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「両利き経営」実現にはトップの覚悟が不可欠

6月27日(木)6時20分配信 東洋経済オンライン

経営共創基盤の冨山和彦氏と早稲田大学教授の入山章栄氏の対談後編。富山氏はトップの迅速な改革がいかに経営に必要不可欠かを指摘する(写真:Funtap/iStock)  
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経営共創基盤の冨山和彦氏と早稲田大学教授の入山章栄氏の対談後編。富山氏はトップの迅速な改革がいかに経営に必要不可欠かを指摘する(写真:Funtap/iStock)  
既存の業界秩序が破壊される時代、既存事業の「深化」により収益を確保しつつ、不確実性の高い新領域を「探索」し、成長事業へと育てていく「両利きの経営」が欠かせない。
この「両利きの経営」研究の第一人者であるチャールズ・オライリー、マイケル・タッシュマンの著作が、『両利きの経営――「二兎を追う」戦略が未来を切り拓く』として刊行され、話題になっている。

同書の邦訳版には、経営共創基盤の冨山和彦氏と早稲田大学教授の入山章栄氏という、日本における実務と研究の第一人者が関わり、それぞれが解説を寄稿している。
前回はその2人が、両利きの経営の留意点について議論したが、今回は両利き経営を実現していくための経営者のリーダーシップについて入山氏が、冨山氏の豊富な経験知を聞き出していく。

■たたかれないのは、抜本的変革をしていないも同然

 入山:今、日本の大企業を見ていて共通するのは、経営者にも若手にも危機感があるのに、ミドル層が保守的になりがちなことです。それなりの役職に就き、家庭もあり、年齢的にも「ギリギリ逃げ切れるかもしれない」と思うのでしょう。そうなると、やはりトップが動かないといけないわけですが、冨山さんは、既存事業の縮小など大変革を迫られているトップに、どのようなアドバイスや投げかけをされるのでしょうか。
 冨山:変革しようとすると、少なくとも短期から中期の時間軸では、ストレスが加わってつらい思いをする人が必ず出てきます。ずっと野球をやっていたのに、明日からサッカーをやれと言われるようなもので、自分自身のトランスフォーム(変身)を強いられ、ひどい場合は「事業売却するから、この船から降りてください」と宣告される。あるいは、評価軸が変わったせいで、安泰だったはずの執行役員や常務のポストに就けない。

 そうやって光と影が出てくれば、経営者に対する批判も出てきます。そこをとにかく飲み込んで、頑張らないといけない。過激なビジネス誌に悪口を書かれるくらいでないと、何もしていないのも同然だと、役員会ではよく言います(笑)。
 入山:ははは。でも、このあたりは、まさにそれを実践されてきた冨山さんならではの発言ですね。実際、社内からそうした反発が起こるときに、冨山さんはどうやって抑えたり、ガス抜きしたりするのですか。

 冨山:私の場合は、一生懸命に聞いて、同時に心も痛める。君たちは間違っている、とインテリたちは論破しがちですが、それはあまり生産的ではないですね。なぜ君たちは生きるに値しないかを論じて、相手を追い詰めるだけ。腹落ちせずに、怨嗟ばかりが残る。
 不幸にも、入れ替えられてしまう機能や事業に長年属した人には、罪はないのです。時代の流れの中で、たまたまそこに居合わせた明治維新の士族みたいなものだから。その人たちが、どう穏やかに、人生が壊れないように、トランジション(移行)させられるかが大事です。だからといって、変革をやめるわけではありませんが。

 入山:なるほど、トランスフォーム(変身)とトランジションの使い分けですか。確かに、若手は新しい環境に適応できても、年齢的にトランスフォームできない人も出てくる。そのときはトランジションが必要なわけですね。
■早期に手を打てば、過酷なリストラは避けられる

 冨山:その脈絡で言うと、例えば、ガバナンスでROE(自己資本利益率)やROIC(投下資本利益率)を見るやり方は大事だと思います。というのは、ROEやROICベースでハードルレートを設定すると、PL(損益計算書)が赤字になる前に、撤退や縮小を検討することになるから。自社にとってノンコアの事業だと判断しても、他社ではコア事業にする場合があるので、そういうところに売却したほうが過酷なリストラにならないのです。
 入山:本当にそうですよね。私の理解でも、例えば、デュポンやシーメンスなど、グローバル企業で仕組みがうまく回っている会社は、20年くらいで事業ポートフォリオがガラリと変わっています。安く買って、いいときに売る。そのほうが売りやすいですよね。

 冨山:それに加えて、リストラをしないで済む。だけど、日本の多くの会社は、その逆をやるのです。事業の数を増やしていくが、減らさない。それで前線が広がって資源が分散し、ボロボロになり、赤字が4~5年も続き、追いつめられてから売却する。しかも、リーマンショックなどの悪い時期に行うので、買い手もいない。そうなると、大リストラをしないと売れない。それがいちばん、関わっている人が不幸になるパターンです。
 だから、当事者からすると、「なぜ今か」と思うくらい早いタイミングで売却するメカニズムを、経営の基本OSに組み込むことが大切だと思います。まだ会社に金があるのなら、その人たちのために上乗せ退職金や時間を作って、できるだけスムーズなトランジションで背中を押す。なんとかこの範囲で乗り切るのがいい経営で、人間にやさしい経営だと思いますね。

 入山:日本企業がそれをできない1つの原因としては、やはり終身雇用制度の仕組みがあるからでしょうか。
 冨山:それを言い訳にしている気がしますね。私は仕事柄、日本の経営者の中でいちばんリストラをやってきた1人だと思いますが、少なくとも、再生というところまで追い詰められたときに、日本の雇用制度や解雇規制が決定的な障害になって、人を減らせなくて困ったことは一度もありません。ということは、もっと余裕があるときなら、かなり上乗せと時間を与えて希望退職を募ることができる。もっと前なら、事業売却という形で、リストラはゼロでできる。トータルで見ると、解雇規制の議論は関係ないと思います。
■ストレス回避の思考が両利きの妨げとなる

