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トヨタ「スープラ」公道で乗ってわかった実力

6月26日(水)5時20分配信 東洋経済オンライン

17年ぶりの復活となったトヨタの新型スープラ(筆者撮影)
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17年ぶりの復活となったトヨタの新型スープラ(筆者撮影)
 2019年5月17日、新型「スープラ」が日本デビューを果たした。ご存じのとおり、1978年に誕生した初代スープラは日本においては「セリカXX(ダブルエックス)」を名乗っていた。1986年、日本で初めてスープラの名を冠したモデルが発売されたが、世界的に見ればこれは3代目スープラであり、その意味で今回の新型は通算で5代目のスープラとなる。

 先代である4代目の生産終了は2002年。つまり17年の歳月を経て新型スープラが誕生したわけだが、同時にこの新型はBMWとの包括提携(2013年1月)によって誕生した初めてのクルマでもある。
■“ピュアスポーツカー”を作りたかった

 包括提携から遡ること約半年、2012年5月にトヨタとBMWの共同でクルマを作り上げることができるのか、という話から協業はスタートした。ただ、事の発端は新型スープラを作るということではなかったという。パワートレーンにしてもハイブリッドシステムを用いるのか否か、またミッドシップかFRにするのかなど駆動方式に至るまで協議はあらゆる可能性にまで及んだ。

 「でも、私は“新型スープラを作るのだな”と直感しました」と語るのは、新型スープラの開発責任者でありチーフエンジニアの多田哲哉氏(トヨタ自動車)だ。
 当初、この協業でトヨタは、当時BMWに在籍していた(現VWグループの会長である)ヘルベルト・ディース氏とさまざまな議論を行った。直列6気筒エンジンのあり方、スポーツカー市場におけるニーズの探り方などそれは多方面にわたる。ディース氏はBMWの2輪部門在籍時に業績を大きく伸ばし、その後、4輪部門へ移籍した乗り物を選ばない優れたエンジニアの一人。もちろん多田氏とも大いに議論を重ねた仲だ。

 「私は乗用車ベースのスポーツカーではなく“ピュアスポーツカー”が作りたかった。高いハードルでしたから、なんの障壁もなく話が進んだわけではありませんでしたが、信念をもってBMWとの協議にあたりました」と多田氏は新型誕生のいきさつを語ってくれた。
 事実、BMWとの協議は互いに建設的ではあったものの、スムーズに進んだことばかりではなかった。ピュアスポーツカーともなれば、「乗用車のそれを単に流用しただけでは目標値にたどり着かず、それこそプラットフォームの設計思想をゼロから作らなければならない」(多田氏)からだ。

 多田氏はプラットフォーム開発の経緯について次のように語る。

 「前/後輪のトレッド(車輪の左右間距離)、ホイールベース(車輪の前後間距離)、重心高はスポーツカーの運動性能を決める3大要素です。新型では、前後トレッドに対するホイールベースの比率を1.55と決めました」とし、続けて「この数値は走りの黄金比として例えられていて、俊敏な運動性能で知られるレーシングカートが1.14と、前後トレッドとホイールベースの長さがほぼ同じです。対して新型はその値を1.55とし、さらに低重心化を促進することで俊敏さと安定性を私が考えるピュアスポーツカーの領域として成立させました。そして、2013年末にはトヨタがスープラを作り、BMWがZ4を作ることで合意が得られました」
 トヨタの流儀では、新規のプラットフォームを作成する際、必ず試作車を作りあらゆる角度から検証を行うために走り込みを行うという。新型では通称「フルランナー」と呼ばれる試作車を作り、ニュルブルクリンクなどでテストを重ねた。テストを行っていた2014年当時、世間では撮影されたスクープ画像を前に「新型BMWスポーツカー誕生間近!」と叫ばれていたが、じつはトヨタ/BMWの協業そのものであり、これこそ多田氏こだわりのピュアスポーツカー誕生への第一歩であったわけだ。
■完全分離の開発過程

 フルランナーのテストをもとにBMWとの議論が重ねられ、低重心かつ1.55の黄金比をもったプラットフォームのスペック、搭載エンジン型式などが決定。と、同時にここからトヨタ「スープラ」チームと、BMW「Z4」チームの二手に分かれ、車両完成まで完全分離の開発が進んだ。

 つまり新型スープラはBMWの意をまったく介すことなく、デザインを含めたクルマ各部の設計から、サスペンション性能、エンジンの細かな仕様変更(搭載エンジンは同型式)、トランスミッションやディファレンシャルギアの仕様変更から得られる運動性能、さらにはテストドライバーであるヘルフィ・ダーネンス氏の起用から走行分析に至るまですべてスープラチームだけで行っている。
 ちなみにヘルフィ・ダーネンス氏はこれまでも「86」を駆りニュルブルクリンクでのレースに参戦しつつ、この6月22日からのニュルブルクリンクでは「GRスープラ」で参戦する。

 新型スープラとZ4はともに、世界第3位の自動車部品メーカーである「マグナ・インターナショナル」傘下の「マグナ・シュタイヤー」(オーストリア)で製造される。同工場では、メルセデス・ベンツGクラスやジャガーEペイス/Iペイス、BMW5シリーズなどが現在製造されている。
こうして生みの苦しみを経て誕生した新型スープラの走りはどうか。2018年12月に参加したプロトタイプ試乗会は寒さ厳しい雨のサーキットで行われたが、公道試乗会は九十九折りで有名な初夏の伊豆。まずはフラッグシップである「RZ」(690万円)からステアリングを握った。

