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「65歳以上のシニア」を活用できない会社は傾く

5月22日(水)6時20分配信 東洋経済オンライン

定年後の再雇用の年齢上限を撤廃する動きも出てきた。ファンケルでは、定年後もシニアが働き続けられる先進的な制度を導入している(写真は宮島和美副会長、撮影:ヒダキトモコ)
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定年後の再雇用の年齢上限を撤廃する動きも出てきた。ファンケルでは、定年後もシニアが働き続けられる先進的な制度を導入している(写真は宮島和美副会長、撮影:ヒダキトモコ)
少子高齢化の進展による労働力不足が深刻になる中で、「シニア世代」の活用が注目されている。
2013年に施行された改正高年齢者雇用安定法では、希望者を65歳まで雇用することが企業に義務付けられたが、化粧品・健康食品メーカーのファンケルは65歳の定年後も働き続けられる制度を導入した。同社の社長、会長を歴任し、現在は取締役副会長執行役員を務める宮島和美氏に、制度導入の狙いなどについて聞いた。

■65歳以降も「アクティブシニア」として働ける制度
 中原圭介:(以下、中原)今回、宮島さんにお話をお伺いしたいと思ったのは、日本経済新聞の記事がきっかけです。定年後の再雇用を取材した記事の中で、ファンケルが「年齢の上限なく働き続けられる」制度を導入したことが書かれていました。私は、遅くとも20年後、2040年ごろには日本企業の定年制度が75歳まで延長されているか、あるいは廃止されているかしないと、日本の社会システムは持たないと考えています。そこで、先進的なファンケルの取り組みについてお伺いしたいと思ったわけです。
 宮島和美:(以下、宮島)ファンケルは創業オーナーの池森賢二(現・代表取締役 会長執行役員 ファウンダー)の考え方や哲学が深く浸透している会社です。池森は父親を早く亡くし、本当に苦労しながら商売をしてきたので、思いやりが人一倍強い。

 池森は「不の解消」という言葉をよく口にします。例えば「不快」を「快適」に、「不満」を「満足」に、「不安」を「安心」に変えるのが大事だと。それはお客様に対して発信している言葉であると同時に、従業員に対しても発信しているのです。従業員の不安とか不満などを全部取り除いていこうという考え方がファンケルの根底にある、ということです。
 宮島:そうした池森の考え方の一環として2017年4月に導入した制度が、日経でも取り上げられた「アクティブシニア社員」という雇用形態です。

 ファンケルでは、60歳で定年後も嘱託社員として65歳まで働くことが可能でしたが、それ以降もご本人の元気とやる気が続く限り、働くことができるという制度なんです。勤務日数や時間については希望を勘案して決定しますから、それぞれのペースで柔軟に働くこともできます。

 中原:2030年代には3人に1人超が高齢者になります。いま働く人々も将来の経済的な不安を抱えている。それを取り除いてあげる取り組みは、これからの企業にとって重要な使命になると思っています。
 宮島:私が1973年に社会人になったとき、定年は55歳でした。でも、その頃の男性の平均寿命は71歳。今や男性が81歳、女性は87歳に延びているわけですから、65歳まで定年が延びてもまったくおかしくない。実際、今の人たちは65歳でも70歳でも元気だから働けるし、働きたいし、それに対応して当社はアクティブシニア社員制度を設けたのです。

 これからの日本企業はたぶん、同様の制度を導入するところが増えていくのではないでしょうか。私自身は、もうすぐ70歳になります。さすがにもう若くないんです(笑)。
 中原:以前よくご一緒させていただいた塾のメンバーの中では、宮島さんはかなり若いほうですよ(笑)。半年くらい前にその塾で講師をさせていただいたときは、出席メンバー10人くらいの平均年齢は80歳前後だったと思います。日拓グループの西村昭孝さん、森ビルの渡邊五郎さん、オンワードの松尾信武さんといった方々とご一緒させていただきました。

 宮島:皆さん、元気で勤勉で働く意欲がまだまだありますね。私自身も含め、そういう人たちがもっと働ける場を作っていかなければならないと思います。これからの日本では、定年を迎えても経験や知識をまだまだ十分に生かせる、という人たちがどんどん増えていくわけですから。
 中原:おっしゃるとおりです。60代になっても70代になっても、モチベーションの高い人たちが遠慮なく働ける社会を、企業が率先してつくっていくべきでしょうね。

■従業員が安心して働ける会社でなければならない

 中原:「アクティブシニア社員制度」のほかに、ファンケルが今取り組んでいること、あるいはこれから取り組んでいきたいことはありますか。

 宮島:やはり根底にあるのは、従業員が安心して働ける会社でなければならない、従業員が夢を持ってやっていけるような会社でなければならないと思っています。従業員の価値観は多様です。若い社員の中には、管理職になりたくないという人もいる。地域に根づいて働き続けたいという人もいる。また、従業員が問題を抱えていることもあります。親の介護が大変だという人もいる。少ないですけど、心を病んでいる人もいるんです。
 そういった人たちを会社としてどのようにカバーしてあげられるのか、真剣に考えていかなければならないと思っていますね。本人の問題だと切り捨てるのは簡単ですが、ファンケルとしてはそういった問題を取り除いてあげないといけないと考え、新しい制度をいくつも作っています。

