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政府が言うべきは「2000万円足りないからカネ貯めろ」ではない

6月27日(木)15時25分配信 HARBOR BUSINESS Online

(ハーバー・ビジネス・オンライン)
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◆“昭和バブル時代”からずっと引きずってきた価値観を疑え

「老後2000万円」問題で世間が騒がしい。「老後に2000万円も足りない」の部分だけを切り取れば、多くの方々が怒るのも当然だ。俺も怒っている。

 だが率直に言おう。老後に2000万円は要らない。そう言い切れるのは俺の主観である。そして俺以外にも「消費は美徳だ」「モノにあふれた暮らし」「もっともっと」という“昭和バブル時代”からずっと引きずってきた価値観を疑い、思考を変えて行動を起こしている人たちがいる。そうした人たちからすると、どうでもいい話だ。

 ただし2000万円が必要な人もいるし、それでは足りない人もいる。そのために「頑張ってお金を稼いで貯めよう」という人がいるのも素晴らしいし、貯めるために努力を続けて成果を出している人も素晴らしい。人それぞれ事情があり、人それぞれ価値観があって当然だ。

 金融庁の報告書の2017年のデータによると、2人以上世帯の毎月の消費支出は、20代で23万円、30代で26万円、40代で32万円、50代で34万円、60代で29万円、70代で23万円。すべてをお金で調達する暮らしが当然である世の中にあって、これ以上の消費支出を絞るのは厳しいに違いない。

◆消費を減らしながら、暮らしを潤わせる方法とは

 一方、先述した価値観を疑い、思考を変えて行動を起こしている者たちは、モノは所有するよりアクセス(シェア、分かち合い、譲り合い)できればいいし、家を自らや仲間でリノベーションしたり、農家さんとつながったり、自らも少々の野菜を菜園で作ったり、地域や知人同士で余り物のお裾分けをし合ったり。消費額はぐんと下がるのに、暮らしが困るどころか潤っている。

 例えば、処分や維持に困っている空家を、不動産屋でなく人の紹介でお借りする。自分や仲間とで修復して、オシャレで機能的な家にして、家賃0円から3万円くらいで暮らす。「住まいのコストは収入の3分の1以内に」と言われるが、遥かにそれ以下になる。実際、俺の知り合いや仲間にはそういう人たちが増えている。暮らしの満足度が高まり、収入を増やさずとも余るお金が大きくなる。

 例えば子どもの教育費も、高学歴で有名企業に就職させることが過去の常識になりつつある中で、子ども自身が自分で考えて生き抜く力をつける育て方にシフトすれば、世間ほどの額は要らなくなる。

 例えば老後を考えて、自分のやりたいことができる仕事を興し、付随して複数の仕事にも波及して、複業で暮らす実践者も増えている。心身が動く限り、生涯現役。定年もなく、死が近くなるまで少々でも収入が入る。

 いよいよ終末期が近づいたら、医療処置は最小限に抑えて素朴に逝きたいと考え、世間でいう老後や介護の出費が大きくならないように、元気なうちから考え抜いている。葬儀などはせず、コストが小さい自然葬を望む。墓には入らずに子孫に負担を残さない。年老いた親とも、親自身の逝き方について話し合う。

◆価値観や生活スタイルの違いによって、老後に必要なお金は変わってくる

 俺は講演で「1人暮らしだと10万円、2人暮らしだと15万円、子どもがいて20万円」と話すことが多いのだが、「嘘だ、無理に決まっている」と難しい顔で疑問視されることもある。

 一方、先述した消費社会から一歩抜け出して暮らす人たちを前に話すと「嘘だ、そんなにお金は要らないよ~」と満面の笑顔で真逆のことを言われる。両方が真実だ。

 価値観と行動の違いである。俺の親は、郊外の住宅街で老老介護の2人暮らし。上記両方の価値観の真ん中くらいで暮らしている。預金はゼロで年金だけだが、多少の課題は絶えないものの、足るを知って笑顔で暮らしている。

