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「何となくAI 」、実はアルゴリズム活用だった

6月19日(水)6時40分配信 東洋経済オンライン

AIとアルゴリズムの関係性、その奥深さを井上研一氏が説く(写真:monsitj/iStock)
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AIとアルゴリズムの関係性、その奥深さを井上研一氏が説く(写真:monsitj/iStock)
2020年にプログラミング教育が小学校で必修化され、ビジネスの世界でも、プログラミングが一大ブームである。コンピューター・プログラムを動かす原理は、「一連の処理手順=アルゴリズム」である。
そんななか、マサチューセッツ工科大学、アップルなど、ITの最前線で活躍してきた若きエンジニアが、文科系でもわかるよう、アルゴリズムの考え方を日々の身近な事例を用いて平易に解説するというユニークな本を刊行し、話題となっている。この春、日本で『爆速! アルゴリズム』というタイトルで翻訳出版された。
今回は、AIやIoTに強いITコーディネーターとして活躍する井上研一氏が、AIとアルゴリズムの関係を解説する。

■アルゴリズムを理解しているプログラマーは少ない

 AIが騒がれ始めてから、もう何年経つでしょうか。IT分野の調査やコンサルティングを行うガートナージャパンは、技術の成熟度や社会への適用度を示すハイプサイクルを定期的に発表していますが、「日本におけるテクノロジのハイプ・サイクル:2018年」によれば、AIは「過度な期待」のピーク期を過ぎ、一気に期待がさめる幻滅期の入り口に立っています。
 ハイプサイクルによれば、AIのような新技術が登場すると過度の期待や誇張(ハイプ)が起き、いずれ幻滅するといわれています。

 しかし、本当に力のある技術であれば、幻滅期から再び啓蒙活動期に入り、生産性の安定期に移って広く活用されるとされています。私は、今回のAIブームについては、そのように活用される技術になると考えています。

 AIが啓蒙活動期から生産性の安定期に入ったとき、本当に活用されているAIとはどのようなものでしょうか。もちろん、ディープラーニングを活用した画像認識など最新技術としてのAIを挙げることができます。一方で、正確にはAIといえないような既存のアルゴリズムの中にも、多くの人が期待するようなAIらしさを備えたものであれば、脚光を浴びると思います。
 アルゴリズムとは、「問題を解決する定型的な手法・技法。コンピューターなどで、演算手続きを指示する規則。算法」(『広辞苑』第7版)です。例えばビジネス上の課題を、コンピューターを使って解決するには、何らかのアルゴリズムを考え出して適用します。

 一般的にアルゴリズムを考え出すのは人間の役目です。そのアルゴリズムを、コンピューターが自ら考え出すことができるなら、それは多くの人が期待するAIなのかもしれません。
アリ・アルモッサウィの『爆速! アルゴリズム』(吉田三知世訳、東洋経済新報社)では、既存のアルゴリズム(もちろん、人間が考え出したものです)が、身近な話題を取り上げながら平易に解説されています。例えば、データの並び替え(ソート)を行う「マージソート」や「クイックソート」、あらかじめ並び替えされたデータから特定のデータを探し出す「二分探索」といったものです。

 こうしたアルゴリズムは、一般の人にはあまりなじみがないものでしょう。普段、いろいろと業務に特化したアルゴリズムを考え、プログラミング言語を使ってさまざまなプログラムを開発している多くのプログラマーにとっても、国家資格である情報処理技術者試験の試験勉強以外の場所では、なかなか出番がないかもしれません。ソートや探索のような一般的に用いられるアルゴリズムは、自分でわざわざアルゴリズムを考えなくても、簡単にプログラムに組み込むことができるようになっているからです。
 この本で解説されているアルゴリズムには、ネットワークやグラフといった比較的高度なものまで紹介されています。それをきちんと理解して、実践できるプログラマーは多くないのではないかと、心許なく感じたりもします。

