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「ゲームは脳に悪い」という終わりなき論争

6月9日(日)11時00分配信 東洋経済オンライン

尾木ママこと尾木直樹氏のオフィシャルブログ「オギ♥ブロ」に掲載された「どうしてゲームがスポーツなのか!?」という記事を検証します(画像:公式ブログより)
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尾木ママこと尾木直樹氏のオフィシャルブログ「オギ♥ブロ」に掲載された「どうしてゲームがスポーツなのか!?」という記事を検証します(画像:公式ブログより)
 尾木ママこと尾木直樹氏のオフィシャルブログ「オギ♥ブロ」の5月13日に「どうしてゲームがスポーツなのか!?」という記事が掲載されました。

 各方面で話題となり、さまざまな見解が述べられていますが、確かに誤解の多い発言だと思います。なぜ尾木氏の発言が問題なのか、本稿で検証していきたいと思います。

 まず、eスポーツが「どうしてスポーツなのかな~」と書かれています。

 スポーツであるかどうかに関しては、今さら言及するのはどうかと思われるのですが、改めて説明したいと思います。スポーツという単語には、運動や体育の意味が浸透していますが、実は娯楽や競技という意味もあります。したがってeスポーツも競技性のあるゲームとしての意味を持っているわけです。
■時代にともなった外来語の広がり

 例えば、最近英単語の意味合いが大きく変わったものとしてsmart(スマート)をイメージしていただければわかりやすいと思います。スマートは10年以上前であれば、「痩せている」という意味でしか使われていませんでしたが、スマートフォンの登場により「賢い」や「洗練された」という意味でも使われるようになりました。

 なので、スマートフォンが「痩せている電話」ではなく「賢い電話」として捉えられるように、eスポーツも「電気的な運動」ではなく「電子機器を使っての競技」として捉えられるのではないでしょうか。ユニークという単語も「独特」「変わった人」「面白い人」という意味で使われていた人が多かったと思います。でも、インターネットのユニークユーザー数やゲームのユニークスキルなどの言葉が登場したことで、個別や個性、唯一無二という意味も浸透するようになりました。
 そもそもeスポーツは海外から来た言葉なので、意味を考えるというよりは固有名詞として考えればよいのではないでしょうか。アメリカの野球リーグもメジャーリーグと呼ばれていますが、メジャーについて、大規模であるとか、広く知られているとか、長調であるとか、そういうことを考えずメジャーリーグという呼称を使っていますよね。

 また、「単なる大型の【ゲームの大会】にしか見えない!」と書かれていますが、これは合っていると思います。ゲーム大会です。それは誰も異存はありません。ただ、ゲーム大会であることが、何かしろの否定材料になりうるとも考えがたいのではないでしょうか。
 例えば、「全国高等学校クイズ選手権 高校生クイズ」も単なる大型のクイズ大会です。それだからといって、クイズやゲームは遊びでしかない、真剣に取り組む競技としては考えられないというのは、さすがに高校生の取り組みを軽んじている気がします。全国高校生eスポーツ選手権も取材しましたが、参加している高校生たちは、部活のように取り組み、楽しんでいました。

 次に「脳への影響も科学的に明らかなのに」という一文です。
 これは何を指しているのかわかりませんが、もし「ゲーム脳」について言っているのであれば、科学的根拠はありません。

 ゲーム脳は日本大学文理学部体育学科教授である森昭雄氏の書籍『ゲーム脳の恐怖』が発端になっているものです。この『ゲーム脳の恐怖』では、ゲームをプレイすることでβ波が低下し、α波がそれを上回ることで脳波が認知症患者と同じと定義したものです。

 ただ、このα波がβ波を上回ることが問題視すべきであるかは科学的に定義されているわけではなく、脳科学でおなじみの川島隆太教授など多くの学者、識者から否定されています。α波はリラックス状態で多く出現することから、どちらかというと危険の脳波というよりは、脳がリラックスしたいい状態であるわけです。「ゲーム脳」という言葉がキャッチーで使いやすい言葉だったので、その言葉が生まれた背景を見ずに使用している人が多く、実際には科学的論拠があるとは言い難いと言えます。
■近年よく聞く「ゲーム障害」とは? 

 そして「世界保健機構が昨年6月にゲーム障害を疾病認定したことはどう理解するのでしょうか?」とあります。さらに5月27日には「ゲーム依存症は病気と認定!!」という新しい記事も掲載してます。確かに5月25日に世界保健機構が「ゲーム障害」について治療や予防が必要な事案として2022年から施行されるとの発表がありました。

ただこれも、世界保健機構が発表した文章を読んでみると見解が多少変わってきます。世界保健機構がホームページで掲載している「死亡率および罹患率統計のためのICD-11」の「6C51 ゲーム障害」に以下のような説明が記述されています。
ゲーム障害は、ゲームをプレイする開始時間や頻度、集中度、期間、終了時間などにおいて自分で制御することが困難となり、ゲームが他の生活や活動よりも優先されてしまう。そして、生活において悪い影響や結果を引き起こしたとしても、ゲームをし続けてしまう。その結果、自分自身、家族、社会、学校、職場などに重大な支障をきたす。また、これらの症状が連続的もしくは一時的でも再発する可能性も含め、12カ月間にわたって表れることでゲーム障害と言う診断に当てはまる。
 これを読む限りだと、ゲームが依存症を引き起こす要因になっているのではなく、ゲームにはまりすぎる人は少なからずいて、そういった人には治療が必要としか書いていません。つまり、ゲームの部分を他の何かに変えても成立するわけです。

 お酒を飲みすぎてアルコール依存になってしまう人は飲酒する人の中に一定数存在し、アルコール障害として治療が必要です。しかし、お酒自体が依存症を引き出す要因として考えられておらず、嗜む程度は推奨されているのと一緒です。
■依存症とスポーツは別物

 実際、ICD-11の項目には「6C50 ギャンブル障害」「6C5Y 中毒性の行動によるその他の特定の疾病」というものもあり、何にでも当てはまると言うのがわかります。世界保健機構の日本での窓口、厚生労働省にゲーム障害について聞きました。その結果、ゲームがほかと比べて依存症や障害を引き起こしやすいということは、世界保健機構の条文には書かれていないと確認も取れました。

 つまり、上記の記述のゲームの部分を、ギャンブルにしようが、飲酒にしようが、スポーツにしようが、仕事にしようが、アイドルにしようが、ホストにしようがかまわないわけです。生活に支障をきたすほどひとつのものを優先し、それ以外のことが破綻してしまうような状態が12カ月以上も続けば治療が必要だというだけの話です。
 仕事に没頭し、家庭を破綻させている夫がいても、給料が入ってきさえすれば容認するのに、ゲームで家庭崩壊が起きたら問題になるということで、そこに矛盾があることに気がついていないわけです。

 ファミ通ゲーム白書によると、日本のゲーム人口は4900万人以上だそうです。それだけの数がプレーをしていれば、一定確率で依存してしまう人、障害と認定されてしまう人は出てきます。それはゲームだからではなく、病気や障害というものがそういったもので、すべてをゼロにすることは現時点では不可能なのではないでしょうか。
岡安 学 :デジタルライター

最終更新:6月9日(日)11時00分

東洋経済オンライン

 

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