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目標設定を間違うチームが力を尽くせない理由

5月23日(木)16時00分配信 東洋経済オンライン

目標達成だけにとらわれてはいけません(写真:polkadot/PIXTA)
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目標達成だけにとらわれてはいけません(写真:polkadot/PIXTA)
 「目標を確実に達成するのがいいチームだ」

 はたしてそうでしょうか?  多くの人が抱いているチームに対する誤解を1つ解きたいと思います。

 ここで1つ、実験をしてみましょう。質問です。

 「あなたが朝起きてから、今この瞬間までに、赤いものがいくつありましたか?」

 この質問にはほとんどの人が答えられないのではないでしょうか。

 しかし、もしも、明日のこの時間に同じ質問に回答しなければならないと事前にわかっていたとしたら、ほとんどの人が朝から赤いものを数えて過ごし、きちんと回答できるはずです。
■「目的意識」によって、人の認識力は向上する

 なぜ同じように1日を過ごしているのに、皆さんは今日突然聞かれると赤いものの数を答えられず、事前に明日赤いものの数を聞かれるとわかっていたら答えられるのでしょうか? 

 同じ視力で世の中を見ているはずなのに、赤いものが目に入ってくるようになるのはなぜなのでしょうか? 

 それは、「目的意識」の有無によるものです。この現象を心理学では「カラーバス効果」と言います。人間はある目的を意識すると、その目的に関連する情報をそれまで以上に認識するようになります。それくらい私たちの活動は目的意識に左右されるのです。
拙著『THE TEAM 5つの法則』でも詳しく解説していますが、チームの活動は、チームとして掲げる目的や目標に支配されていると言っても過言ではありません。

 チームとして何を目標に設定するかによって、メンバーの思考や行動は大きく変わっていきます。

 その前提に立つと、

 「目標を確実に達成するのがいいチームだ」

 これは必ずしも間違っているわけではありませんが、それ以上に大切なことは、

 「目標を適切に設定するのがいいチームだ」
 ということなのです。

 「どうすれば目標を達成できるか?」を考える前に、「どのような目標を設定するのか?」に、より力を注ぐのが望ましいのです。

 多くの人が、勉強においてはテストでできるだけ高い点を取る、スポーツにおいてはできるだけ高い順位を取る、という「与えられた目標を達成する競争」に小さな頃から慣れ親しんでおり、自ら目標を設定するということには不慣れです。

 しかし、チームづくりにおいては、「自分たちで最適な目標を設定する」という意識を強く持つことが非常に重要です。
■あなたのチームは何を目標にするのか? 

 ここからはチームに対して適切な目的や目標を設定するための法則を解き明かしていきたいと思います。

 拙著もさまざまな人を巻き込んでチームで制作したのですが、あなたが制作チームの一員なら、どの目標設定がいいと思いますか? 

A 「チームの法則」を、事例を交えてわかりやすく伝える本をつくる
B 10万部売る
C 日本全体のチーム力を高める
 Aは行動レベルの目標設定です。行動レベルの目標設定とは、チームメンバーが具体的に取り組むべき行動の方向性を示したものです。この場合は「事例を交えてわかりやすく伝える本をつくる」という行動を起こすことそのものが目標となります。
 Bは成果レベルの目標設定です。成果レベルの目標設定とは、チームとして手に入れるべき具体的な成果を示したものです。この場合は「10万部」という販売数の成果が目標になります。

 Cは意義レベルの目標設定です。意義レベルの目標設定とは、最終的に実現したい抽象的な状態や影響を示したものです。この場合は「日本全体のチーム力を高める」という意義が目標になります。

 この3つのタイプの目標設定にはそれぞれにメリット・デメリットがあり、一概にどれがよい、悪いとは言えません。
 Aの行動レベルの目標設定には、チームメンバーが自らの取るべき行動を明確にしやすいというメリットがあります。「事例を交えてわかりやすく伝える本をつくる」という具体的な目標が提示されたメンバーたちは、世の中の成功したチームの事例について調査したり、チームの法則をわかりやすくイラストで表現してくれたりするイラストレーターを探したり、といった行動をすぐに起こすことができます。

 逆に、Cの意義レベルの目標設定には、チームメンバーが自らの取るべき行動を明確にしにくいというデメリットがあります。「日本全体のチーム力を高める」という目標が提示されても、すぐにそのためにどんな行動を起こせばいいかを思いつくメンバーは滅多にいないでしょう。この目標設定だけでは、メンバー全員が途方にくれてしまうリスクもあります。
 一方で、意義レベルの目標設定には、チームにブレイクスルーが起きやすいというメリットがあります。「日本全体のチーム力を高める」という抽象的な目標があることによって、「事例を交える」や「わかりやすく伝える」ということ以外のアイデアがメンバーから生まれる可能性があります。

 逆に、Aの行動レベルの目標設定には、チームメンバーからブレイクスルーを起こすようなアイデアは生まれにくいというデメリットがあります。「事例を交えてわかりやすく伝える本をつくる」という目標からは、その行動目標以外のアクションは生まれにくいはずです。
 Bの成果レベルの目標設定は、アクションのわかりやすさについても、ブレイクスルーの起きやすさについても、Aの行動レベルである目標設定とCの意義レベルである目標設定の中間の効果があると言えるでしょう。

■チームに適した目標設定をつくれるか

 3つの目標設定のうち、どれが自分のチームにとって適切かは、チームを構成するメンバーの能力レベル、思考力や行動力によって変わります。

 チームメンバーがみずから考え動くことができないのであれば、行動レベルで目標設定しなければパフォーマンスにはつながりません。場合によっては行動をマニュアルレベルまで具体的に落とし込んだうえで、「何分以内にこのアクションを完了させる」というような目標設定をする必要があるでしょう。
 一方で、チームメンバーが自ら考え動くことができるのであれば、意義レベルや成果レベルで目標設定したほうが、パフォーマンスは生まれやすくなります。意義レベルや成果レベルの目標設定をすることで、その場その場に応じた臨機応変で柔軟な対応が生まれる可能性があるからです。

 それが会社の職場であっても、職場を超えたプロジェクトであったとしても、学校の部活やサークル・ゼミであったとしても、家族や友人との旅行や飲み会であったとしても、チームとしてのパフォーマンスを最大化したいのであれば、このような3つの目標の特徴を理解したうえで、自らチームの目標設定を適切にしなければなりません。
 どの抽象水準で目標設定をするのか、もしくは3つすべてに関して目標設定をするのかは、メンバーの能力レベルなどを見極めたうえで設定する必要があるのです。
麻野 耕司 :リンクアンドモチベーション取締役、ヴォーカーズ副社長

最終更新:5月23日(木)16時00分

東洋経済オンライン

 

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