ここから本文です

リクシル、対立の根底に海外買収攻勢の「失敗」

6月10日(月)5時20分配信 東洋経済オンライン

4月18日、「ペルマスティリーザの赤字の責任は瀬戸氏にある」と潮田洋一郎氏に言われ、報道陣の取材に応じた瀬戸欣哉氏。取締役会にも同社の現状は報告していると力説した(編集部撮影)
拡大写真
4月18日、「ペルマスティリーザの赤字の責任は瀬戸氏にある」と潮田洋一郎氏に言われ、報道陣の取材に応じた瀬戸欣哉氏。取締役会にも同社の現状は報告していると力説した(編集部撮影)
 深刻なコーポレート・ガバナンスの不全が露呈し、混乱が続くLIXILグループ。5月20日に開かれた取締役会で、会長兼CEO(最高経営責任者)で前身企業のひとつ旧トステム創業家の潮田洋一郎氏が取締役を辞任した。

 “最高実力者”として長年権勢を振るった潮田氏は、6月25日に予定される株主総会後は会長およびCEOからも身を退くことを公約している。

 さらに会社側の指名委員会は現任取締役をひとりも含まない次期取締役候補10名を発表。うち9名を社外取締役にすることで経営体制刷新とガバナンス強化をアピールし、株主総会での賛成を求めている。
 これに強く反発するのが、昨年10月末に潮田氏の手で事実上解任された前CEOの瀬戸欣哉氏だ。前身企業のひとつ旧INAX創業家の伊奈啓一郎氏らの支持を得て、瀬戸氏自身を含む次期取締役候補8名(うち社外取締役4名)を株主総会に提案。選任された暁にはCEOへの復帰を目指すと宣言し、支持を訴えている。

■海外事業の立て直しが急務

 株主総会に向けて、両者の争いに注目が高まる中、現時点ではっきりしていることが1つある。総会で勝ち残った新経営陣にとってLIXILの経営正常化、なかでも連結売上高の3割を占める海外事業の立て直しが「茨の道」であることだ。
 海外での売上高は2009年3月期にはわずか118億円にすぎなかったが、10年後の2019年3月期は5518億円と46倍以上に急膨張した。原動力になったのは海外企業の大胆なM&A(合併・買収)である。

 潮田氏は2011年、アメリカのゼネラル・エレクトリック(GE)上席副社長などを務めた「プロ経営者」の藤森義明氏をLIXILの社長兼CEOとして招聘。経営のグローバル化をハイピッチで進めるよう要請した。
 背景には「少子高齢化が進む日本市場だけでは事業の持続的成長が望めず、いずれ海外の同業大手に買収されかねない」という、潮田氏の強い危機感があったとされる。

 これを受け、藤森氏はビルサッシで世界最大手のイタリアのペルマスティリーザ(2011年12月、取得金額約600億円)、衛生陶器でアメリカ最大手のアメリカンスタンダード・ブランズ(2013年8月、同約530億円)、水栓金具で欧州最大手のドイツのグローエ(2014年1月、同約4000億円)などの大型買収を次々に敢行した。
 当時、藤森氏は「LIXILを本物のグローバル企業に生まれ変わらせる」と自信満々に語っていた。だが「海外子会社について実態をしっかり調べたり適切に管理したりできる人材は、日本の本社では皆無に近かった」と、内情に詳しい関係者は話す。

 海外事業に精通した生え抜き社員はほとんどおらず、藤森氏は買収先の経営を以前からの現地経営陣に任せていたという。LIXIL本社のマネジメント能力不足は明らかで、買収後の海外子会社では軒並み業績悪化や不祥事に見舞われている。
■巨額の損失を計上したジョウユウ事件

 例えば2014年1月に買収したドイツのグローエ。2015年4月には同社の中国子会社ジョウユウ(LIXILから見ると孫会社)で不正会計が発覚した。実はグローエ経営陣は、2009年にジョウユウに一部出資(2013年に子会社化)した時点から主要な財務情報に十分なアクセスができない状態だったにもかかわらず、LIXILに報告すらしていなかったのだ。

 ジョウユウは実際には債務超過で、その破綻処理を迫られた結果、LIXILは関係会社投資の減損損失や債務保証関連損失などで総額608億円もの損失を計上。この時、LIXILは社外取締役と外部有識者による特別調査委員会を立ち上げ事実関係を調査したが、報告書は概要しか公表せず、全文を開示していない。
 あまり話題になっていないが、南アフリカの子会社も問題続きだ。2014年10月にグローエ主導で買収した南アフリカ子会社では、現地の合弁相手にグローエが約束した運転資金の融資が実行されず、工場の操業が止まるなどの混乱が起きた。このときも、グローエはLIXILに報告をしていなかった。

