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自民党の斬新広告が若者をポカンとさせるワケ

7月6日(土)5時30分配信 東洋経済オンライン

各党のメディア戦略に、若者たちはどういった印象を受けているのでしょうか?(イラスト:自民党HP「自民党2019」より)
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各党のメディア戦略に、若者たちはどういった印象を受けているのでしょうか?(イラスト:自民党HP「自民党2019」より)
今年に入り、自民党が若者向けに作った広告が相次いで賛否両論話題を呼んでいます。いったい何がズレていて、何が刺さっているのか? 若者研究家の原田曜平さんと、現役高校生・大学生たちが検証します。
【座談会参加者】浅見悦子(大学4年)、松崎瑞穂(大学3年)、富山連太郎(大学1年)、丸山あかね(高校3年)、堀井優香(高校2年)、須藤志央里(大学4年)
 原田:ネットを利用した選挙運動が解禁されてから、もう6年以上が経ちました。それ以降、各政党や各政治家は、WEBサイトや動画メディア、SNSなどを使って若者に向けて情報を発信していますが、まだ新しい情報発信手法なだけに、うまくいっているものもあれば、まったく届いていないものもあるのだと思います。
 今日、現役高校生・大学生の皆さんに集まってもらったのは、そういった政党や政治家のネット戦略を、若者目線から評価してほしいからです。普段から動画メディアやSNSへの接触率が高い君たちであれば、どんなやり方なら若者に「刺さる」のかを肌感覚で判断できるはず。そのうえで、政治離れが進む日本の若者が政治に興味を持つためには、どんなネット戦略・SNS戦略が効果的なのか、そんな提案もしてもらいたいと思います。
 今回皆さんから欲しい意見は、あくまで各政党・各政治家のネットやSNSの戦略に関してのみです。政策の内容については議論の対象としません。

■『ViVi』×自民党

 原田:じゃあ、先に各論になりますが、新しいトピックから始めてみましょう。6月、講談社の女性ファッション誌『ViVi』の自民党キャンペーン「#自民党2019」が、賛否両論で大変話題になりました。参院選の前月に政権与党がファッション誌とコラボすることへの批判もありましたが、その内容自体も物議を醸していました。
 具体的には、袖に自民党のマークが入ったTシャツを着たモデルたちが「NEW GENERATION」「わたしたちの時代がやってくる! 権利平等、動物保護、文化共生。みんなはどんな世の中にしたい?」と呼びかける内容でした。

 一方、政党が広告・広報をすることはおかしなことではなく、むしろほかの政党が頑張っていない、といった世論もありました。実際のターゲットである君たちはどういう感想を持った? 

 松崎:「若い人たちの支持が欲しいな、女性の支持も欲しいな。じゃあ人気の『ViVi』とコラボするかな」っていう安易さが透けて見えて嫌でした。あとは純粋に違和感が大きかったですね。
 原田:違和感? 

 松崎:そもそも自民党って、女性や若者に寄り添った政策案を掲げているイメージがないじゃないですか。一方の『ViVi』って、私にとっては新しくて自由なファッションを扱う雑誌なんですよ。真逆だからなんでコラボしたんだろう? っていう違和感です。

 原田:真逆なモノ同士のコラボは、お互いの弱い部分を補完し合えるので、むしろ広告的には王道なんだと思います。今回のケースが補い合えていたかはわかりませんが。
 須藤:確かに保守的な自民党のイメージとはかけ離れたメッセージが多かったのは事実ですが、私はメッセージ自体には好感が持てましたよ。それと、「どんな日本にしたいか」という気持ちを世界で1つのTシャツにしようというアイデアが、斬新でいいと思いました。あまり自民党そのもののアピールには感じられなかったし、若者の気持ちをくみ取ってくれそうな期待が持てるなと。ただ、残念ながら私自身は『ViVi』の読者ではないですが。
■いきなりのコラボは雑誌へのマイナスイメージに

 原田:僕が他でインタビューした大学生・高校生たちは、政治に親近感を持たせる試みとしてはいいけど、自分の好きな雑誌が自民党とコラボしたら「急にどうした?」と戸惑うと言っている人が多かったんだけど、もし須藤さんが愛読してる雑誌が同じことをやったらどう感じただろう? 

 須藤:うーん……それは残念な気持ちになるでしょうね。雑誌から心が離れると思います。

 あと、私の周囲は全体的にネガティブな受け止め方でした。「『ViVi』買収されてんだな」「自民党にお金で丸め込まれてると思った」「イメージ戦略こわ」といった声が聞かれました。
 原田:原田:買収(笑)。買収ではなく、単なる広告行為なんですが、買収に見えるくらい大きなギャップがあった、って、ことなんだろうね。

 松崎:にしても、広告費を多く出せる党ほど優位になっちゃいませんか?  メディアの影響力を知らない人や、政治にあまり興味のない人は、広告に流されてしまう気がします。

 原田:皆の周りでポジティブな反応はなかった? 