 よって俺の計算では、老後に2000万円は要らない。あるに越したことはないが、人生全般が充実すれば、どっちでもいい。

◆麻生太郎大臣には、「いちばん困っている人の視点」がない

 麻生太郎大臣の迷走ぶりなどは、見ていて痛快だ。金融庁の報告書の賛否は別として、報告書が出た時の最初の麻生大臣の高圧的な発言から問題が過熱炎上したわけだ。なのに責任を自らの下の組織に押しつけた物の言いようには呆れ果てる。

 6月4日の会見で麻生大臣は「人生設計を考える時、100まで生きる前提で退職金って計算してみたことある? 普通の人、俺はないと思うね。それなりに設計し直さないと、自分なりにいろんなことを考えるということをやっていかないとダメだ」と発言。さらに6月7日には「さらに豊かな老後を送るために、より上手に資産形成をやるという話を申し上げている」と発言した。

 前者は国民を上から目線でバカにしている。たいていの普通の人だって、老後を心配して考えているに決まっているじゃないか。そして後者の発言は、暮らしに余裕がなく資産形成など程遠い多くの全世代を無視して置き去りにしている。

“Think Small First”という言葉がある。そのまま訳せば「小さいものを最初に考える」。「まず初めに、いちばん困っている人の視点や立場に立て」という意味だ。麻生大臣の発言は、大臣なのに“Think Small First”の視点が微塵も感じられない。

◆「カネ貯めろ!」ではなく、老後の負担を減らす政策を

 安倍政権になってから格差拡大が著しい。貯蓄や金融資産がゼロの世帯は3割を超えた。単身世帯では5割を超えそうだ。年収200万円以下の人々は1600万人以上に増えた。

 非正規雇用は労働者の4割を超えていて、2120万人。どの世代も増えているが、人生これからという25~34歳の非正規の労働者のうち、正規社員になりたくてもなれない割合は3割で、他の世代より高い。初就職の4割が非正規との統計もある。

 初就職で正規社員としての就職が叶わなけれは、非正規から正規への登用はほぼ無理であるし、転職で正規になれる人も2割だけというデータもある。大学生のおよそ半数が貸与奨学金である。正規社員になれないうえに奨学金の返済があったら、資産形成などできるわけがない。

 さて、これが今の経済社会の実態だ。

 俺も、麻生大臣ばりに上から目線で言わせてもらおう。

「麻生さんよ、あんたたちが作ってきた経済政策とやらで、この結果なんだよ、誰もが資産形成なんてできっこねえの、わかるだろうよ。非正規の給料って、正規社員の6割あるかないかだぜ。非正規は退職金もねえしね。2000万円も貯められるわけねえだろ、アホ(orバカ)!」。

 政治家や大臣や総理がこの国で一番偉いのではない。国民主権であり、国民の投票で政治家を選ぶ。麻生大臣の言葉と態度に国民の大半が怒ったゆえに、麻生大臣は態度をコロッと早々に変えざるをえなかった。一人一人が声をあげれば大口を叩く政治家や愚かな政策を変えられるんだ。

「カネ貯めろ! リスクを負って運用しろ!」ではなく、教育費や老後の福祉などの個人負担を減らす政策こそ実施してもらいたいもんだ。

【たまTSUKI物語 第17回】

<文/髙坂勝>

【髙坂勝】

1970年生まれ。30歳で大手企業を退社、1人で営む小さなオーガニックバーを開店。今年3月に閉店し、現在は千葉県匝瑳市で「脱会社・脱消費・脱東京」をテーマに、さまざまな試みを行っている。著書に『次の時代を、先に生きる~まだ成長しなければ、ダメだと思っている君へ』(ワニブックス)など。また、筆者の「誰にでも簡単に美味しい料理ができる」調理方法とレシピをYoutube「タマツキテキトー料理 動画&レシピブック」で公開中。

【sosa project】
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最終更新:6月27日(木)19時49分

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