 南アフリカ子会社は2016年3月期以降、4期連続の赤字が続いている。LIXILは2017年に合弁相手の持ち株を買い取るなどしてテコ入れしたが、業績不振を脱する見通しは立っていない。
 藤森氏は結局、ジョウユウ事件の責任をとる格好で2016年に社長兼CEOを退任。後任には潮田氏の指名により、やはり「プロ経営者」で工具通販大手のMonotaRO(モノタロウ)を創業した瀬戸氏が就いた。

 瀬戸氏は新規の海外M&Aを凍結するとともに、業績不振に陥っていたペルマスティリーザ(以降、ペルマ)の売却を決断。2017年8月に中国企業のグランドランドへの譲渡を発表し、ペルマの決算を国際会計基準(IFRS)上の売却目的で保有している「非継続事業」扱いに変更した。
 だが、ペルマは事業の約4割をアメリカが占めている。買収を審査した対米外国投資委員会(CFIUS)は昨年10月、LIXILに対して国防上の理由から中国企業への売却を認めないとの判断を通知。これにより同社は、ペルマの会計処理上の分類を「継続事業」に戻さざるをえなくなり、2019年3月期の最終利益が235億円減少する見込みだと明らかにした。

 以前から、潮田氏は世界各地のランドマーク的な建築物にビルサッシを供給するペルマのことを「宝物のような会社」と明言していた。
 潮田氏から見れば、瀬戸氏はその宝物を売却しようとし、失敗して会社に巨額の損失を負わせた格好だ。潮田氏が瀬戸氏を事実上解任したのは、CFIUSの通知の直後だったこともあり、「潮田さんはそれが許せなかった」と、当時から関係者の間でささやかれていた。

 結局のところ、経営混乱の発端となった潮田氏と瀬戸氏の対立も、その根っ子は身の丈を超えた海外M&AとLIXIL本社のマネジメント能力不足にあったと言えそうだ。
■予想利益と実績に1000億円超の落差

 その後、ペルマの実態はさらに劣化していることが露呈した。4月18日、LIXILはペルマの全受注を再精査したところ、原材料・人件費の高騰や熟練マネジャーの大量退職による工期遅れなどにより330億円の追加の事業損失が生じると発表した。

 さらに減損テストの結果、のれんを含む無形固定資産245億円の一括減損を迫られたこともあり、LIXILグループの2019年3月期決算は522億円の最終赤字に転落。期初に発表した見通しの最終利益500億円とは1000億円を超える下方修正で、ペルマだけで775億円を占めている。
 ペルマの追加損失の公表と同時に、潮田氏は取締役の辞任を表明。その記者会見で潮田氏は「巨額損失の第一義的な責任は前CEOの瀬戸氏にある」と批判したうえで、ペルマの実態について「(瀬戸氏から)取締役会に詳しい報告がなかった」「瀬戸氏に辞めてもらって初めてわかった」などと釈明した。

 これに対して瀬戸氏は、「取締役会には定期的に報告していた」「私が辞めてわかったというのはウソだ」と反論している。

 その一方、ペルマの巨額の追加損失が唐突に明らかにされたことについて、瀬戸氏は「建設業で一般的な工事進行基準で会計処理しており、工事コストが受注時の見積もりから大きく変わってしまった場合、後になってまとまった損失を計上することがある。必ずしも不自然ではない」と説明した。
 工事進行基準とは、複数年度にまたがる長期プロジェクトの収益管理について、進捗度に応じて売上高や経費、利益を計上するやり方のことだ。潮田氏と瀬戸氏の主張は明らかに食い違っているが、第三者の専門家の目にはどう映るのか。会計評論家の細野祐二氏は次のように指摘する。

 「潮田氏の釈明は論外だが、瀬戸氏の説明もおかしい。ペルマスティリーザの実態を把握していたのなら、損失を認識した時点で計上するのが会計の原則。工事進行基準うんぬんは言い訳にならない」
 言い換えれば、潮田氏と瀬戸氏はともにペルマの実態を把握できていなかったか、あるいは実態を知りながら損失計上を先送りにしていた可能性がある。少なくとも、そう疑われてもやむをえないだろう。

■グローエののれん約3600億円の不安

 6月25日の株主総会で問われているのは、会社側と瀬戸氏側の推薦候補のどちらがよりガバナンスを利かせられるのかという点だ。ただ、どちらに軍配が上がったとしても、新経営陣は海外子会社の不透明な実態を徹底調査し、ステークホルダーに開示する必要がある。
 LIXILのバランスシートにはグローエ買収で生じたのれんおよび無形資産約3600億円が計上されている。そのグローエの事業利益率は10%(2019年3月期)と、グループきっての高収益企業だ。しかし仮にペルマと同様にのれんの一括償却を迫られるようなスキャンダルが起きれば、今回の騒動を上回る衝撃をもたらすことになる。
岩村 宏水 :フリージャーナリスト

最終更新:6月10日(月)5時20分

東洋経済オンライン

 

【あわせて読みたい】

話題の投信ブログ(外部サイト)

【PR】Yahoo!ファイナンスからのお知らせ

平均年収ランキング

ヘッドライン