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ボルボが「交通死亡事故ゼロ」にこだわる理由

6月16日(日)6時00分配信 東洋経済オンライン

昨年の日本カー・オブ・ザ・イヤーでイヤーカーに選ばれたボルボ「XC40」。日本でも評価の高いボルボ車だが、安全についてのイメージが非常に強いメーカーとしても知られる(撮影:風間仁一郎)
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昨年の日本カー・オブ・ザ・イヤーでイヤーカーに選ばれたボルボ「XC40」。日本でも評価の高いボルボ車だが、安全についてのイメージが非常に強いメーカーとしても知られる(撮影:風間仁一郎)
 ボルボは2007年に「Vision 2020」なる宣言を行った。2020年までに新しいボルボ車に搭乗中の事故による死亡者、そして重傷者をゼロにするというのが、その内容である。

 そもそもボルボは、安全イメージが非常に強いブランドだ。無論、そうなったのは実際の取り組みにおいても、どこより安全に関して積極的なメーカーであり続けてきたからこその話である。それは、いくつかのエピソード、そして実績に裏打ちされている。
■4万件以上の事故を独自調査

 象徴的な例が3点式シートベルトだ。3点式シートベルトをボルボは、今から60年前の1959年に初めて導入した。今ではクルマにとって当たり前の装備となっている3点式シートベルト。ボルボはこれを世界で初めて導入しただけではなく、その安全に対する寄与の大きさから何と特許を無償開放することで、世界への普及を後押しした。

 結果として世界中の自動車メーカーが採用するに至った、この“自動車の安全性に関する歴史上で最も重要な発明”は、これまで100万人以上の命を救ったと言われているのである。
 独自の事故調査チームを持っていることも、よく知られるところだ。1970年に発足したこのチームは、ボルボ本社があるスウェーデン・イエテボリから100kmの範囲で発生したボルボ車が絡む事故の現場へ直接出向き、詳細な調査、分析を行い続けている。その数は、すでに4万件以上になるという。警察や医療機関、保険会社とも連携して、机上ではなく実際のデータに基づいた安全開発を続けているのだ。

 そんなボルボは「Vision 2020」の達成のため、さまざまな策を講じてきた。実際に衝突が起きた際に乗員を守るためのパッシブセーフティ技術が、車体の衝撃吸収構造やエアバッグ、シートベルトなどの進化によりさらに磨き上げられているのはもちろん、近年は衝突を未然に回避する、もしくは衝突が避けられないときでも事前の対処により被害を可能な限り低減するための、アクティブ・セーフティ技術の飛躍的な向上を実現させている。
 大きなマイルストーンとなったのが、2009年に日本に初導入された“City Safety(シティセーフティ)”だ。衝突回避のために車両を完全停止まで導く衝突回避・被害軽減ブレーキを、日本で初めて設定したのは実はボルボである。

 これは、国内メーカーが技術的には実現できていながら、完全停止の実現には二の足を踏む状況の中で、海外での事故統計データなどをもとに地道に国交省と折衝を繰り返した結果。現在の衝突回避・被害軽減ブレーキの普及ぶりを見るに、これが英断だったことは改めて繰り返すまでもないだろう。
■目標達成は厳しくなってきたが…

 最新のボルボ車が標準装備している先進安全・運転支援機能の「IntelliSafe (インテリセーフ)」は、衝突回避・被害軽減ブレーキシステム付きシティセーフティをはじめ、ステアリングアシスト付きBLIS(後車衝突回避支援機能付きブラインドスポット・インフォメーション・システム)、衝突回避・被害軽減ブレーキ機能付きCTA (クロス・トラフィック・アラート)、被追突時警告機能(静止時ブレーキ維持機能付き)などのさまざまな機能が統合されたものである。
 これによって、いわば車体の周囲360°の監視と、衝突回避・被害低減を希求しているのだ。それでも、残念ながら2020年まであと1年となった現在の状況を見るに、「Vision 2020」の目標達成は極めて難しそうだと言わなければならない。

 例えば日本の事例を見れば、交通事故件数は減っているし、それによる負傷者数、死者数も減少傾向にある。いわゆる先進国はどこもほぼ同様の状況にあるが、依然として事故は完全にゼロではない。新しいボルボ車に搭乗中の事故による死亡者、重傷者も、やはりゼロまでは到達していないのが現状である。
 しかしボルボは、目標を変えることはしない。ボルボにとって安全は永遠の課題であり、今後もその哲学をブレさせることなく、それを追求していくことになる。

