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社会保障改革提言で小泉進次郎氏を採点する

5月25日(土)6時30分配信 東洋経済オンライン

自民党の社会保障改革提言を事務局長としてまとめた小泉進次郎氏。筆者が内容を採点(撮影:今井康一)
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自民党の社会保障改革提言を事務局長としてまとめた小泉進次郎氏。筆者が内容を採点(撮影:今井康一)
自民党の「人生100年時代戦略本部」(岸田文雄本部長、小泉進次郎事務局長)は5月21日、社会保障改革の提言を安倍晋三首相に提出した。翌日の日本経済新聞には、3氏が並んではいるものの目線の行き先がバラバラの写真と記事「岸田氏ら、社会保障改革提言首相『骨太方針に反映』」が載った。

 写真は小泉進次郎氏が最も精悍(せいかん)なイメージで写るカットが選ばれており(ご本人の撮られ方がうまいということもあろうが)、このテーマにおける小泉進次郎氏の重要性と国民的な人気の高さがうかがえる。
■進次郎氏を起用した自民党版「人生100年時代」対策

 年金をはじめとする社会保障制度の改革が重要であることは疑いない。ただし、個々の国民の利害損得に関わる問題なので、時の政権にとっては扱いの難しいテーマだ。野党にはもちろん、与党内にも今や有力なライバルのいない安倍首相が政権の座にあるこのときに、人気者の小泉進次郎氏を起用してこの問題に取り組むことは適切だろう。

 ちなみに、この種の制度改革は、国民の中に改革によって損をする人と得をする人を作らざるをえないが、その損と得の大きさはトータルで同じになるはずだ。
 この状況を行動経済学的に考えると、「現状よりも損」になる人への精神的インパクトは、「現状よりも得」になる人が感じる精神的インパクトよりもはっきり大きいので、国民間の損得の変更を伴う改革にあっては、得する人の嬉しさよりも、損する人の怒りのほうが上回りやすいのだ。ご苦労なことだ。

それでは、この重要なテーマに関する提言を早速読んでみよう。読者もぜひ、自由民主党のサイトから「人生100年時代戦略本部取りまとめ~人生100年時代の社会保障改革ビジョン~」のPDFファイルをダウンロードして提言を読んでみてほしい。
 期待の大きな重要テーマであり、政治家としての資質を問われるテーマでもある。この提言が、改革の名に値する斬新な内容なのか、踏み込みは十分かどうか興味深い。以下、先生になった気分で、学生コイズミ・シンジロウ君のレポートとして、この「提言」を採点してみたい。

 まず、冒頭の検討の経緯に「社会保障制度は、個人では対応できないリスクを社会全体でカバーすることで、国民が安心して前に進むことを支える制度基盤である」とあるが、この認識は的確であり、表現もうまい。さすが、コイズミ君だ。内容に期待が高まる。
■「支える側」「支えられる側」は、いい区分なのか? 

 提言は「2.基本的考え方」で、「支える側」と「支えられる側」の人数のバランスを見直すことの重要性を説く。コイズミ君は「リバランス」という表現を使っている。

 年金を中心とする社会保障制度がテーマで、「支えられる側」が主に高齢者であることを考えると、「支える側」と「支えられる側」の区別を露骨に強調するのはいかがなものか。多分、この言葉遣いはあまりよくない。
 経済的にも職業スキルなどの能力の点を見ても、高齢者が困っていて「支えられる側」で、若年者が「支える側」という区分は、今や実態に合っていない。むしろ相対的に困窮している弱者は若い層かもしれない。高齢者が若年者を支える関係でもある。また、「支える」「支えられる」の関係は、実際にはお金のやり取りだけではなく、もう少し複雑だ。

 「高齢者が、若年者を支える社会でもある」ことを述べ、高齢者も「支える側」なのだと明記し位置づけるほうが、高齢者がプライドを持ち、気分よく働けるのではないか。
 目指すところは、(1)高齢者も大いに働く社会と、(2)年金の支給開始年齢の引き上げ、なのだろう。だが、(2)のみを露骨に連想させ問題を人数と金額に還元する「リバランス」という言葉は(金融でも使う言葉なのだが)ここで使うと品がない。

