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増税を控えてすでに消費マインドは冷えている

6月21日(金)6時10分配信 東洋経済オンライン

安倍首相は「老後2000万円」問題で集中砲火を浴びた(写真:ロイター/Issei Kato)
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安倍首相は「老後2000万円」問題で集中砲火を浴びた(写真:ロイター/Issei Kato)
 政府が6月11日に公表した経済財政運営の基本方針(骨太の方針)の素案には「10月には消費税率の8%から10%への引き上げを予定している」と明記された。また、衆参同日選挙を見送る方向になったこともあり、10月に消費税率引き上げが先送りされる可能性は大きく低下した。したがって当面は消費税率引き上げの影響に注目が集まるだろう。

 2014年4月の引き上げ時と比較すると、①税率の引き上げ幅が小さいこと、②軽減税率が適用されること、③ポイント還元などの対策がとられること、④前回増税時から4年半しか経過していないために耐久財の買い替え需要などが生じにくく、駆け込み需要とその反動減が生じにくいことなどは、プラス材料である。
■国内景気はもう「悪化」している

 一方で今回は、⑤国内景気が「悪化」しているというマイナス要因がある。景気の悪化は「景気動向指数」の一致CIに基づく基調判断である。消費総合指数は10連休や改元効果などで4月分は上昇したが、1~3月期は前期比マイナスだった。

 菅義偉官房長官は「経済に影響を及ぼさないように十分な対策を講じる」と説明し、政府は①~④のプラス材料によって影響が限定されるとの見方を示している。しかし、それを決めるのは家計である。家計のマインドを示す代表的な指数である消費者態度指数は2014年4月の増税時よりも速いペースで低下している。仮に消費税率を引き上げれば、当面はマイナス面の影響が大きく出るだろう。
 消費マインドを示す代表的な指数である消費者態度指数の5月分は39.4と、8ヵ月連続で低下した。消費税率引き上げ前に消費者態度指数が低下し始めるパターンは過去3回の引き上げ時(①1989年4月、②1997年4月、③2014年4月)すべてで確認されている。

■消費への影響は最長で7年弱、最短で半年

 ①1989年4月と②1997年4月の局面では調査が四半期に1度だったことから、現在の月次調査の結果と直接比較することはできないが、増税開始前の1年間の消費者態度指数の変化を確認すると、①89年4月は1年前の88年6月調査から89年6月調査までで2.2pt低下した。②1997年4月の消費税率引き上げ時(3%⇒5%)には1年前の96年6月調査から7年6月調査までで4.2pt低下した。③2014年4月の消費税率引き上げ時(5%⇒8%)は1年前の13年4月調査から14年4月調査までに7.4pt低下した。
 今回は、1年前の2018年10月調査から足元(19年5月調査)までに、3.5pt低下している。むろん、消費者態度指数は消費税率引き上げの影響だけで変動するものではないが、過去の消費税率引き上げ局面と同様に同指数が下落していることは事実である。

 なお、消費税率引き上げ後に1年前の水準を回復するまでにかかった期間は、①1989年4月の消費税導入時は6ヵ月、②1997年4月の消費税率引き上げ時は6年11ヵ月、③2014年4月の消費税率引き上げ時は3年7ヵ月となった。消費マインドの回復までは、最長で7年弱、最短でも半年はかかる可能性がある。
 「消費者態度指数」を構成する4つの「消費者意識指標」の内訳について、14年4月の消費税率引き上げ時と比較すると、今回のケースでは今後半年間の雇用環境の見通しを示す「雇用環境」の落ち方が大きい。

 足元では完全失業率はほぼ横ばいの推移となっており、雇用環境が明確に悪化しているとは言えない。しかし、消費者意識指標の「雇用環境」は今後半年間の雇用環境の見通しを調査したものであり、完全失業率に対して一定の先行性があるため、完全失業率や有効求人倍率などのハードデータが今後悪化してくる可能性もある。人手不足問題によって労働市場はタイトであるという認識が広がる中、雇用環境が消費マインドの悪化につながるというパスにも注意が必要である。
■「老後2000万円」問題も引きずる

 消費マインドの悪化が懸念される中、「老後に2000万円の蓄えが必要だ」と試算した金融庁報告書が話題となっている(いわゆる「老後2000万円」問題)。

 菅官房長官は「厚労省から家計調査の平均値として、高齢者世帯の収支差額が5万5000円(のマイナス)との説明があったのは事実」としつつ「報告書に盛り込まれた、30年で約2000万円の金融資産の取り崩しが必要との文言は、審議会のワーキング・グループ独自の意見」と述べ、政府の公式見解であることを否定した。
 また、あくまでも2000万円という数字は平均値であり、すべての家計が2000万円必要というわけではないし、このような議論自体が新しいものではない。とはいえ、一連の騒動が家計の不安を増幅させた可能性が高い。消費者態度指数等への影響が懸念される。

 なお、将来不安が高くなると、リスク資産の投資拡大にはネガティブな要素がある点も付言しておきたい。祝迫得夫教授は「家計・企業の金融行動と日本経済」(2012年、日本経済新聞出版社)で、将来不安(予備的貯蓄動機)と家計のリスク資産投資について、下記のように述べられている。
 「若年世代はもしリスク資産への金融投資で損失が発生したとしても、労働供給を増加させて余分に働くことで、ある程度、損失を穴埋めすることができる。このため若い家計は定年直前の家計よりは、金融資産投資でより大きなリスクを取ることが可能なはずである」「しかし、将来の労働所得に大きな不確実性が存在する場合には別の力が働く」「若い家計は将来の労働所得リスクを十分にヘッジすることはできず、借入制約に直面することになる。つまり、労働所得の存在は、借入制約や予備的貯蓄動機が重要な影響を与える若い世代では、むしろ家計のリスク資産投資を抑制する方向に働くものと思われる」
 今回の「老後2000万円」問題は、上記で議論されている労働所得の問題とは直接関係がないものの、年金という将来の所得に対して不確実性が増したと家計が考えるきっかけを作ったという意味では、予備的貯蓄動機を強めるものである。したがって、リスク回避的な家計を中心に、リスク資産投資を抑制する可能性が高いだろう。
末廣 徹 :みずほ証券 シニアマーケットエコノミスト

最終更新:6月21日(金)6時10分

東洋経済オンライン

 

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