 その一環として立ち上げられたのが「E.V.A.プロジェクト」である。これは、ボルボが独自の事故調査や、その他の研究、調査によって蓄積してきた安全に関する知識が集約されたデジタルライブラリーを初公開し、誰でも容易に利用できるようにするというもの。この「誰でも」にはほかの自動車メーカー、サプライヤーなども含まれ、むしろ「利用を推奨したい」という。
 3点式シートベルトの特許開放から60周年という節目を祝う意味も含まれたこのプロジェクトには、実はボルボの有するそのときと同じような危機感も込められている。それは自動車の安全性の開発に関する知見の差は、依然として存在するということだ。

 実はE.V.A.とは“Equal Vehicle for All”の略である。ボルボはこの安全に関する知見を共有することで、自動車全体の安全性の底上げにつなげようと考えている。3点式シートベルトがそうだったように、結局はそれが自動車業界全体の発展につながり、自社の利益としても返ってくることを、彼らはよく理解しているのだ。
■180km/hまでの速度制限

 さらにボルボはこの3月に、E.V.A.プロジェクトの立ち上げに先んじて、もう1つ衝撃的な発表を行っている。2020年以降、つまり2021年モデルからのすべてのボルボ車に180km/hまでの速度制限を導入するというのである。

 ボルボ・カーズのホーカン・サムエルソン社長兼CEOは「速度を制限することですべてを解決できるわけではありませんが、たとえ1つの命でも救うことができれば、それは価値があるといえます」というコメントを出している。
 アクティブ・パッシブ両面でどれだけセーフティ技術を磨いても、高すぎる速度域では、十分に対処するのは難しい。もちろん各国に速度制限は設けられているが、それでも依然としてスピードの出しすぎは重大事故の大きな原因となっている。一例として、アメリカのNHTSA(運輸省高速道路交通安全局)によれば、アメリカの全交通死亡事故数の25%が速度超過によるものだという。

 この180km/hの速度制限は、ボルボにとって4~5番目という大市場であるドイツ向けにも適用される。アウトバーンを有し、いまだ速度無制限区間も多いドイツでの販売に、この施策が少なくとも短期的には影響皆無というわけにはいかないだろう。しかしながら今の世の中の風潮からすれば、これは正しい方向性に違いない。
 なお、ボルボは同じく2021年モデルから、最高速を任意で設定可能なケアキーの導入も発表している。これは車両を家族や子どもに貸し出すとき、さらにはカーシェアリングに提供するときなどに役立つことになる。

■安全の価値が下がることはない

 さらに2020年代初頭に発売される次期型プラットフォーム採用モデルからは、ドライバーモニタリングカメラも搭載すると、すでに発表済みである。運転中の携帯電話の使用などによる注意散漫、そして飲酒や薬物の使用などによる酩酊状態を認識すると、まずは警告を発し、反応がなければ車両が運転に介入。減速、アシスタンス・サービスへの通報、さらには自動的に停車させることまで行う。
 結局のところパッシブ・アクティブの両面でセーフティ技術を向上させるだけでは、「Vision 2020」の達成は不可能だと、ボルボは悟ったのだ。

 ドライバーの適切な行動が伴わなければ、事故ゼロは実現できないというわけだが、はたして自動車メーカーができるのは、どの範囲までの話なのだろうか。あるいは自動運転の時代まで、それは実現できないのだろうか。つねにクルマの安全性について考えてきたボルボの示すヴィジョンが、投げかけてくるものは大きい。
 いずれにしても電動化、知能化など、クルマを取り巻く環境が目まぐるしいスピードで変化している中、安全の価値が下がることは今後もありえない。自動運転の時代にしても、結局は先進安全・運転支援機能の進化の積み上げの先にこそ来るものだけに、その追求はつまりブランドの未来に直接つながってくる。2020年に向けて、そしてそれ以降もボルボの歩みがペースを緩めることはなさそうである。
島下 泰久 :モータージャーナリスト

最終更新:6月16日(日)6時00分

東洋経済オンライン

 

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