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「孫子の兵法」を仕事で応用する超基本ポイント

6月20日(木)6時40分配信 東洋経済オンライン

多くのビジネス成功者のバイブルでもある『孫子』。ビジネスでどう活かせばよいのか紹介していきます(写真:IYO/PIXTA)  
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多くのビジネス成功者のバイブルでもある『孫子』。ビジネスでどう活かせばよいのか紹介していきます(写真:IYO/PIXTA)  
『孫子の兵法』――。ビジネスパースンにとって、必須の教養であり、戦略としての実践の書といわれています。ところが、このような名著も、有名すぎるがゆえに精読を後回しにしてしまうという人が多いのではないでしょうか。
武田信玄、ナポレオン、孫正義、ビル・ゲイツが自らのマネジメントにフル活用という事実を知っていても、なんとなく見逃してしまってはいませんか。とはいえ、原書を読むのもしんどい、現代の事例にどう応用すればよいかわからない、などの声をよく耳にします。
名著のすばらしさを原本にあたることなく、深く腹に落ちる内容に仕上げた『もし孫子が現代のビジネスマンだったら』を一部抜粋のうえお届けします。本稿では孫子の思想の大意を紹介した後、ビジネスでどう活かせるか紹介します。(敬称略)

■そもそも『孫子』とは何なのか

 『孫子』が書かれたのはおよそ2500年前。当時、中国は戦乱に明け暮れ、そのなかから数多くの兵法書や思想書が生まれました。従来の兵法は、「武運によって勝敗は決する」という思想が強かったのです。しかし『孫子』は、「人為によって勝敗が決する」と断言。勝利への道筋を見事に理論立てています。
 ただ、いたずらに戦争を起こすのではなく、とてつもない被害をもたらす戦争はできるだけ避けて、自らの利益だけでなく相手方の利益を最大限に高めること、平和を求めるのが『孫子』の神髄です。

 数多くの戦いのなかから得られた戦略・戦術だけでなく、徹底的に人間そのものを研究、分析し尽くしており、そのため、戦場における人間心理が現代のビジネスや政治といった諸場面にも当てはまるのです。

 『孫子』は全13篇から成り立っています。最初の3篇「計篇」「作戦篇」「謀攻篇」は、戦う前の準備や心構えについての説明です。次の「形篇」「勢篇」「虚実篇」は、勝利に向けての態勢づくり。あとの7篇は、より実戦的な戦場における軍の動かし方などについて提示しています。
 すべて自国・自軍を勝利に導くためのノウハウを説いていますが、その前提として、「戦争はできるだけ起こさない、それに越したことはない」と言っています。

 『孫子』が最も言いたかったこと。それは次のフレーズに凝縮されています。

 「戦わずして勝つ」

 ほかの兵法書が単純に目先の戦いに勝つことを目標とする「戦術」に重きを置いているのに対し、『孫子』は、国家の運営という大所高所から戦争という外交の一手段を俯瞰しているのです。そのキーポイントは「情報」です。そういう意味では、現代のビジネスの現場に大変通底するところがあります。
 「情報を制して、戦わずにして勝つ」

 これこそが、現代人が学ぶべき、孫子の最もすぐれたポイントなのです。

■現代の2種類の「敵」に「情報力」で勝つ

 さて、古代における敵とは、現代に置き換えたら誰になるのでしょうか。1つは、「競合相手」。つまりビジネスにおける同業者でライバルです。

 もう1つは「顧客」です。市場でシェアを拡大し、自社の売上を伸ばすには顧客の心をつかまなければなりません。そのためにはライバルと顧客という「2種類の敵」をよく知るようにしなければなりません。
 戦力は、ビジネスにおいては資金力であったり、社員のスキルであったりします。例えば、新規事業に参入しようとすれば、経営者は事業計画書を策定します。勝算(=ビジネスでの成功)の見込みを立てるには、自社の競争力、ライバルの動向などマーケットの状況をつぶさに調査しなければなりません。

 また、戦場においては戦闘が、ビジネスで新規事業をスタートさせたときは市況などが、刻一刻と変化していきます。指揮官はその状況を見極めながら、臨機応変な対応を取らなければなりません。戦い方を変えなければならないこともあれば、時には撤退も考えなければなりません。そういった判断を正しく下すには、「情報力」が必要です。
 戦いの場におけるデータを集め、正しく分析し、これからの行動にうまく活用しなければなりません。戦いにおいて勝利するには、また、ビジネスにおいて最大の利益を得るには、情報力が求められます。『孫子』が説く兵法は、この情報の扱いに重きが置かれているのです。

 近現代でも日露戦争における日本海海戦で勝利した東郷平八郎も『孫子』を愛読。また、イラク戦争においてアメリカ軍が採用した「衝撃と畏怖作戦」は、国務長官のコリン・パウエル氏が『孫子』の思想を採り入れています。
 冒頭でも述べましたが、『孫子』が用いられたのは、戦時だけに限りません。幅広くビジネスや経営にも活用されています。マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏やソフトバンク創業者の孫正義氏も『孫子』をビジネスで活かしています。