■AIはITの利活用シーンを再発見した

 私はAIの研究者ではありません。企業の情報システムを設計し、開発するという仕事を生業とする中で、たまたまIBM Watsonを活用する機会があり、それが世の中のブームより少し早かったために、AIについていくつか本を書いたり、セミナーの講師を務めたりしています。
 AIの導入に関する相談もいただくのですが、AIが(ある意味で)バズワードになったために、ITの利活用に対する期待感が、以前より強くなっていると感じます。ビジネスの現場において、今までITは情報を記録するためのツールでした。ITに何かの問題を解かせるとか、人間がやっていた仕事を代行させるという用途が要件に挙がることは、ほとんどなかったと言えます。

 しかし、AIという言葉が世の中に広まるほど、そうした用途が要件化されているのが現状です。今までのITには期待していなかったことが、AIならできるのではないか、というムードの高まりがAIブームの真相でしょう。
 例えば、ある運送業者がトラックの配車システムの開発を始めたとします。すでに自動配車計画が可能なシステムは存在しますが、配車担当者の計画作業を効率化することが目的のシステムが多いようです。

 今までは、「どのトラックに誰を乗車させ、何をどこに運ぶか」という人間が考えた配車計画をシステムに記録し、周知することがITの目的となっていました。さらに、計画に対する実績もシステムに記録して、収支管理や労務管理に活用する。まさに記録するためのツールとして、期待されていたわけです。
 しかし、配車計画そのものも、AIにやってほしいという声があがります。配車計画は限られたベテラン従業員が担っていることが多く、その従業員が退職したら会社が回らないといった切実な話も聞かれます。AIで配車計画を立てられるようになれば、そうした懸念はなくなり、さらに効率的な計画が立てられるようになるのではという期待が高まります。

 まさにAIの存在が、ITの利活用シーンを再発見しているのです。

■万能なAIが存在しないから、アルゴリズムが生きる
 では、配車計画に活用できるAIとは何でしょうか。今までのシステムに蓄積していた配車計画と実績をデータとして入れれば、AIが自動的に解決してくれるような気もしますが、そんな魔法のような技術は存在しません。「AIを導入すれば、何でも解決できる」というのは、詭弁に近い営業トークです。

 以前、ある経営者から「何をやればAIを導入したと言ってよいのか?」という質問を受けたことがあるのですが、AIの定義がそもそも存在しないので、回答に苦労しました。
 いわゆるAIとして現在取り上げられている技術に、ディープラーニングをはじめとする機械学習を挙げることはできます。AIというバズワードと違って、機械学習は真っ当な技術です。しかし、それが何でも解決してくれるというわけではありません。

 配車計画に活用できるのは、実は多次元配列とヒープ(『爆速! アルゴリズム』の第12章「スーパーマーケットを効率良く回る」で紹介)や、組み合わせ最適化という領域のアルゴリズムであり、機械学習ではないかもしれません(もちろん、機械学習の活用も考えられます)。
 人間の思考を代替することが目的のITであっても、既存のアルゴリズムをうまく活用すれば解決できることが多く、ほとんどの場合、実はすでに行われています。おそらく、既存の自動配車計画に対応したシステムは、そうしたアルゴリズムを使用しているのでしょう。

 しかし、そうした比較的高度な機能を有するITが、何となくAIだと言われているような風潮も感じられます。これも、AIブームの一面と言えるでしょう。

 私は、AIブームをけなしているわけではありません。AIブームの真相を見極める必要はありますが、重要なのは、このAIブームがITへの期待を高めてくれているということです。
 AIへの期待が、ITをより高度に、ビジネスに利活用していこうという意欲を生み出しています。その実態が既存のアルゴリズムを活用しただけであっても、機械学習の恩恵を十二分に受けるものであっても、ビジネスの現場ではどちらでもよいことなのです。

 ただし、これからの時代には先進的な技術だけでなく、既存のアルゴリズムで何ができるかを知っておいたほうがよいのは間違いないでしょう。そこに、ビジネス上の課題を解決するカギが隠れている場合がありますし、ディープラーニングのような先進的な技術と組み合わせることで生きるアルゴリズムも存在するはずだからです。
井上 研一 :ITコーディネーター/ITエンジニア

最終更新:6月19日(水)6時40分

東洋経済オンライン

 

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