 宮島:例えば、長期療養が必要な従業員、親の介護が必要な従業員などは、「アソシエイト正社員」として、本人の希望する時間や日数で柔軟に勤務できる制度を新設しています。個人の事由にあわせ、仕事の両立を可能にすることで安心して働いてもらうための仕組みです。
 また、すべての店舗契約社員を「エリア正社員」として、有期雇用契約から無期雇用契約に切り替えました。これは、全国の直営店舗で働く授業員が担当する地域で安心して働き続けてもらうための取組です。

 そういうふうに時代の流れを見ながら、完全ではないかもしれませんが、変則的なメニューも提供していかなければと考えていますね。

 中原:半年ほど前に、ヤフーの宮坂学さんからお話をお伺いする機会があり、「従業員を幸せにしたい」ということを強調されていました。従業員の長時間労働をなくしたい、それから、従業員の働き方を柔軟にしたいと。視点は多少違うかもしれませんが、宮島さんも宮坂さんも同じ方向を目指していることが理解できました。
■「体験したことをしっかりと話せる」人材が欲しい

 中原:ファンケルは従業員の不安や不満を取り除いて、従業員を幸せにしたいという方向を目指していると。では、これからどのような従業員を採用したいとお考えでしょうか。求める人材像があればお聞かせください。面接などで印象に残っている就活生のエピソードもあるでしょうか。

 宮島:新卒生については毎年30人ほど採用しています。私などが担当する最終面接では50人くらいに絞り込まれているのですが、その中から誰を採用するか、甲乙つけがたい。人事に「全員取ってもいいか」と聞くと、「いいです」って言うほどですよ。
 あくまで私個人の面接での見方ですけど、やはり正直な学生さんがいいですね。それから、自分の実体験をきちんと話してくれる学生さん。印象に残っている学生は何人もいますが、そのうちの1人は居酒屋でアルバイトしていたときのエピソードを話してくれました。

 居酒屋の売り上げが落ちてきていたので、何とかしなければいけないと思って、近くの事務所や事業所に名刺とメニューを持って営業に回ったと。男子ではなく女子学生さんなんです。しかもビールの大ジョッキを10個持てるという特技もあって、それでお客さんのところにビールを届けると、「とても喜ばれるからうれしい」という話もしていましたね。
 宮島:「甲子園のビール売り上げNo.1」という女子学生もいました。どうしてNo.1になれたのかを聞いたら、「仕事が始まる30分前に来て、おじさんたちと一緒に六甲おろしを歌う」と。歌い終わった後に「ここでアルバイトしています」と言うと、必ず「じゃあ、俺たちが買ってやる」となるんですって(笑)。

 彼女たちよりも「話がうまい」人はたくさんいます。ただ、ほとんど印象に残らない。特別に面白いことでなくてもいいんです、アルバイトにしても何にしても、「実際に体験したことをしっかりと話せる人」がいいですね。
 中原:最後に、ファンケルで働く人材に、他の会社の人材とは異なる特徴がありましたらお伺いしたいです。

 宮島:池森が創業した当時(1980年)から、この会社は女性に助けられてきました。創業して10年経っても、従業員の男女比率は1対9くらいでした。現在は本社では3対7、店舗も含めると1対9くらいです。いま「女性活躍」が推進されていますが、ファンケルはもともと女性が活躍していた会社です。

■制度を利用する人がいれば、陰で支える人もいる
 宮島:池森がよく話す創業当時のエピソードがあります。パート勤務の女性が夕方の5時にいったん帰宅し、夕飯を用意してから会社に戻って働いていたと。しかし、ご主人は不満で「なぜそこまでやるんだ」と聞いたら、彼女は「お客さんが待っているからよ」と、そう言って返した。池森は「そこまでお客様のことを考える女性がうちで働いてくれている」と、とても喜んでいたんですね。

 そういった女性のパワーでファンケルはここまで伸びてきました。現在では管理職の女性比率は46%を占めています。無理に女性を管理職に登用したわけではなく、会社に女性が活躍する素地があったので、管理職も自然と増えたのです。産休からの職場復帰率は100%に達していますし、復帰後は育児をしながら働けるように時短制度も他社に先がけて導入しています。
 ただ、池森は、制度を利用する従業員に対し、制度があって当たり前だとは思ってほしくない、と言っています。

 自分が産休に入れば、その担当業務を別の誰かがカバーしなくてはいけません。そのことについて感謝をしてほしいし、ほかの人が産休に入ったときは協力してほしいと、いつも言っています。そんなふうに、もともとの素地の上にいろいろな制度を導入するだけでなく、それを従業員が納得して使えるように経営から働きかけているところも、他社とは違う特徴かもしれませんね。
中原 圭介 :経営コンサルタント、経済アナリスト

最終更新:5月22日(水)6時20分

東洋経済オンライン

 

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