 また、後世のビジネス理論、マーケティング理論にも多大な影響を与えています。経済的な戦略の意思決定にも使われる「ゲーム理論」や、マーケティングで使われる「ランチェスター戦略」などです。
 ランチェスター戦略とは、もともと戦場における戦闘員の消耗度を数理モデルで示したランチェスターの法則を、マーケティングに応用したものです。経営コンサルタントの田岡信夫氏が、『孫子』も深く研究・応用し、経営戦略として世に送り出した理論でした。そこに共通するのは「弱者の戦略」です。

 さて、情報を制して、戦わずして勝つ。この弱者のセオリーを体現した事例の一部を紹介しましょう。ここで、強大な敵に対して、どう身を処するかについての私たちが大変よく知る事例を挙げて解説します。
■強大なライバルの「ミート」を避ける方法

「戦争は莫大な浪費である。だから時間をやたら費やすべきではない、ただ疲弊するだけである」(作戦篇)
 ライバル会社が強大で、資金も人員も相手が優っているようであれば、真正面から対決することは避けるべきです。「強者」に対しては、マーケティングでもよく使われる「差別化戦略」をとることです。

 逆に、強者は弱者を潰してさらにシェアを広げるために、真正面からの対決を挑みます。この戦略は特に「ミート」と呼ばれています。弱者としては、この強者の「ミート」をできるだけ避けるような戦略をとらなければ生き残れません。
 それには、まず相手の動向を探り、観察することによって基本戦略を知り、差別化する必要があります。先行したヒット商品の二番煎じで売り出す戦略もありますが、これは一時的な売上しか見込めません。長く生き残るには、マネではなく、違いを出すために敵情を探るのです。

「自軍が近づいても敵が静まり返っているのは、相手が自らが位置する地形の有利さを頼みとしている」(行軍篇)

 強大なライバルとうまく差別化して成功したのが、ハンバーガーチェーンのモスフードサービスの創業者、櫻田慧氏です。
 櫻田さんは日本大学経済学部を卒業後、証券会社に就職します。しかし、社内は巨大学閥が勢力を利かせているような状況で、その学閥外の櫻田さんは報われない待遇にヤル気を喪失していきます。

 「それなら、いっそ違う道を歩もう!」と起業の決意を固めます。

 そこで目をつけたのがハンバーガーチェーン。たまたま日本でマクドナルドの第1号店がオープンするというニュースと、櫻田さん自身がロサンゼルスに駐在していた経験から、本場のハンバーガーは日本でも受け入れられるという確信があったからです。
 しかし、資金集め、そしてハンバーガーづくりの研究に没頭し、いよいよ第1号店をオープンしようとしたとき、すでにライバルのマクドナルドは「巨大化」していました。資金力や知名度ではとてもかないません。

 自己資金に加え友人たちから借金をして集めた資金も、第1号店オープンまでにはかなり目減りしています。マクドナルドの第1号店が銀座の三越だったのに対し、モスバーガー第1号店は東京・板橋の東武東上線成増駅前の空き地です。強大なライバルにはとても太刀打ちできそうにありません。
■強敵と同じ土俵で戦わない

 そこで櫻田さんがとった戦略は、徹底した差別化戦略です。まずライバルをしっかり観察・研究します。

 マクドナルドが大量生産、スピード重視、低価格を売り物にしているなら、自らは「1つのハンバーガーをつくるのに時間がかかっても、味にこだわった高級品で勝負する」ことにしたのです。

 マクドナルドが駅前の利便性のいい場所に出店して大量のお客様を呼び寄せているなら、多少不便な場所でも、わざわざモスバーガーを食べたいという顧客をターゲットにしました。
 調理に時間がかかり、品質にもこだわったため商品の価格も高めになります。しかし、味にこだわった結果、多くのファンをゲットし、国内で業界2位の地位まで上りつめ、東証一部上場を果たします。つまり、相手を徹底的に研究し、その戦略を読み取り、ライバルにはない自分だけの武器をつくり上げ、成功していったのです。

 ここでは非常にわかりやすい一例を挙げさせていただきました。「孫子の兵法」が戦争のみならず、ビジネスや現場、恋愛、スポーツなどあらゆる競争の局面で応用できるのです。
 日本社会において、ますます生き残り競争が激しくなることが予想されます。「相手を打ち負かす」のではなく、「負けない強い自分」「生き残る体力と知恵」を身に付けることが求められるでしょう。いまこそ、『孫子』を再発見できるチャンスです。
安恒 理 :現代ビジネス兵法研究会代表

最終更新:6月20日(木)6時40分

東洋経済オンライン

 

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