 「年齢を基準に『高齢者』とひと括りにすることは現実に合っていない」という着眼はいいのだが、表現の工夫と、「エイジフリー」の考え方をどう貫徹するのか、もっと力強い言及がほしかった。ここは答案なら少し減点する箇所かもしれない。
 さて、提言そのものに書かれているわけではないが、報道によると、具体的な政策としては、年金の受給開始年齢の選択肢を現在の「65歳標準で、60歳から70歳まで繰り上げ・繰り下げ可能」を、まず「65歳標準で、60歳から75歳まで繰り上げ・繰り下げ可能」として、選択の幅を拡げつつ、繰り下げ受給のほうが得な面を強調する方針とも言われる。

 この際に大きな問題になるのが在職老齢年金制度(働いて収入があると老齢年金を削る働く意欲を阻害する制度)の問題がある。
 提言では、「就労インセンティブを阻害する在職老齢年金の縮小・廃止の検討を通じ公的年金制度の見直しに取り組む」とあるのだが、ここは「縮小・廃止」と、廃止と一緒に「縮小」を書いてはいけない。制度上の面倒をできるだけ残しておきたい年金官僚や年金関連業界が、縮小でお茶を濁そうとする可能性がある。このテーマはコイズミ君の立場で議論すると必ず勝てる問題なので、ここは「速やかな廃止」と書くのが満点であり、「縮小」を併記したことは大きな減点材料だ。
■定年廃止は解雇の金銭解決とセットのはず

 年金等の社会保障制度と働き方は当然関連性を持っている。提言が、雇用制度改革に触れていることは適切だ。加点対象になる。エイジフリーの考え方からして、「将来的な定年制度の禁止の是非も検討すべきである」という方向性はいいのだが、2つ問題がある。

 そもそも戦略本部は物事の是非の検討が役割なのだから、例えば「年齢による差別とも言うべき定年制は近い将来に禁止が妥当である」というくらいに強く結論を書き込むべきだった。「検討の結果、結論するべきだ」という結論はツマラナイ。詳細は後で検討してもいいが、結論は臆せず述べよ。
 もう1点、定年の廃止は、正社員の解雇の金銭解決とセットで導入すべき政策だ。議論を呼びやすい正社員解雇の条件について言及を避けたのは、提言として意気地がない。ここは検討不十分で記述が浅いことを理由に減点するところだろう。

 コイズミ君のお父さんは、詳細を官僚の検討に任せたのが少々失敗だったが、早い時点から「郵政は民営化」といって敵を作ることを怖れない結論を言い続けた。当時のお父さんの度胸をまねてほしいものだ。
 もっとも、現在のコイズミ君は、総裁選のいささか奇矯な泡沫候補だった頃の若き日のお父さんと違って、次の次くらいには自然に総裁が転がり込んできそうな「失う物のあるポジション」だから、慎重になるのも無理はない。減点は小幅にとどめるので、気を取り直して頑張ってほしい。

 年金制度の改革を行うにあたり、また、不利益を受ける人がいるかもしれないし不安を持つ人もいる雇用制度の改革を行うにあたり、大切なのはマクロ的な経済運営だ。
 制度改革には、経済のコンディションがよいこと、とくに、雇用市場が売り手有利であって全年齢にわたって職を得やすいことが環境として必須だ。そのためには時々の状況に合ったマクロ経済政策が必要だ。例えば、社会保障制度の個々のコスト増に対して個々に時間差なしに財源を手当するような硬直的なルールに縛られていると、制度改革にもマクロの経済運営にも支障を来す。

■結局コイズミ君のレポートは何点なのか? 

