては引き続き、モータースポーツ由来のプロダクトを投入していく予定となっている。

 「持続的にモータースポーツをやるうえでは、モータースポーツが収益に貢献しないといけない。娯楽だけじゃなくてね。やはりWECで勝つことがGRスーパースポーツの技術的価値もマーケティング的な価値も高めていく。WRCで勝つことが、次のヤリスの価値も同様に高めていくんです。そうするとそれらが売れて、収益が上がって、またそれをモータースポーツに投入して、また技術的価値とマーケティング価値を上げていく。これこそウチが回したい“サイクル”なんです。TOYOTA GAZOO Racingというかたちができて3年。カンパニーができて2年です。石の上にも3年。これから結果が少しずつ出てくると思います。結果というのは具体的な商品であり、具体的な成果が出るということです」(同)
 その成果には人が育つという意味も含まれるだろう。友山氏はカンパニー内で「あなたたちはほかのカンパニーから好かれる存在になったらおしまいだよ」と言っているという。

 「はい、『つねに摩擦を生んでいかないとダメだよ』って(笑)。お客様のニーズや期待は無限に高まっていくもので、それを追いかけて、追いつくことはない。つねにギャップがある。レースをやっていれば、ほかのコンテンダーも勝とうとして技術を高めてくるから、じっとしていたら負ける。ウチもやらなきゃいけない。こうやって自動的にモータースポーツファンとかライバルというのはどんどん高いところにいくんで、それをリードしたりフォローしたりしていくと、トヨタという会社がやっていることとはギャップができるんですよ、必ず。そうすると『お前たちそんな勝手なことやるんじゃない』って摩擦が生まれると思うんですが、それは気持ちがいいことでしょう? (笑)」(同)
 GAZOO Racing Companyの目的をまっとうしようとすれば、おのずと、より高みを目指した進化を求められることになる。技術もどんどん向上していく。むしろ、摩擦が生まれるくらいのカンパニーでいられるならば安泰だと、つまりはそういう話である。

 「GRのモデルの中には、他のカンパニーが開発した車両をベースにGAZOO Racing Companyで仕上げたものがあって、特に限定車としてGRMNを設定しています。これも、やっぱりわれわれ側と既存の開発部隊ではギャップが生まれるわけです。こっちはどんどん進化しているし、向こうは守る物が多くて……いい悪いじゃなくてね。そうするとぶつかって、一旦中止するというようなことも起きる。そういうのが僕はすごくね、心地よい。だって簡単にうまくいったらおかしいじゃないですか。どんどん中止になったり遅れたりすればいいんですよ…なんて言っちゃいけないかな(笑)」(友山氏)
■「自動車メーカーのほうが逃げていた」

 話を具体的な商品、成果というところに戻す。もちろん人が育つのは重要だが、そのためにもGAZOO Racingにとっては、モータースポーツで結果を出すだけでなく、そうして結果を出したことが世で知られ、価値あることだと認められることも重要になるだろう。友山氏の言うサイクルを回すためには、そうした認知獲得の活動、あるいは文化としてのモータースポーツの流布といったことも求められるのではないだろうか。
 「たとえばSuperGTって実は観客がどんどん増えてるんですよね。われわれが秋に開催しているTGRF(トヨタ・ガズー・レーシング・フェスティバル)も入場者はどんどん増えている。新城ラリーもそうです。こういう事象を見ると、今までクルマ好きがいなくなってきたと言っていましたが、本当は自動車メーカーのほうがクルマ好きじゃなくなって、逃げていたんじゃないかと思うんです。自動車メーカーがもっともっと、日本のモータースポーツを興行としてではなく、自分の事業の重要な課題というかテーマとしてやっていけば、また日本の中の新しいモータリゼーションみたいなものが生まれるんじゃないかと思います」(同)
 冒頭で紹介したル・マン参戦車両であるハイパーカーから生み出される市販車、GRスーパースポーツコンセプトも、まさにそれを後押しする存在となる。販売価格数億円と言われるクルマを販売することの意味である。

 「あのクラスのクルマを買える人は限られていると思いますけど、そういうものがフラッグシップになる。そして、その下にいくつかスポーツ専用車がでてきて、それがたとえばGT4カテゴリーだったり全日本ラリーとかに即参加できるものとなって、さらに86でやっている草の根のレースみたいなものをできるクルマがいくつか出てくると、非常に裾野が広がるし夢がありますよね、いろいろな人にとって。一生懸命働いて、この辺の(GRスーパースポーツコンセプトのような)クルマを買おうという人が出てきてくれるだろうし、それが日本車だったら嬉しいじゃないですか。しかもそれと同じクルマが富士スピードウェイで開催されるWECで、自分の眼の前を走っていたら、すごく興奮するでしょう?  GAZOO Racingは、そういうところまでいかなければならないと思っているんです」(同)
島下 泰久 :モータージャーナリスト

最終更新:7月16日(火)7時46分

東洋経済オンライン

 

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