 直列6気筒直噴3.0LDOHCターボエンジンは340PSのハイパワーもさることながら、51.0kgf・mの強大トルクを回転域によらず自在に操れることに驚く。最大トルクはわずか1600回転から発揮し4500回転までその値を維持。
 もっとも、これはターボチャージャーがフル過給をしている状態でのカタログ値ながら、伊豆の山道を上限50km/h程度でゆるりとながしていても、カーブを終えアクセルペダルをジンワリ踏み込んだ際には豊かなトルクがすぐさま体感できるから気持ちがいい。なお、新型スープラの開発ステージは約90%が公道で、日本では山道だけでなく渋滞の激しい都市部での評価も行われている。

■ゆとりをもたせた設計

 RZが搭載する3.0Lターボエンジンの最高出力は5000回転で発揮。ピュアスポーツを語るにはずいぶんと低い回転数だ。これについて多田氏に伺うと、「将来的に例えば、国と地域によって最高出力の値が課税対象になることが考えられます。新型のエンジンはいずれも最高出力を発生する回転数が低いものの(SZは4500回転)、実際にはさらに上の回転域までほぼその数値を維持しています」という。
 実際、タコメーター上も6500回転までは常用回転域としているし、以前試乗したテストコースでは6000回転を越えてもパワーの落ち込みはほとんど感じられなかった。

 ガソリンエンジンといえども厳しさを増す排出ガス規制の波には抗えず、それがハイパワーエンジンであればなおのこと。自動車メーカーとしても短時間での対処はむずかしい……。「お客様にとってみても年次改良が加えられた際にカタログ数値が下がったらガッカリされるでしょうから、そうした事態を迎えないようゆとりをもたせた設計としています」(多田氏)。
 続いて試乗した中間グレードの「SZ-R」(590万円)とベースグレードの「SZ」(490万円)には直列4気筒直噴2.0LDOHCターボエンジンが搭載される。ただし、SZ-R(258PS/40.8kgf・m)とSZ(197PS/32.7kgf・m)では出力特性に違いが設けられた。トランスミッションはRZを含めトルクコンバーター方式の8速AT。全グレードとも最終減速比まで含めたギア比は同じだ。

 多田氏の求めたピュアスポーツカーの走りを味わうにはスープラ伝統の直6エンジンを搭載するRZ一択となるのだろうが、速度域の低い日本の公道で常にピュアスポーツカーを味わいたいのであれば筆者はSZ-Rをおすすめしたい。足回りの特性、ボディの動き、アクティブディファレンシャルの働きがより自然で荒れた路面でも、車速が遅くても走りが存分に楽しめるからだ。
 同じ2.0Lエンジンながら61PS/8.1kgf・mの差がつけられたSZは上位2グレードと比較するとエンジンパワーに線の細さを感じるものの、クルマ全体の動きはむしろ自然。また、比較すればやや細めの17インチタイヤを装着していることからステアリングへのキックバックも少なくとっつきやすい。

■公道での総合評価は70点

 ただ、日本の公道においては標準装着となるランフラットタイヤとの相性が悪いようで、路面の凹凸が大きくなると細かな上下動が増えてくる。「SZは自分仕様にカスタマイズしていただくためのベースグレードとしても考えています」(スープラを担当するエンジニア)とのことなので、タイヤやサスペンションキットのパーツ交換を前提とするならSZもありだ。シフトレバー付近に設けられたドライビングモードスイッチは、「ノーマル」と「スポーツ」の2モードを基本に、個別に設定を行う「インディヴィデュアル」モードがある。
 ノーマルモードが基本的なスペックであるのに対してスポーツモードでは、エンジン出力特性/トランスミッション変速特性/ステアリングの操舵フィールがスポーツ走行に適したモードに切り替わる。さらにSZ-RとRZのスポーツモードではサスペンションの減衰力特性が高まり、電子制御方式のアクティブディファレンシャルの設定がコーナリング速度重視に切り替わる。各グレード共通骨格の減衰特性に優れたシートは秀逸だ。視線の上下動が抑えられサイドサポート性も高い。
 筆者が感じた新型スープラのピュアスポーツカー度は90点以上!  しかし、実用性が求められる公道での総合評価は70点。見切りの悪いボディは(当然ながら)離合含めて苦労するし、ドアミラースイッチは見た目に質素で操作フィールも良くない。また、手動調整式のシートレバーのうち背もたれ側の調整レバーは筆者のドライビングポジション(身長170㎝)だとシートベルトと重なって操作しづらい。

 とはいえ、スポーツカーの神髄は走行性能に尽きる、という意見もある。確かにそうだ。筆者の愛車であるND型ロードスターもオープンスポーツカーとして見れば楽しさが先にくるため個人的には満点をあげたいが、実用性となるとガクンと落ちて我慢を強いられることもしばしば……。もっともそこを理解して乗り続けることもスポーツカーを所有する悦びだ。
 6月6日時点の最新情報では、すぐに注文を入れても納車は2020年1月以降になるという。その頃には、開発が進んでいると噂の6速MTの導入話が見えてくるだろうか……。いずれにしろ、クルマ好きの一人としてスープラが戻ってきたことはとてもうれしい、そう感じられた実のある公道試乗であった。
西村 直人 :交通コメンテーター

最終更新:6月26日(水)5時20分

東洋経済オンライン

 

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