 松崎:この件を友人たちが批判してるのを見て、若者が政治に興味を持ついいきっかけにはなったと思います。逆説的ですが。
■安倍総理大臣とインフルエンサーの動画

原田:改めて、「#自民党2019」全体に注目してみましょう。これは自民党が特設サイトを起点に、プロモーション動画や屋外広告、各種コラボレーションなどで若い世代に向けたメッセージを発信する試みです。まず、5月1日にキャンペーンの皮切りとして公開された安倍晋三総理と10代若者たちが共演する動画についてはどう思う? 

 浅見:斬新だし、かっこいい。ただ、もっと安倍首相と若者たちの対話があるとよかったと思います。彼らが安倍首相を囲んで会話するみたいなアットホーム感が欲しいです。
富山:僕も同感。だから同時に公開されたメイキング動画のほうが好印象です。

 原田:首相と若者たちの間に距離を感じたんだね。今の若者たちは、タレントではなくインフルエンサーに憧れるように、「距離の近さ」が大切だからもっと親近感が演出されていたらよかった、ということなんだね。

 丸山:ここに出てる若者たちは、アーティストのYOSHIさん、BMXライダーの溝垣丈司 さんなど、いわゆる著名人・インスタグラマーであって、一般の人じゃない。もっと「普通の若者」をピックアップしたほうが多くの若者たちに刺さったのでは。
 原田:そうか。若者たちの中には、首相が下りてきてくれているのは有名な若者たちのところにであって、一般の若者たちではない、と感じる人もいるんだね。

 須藤:私は、インスタグラマーを使って若者に寄ろうとしてるところが引いてしまいました。

 堀井:結局、安倍首相が、若者とどんなことをしていきたいのかがわかりませんでした。若者と関わろうとしている自民党の印象は悪くないですが……。

 原田:本当に賛否が真っ二つに割れる感じだね。大雑把にまとめると、若者を見ようとする姿勢はすばらしいけど、ところどころの手法やディテールに違和感を感じる、といったところかな。
■天野喜孝って…? 

 原田:「新時代の幕開け」のイラストについてはどうでしょう?  侍の姿になぞらえた安倍首相はじめ、7人の侍が描かれたものです。安倍首相が「似ていない」などとも話題になりました。描いたのは『ファイナルファンタジー』シリーズのキャラクターデザインなどで知られる、天野喜孝さんです。

 松崎:私、これ描いたのは一般の人だって思ってました。そんな有名な方だとは知らず……。

 須藤:私も知りませんでした。
 原田:おいおい、レジェンドだよ。TVアニメ『科学忍者隊ガッチャマン』(1972~1974年)や「タイムボカン」シリーズ(1975年~)のキャラクターデザイン……って言っても君たち世代じゃわかんないのかな……。じゃあ、例えば誰だったら君たちにとって引きになるの?  井上雄彦さん(『スラムダンク』)とか? 

 松崎:誰ですか、それ。

 原田:それも知らないんだ……。さすがにスラダンは引き継がれているはずだけど。
 浅見:『東京喰種トーキョーグール』の石田スイさんとか! インスタグラムに水彩画のような絵を沢山あげています。すごく素敵な絵です。

 松崎:『ONE PIECE』(の尾田栄一郎さん)だったら、誰でもタッチでわかるんじゃないですか。天野喜孝さんのこのタッチだと、ぱっと見、何の作品で有名な人なのかわからないです。

 富山:僕はポジティブな印象ですよ。今まで政治家といえば生の写真ぱかりだったから、イメージとはいえイラストを使うのは新しいなと。
 堀井:ただ、これは私たち世代の女子受けはよくないと思います。墨で書いてる感じが(笑)。墨がダメってことじゃないけど、なんか暗い。「かわいく」ないから、拡散したいと思えません。もっと明るくてポップなほうがいい。

富山:そういえば、特設サイトのイラストをクリックすると、真ん中の侍が安倍首相だというのは表示されるんですけど、ほかの人の名前がわかりませんね。

 須藤:とくに誰とかはないんじゃないの? 

