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0.1秒後の為替レートを8~9割の精度で予測!AIによる金融市場研究はどこまで進んだ?

7月3日(水)16時01分配信 ザイFX!

(「ゴトー日の金曜日の仲値トレードは儲かる!  茨城大・鈴木智也研究室が検証し学会発表」からつづく)

■仲値通過後の売りトレードも有効だった!

ザイFX!の検証結果の一部 ※黄色に塗られたパターンは、統計的検定で有意差のあったもの※『「仲値トレード」って本当に儲かるの?(2) 相場観一切無視で勝率7割超の手法発見!?』内の表を編集して掲載
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ザイFX!の検証結果の一部 ※黄色に塗られたパターンは、統計的検定で有意差のあったもの※『「仲値トレード」って本当に儲かるの?(2) 相場観一切無視で勝率7割超の手法発見!?』内の表を編集して掲載
秋山氏は、仲値通過後の日本時間午前10時に米ドル/円を売って収益を狙うトレードの有効性検証も行っていた。運用パフォーマンスは全体で見ると、おおむね良好だったが、直近1~2年にフォーカスすると鈍化傾向にあったそうだ
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秋山氏は、仲値通過後の日本時間午前10時に米ドル/円を売って収益を狙うトレードの有効性検証も行っていた。運用パフォーマンスは全体で見ると、おおむね良好だったが、直近1~2年にフォーカスすると鈍化傾向にあったそうだ
個人投資家の間にもデータ分析が普及していて、そのことが運用パフォーマンスの低下につながっている可能性があると鈴木教授は推測する
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個人投資家の間にもデータ分析が普及していて、そのことが運用パフォーマンスの低下につながっている可能性があると鈴木教授は推測する
 電子情報通信学会の総合大会では発表しなかったが、実は秋山氏は、仲値を通過した、日本時間10時以降の米ドル/円が下落しやすい傾向にあるといわれる、仲値後のアノマリーも検証を行っていたという。

 ザイFX! も同様の検証を行って、そのときは仲値を通過したあとの10時に売って12時に買い戻す、米ドル/円の下落を狙ったトレードで、統計的検定でも有意差が認められるパターンがあり、長期的に売買を繰り返せば利益を積み重ねられる可能性が高いという結果が得られていた。

 「10時に米ドル/円を売って、11時、12時、13時…と、買い戻す時間を1時間おきにずらしていって、それぞれの時間幅で米ドル/円が下落する確率や運用収益を計算しました。おおむね良好なパフォーマンスとなり、東京タイムからロンドンタイムに移行するあたりで、パフォーマンスがピークを迎えているような結果が得られ、その結果を学内の中間発表で報告しました。

 しかし、検証期間を直近1~2年に絞った場合、累和リターンの伸びが鈍化していることが確認できたのです。そこで、トレードの効率性という観点から、仲値後に米ドル/円の売りトレードを行って、上げも下げも両取りするより、仲値に向けた上昇に絞ってトレードした方が、最終的な運用パフォーマンスが良くなりそうだという結論に達したため、仲値後のアノマリーについては学会での発表を見送りました」

 そう語る秋山氏だが、実はここ1~2年の塁和リターンの伸び鈍化は、仲値に向けた買いトレードでも確認ができたんだそう。もしかしたら、ザイFX! のせいで仲値トレードの有効性が知れ渡ってしまって、みんながやりはじめたから効果が得られにくくなったんじゃ…。

 そんな上から目線の、わけのわからない勘ぐりも頭をよぎったのだが、鈴木教授はその理由を以下のように推測している。

 「近年においては仲値トレードに限らず、あらゆるシステムトレードのパフォーマンスが下がる傾向にあります。背景としてはおそらく、実データ(過去データ)の取得が容易になったのが、最大の理由だと思います。

 特に、FXはメタトレーダー4(MT4)の普及もあって、誰でも実データを解析できるようになりました。その結果、有効なトレード方法があれば、すぐにみんながマネしてしまうのだと思います」

 過去のデータを使ったバックテストは、特にシステムトレーダーにとっては必須の作業。個人投資家が簡単にデータ分析できる環境にあることが値動きに影響している可能性は、確かに考えられる。

 ちなみに、本記事公開の2日後にあたる2019年7月5日(金)は、金曜日とゴトー日が重なる、仲値トレードの絶好のチャンス日(!? )だ。最近のパフォーマンス鈍化傾向は少し気になるが、試してみる価値はあるのではないだろうか? 

