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日本人と仮想通貨の「相性」はどれほどなのか

6月26日(水)6時40分配信 東洋経済オンライン

当初は「怪しげな商品だろう」という向きも多かったが、状況は変わってきています(写真:KazuA /PIXTA)
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当初は「怪しげな商品だろう」という向きも多かったが、状況は変わってきています(写真:KazuA /PIXTA)
 よく日本の技術や製品は「ガラパゴス化している」などと言われて批判されることがありますが、独自のサービスや規格が多いことは間違いありません。

 一方、私が日本で驚いたものに「スイカ(Suica)」があります。実は、これも日本が生み出した特殊なサービスの1つです。私は世界各国の決済事情を調査したことがありますが、ここまで便利なIC式交通カードをあまり見たことがありません。

 例えば、アメリカのワシントンDCには「SmarTrip(スマートリップ)」というIC式交通カードがありますが、ワシントンDC内の地下鉄や路線バスでの利用に限られています。同じく私の母国フランスにある「Navigo(ナヴィゴ)」というカードは決済機能のない定期券です。利用できるのはパリ市内の地下鉄とバスに限られています。
 もちろん探してみれば、香港や韓国でスイカと同様のカードを見つけることはできますが、数えるほどしかありません。スイカのように1枚のカードで大半の鉄道・バス会社の運賃を支払うことができ、なおかつ広範囲な店舗で利用することができるIC式交通カードは世界的にも珍しい存在なのです。

■日本で電子マネー犯罪が横行しないのはなぜ? 

 世界では電子マネーカードの普及に伴って、新たな犯罪も増えつつあります。その一つが「digital picpocket(デジタル・ピックポケット)」です。ピックポケットとはスリのことで、言ってみれば「電子マネースリ」ということになります。
 その手口はいたってシンプル。改造したICカードリーダーを他の人のIC式カードに近づけるだけで、いとも簡単に任意の金額を盗みだすことができるのです。1回あたりの被害額が数百円の場合も多く、被害に遭ったことすら気づきにくい犯罪です。

 ただ不思議なことに、便利な電子マネーカードが普及している日本では大きな問題にはなっていません。

 そもそも、利便性が高ければ高いほどリスクも高くなるはずです。スイカのようなシステムが普及している国ならば、それに関連する犯罪も増加するのが自然な考え方でしょう。ですが、実際に日本がそのようになっているとは思えません。
 むしろ、サインレスのクレジット決済がスーパーで使えたり、他国のiPhoneにはないモバイルスイカ機能が搭載されたり、世界では珍しい便利なサービスが続々と導入されています。

 やはり日本は「信用の国」なのかもしれません。リスクを気にせずに利便性の高さを実現することができるのも、日本人という国民の信用性が高いからでしょう。他国にはとても真似できない信用という文化的素地が存在しています。

拙著『仮想通貨3.0』でも詳しく解説している仮想通貨の普及はどうでしょうか。ビットコインは、インターネットを介して見ず知らずのユーザー同士が通貨の送金をする前提で作られた通貨です。つまり、お互いに信用がなくても、テクノロジーとシステムによって通貨のやりとりが成立するように設計されています。
 本来ならば低いリスクを実現するためには、どこかで利便性を犠牲にしなければいけません。ビットコインにおいては、マイニングという仕組みがそれに当たります。セキュリティ性を担保するには、どうしても膨大な計算に成功したマイナーが、ブロックの責任者になるという仕組みが必要なのです。そのために発生するおよそ10分という時間は、安心料のようなものでしょう。

 その点、日本はそのセキュリティ性を、信用という国民性で補ってしまっています。だからこそ、次々と便利なサービスを実現することができているとも言えます。もはや日本の便利さに慣れてしまった私は、たまにスイカの決済で5秒かかっただけでも遅いと感じてしまうほどです。
 もし仮想通貨の決済を使うとして、コンビニのレジで10分も待たされたらいったいどうなるのでしょうか。決済で仮想通貨を使用する選択肢は限りなくゼロになるでしょう。