 富山:左上の女性とか、誰なのかすごく気になります(笑)。
 丸山:特設サイト自体のインターフェイスはめちゃくちゃ凝ってるなと思いました。文字もスムーズに流れるし、見ていて「わ、すごっ」てなる。もっとうまくやったらかなりバズったんじゃないですかね。

 原田:そうなんだ。でも、PCの公式サイトのでき自体でバズるケースって、あまりないよね。

 丸山:フォロワーの多い人が「このサイト、すげー」みたいに発言すると、たまにバズることはありますよ。

■政治的立場が直感的にわかるビジュアルが必要
 原田:じゃあ、さっきの安倍首相の動画と比較する意味で、自民党以外の政党の動画について議論しましょう。皆さんにはいろいろな政党の動画を見てからここに来てもらいましたが、若者に刺さりそうだと思った動画はあった? 

 松崎:国民民主党の動画が印象的でした。議員の人たちが甲冑を着て、武将に扮して重要な政策について語るという内容です。テロップで自分たちの目指す方向性を具体的に打ち出していたのも、ビジョンがわかりやすくてよかったです。「時代を変えた者たちも、はじめは少数派だったはずだ」「私たちの答えを全力でぶつけていこう!」とか。
 原田:選挙を戦に見立てるという政党CMの手法は、よくあるパターンでほかの政党も同じようなことをやってるのでは? 

 松崎:私が見た限りでは、ほかはテロップなしでつらつら自分の意見を言うだけの動画が多かったです。

 原田:他と違って今っぽくうまくできているんだね。

 丸山:同じく国民民主党の「こくみんトーク!」という動画のシリーズは、経営者、高校生、ジャーナリスト、母親といった、いろんな立場の「普通の人」が玉木雄一郎代表と対談しています。自民党が成功した若者たちばかりと一緒に出ていたのに比べて、身近な感じがしますね。
 原田:出た、距離の近さと親近感。国民民主党はここがしっかり出せているんだ。

 須藤:私は、小沢一郎さんの自由党時代のCMをYouTubeで見ました。荒野を歩く小沢さんがロボットに首を絞められるという。

 原田:2001年の参院選のときのだね。

 須藤:国民民主党 のCMは、あれにちょっと似てると思いました。マニフェストの細かいところがどうだとか、消費税がどうとかより、政治に対する立場を明らかにしてもらったほうが、絵的にわかりやすいというか。
 原田:それだと抽象的すぎない?  どこも似たようなものになる可能性もあるし。

 松崎:いいんですよ。ロボットに暴力をふるわれながらもめげない、つまり大きな旧体制に立ち向かうという立場が視覚的・直感的にわかりやすいので。

 原田:政治離れしている今の若者たちは、個別具体的な細かい政策を一方的に主張されるより、イメージとしてどんな立ち位置や姿勢であるかを示されたほうがいいと感じるんだね。政策論議にいけない、という意味では大変危険な気もしますが。
■議員の「お茶目」を見たい

 原田:立憲民主党はどうでしょう? 

 須藤:国民民主党よりは印象に残らなかったような気がします。

 原田:えっ? そうなんだ?  政党支持率で言うと、立憲民主のほうがだいぶ高いけれど。

 浅見:立憲民主党は議員さんがスーツを着ていて、かっちりした印象を受けました。一方、国民民主党はユーモアがプラスされていて親近感が湧きました。

 原田:国民民主党のはスーツじゃなくて、コスプレしてるのがいいということ?  ふざけた感じとは思わない? 
 丸山:言い方は悪いかもしれませんが、議員さんって「偉そう」「私たちに寄り添ってない」というイメージなんです。だからコスプレによって「あんなお茶目なこともするんだ」って親近感が湧きます。議員っぽくない別の顔が見られるのはいいことです。安倍首相がトランプ大統領とゴルフをしたときのセルフィーがバズるのも、お茶目だからですよ。

 原田:自民党の過去のCMもスーツを着ているものが多いね。記憶に新しいところだと、2017年の衆院選では、安倍首相がスーツ姿で「この国を、守り抜く。」と言っていました。
 堀井:あれはピンとこなかったです。感覚的にも何を守るのかわからないし、具体的に何をしたいのかもわからないので、何もわからないという……。その一言だけ言われても困るので、もう少し具体的に教えてほしいなと思います。

 富山:動画にしろポスターにしろ、やはり文字と政治家の顔だけじゃなくて、もっと直感的にわかりやすい、具体的なイメージを見せていくべきだと思うんですよ。例えば、震災復興の現場で住民と話している写真を入れるとか。
 原田:「直感的なわかりやすさ」と「親近感」。それが今の若者には刺さる最大のポイントなんだね。

 (次回に続く)

 (構成:稲田豊史)
原田 曜平 :マーケティングアナリスト

最終更新:7月6日(土)5時30分

東洋経済オンライン

 

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