 入山:やはり、経営者の覚悟の問題ということですね。ところで、日本の大企業では、内部でイノベーションを生み出そうとする傾向がありますが、M&Aでベンチャーを買ってもいいわけですよね。

 冨山:もちろん構わないけれど、難しいのは、M&Aで吸収するのが、単に技術だけではないこと。会社を買収すると、人がついてきて、その会社のやり方や価値観を融合させないといけない。そこは会社の基本OSに触れるところなので、ストレスフルですね。とくに、海外の違うノリの会社になると、自分ではやりたくない。その種のストレスを回避したほうが、成功確率が高くなると考えてしまう。
 実際に、オープンイノベーションごっこをやっても、それがコア・ストラテジーになっていないところが多いでしょう。あくまでも外付けで、付加的なものという位置付け。そこを何とかして、ビジネスモデルを組み換えしないと、未来がないとして、トップがコミットしているところは少ないですね。ここは、両利き経営をやろうとするときに、たぶん日本企業が苦労するところでしょう。

 リーダーは相当頑張って、何を変革するか、しないかの切り分けをしないといけない。さらに、変革が許されている時間軸も間違えないことも大事。今、儲かっている状況にいる人にとって、いつ来るかわからない未来は永遠に来ないものと同じです。お腹が痛くなる前に、これからお腹が痛くなると言っても誰もピンとこない。響くときは天の時、地の利があるのです。
 入山:なるほど……。適切な戦略であっても、タイミングをうまく見極めないと、組織の中にいる人たちは動かないわけですね。冨山さんは、そのタイミングをつねに見極めようとされている。

 冨山:社外取締役として、自分の中でこうなるだろうな、でも、これを言ってもみんなピンとこないだろうなというのはつねに考えますね。もちろん、本気でまずいと思うときには、議案を止めに行きますが、それをやってもまだ会社が潰れることはないときは、賛成するにしても、一言文句は言っておく。世界はこうなっていて、将来はきっとこうなるから、この投資をやると、何年目かで問題が起きますよ。その時にどうするか、皆さん対策を考えたうえで投資してくださいね、と。そうすれば、後でうまくいかないときに、それ見たことかと言えるし、リカバリー策も早くとれます。
 入山:面白い!  そうやって事前から、徐々に刷り込んでおくわけですね。私が学者として観察していると、「よい経営者は時間軸の見方が明確でかつ長い」という印象を持っています。例えば日本電産の永守重信さんは、いつも30年先の話をされます。冨山さんは何年先くらいまで見るのでしょうか。

 冨山:私も30年くらいですかね。高度成長30年、平成の停滞30年と、産業サイクルは30年単位ですから。例えばパナソニックであれば、産業イノベーションの軸と、どの国のどの地域の人口や教育水準が上がっているかという軸で考えます。そういうデモグラフィックは予測できるので。また、長い時間軸の中で何を急ぐべきか。この時点でこれをやるには、何に早く手を付けなくてはいけないかという順番も考えますね。
 オムロンの取締役会では、山田義仁さんを社長に選んだ瞬間から、10年後に次の人を選ぶことを考え始めました。現時点と10年後とでは、後者のほうが明らかに社長に求められる要求が高いから。早い段階からシステマティックに候補者を見つけて育成できるよう、制度整備に取り掛かっています。

■前提を疑うためには、多様性が不可欠

 冨山:変革するときに、人間は放っておくと、余計なものを増やしていきます。境界条件に関する与件をたくさん設定し、問題が解けなくなってしまう。両利き経営では絶対にその問題にぶつかるはずです。そのままでは動けないので、与件のいくつかを壊すことを考えたほうがいい。そうすると、急にその境界条件が緩和されるので、選択肢が増える。ここは肝だと思います。
 そのときに大事なのが、多様性です。同質的なところに与件を設定するので、その前提条件がおかしいという意見が出てこなくなる。破壊的イノベーションのネタを入れるときには、会社の中で与件となっていることと必ず衝突するので、「それは現在でも合理的か」と検証しないといけない。誰も疑問を持たず、使えない理由ばかり挙がってきたとしても、実際には、使えない理由の前提がおかしいことも多いのです。

 入山:経営学にある制度理論という考えでは、「人間は基本的に同質化する傾向がある」と主張されています。私なりに言えば、人は「それが常識だから」としたほうが考えなくていいので、脳みそが楽になるからです。この変化の時代に「常識」ほど恐ろしい言葉はない、と私は考えています。
 冨山:確かに、常識やドグマは、サボるための道具ですね。変革が必要だと、口で言うのは簡単だけども、行動には本音が出ます。今あるものを何とか伸ばそうとしてしまい、リストラもできない。しかし、そこを乗り越えられないと、また負け戦になる。機械系や素材系など、これまで生き残った分野でも、第四次産業革命やAI(人工知能)フェーズで負け戦になれば、取り返しがつかないわけです。外部環境が強烈に変わって、内部環境の転換が迫られる中で、経営者がまず動かないと、ほかにする人はいない。これが両利きの経営についての私の結論です。
 入山:冨山さんからお話を伺って、両利きの経営では経営者がカギだという確信が深まりました。ありがとうございました。

 [構成:渡部典子]
冨山 和彦 :経営共創基盤(IGPI)代表取締役CEO/入山 章栄 :早稲田大学ビジネススクール教授

最終更新:6月27日(木)6時20分

東洋経済オンライン

 

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