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「数字の見積もりが速い人」の秘密の計算術

5月26日(日)5時50分配信 東洋経済オンライン

ビジネスにおいて、瞬時の数学的判断が要求される場面に役立つ「フェルミ推定」を解説します(写真:Ca-ssis/iStock)
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ビジネスにおいて、瞬時の数学的判断が要求される場面に役立つ「フェルミ推定」を解説します(写真:Ca-ssis/iStock)
上司に自信たっぷりの提案をしたところ「で、それでいくら儲かるの?」と突っ込まれて、頭が真っ白。そんなときに、あなたは瞬時に答えられますか?  
こんなとき有効なのが、短時間におおよその数字を見積もることができる「フェルミ推定」です。この「フェルミ推定」は、外資系コンサルだけでなく、近年では国内の大手企業の入社試験でも出題されることもある、ビジネスで大いに役立つスキル。事業開発、マーケティングなどを手掛ける元リクルートの中尾隆一郎氏に、数字が苦手な人でもわかるフェルミ推定の考え方や、ビジネスでの役立て方を聞きました。
■フェルミ推定の考え方とは

 フェルミ推定とは、「琵琶湖の水は何滴か?」「ウインブルドン・センターコートの芝生の本数は何本か?」「富士山をトラックで移動させるためには2トントラックが何台必要か」「日本の電信柱の本数は何本か」といった一見、荒唐無稽な設問を短時間で回答する方法論です。その実践者であるエンリコ・フェルミの名前が由来となっています。最近では入社面接で質問されることもあり、すでにご存知の方も多いかもしれません。
 実際にフェルミ推定のケーススタディーの演習をしてみましょう。

 お題は「日本全国の電柱の数を考える」。計算に使っていいのは四則演算(+、-、×、÷)だけ。当然ですが、インターネットなどで調べるのはNGです。

 まず、どのように考え始めるべきでしょうか? 

 実は、フェルミ推定には「答え」がありません。単に回答を見つけるのではなく、複数の回答シナリオから最適な方法を見つけることがポイントで、推定する方法はたくさんあるのです。どれが妥当解かというよりも、より多くのシナリオを考え、その中から精度が高く、簡単に計算できるものを短時間で見つける、いわばゲームです。
 例えば、電柱は家庭や企業に電気を送るものであるので、企業数と家庭数から想定できるのではないかと仮定する。電柱はたいてい道路にあるのではないかと仮定して、道路の長さから考える。または、人口と相関性があると仮定するなど、さまざまな方向から考えることができます。

 一例として、「一定の面積あたり、何本の電柱があるのか」という視点から考える方法を解説しましょう。

■段階を踏んで計算していく

 <ステップ1>

日本の面積を推定します。もちろん日本の面積を約38万km2
と知っていれば簡単です。知らなければ、日本の面積を推定します。日本の形を長方形だと仮定しましょう。少し乱暴に感じるかもしれませんが、ざっくり把握したいので、計算しやすい形がいいわけです。

長方形の面積を計算するには長辺、短辺の長さが必要です。まず、その2辺の長さを推定します。長い方の1辺は、九州から北海道の長さです。例えば、東京―大阪間がおおよそ500kmだという情報を知っていれば、全体の日本の長さをその4倍程度の500km×4=2000km程度だと推定できます。もう一方の辺の長さも、同じく東京―大阪間の500kmより短そうですから200km程度だと推定できます。これで2辺の長さが推定できましたから、日本の概算の面積が計算できます。長辺2000km×短辺200km=40万km2
となります。

 <ステップ2>

 面積当たりの電柱の数を推定します。面積あたりの電柱の数は、人口密集地の「都会」とその他の地域(エリア部)では異なるだろうと想像できます。そこで日本全体を「都市」と首都圏以外の「エリア」の2つのグループに分けることにします。

日本の都市部は、主に県庁所在地と大都市などのイメージでしょうか。そうすると、都会部とエリア部の比率は20:80程度だと推定できます。先ほど、日本全体の面積は40万km2
と推定しましたので、それぞれ20%と80%を掛け算すると都市部の面積は40万km2
×20%=8万km2
、エリア部の面積は40万km2
×80%=32万km2
であると推定できます。

 <ステップ3>

どれくらいの距離ごとに電柱があるのかを推定します。例えば都市部は50mごとに1本程度、エリア部は200mごとに1本程度でしょうか。これを前提に計算すると、都市部は1km当たり20本、エリア部は1km当たり5本の電柱があるということになります。つまり1km2
当たり都市部は20本×20本=400本、エリア部は5本×5本=25本の電柱があると計算できます。

 <ステップ4>

回答(日本の電柱の数)を推定します。ステップ2で都市部とエリア部の面積を推定し、それぞれ8万km2
と32万km2
と推定しました。ステップ3で都市部とエリア部の1km2
あたりの電柱の本数をそれぞれ400本、25本と推定しました。

都市部の電柱の本数8万㎢×400本/km2
=3200万本、エリア部の電柱の本数32万km2
×25本/km2
=800万本 と計算できます。合計すると約4000万本と日本全国の電柱の数が把握できます。