■仮想通貨はじわじわと日本に浸透してきた

 日本における仮想通貨は当初、「どうせ怪しげな投機商品だろう」と相手にしなかった人々もいる一方で、ビットコインの大きな価格変動性に惹かれて、新たに取引を開始した人も多かったのではないかと想像しています。
 2014年には日本でも仮想通貨取引所が徐々に増え始めていきます。同年4月にZaifの前身であるetwingsという企業が取引所をスタートさせました。その後テックビューロに買収されて、Zaifと名前を変更することになります。また、5月にはbitFlyerがビットコイン販売所としてサービスを開始し、11月にはコインチェックも取引所サービスに乗り出しました。

 その後もさまざまな企業が仮想通貨ビジネスに乗り出しましたが、振り返ってみると大手と呼ばれる取引所まで成長しているのは、最初に仮想通貨ビジネスを始めた企業ばかりです。
 仮想通貨取引所が増えていくことで、ビットコインをはじめとする仮想通貨の認知度は徐々に高まっていき、手にする人たちが増加していきました。

 そして決定的だったのは2017年4月に施行された改正資金決済法です。

 大きなポイントは2つ。まず1つは、仮想通貨の定義が決まったことです。それまで明確な定義がなかった仮想通貨ですが、この改正では不特定の人に対する支払い手段として利用できる通貨だと定義されました。また、日本円などの法定通貨と相互に交換できることも正式に認められています。
 もう1つのポイントは、仮想通貨交換業者の登録制度が始まったことです。セキュリティ性や資産管理法など、金融庁が設けた基準を満たさない企業は営業を続けられない決まりとなりました。

 実際に登録が始まったのは2017年9月29日。しかし、このときすでに交換事業をスタートさせていた企業も多数ありました。金融庁はそれらの企業を「みなし業者」とすることで、当分は営業が継続できるような措置を取っています。行政機関としては珍しい柔軟な対応ですが、金融庁も仮想通貨に少なからず期待していた面があったのでしょう。
 金融庁による規制ができたことで、ユーザー側にもなんとなく安心感が生まれます。世界のビットコイン取引のうち日本円の占める割合は40%台まで上昇しました。

 コインチェックは2018年1月にハッキング被害を受けたのち、マネックスグループによって完全子会社化され、2019年1月に登録業者となりました。

 登録制度開始時は、今より多くの正式登録を待つみなし業者がいましたが、金融庁の求めるセキュリティ条件に満たないなど、撤退を余儀なくされた企業もいくつかあります。
 当初は、インターネット広告大手サイバーエージェントも仮想通貨交換業へ乗り出すことを発表し、2018年春には仮想通貨取引所を開設することを宣言していました。しかし、コインチェックのハッキング事件を受けて、藤田社長自ら「傷が浅いうちに」参入を断念することを発表しました。予想以上にリスクがあることを改めて認識したうえでの決断でしょう。

 それでも楽天やLINEのように仮想通貨事業への新たな参入を表明する有名企業も登場しています。
■LINEのような独自コインの発行が増えるか

 IT大手の楽天は、連結子会社である楽天カードを通じて、みんなのビットコインの全株式を取得、楽天ウォレットを立ち上げました。今後は独自仮想通貨の発行も視野に入れている楽天としては、仮想通貨交換事業に取り込む必要性を感じたのでしょう。また、楽天証券では顧客から仮想通貨の運用を希望する声が高まっていたことも大きな理由だといいます。

 LINEも仮想通貨事業に乗り出すことを表明していますが、他の企業とは異なり少し先を見据えています。同社は2018年10月16日からグループ会社のBITBOXという仮想通貨取引所で、日米を除いた地域で独自コイン「LINK」の取り扱いをスタートさせました。
 今後は独自に構築したブロックチェーン技術を活用したサービスも展開する予定で、コンテンツを投稿するなどしてサービスの発展に貢献したユーザーには報酬としてLINKを付与することも考えていると発表しています。

 将来的な潮流としては、仮想通貨の取り扱いだけでなく独自コインの発行も盛んになるかもしれません。独自コインは運営元となる企業がいる点で非中央集権を目指す仮想通貨と厳密には異なりますが、通貨の選択肢が増えることで経済活動の新たな可能性を探ることができそうです。
マルク・カルプレス :トリスタン・テクノロジーズ取締役CTO

最終更新:6月26日(水)6時40分

東洋経済オンライン

 

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