■YJFX!との共同研究が進行中!

秋山氏は現在、スワップポイントの研究を担当している。これは、YJFX!との共同研究テーマの1つ。機械システム工学専攻で、分析対象は金融市場に限らないのだが、仲値トレードの次にスワップポイントの研究を担当するとは、もはや為替データ分析の専門家だ
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秋山氏は現在、スワップポイントの研究を担当している。これは、YJFX!との共同研究テーマの1つ。機械システム工学専攻で、分析対象は金融市場に限らないのだが、仲値トレードの次にスワップポイントの研究を担当するとは、もはや為替データ分析の専門家だ
外国為替市場における将来価格の予測 ※茨城大学大学院 機械システム工学領域 複雑データサイエンス研究室の研究内容紹介資料より
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外国為替市場における将来価格の予測 ※茨城大学大学院 機械システム工学領域 複雑データサイエンス研究室の研究内容紹介資料より
 鈴木教授の研究室では現在、YJFX! と共同で、ブローカーや世界中の金融機関からの売買注文が集まるEBS(電子ブローキングシステム)の板情報を使って、価格の変動を予測する研究も行われているという。

 ある程度、先の価格を予測することが可能になれば、FX会社は顧客との取引で保有したポジションを、インターバンク市場で効率良くカバー取引できるようになる。

 また、スワップポイント(スワップ金利)の研究として、為替レート、国債の金利、関連通貨のデータなどから、FX会社が顧客のポジションを翌日に持ち越すロールオーバーの取引を、どのような形態で行うのが、その時点でもっとも適しているのかを予測できるようにするための分析も進められており、秋山氏がデータの分析を担当しているそうだ。

 これらは、FX会社の業務の効率化・最適化といった側面からのアプローチだが、将来的には他のFX会社よりも有利なレートを顧客へ提供することができるようになったり、ロールオーバー業務の最適化で高いスワップポイントが顧客に還元される可能性もある。これは、顧客にとってもありがたいし、FX会社にとっては取引してくれるユーザーの拡大につながる「win-win」の関係になるだろう。

 ほかにも、複数の金融機関(カウンターパーティー)が提示する為替レートを用いて、為替市場の将来的な価格を予測する研究も鈴木教授の研究室では行われている。

 現状、0.1秒後のレートなら、8割~9割という非常に高い精度で予測することが可能で、FX会社のマーケットメイク戦略や、高頻度売買に活用できるのでは…と期待して研究が進められているということだ。

■寄付きで大きく下落した株価は絶好の買いチャンス!?

中古車情報を取り扱う企業とのコラボレーションや地域創生の支援など、データ分析を通じてさまざまな活動を展開している鈴木教授
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中古車情報を取り扱う企業とのコラボレーションや地域創生の支援など、データ分析を通じてさまざまな活動を展開している鈴木教授
ナイトメア・アノマリーの検証結果 ※茨城大学大学院 機械システム工学領域 複雑データサイエンス研究室の研究内容紹介資料より
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ナイトメア・アノマリーの検証結果 ※茨城大学大学院 機械システム工学領域 複雑データサイエンス研究室の研究内容紹介資料より
 鈴木教授の研究室では、外国為替市場に関することだけでなく、さまざまな企業と共同研究を行なっている。

 おもしろいところでは、過去の競売価格やトレンドなどから基準価格を作成して、中古車の下取り査定額の判断・予測を行う研究もある。また、豆腐工場でベルトコンベアに乗って次から次へと流れてくる出荷前の豆腐の中から、ひび割れなどの異常を検知するシステムを、ディープラーニング(深層学習)とカメラを活用して構築するといった、地域創生の支援も行っている。

 だが、金融データサイエンスを専門とする鈴木教授の研究の真骨頂は、やはり金融市場。為替だけでなく、株式や投資信託、仮想通貨といった、ザイFX! 読者としても非常に興味をそそられるがテーマが盛りだくさんだ。せっかくなので、いくつかご紹介しよう。