 端的に言って、今秋のタイミングの消費増税はしないほうがいいのだが、提言には、こうした議論を呼びそうな問題を避けた印象がある。逆に、消費増税がぜひとも必要だと思うなら、堂々と書けばよかったではないか。
 「別の議論に巻き込まれたくないので、取り上げるテーマを絞った」という言い分がコイズミ君にはあるのかもしれないが、テーマに関連して必要なことを総合的に検討するのが「○○戦略本部」の本来の役割であり、何よりも官僚と異なり所轄に縛られずに済むはずの政治家に期待される議論の姿だろう。この点は物足りないから、私が教官なら減点する。

 厳しくつけると65点くらいだと思うが(大学なら単位は取れる「C(60点以上)」評価)、コイズミ君は授業参加や課外活動も優秀なので(選挙の応援でも活躍した)、鉛筆をなめて70点(大学なら「B」評価)というところだろうか。
 さて、当然持つべき敬意と、まだ少し持っている期待を込めて、「コイズミ君」から「小泉進次郎氏」に戻っていただこう。

 提言を読み、メディアで目にする発言などを見るに、小泉進次郎氏は、総裁選、原発問題、消費税、解雇規制緩和など、明確に意見を述べると議論を呼び、時には「炎上」し、場合によっては敵を作るような話題を避けつつ、イメージだけは改革者を維持しようとする「すっかり無難な大人の政治家」になったように思う。
 自らのポジションと環境に対する見事な適応例として、窮屈な会社にお勤めのサラリーマン諸氏は、小泉進次郎氏の処世術を手本とすると大変いいだろう(本編はここで終了です。次ページは競馬好きの筆者が、週末の人気レースを予想するコーナーです。あらかじめご了承ください)。

さて、ここからは競馬ファン御用達のコーナーだ。いよいよ、今週末は競馬ファンにとって大切な「競馬の祭典」日本ダービーだ(26日東京競馬場11R、距離2400メートル)。
■馬券のセオリーどおり、本命はヴェロックスで

 1番人気は無敗の皐月賞馬サートゥルナーリアだろう。皐月賞は長期休養明けに加えて、距離ロスを承知で外々を回る安全運転の結果ゴール前が際どかった。常識的には実力1番と評価すべきだが、初めての左回り・府中コース、乗り替わり、前走初めて厳しいレース、と小さくても不安視な材料がある。

 人気馬の不安に注目し、不人気馬の長所と可能性に注目するのが、馬券のセオリーなので、筆者は本命としては買わない。
 今年の本命には、皐月賞で不利を受けたヴェロックスを採る。昔から、「ダービーでは皐月賞のゴール後の伸びがよかった馬に注目せよ」という教えがある。ゴール後だが、サートゥルナーリアを抜き返して先頭を譲らなかったのがこの馬だ。コース経験もあり、レース経験も豊富だ。

 対抗はもちろんサートゥルナーリアだ。素質と力量はこの馬が1番であることに間違いない。

 「ダービーは運のいい馬が勝つ」と言われるくらいで立ち回りが大事なレースだが、ダノンキングリーは府中コースに慣れている。直線中央から外で争う前記2騎と離れた、通り慣れた最内を追い込んで来そうな本馬は侮れない。この馬が単穴で、皐月賞上位3頭はやはり高評価になる。
 「3強」と事前に言われても、3頭そのままでは決まりにくいのが競馬だ。穴馬候補を探してみた。

 まず、いかにもダービーに向きそうな血統で、前走青葉賞のレース振りがよかったランフォザローゼスに注目したい。加えて、ホープフルステークス(G1)でサートゥルナーリアとそこそこの競馬をしたアドマイヤジャスタを次走(すみれステークス)で破ったサトノルークス、もちろんアドマイヤジャスタも鞍上のミルコ・デムーロ騎手も込みの評価で押さえに採る。
 最後に、大外枠を引いたのはかわいそうだがシュヴァルツリーゼは意外性のあるハーツクライ産駒で、キャリアが浅い分可能性を秘めている。2着に敗れた弥生賞は4コーナーで大きな不利があったが、よく立て直して伸びてきた。馬券は「意外性」へのヘッジとして、上記7頭の3連複をボックス買いして(35点になる)資金の3分の1くらい、残り3分の2は強弱を付けて馬単を中心に買って楽しみたい。
山崎 元 :経済評論家

最終更新:5月25日(土)6時30分

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