実際の国土交通省の調べでは、平成28年度の電柱本数は約3578万本とのこと。かなりの近似値を求められたのではないでしょうか。

■重視されるのは「回答」ではなく「考え方」

 ただ、最初に話したとおり、「フェルミ推定」は、単に回答を見つけるのではなくそこに至るまでの思考のプロセスが大切です。

 就職試験時の質問では、答えが合っているかということよりも、学生たちがそういった考え方ができるかどうかを見ているのだと言えます。
 また、このようなフェルミ推定をするうえで、数字の知識が多いほうが有利だということがわかるでしょう。こういった“数字のストックを増やす”ことも大切です。

 日本は統計数値が豊富です。どのような数値がどこにあるのか知っている、あるいは、それらのおおよその数値を知っていると、フェルミ推定や仮説力の精度が高まります。仮説力の精度が高まると、施策の精度が高まります。すると、結果として儲けのセンスも高まります。
企業関係の数値を把握する際は、経済産業省のホームページが便利です。例えば「平成28年経済センサス・活動調査 産業横断的集計」という資料があります。これは2018(平成30)年6月に出された資料で、前回調査の平成23年のデータとの比較がわかります。

 こうした数字が読めれば、景気動向も見えてくるようになります。
もちろん、「現在の営業人数のままで売り上げを5%アップできないか」といった社内の課題なども、フェルミ推定で考えることができるのです。
■やるべき仕事が即座に判断できるようになる

 リクルート時代、今から20年ほど前に筆者が広告制作の子会社に出向していたときのエピソードです。その当時の上司とのやりとりで「フェルミ推定はすごい」と体感したことがありました。

 この子会社では、たくさんのアルバイトを募集していました。それと同時に、別の部署では仕事がなくなったからとアルバイトに辞めてもらうことも少なからずありました。すると、ある部署でアルバイトの募集をしているのに、別の部署でアルバイトに辞めてもらっているということが起きていました。全社という視点で考えると、何だか非効率に思えたのです。
 私は、この子会社の本部組織にいたので、この事実に気づいていましたが、現場は自分たちの組織のことしかわからないので、気づいていません。

 この非効率性を改善するために何かできないかと考えました。それには、ある部署で辞めるアルバイトを、新たに募集が必要な部署に異動してもらえばよいのです。

 それができれば、会社もアルバイト個人もメリットがあると考えたのです。会社にとっては、採用コストも導入・教育コストも削減できます。アルバイトも、途切れなく働けますし、新たに会社のことを知る時間を削減できるメリットがあります。
 ただ、少し考えてみるとわかるのですが、必要な職種によってアルバイトに求められるスキルが異なります。また、ある部署でアルバイトが必要なタイミングと別の部署でアルバイトが辞めるタイミングが異なるケースが大半かもしれません。つまり、職種とタイミングを合わせられるかという課題は残りそうでした。

 ただ、そうだとしても、大量にアルバイトを採用していましたので、採用コストや教育コストなども考えると無駄にしているコストはかなりある、とフェルミ推定できました。
 そこで当時の上司である子会社の社長に提案しました。提案内容は次のようなものでした。働いているアルバイトのスキルや経験、入社日や退職予定日をデータベースに登録しておき、これを全社で共有する。それぞれの部署で新たにアルバイトを募集する際には、このデータベースを確認して、そこでマッチングしない場合のみ、新規のアルバイト募集を行う。これによる採用コスト、教育コストが削減できる、というものでした。

 実際、これで年間数百万円のコスト削減ができるとフェルミ推定できました。そこで私は自信満々に上司へ提案を行いました。
■「問題解決した後」も想定に取り入れる

 この提案に対する私の上司であった子会社の社長の回答は、次のようなものでした。

 「いい提案をありがとう。確かにこの方法でこの問題は解決できる。実際、昨年のデータでいうと数百万円のコスト削減ができる。ただし実際は、作成するデータベースの維持・保守に想像以上にコストと労力がかかる。とくにアルバイトのデータ更新には少なくとも毎月1人分以上のコストが必要になる(とその場でフェルミ推定しました)。
 これで年間数百万円はかかる。とくに働いているアルバイト社員の情報をデータ入力する部署と、そのデータにより採用コストを削減できる部署が異なるので、アルバイトの情報を入力するモチベーションも上がらない。結果、新たなコストが発生するので、今回見積もった経済的な成果のすべては得られない。

 今回のケースに限らず、問題を解決すると新たな問題が生まれることが大半。今回のケースではデータの維持保守に想像以上のコストがかかるという問題が起きる。だから、この問題は放置しておこう」
 私の提案に対して、ものの数分でフェルミ推定して、「やらない」と回答したのです。「問題を解決すると新たな問題が発生する。その問題を解決するコストも含めて考えないといけない」というアドバイスとフェルミ推定のパワーをまざまざと感じた事例でした。

 フェルミ推定は四則演算を活用して仕事のレベルアップを行う有効な手法の1つです。ぜひ、身につけて活用してください。
中尾 隆一郎 :株式会社中尾マネジメント研究所(NMI) 代表取締役社長、株式会社旅工房 取締役

最終更新:5月26日(日)5時50分

東洋経済オンライン

 

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