 1つは、株式の世界で見られる「ナイトメア・アノマリー」の研究。ナイトメア・アノマリーは、鈴木教授が命名したものだが、取引時間外に株価が大きく動きそうな材料が出ると、取引開始直後に注文が殺到することで株価が適正水準を超える動き(異常値)を見せ、それが落ち着くと、日中のザラ場取引で行き過ぎた動きが修正されるケースが多いと言われる現象だ。

 「異常値を判断するために、日米それぞれで500銘柄におよぶ過去の株価変動を集計して、通常状態の分布を算出しました。

 そして、通常状態を超える動きを異常変動として検出するしくみを構築したところ、特に日本市場において、取引開始直後に株価が適正水準よりも大きく下落した場合において、日中の取引時間で反発する傾向が強かったことがわかりました」

 ナイトメア(悪夢)というだけあって、悪い材料が出たときの方が、株を手放しておきたいという投資家心理が強く働くため、そのような傾向が強く出るのではないかと、鈴木教授は指摘する。

 また、AI(人工知能)に他銘柄の関係性も含めた複雑な値動きのパターンを機械学習させて、異常な値動きを検知するモデルを構築したところ、人間の認知を超えたアノマリーを検出できることも実証済み。この異常値の検知モデルには、テクニカル指標のボリンジャーバンドを応用したものが用いられているという。

■たくさんのAIが会議!? 投資銘柄を選択

鈴木教授の集合知AIモデルは「株価予測システム、株価予測方法及び株価予測プログラム」として特許出願中の技術。これを投資銘柄の選択に応用した金融商品の開発を大和証券投資信託委託で手がけている
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鈴木教授の集合知AIモデルは「株価予測システム、株価予測方法及び株価予測プログラム」として特許出願中の技術。これを投資銘柄の選択に応用した金融商品の開発を大和証券投資信託委託で手がけている
テキスト情報を用いた投資判断の概要 ※茨城大学大学院 機械システム工学領域 複雑データサイエンス研究室の研究内容紹介資料より
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テキスト情報を用いた投資判断の概要 ※茨城大学大学院 機械システム工学領域 複雑データサイエンス研究室の研究内容紹介資料より
 鈴木教授は茨城大学に所属する傍ら、大和証券投資信託委託のクウォンツ運用部で、特任主席研究員としても研究を行っている。こちらでは、株式や先物取引のAI運用の開発などを手がけているそうだ。

 「AIの世界では、1つのデータから少しずつ違うデータを生成し、それをたくさんのAIに機械学習させる集団学習がすでに広く知られています。

 機械学習した複数のAIによる多数決で、予測精度が向上することも統計学的に示されていますが、大和証券投資信託委託では、そのAIの集合知を用いた「集合知AIモデル」を投資銘柄の選択に応用した、金融商品の開発を行っています」

 集合知AIモデルでは、AIの意見のばらつき具合も数値化することで、集合知のその選択に対する自信度も判断できるようになる。これによって、AIの間で意見が割れたり、一部のAIが弱気の判断を下した銘柄への投資は避けることができるようになるそうだ。

 「研究段階では、1つのAIが予測するより、15%程度も予測精度が改善し、勝率57%~85%程度というパフォーマンス結果が得られました。運用コストなどの観点から、実用化に向けてさらなる研究を進めているところです。

 それ以外にも、過去のニュースをAIに読ませて、マーケットにインパクトを与えたキーワードの組み合わせを機械学習させることで、ニュースヘッドラインを投資戦略に活用する研究も行っています」

 現在は、運用コストや運用スパンなどを考慮しても良いパフォーマンスが得られるよう、実用化に向けたブラッシュアップが図られているそうだ。この戦略はFXにも応用できるのではないかと、鈴木教授は期待を寄せている。

 ちなみに、トレイダーズ証券[みんなのシストレ]が提供している「テキストマイニングAI」は、これと同じようなしくみ。為替ニュースをもとにAIが機械学習して米ドル/円相場の動向を予測。その予測に沿った自動売買を誰でもボタン1つでやってみることができる。

■日経平均やNYダウの仮想通貨版が取引できるかも

鈴木教授は仮想通貨の自動売買システムに、仮想通貨ならではの特徴を活かした売買戦略を提供するための開発も手がけている。為替、株式、投資信託、仮想通貨と、あらゆる分野でデータ分析を活用した取り組みを行っているのだ
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鈴木教授は仮想通貨の自動売買システムに、仮想通貨ならではの特徴を活かした売買戦略を提供するための開発も手がけている。為替、株式、投資信託、仮想通貨と、あらゆる分野でデータ分析を活用した取り組みを行っているのだ
 そして仮想通貨関連では現在、2つの企業と共同研究を行っている。

 1つが、仮想通貨取引所で利用できるBot(ボット)と呼ばれる自動売買プログラムに、新たな投資戦略を提供する取り組みだ。

 「同じ仮想通貨でも、取引所によって価格が異なることを利用した「アービトラージ(裁定取引)」、相関性の高い2つの仮想通貨の価格の値動きを使った「ペアトレーディング」、適正水準から離れて異常値をつけた仮想通貨を検出して逆張りに応用する「異常ジャンプ検出」など、仮想通貨ならではのおもしろい特徴を利用した売買戦略の開発を進めています」

 「また、別の企業とは、仮想通貨のインデックスを作成して、それを運用しようという取り組みを、これから始めようとしています」

 要するに、日経平均やNYダウのように、複数の仮想通貨の値動きを指数化して、それと同じ値動きをするような運用を目指す、投資信託などの運用手法の1つに分類されるパッシブ運用を行おうというのだ。

 鈴木教授はタイミングや分割など、最適な発注の選択を行うために重要となる執行アルゴリズムの開発を担当している。

 複数の仮想通貨の値動きを合わせて指数化することで、個別の仮想通貨と比べて値動きが緩やかでわかりやすくなりそう。実現すれば、値動きの大きい仮想通貨市場で、今よりもリスクを抑えた運用ができるようになるかもしれない。

■机上の理論で終わらせたくない! 鈴木教授の目指す道は?

鈴木教授は開発した理論がマーケットでどれぐらいの収益を上げられるか、運用会社などを立ち上げて実際に試してみたいと言う。穏やかな口調で気さくに話してくれる鈴木教授からは、ステレオタイプな大学教授のイメージは微塵も感じられない
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鈴木教授は開発した理論がマーケットでどれぐらいの収益を上げられるか、運用会社などを立ち上げて実際に試してみたいと言う。穏やかな口調で気さくに話してくれる鈴木教授からは、ステレオタイプな大学教授のイメージは微塵も感じられない
 最後に、鈴木教授に今後の目標や、目指していきたい方向性を聞いてみた。

 「自分で開発した理論が机上のもので終わってしまうのはおもしろくないので、運用会社などを立ち上げて、実際にどれぐらいの利益につながっていくかというのを試してみたいと思っています。

 学術的な研究にとどまらず、それを応用して市場で実際に利益をあげる。そういうのは、海外ではよくありそうなのですが、日本ではあまり聞いたことがありません。枠にとらわれず、チャンスがあればチャレンジしたいですね」

 2018年9月、鈴木教授は集合知AIモデルを活用したサービスを提供するベンチャー企業、「CollabWiz(コラボウィズ)株式会社」を設立した。茨城大学の教員によるベンチャー企業設立は、2011年1月以来のことなんだそう。

 AIについては、仕事を奪われるとか、人間を支配する時代が来るなんていうネガティブな面が取り上げられることも多いが、AIの浸透で我々の生活が便利になってきたのは事実。そして、鈴木教授の話を聞いていると、FX、株式、投資信託、仮想通貨…と、金融市場にも、AIの介在しない場所はもはや存在しないということを改めて痛感した。

 AIが人間では不可能な売買を行うことで、個人投資家の投資機会が奪われているなんて話も聞くが、個人投資家もAIの恩恵を受けられる時代が、近い将来、やって来ることになりそうだ。そうしたツールをうまく活用しながら、適切なトレード戦略を組み立てていければ、収益の獲得機会が広がる可能性は大いにありそうだ。

 鈴木教授をはじめ、秋山氏ら研究室の方々の今後の研究に期待したい。

(取材・文/ザイFX! 編集部・堀之内智 撮影/和田佳久)
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最終更新:7月4日(木)17時21分

ザイFX!

 

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